▼いつか、星の海で。

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私と同じ移民船で来た人々の反応は、様々だった。
感動に涙している者がいた。
呆然としている者もいた。
しかし、私の心の内は、他の誰とも異なっていただろう。
感動はあった。
喜びもあった。
だが、何より心を満たすものは、懐郷の想い。

(・・・ああ・・・)

私はここへ、帰ってきたのだった。





  ■■■ いつか、星の海で ■■■


カウンターで入居手続きを済ませた私は、何よりも先に惑星への降下を申請した。
地表へ降りる為には、まずはシティへ行かなくてはならない。
そこに、地表へのゲートが設置されているからだ。

しばらく歩いた私は、壁に作り付けになっているカウンターに辿り着いた。
特に用があったわけではない。だが、なんとなく足が向いてしまったのだ。
シティに来たなら、まずはここに寄る。
無意識にそう考えていたのかもしれない。
受付嬢がこちらに気づき、声を掛けてきた。

「ハーイ、ようこそ。どういった御用でしょう」

私は笑ってしまった。
この対応は昔のままだ。マニュアルでもあるのだろうか。
つい、冗談を言ってみたくなった。

「預けていたものをね、引き出したいんだ」

パーソナルIDを提示すると、受付嬢がスキャンした。
モニターに表示されるリスト。
中身はない。

「うーん、ひとつもお預かりしていませんねえ」

受付嬢がデータを見ながら告げた。

「あら、今日いらしたばかりなんですね。移民船からの荷物をお探しでしたら、こちらへ転送させましょうか?」

そういうわけではないのだ。
移民船からの荷物はもう受け取ってあるし、それは居住区に回してもらっている。
私が引き出したかったものは、別のものだった。
もう存在するはずのないモノ。
例え残っていたとしても、今日、この星に到着したばかりの私では引き出すことのできないモノ。

「いや、いいんだ。勘違いをしていたようだ。すまなかったね」

私のささやかな冗談に、彼女は真面目に対応してくれた。
わざわざ説明などしないが、その非を詫びる。

「いえ、いいんですよ。他になにか、御用はございますか?」

私は首を振った。
これ以上、戯言につき合わせるのは悪いだろう。

「またのご利用、おまちしています」

受付嬢は、にこやかに送り出してくれた。
あの頃のように。


一通り町をぶらついた私は、地表へ降りるゲートへと向かった。
ゲート前の広場に立つ。
向かって左に白い建物があった。
メディカルセンターだ。
シンプルな作りのその建物は、以前となにも変わっていないように見えた。
今も変わらず、格安で治療をしてくれるのだろう。
あの頃、何度ここへ通った事か。

その向かい側、私から見て右手の方向には、しかし、何も無かった。
ここには惑星を見下ろす事のできる部屋があったはずだ。
壁際に備え付けられたカウンターがあり、隅には転送装置があったはずだ。
しかし、今は何もなくなっていた。
その部屋が必要とされなくなったから無くなった。
ただそれだけの理由なのだろう。

・・・本当に、そうだろうか。
ここは本当に、私がいつかを過ごしたあの場所なのだろうか。

いつまでも町にいても仕方が無い。 私はゲートへ向かった。

光が流れ、 闇が踊った。



眩暈のような一瞬の後、私はその両足で、しっかりとラグオルの大地を踏みしめていた。
木々の間から漏れる光が眩しい。
生い茂る鮮やかな緑は、それぞれが微妙に異なる色合いを見せていた。
緑色、という一括りにして言葉にするのが躊躇われるほどに、個性的な主張をしている植物たち。

木々の呼吸する、涼しい風を顔に感じた。
わずかに湿り気をおびた、ひんやりとした森の空気。
踏みしめる土も、足跡が残る程度に柔らかい。雨上がりなのだろうか。
深呼吸を一つして、私は歩き始めた。
私が降りてきた場所から、森の中へと続く一本の道。
わずかに右に曲がりながら続いていくその先には、すこし開けた空き地があるはずだ。
記憶にある広場が見えたとき、私は少し身構えてしまった。
武器は?
補助は?
仲間は?
自分の反応がおかしくて、私は一人笑った。

宇宙の旅で体は鈍っていたが、歩く事になんの苦痛も感じなかった。
気分が高揚しているのを自覚する。

道なりに、両手でも抱きかかえられない程太い木々がそびえていた。
山頂から流れ落ちる美しい滝が、小さな虹を描いていた。
目に映る全てのものが、私に語りかけてくるようだ。
私はまるで子供のように、森林浴を愉しんだ。

少し歩いたところで、声を掛けられた。

「やあ」

背の低い草の合間から、白っぽい土が露出している場所だった。
木々に遮られることのない日差しが眩しく、私は目の上に手をかざした。

「こんにちは。散歩ですか?」

声の主は、一人の老人だった。 髪に白いものが混じっているが、元気そうだ。
ようやく日差しになれた目で声の主を見つけ、私は答えた。
少し話をするのもいいだろう。

「ええ、そうです。あなたもですか?」

「はい。このあたりを散歩するのが日課でしてね。・・・もう、そうですね、四十年になりますか」

四十年前。
そしてその容貌。
この老人は・・・。

「良かったら、ご一緒しませんか。ぐるりと回るだけのコースですけれど」

私と老人は、肩をそろえて歩き出した。
天気の話。
この惑星の話。
老人とは、話し好きなものだ。私達はすぐに打ち解けた。

「若い頃に、私はとある仕事でここにきたんですよ。そう、ちょうどこのあたりも歩いたかな」

彼は、私達ふたりが歩いている道を指し示した。
起伏に飛んだ地形が織り成す、自然の通り道。

「仕事で来たといっても、その頃の私はまだ駆け出しでしてね。仕事を選んでいられない立場でしたし、何でもやってやろうという熱意もありました。今にして思えば、若さゆえの勢いというものだったのでしょう。分不相応な仕事を受け持って、どうしようもなく追い詰められた事もありました」

道は緩やかにカーブを描いていた。
中央に池があり、そこを迂回するようになっているのだ。
その池に視線を落とし、老人は話を続けた。

「本当に、もうだめかと思いました。・・・そして、その時、『彼』と出会ったのです」

歩きながら話す老人の目は、池ではなく、過去を見ているようだった。
老人は「仕事」といった。内容は語らなかった。
私に言っても分からないと思ったのだろうか。
まさかハンターズの守秘義務などというものを、今も律儀に守っているのだろうか。

「『彼』は、本当に強い人でした。いや、後にして思えば、初めてあったその時は『彼』もまだまだ未熟だったのでしょうが、それでも私の目にはとてつもなく強く映ったのです。単純に技がどうとか、腕力がどうとかという事ではなく、本当の意味で強いと思える人でした。私は病院へ運ばれ、一命を取り留めました。それから、彼は私の目標になったのです。・・・ああ、ちょうどこのあたりですね」

と、老人は足を止めた。
森の一角が楕円形に途切れた、行き止まりの空間。

「ここで私は『彼』に出会ったのです。その時に彼が使っていたダブルセイバー・・・失礼、そういう両刃の武器があるのですが、それが私にはとても格好良く見えましてね。必死で手に入れて、ずっと愛用していました。『彼』の真似のつもり、だったんでしょうね」

老人は何も無い空間に両手をかざし、そこに一本の棒があるように手を握ると、それを振り回すような動きをしてみせた。
流れるような、美しいモーションだ。
幻の刀身が、虚空に残月を描く。
私は惜しみない拍手を送った。

「いやはや、年甲斐も無く、お恥ずかしい。昔とったなんとやらでして、今でも体が動きを覚えているのですよ」

後ろ頭を掻き、顔を赤らめる老人。照れ隠しのつもりか、少し早口になって話を続ける。

「私は彼を目標に走りつづけました。彼が遺跡へ向かったと聞いて、私もそれを追いかけました。彼の背中くらいは守れるようになりたかった。彼の背中くらいは守れるようになったと思っていた。・・・しかし、そうではなかったのです」

老人は続けた。
『彼』が関わっていた事件は、軽々しく首を突っ込める様なものでは無かった事。
彼の背中を守りたくて向かった「遺跡」。
そこに巣食う異形のエネミーの群れ。
それらを退けて進む『彼』の強さ。
自分が足手まといに過ぎなかったこと。
自分は迷惑をかけに行っただけだということ。
彼は何も言わなかったし、自分を庇いながら進めるほど強かったが、自分は『彼』に対して本当に申し訳なく思っていた事、など。

「結局、わたしは『彼』にはなれなかったのです。その背中を守る事も満足に出来なかったのです。彼は英雄で、私はそうではなかった。ただそれだけのことなんですが。・・・それでも彼と出会えたことは、私にとってとても意味のあることでした。彼を目指していた時間は、本当に充実したものでした。だから、今でもその思い出があるから、私はここを歩いているのですよ」

老人の話はそれで終わりのようだった。
長い話だったが、要は散歩をしていた理由を語っていたのだ。
私は相槌をうっていればそれでよかった。

だが、私は彼に、どうしても言いたかった。
彼はわからないだろう。それでもよかった。
私は彼に伝えたい。

「・・・『彼』だって、ただの人間にすぎなった。遺跡で一人、孤独な戦いを強いられていた時にあなたが来てくれたのが、どれほど彼を勇気づけたか」

老人が驚いた様子でこちらを見ている。
かまわず私は続けた。

「彼はあなたの事を、足手まといだなんてこれっぽっちも考えていなかった。同じ事件に関わる者として、必要以上の馴れ合いはしなかったけれども、共に戦う仲間だった。そう、初めてこの森で出会った時から、彼は貴方を仲間だと思っていた」

私は周囲の森を見渡した。
あの頃とまるで変わっていないように見える、鮮やかな緑色。

「確かに技術的な面で、あなたは未熟だった。そこを突かれた事もあった。それは事実だ。でも、だからといって、それをあなたが気に病むことはない。あなたは仲間で、仲間を助けるのは当然で、彼は、あなたに『助けさせてもらって』いた。結果、英雄と呼ばれることになろうとも、決してその為にあなたを助けていたのではない。あなたがいたことでどれほど彼が救われていたか、あなたはそれに気がついていなかっただけだ」

ふう、と私は一息ついた。
普段は口下手な私が、随分と話し込んでしまった。
これでは、まるで、『彼』のようだ。
老人は、まだ驚いた顔をしてこちらを見ている。
ふと、その青い目と私の目があった。

「あなたはもしかして・・・いや、そんなはずはない。私が『彼』を見間違えるはずもない」

首をふる老人。

「いや、失礼しました。貴方の目が、どこか『彼』に似ていて・・・。まるで『彼』と向かい合っているような気がしましたよ」

とその老人、アッシュは笑った。
純朴で、まっすぐな性格そのままの笑顔。あの頃のままの笑顔。
私は彼に尋ねた。

「『彼』はその後、元気でやっているんでしょうかね」

「ええ。『彼』には『彼』の、私には私の生活がありますから、お互い顔を合わせる事も無くなって久しいですが、メールをたまに頂いてます。元気そうですよ」

『彼』について話すことが嬉しいのだろう。アッシュは色々と教えてくれた。
自分とは会う機会がないが、この惑星に住んでいると言う事。
結婚して、子供が生まれ、一昨年には初孫が生まれたという事。

話しながらの散歩の時間は瞬く間に過ぎ、そして、森が途切れた。
初期の移民団が住んでいたというドームまでの、短いコースだった。

「名残惜しいですが、私はここで。ひさしぶりに楽しい散歩になりました。ありがとうございます」

アッシュは丁寧に礼を述べ、去っていった。

再び、私は一人になった。
森の空気はひんやりとして、散歩で温まった体に心地よかった。
もう少し、ここに居たかったのだ。
私は昔を思い出していた。

コールドスリープで眠っていた時の夢。
星の海の果ての、一つの惑星での冒険。
そこで出会った、夢の共演者達。
その中に、今の老人もいたはずだ。
あの頃の彼はまだ若く、未熟で、それでも私の背中を守るといって聞かなかった。
まさか、またその台詞がきけるとは。
この惑星に来てよかった。そう思えた。


ぼんやり佇んでいた私の背後で、足音がした。
アッシュが戻って来たのだろうか。
何気なく振り向いて、私は、言葉を失った。

私たちの間を、懐かしい風が流れていった。
優しい、柔らかい、みんなの笑い声が溶け合っていたあの頃の風。

一人の老人が、そこにいた。

子供のような、いたずらっぽい光を湛えた眼。
柔和な笑みの形に、綺麗に皺がよっている顔。
アッシュと同じくらいの年齢だろうか。

「はじめまして、でいいのかな」

やわらかい微笑みを浮かべて、『彼』は言った。
私は『彼』を知っていた。
今、はじめて会ったこの老人を、誰よりもよく知っていた。
だが、まさか会えるとは思っていなかった。
驚きに、思考が麻痺している。
返事をしなくてはと思ったが、私の口は言葉を忘れてしまったかのようだった。
そんな私の心情を知ってか知らずか、笑みを絶やさないまま彼は続けた。

「本当に久しぶりだね。初めましてっていったばかりで可笑しいけど。元気だった?」

セントラルドームに近いこの場所は少し高台になっていて、見晴らしがいい。
私達は並んで腰を降ろした。

「今の、アッシュだね。僕も久しぶりに見かけたよ。彼としばらく話していたようだったけど、どうだった?アッシュは気がついたのかな、君の事」

彼の態度はとても自然で、親しみが感じられた。
まるで十年来の友のように。

「貴方は、私が・・・、なぜ、私だと?」

「あはは。僕が君を間違える事は無いよ。それはわかるだろう?」

『彼』は笑った。
私の目に、それはとても眩しく映った。

「かつて、僕の中にもうひとりの自分がいた。その誰かは、僕と同じ考えで、僕と同じように笑い、泣き、僕と同じ経験をしてきた。あの頃、僕達はひとつだった」

森の中に、爽やかな風が吹いていた。
その風に乗って、昔話が紡がれていく。

「あの時、あの場所にいた皆は、だれもが英雄だった。奇跡だとか、特別なものだったとか言うんじゃない。ただ自分の選択でそこにいた、それだけが英雄の条件だったんだ。君が、僕にそうさせていたんじゃなかったっけ?」

「いや、私は・・・」

そんな事はしてない、そんな大層なものじゃない、といいたかった。
だが、それは言ってはいけない事のような気がした。
自分を卑下するのは簡単だが、それは『彼』まで貶める事になるから。

「本当に、いろいろな事があったね。あのレッドリングの事とか、ガルダバルの事だとか、そういった表向きの事件は、ただの区切りに過ぎなかった。あの時の本質は、そんなものじゃなかった。僕に君が居たように、誰にでも別の誰かが居た。もしかしたらこの星に来ているのかもしれないし、今もどこかで戦っているのかもしれない。とうに亡くなっているかもしれない。人生の中で一瞬だけ交錯した道は、離れてしまって久しいけれど。でも、僕達がいつかを過ごしたあの時、みんなと過ごしたあの時は、決して消える事無く存在している」

『彼』は淡々と語った。
その表情は柔らかく穏やかで、そしてそれだけに、その記憶を大切に憶えている事を示していた。
想い出に浸っているわけではない。
過去を美化しているわけではない。
そういうことがあった、というだけの、ただそれだけの、誰もが語る昔話。

「だから僕は、君に言いたい事があった。一緒にあの時間を過ごした君に、伝えたい事があった。君の想いは僕に伝わっていたよ。それは一緒にいた時間の長さからも判る。でも、僕の想いは君に届いていたかい?」

私は力なく首を振った。
『彼』と共に成長し、『彼』と共に仲間と語り合っていた事で、私は『彼』になった気がしていただけかもしれない。
アッシュではないが、私は『彼』になりたかった。
『彼』は私がそうなりたいと願う私だった。
しかし私は私でしかなく、『彼』にはなれなかった。
『彼』の、その優しい光を湛えた目が、こちらを見ている。

「ありがとう。君と同じ時をすごせて、本当に楽しかった」

それがずっと言いたかったんだ、と、『彼』は笑った。

「いや・・・」

私は、首を振った。

「私は・・・そう、君にそんなふうにいってもらう資格なんてない。私はただ気の向くままに過ごしていただけだ。君を危険な目にあわせ続けた。君という仮面をかぶって、大胆なフリをしていた。なにもかもを、君に押し付けていたんだ。私はただ、それを眺めていたにすぎない」

だから礼をいわれるような事はしていない、私なんかに礼をいうべきではない。

「うーん・・・」

『彼』は戸惑っているようだった。
私の返答はそんなに意外だったのだろうか。
私はそんなに立派な人間ではなかった。
今もそうだ。
私は、英雄なんかじゃない。
アッシュの言葉が耳に残っている。

(『彼は英雄で、私はそうではなかった』)

英雄だったのは『彼』なのだ。

「・・・そっか。まあ、いいや」

『彼』はあっさりといった。
急に軽い態度になった『彼』に、今度は私が戸惑う。

「・・・?」

「君は本当は、そう思っていないはずだ。僕にはわかる。そうだね、君の事は他の誰よりも、もしかしたら君自身よりも良くわかるんじゃないかな」

なぜなら僕は君だからね、と『彼』は笑った。

「あの時、あの場所に僕といた事。仲間といた事。戦い、語り、同じように夜明けを迎えていたあの季節を、君はそんな風に捉えていたのかい?」

『彼』の口調は穏やかで、まるで子供を諭すように優しかった。
私は彼と目をあわせる事も出来ないでいた。

「そんなはずはない。それでは何の為に僕達は戦っていたのか、全く意味がなくなってしまうからね。君は、あの時が苦痛だったのかい?つまらなかったかい?嫌々やらされていたのかな?」

「そんなことはない!」

私は否定した。
そんな事は無い。
絶対に、それだけは言い切ることができる。
例え誰が忘れようとも、私だけは覚えている。
あそこに皆がいたことを。同じ時を過ごした事を。

「そうだね。僕も、君と一緒にいて楽しかったよ。それでいいんじゃないかな。そこにどんな意味を見出すかは、人それぞれだけれど、僕達はたしかにあそこにいた意味があったんだ。それを否定する事は、一緒にあの場所にいた仲間達と、その後ろにいた『誰か』、彼らに対しても失礼じゃないかな。それに、あの時がなければ、こうして僕等が話す事もなかったんだからね」

私も笑った。
そうだ、あの頃はただそれが楽しくて、それだけで充分だった。
いつからそうでなくなってしまったのだろうか。
私にはまだ、あの頃の気持ちは残っているだろうか。

「さて」

唐突に、彼は立ち上がった。
埃を払い、背伸びをし、私に手を差し出してきた。

「時間、まだ大丈夫だろう?案内するよ。どこにいきたい?」

私も彼の手をとって立ち上がった。
思い出はたしかに私達の中にあった。
それがお互いに判った。
それだけで、充分だった。
私と彼の物語は、まだ終ってはいない。
あの時があって、今がある。これからもずっと続いていくだろう、終わりの無い物語。

「うーん、そうだな・・・」

突然どこにいきたいか、と聞かれても困ってしまう。
私が答えあぐねていると、彼の方から提案してきた。

「どこに行きたいかって聞かれたら、あそこしかないだろ?」

『彼』の目が笑っている。
いたずらっぽい光を湛えている。
子供のように。あの頃のように。
『彼』が何を考えているか、私にもわかった。

「そうか。そうだな」

私もつられて笑みを浮かべた。
きっと『彼』と同じような表情をしている事だろう。
息を吸う。彼と目が合う。
何も言わなくても、綺麗にタイミングが揃った。

「総督の部屋に寄っていく?>みんな」

『彼』が笑う。私も笑った。
あの時、あの場所に居た意味が、ここにあった。

森の中、爽やかな空気に包まれて。
私達は、同じ道を歩いていった。


青空に、笑い声を響かせながら。





 『いつか、星の海で』 END
 
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