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ただひとたびの奇跡




 アイツは本当のレイマーだった


   アイツは本当のレイマーだった


     アイツは本当のレイマーだった




  回収係じゃ なかった




 ***  ただ ひとたびの 奇跡  ***




気がついた時には死んでいた。

シノワビートの跳躍攻撃。
それはそちらに意識を割り振っていなかった俺に、綺麗に命中した。
致死性の一撃、クリティカル。

目の前が暗転する。
鳥の囀りのような電子音が聞こえる。
チャレンジ・モード。
そのシミュレーションは、失敗に終った。

俺はレイマーをやっている。
銃器の扱いのプロフェッショナル。
テクニックも使いこなせる。
だが、そんな謳い文句は、実戦ではクソの役にも立たない。
直接打撃力ではハンターに遠く及ばない。
テクニックの習熟度ではフォースに遥かに劣る。
体力も充分とはいえない。
レイマーとして培ってきた冷静な観察眼が、皮肉な判断を下していた。
・・・俺はなにもかも中途半端だ。

「すまん。油断した」

開口一番、俺は謝った。
まったく油断以外の何者でもないミスだ。

「OKOK、ちょっと敵多めだったしね。もっかいやりなおそう」
「おー!リベンジにゴー!」
「じゃ、次は私がチーム作るね」

何も責めないメンバーの言葉が痛い。
本心で言ってくれているのだろう。
それくらいはわかる。
俺を責めているのは、俺自身。
自分で自分のミスが許せなかった。
戦力として不足なだけでなく、足手まといにまでなるとは。

・・・この借りは、返す。

俺は気合を入れなおして、次のシミュレーションへと向かった。


*********


「回収OKだ」

俺は仲間に声をかける。
先へ進む仲間から一人離れ、アイテムの調達に向かっていたのだ。

「メイトにショットに、・・・お」
「なになに?」

先行して敵の殲滅に当たっている仲間が声を掛けてくる。
回収は一人でいい。
罠を手早く処理出来る能力があればなおいい。
・・・戦闘から抜けても、大差ないヤツがいい。
それが、俺だ。

「珍しいのが出た」
「おおっ?」

メンバーの期待の声。
戦闘中だろうに、よく話す余裕があるものだ。
俺はちょっと焦らしてから答えた。

「・・・スターアトマイザーだ」
「なんだー。スゴイ武器かと期待したのにー」
「メイト足りてるから持っていて下さい」

OK、と答えながら俺は走った。
仲間達が戦闘を繰り広げている。
その合い間を、エネミー達に目もくれずに出口へと走る。
メイトを3個、少し距離を置いてフルイドと人形を置く。
俺が戦闘に参加する必要は余りない。
このレベルでの戦闘の基本は各個撃破。
下手な割り込みは迷惑になりかねない。
俺ははぐれていたザコを一匹だけ仕留めた。

丁寧に。
確実に。


**********


「OK。俺がここでスイッチをキープしておく」

ルートの確保の為に必要なスイッチを踏むと、トラップが起動する事がある。
だが、俺には銃がある。
スイッチの上を駆け抜け、トラップを作動させた。
四方から柱が炎を吐き出してくるが、そのときには俺はもうそこから移動している。
駆け抜け、振り向き様に照準を合わせ、罠を撃つ。
炎を吐き出した後、一瞬で姿を消してしまう柱が複数。
それをつぶす為に、俺は一連の作業を繰り返した。
メンバー達は、いまごろエネミーの掃討に余念が無いはずだ。
俺たちはD属性のパラッシュを入手していた。
それを振るうヒューキャストは誰よりも多くのエネミーを捌いているはずだ。
スケープドールはフォースに集められていた。
潤沢なTPに恵まれたフォースは、様々なテクニックを駆使して、その力を存分に揮っているはずだ。
俺は彼らが敵を倒すのを待つだけだ。

これが俺の役割。


**********


チャレンジモードのラストステージへ辿り着いた。
最後のエネミーは、ダーク・ファルス。
残った人形をフォースに集め、俺達はワープを起動させた。
圧倒的なその巨体に目を奪われる。
四頭の、異形の竜のような下半身。
二対の音叉状の巨大な腕。
遥かな高みにある頭部はとても見えない。
アドレナリンが集中力を高めている。
興奮が思考を狭めている。
俺は自分に言い聞かせた。
落ち着け。
冷静になれ。

ダーク・ファルスは、だが、それほどの脅威ではないように思えた。
やはり、D属性のパラッシュの存在は大きい。
それを持つヒューキャストが全力で攻撃に専念できるよう、俺は周囲に漂う攻撃機雷をライフルで落としていった。
ダーク・ファルスが、その姿を変化させる。
いよいよラストだ。
この姿では強烈な攻撃を仕掛けてくる事がわかっている。
だが、その対策はしてあった。
ヒューキャストは、メイトで回復さえしていれば耐え切ることができる。
体力の低いフォースは、スケープドールを保持している。
俺は囮となり、見てから回避できるほどの遠距離で避けつづける。
囮が遠距離というのもおかしなモノだが、実際ダーク・ファルスは最も遠くに居る者を狙ってテクニックを撃ってくるのだ。
・・・頭部が高すぎて足元が見えないのだろうか。

ハンターが攻撃。
フォースが補助。

ならば囮が俺の仕事だ。


**********


ヒューキャストの持つパラッシュは、強かった。

「いける!」

誰かが叫んだ。
シフタが掛かったヒューキャストは、鬼神の如き連撃を叩き込んでいた。
すさまじいダメージが、シミュレーションデータとして表示されている。
このままゴリ押しでいけそうだと思えた、その時。
ダーク・ファルスの巨体が沈み込んだ。
攻撃予備動作。

「倒しきれなかったのか!?」

誰もが勝利を確信していた。
ポジションに気を配っていなかった。
密集しすぎている。
敵に近づきすぎている。
ダーク・ファルスが左手を上げた。
その動作から放たれるのは、ラバータ。
氷の上級テクニックのソレは、特殊な性質を持っている。
目標とダーク・ファルスを結ぶ直線上すべてに攻撃力を発生させるのだ。
そして、その最大の脅威は複数回ヒットする事だった。
囮をしていた俺は、左手を上げた瞬間から回避動作に入っていた。
だが、他のメンバー達は違った。
もう倒せると思っていたのだろう。
回避行動に入るのがわずかに遅れた。
『多段ヒット』を受けかねない領域から、待避できていない。

「間に合わない!」

誰かが叫んだ。


*********


「間に合え!」

俺は叫んでいた。
時間が、ゆっくりと流れているようだった。
ダーク・ファルスが左手を掲げる。
回避できていない仲間達が、それでも少しでも離れようと走っている。
ラバータが発動した。
囮となりステージの端に離れていた俺に、仲間の詳細な様子など見えるはずもない。
だが、俺には、回避できていない仲間が凍結状態になったのが見えた気がした。
次の瞬間、1フレームの後に、2回目のダメージが入るはずだ。
ラバータ多段ヒット。
それに耐えられるものはいない。
ハンターは、フォースにスケープドールを渡してしまっている。

「間に合え!」

叫びながら俺は、ひとつの行動を起こしていた。


*********


ハンターズギルド。

「おめでとー」
「ありがとう>みんな」
「お疲れ様でしたー!」

シミュレーションは成功した。
俺たちはダーク・ファルスを倒したのだ。
オールクリア。
Sランクだ。

「やっぱりD属性のパラッシュは強いねー」
「フォースが一人居ると安心できるね」

思い思いの感想を述べるメンバー達。
一通り興奮が収まると、俺たちはチャレンジモードを終了させる事にした。

「またねー」
「おつかれさまでした」

口々に消えていく仲間達。
チャレンジモードは、ギルドカウンターに成功を報告すると終了する。
シミュレーションから、現実世界へ戻っていったのだ。
一人、また一人と消えていったメンバーを見送って、俺も部屋を出る事にした。
なにはともあれ、クリア出来て良かった。
仲間たちが消えていったカウンターへ向かう。
残っているのは俺と、もうひとりだけだ。
別に示し合わせて残っていたわけではない。
なんとなく少し遅れたというだけだった。

「thx」

そのもう一人が口を開いた。
D属性のパラッシュを振るっていたヒューキャスト。

「今のふたりは気がつかなかったようだが。アレがなければ全滅していただろうな」

「え?」

俺が聞き返したのと同時に、そのヒューキャストもチャレンジモードを終了させていた。
カウンター前から、彼の姿が消える。
最後に一言だけ、台詞が残っていた。

「あのスターアトマイザーは、素晴らしい判断だった」

「・・・そうか」

別に認められる為にやったわけじゃない。
誰かに褒めてもらうためにやっていたわけじゃない。
だが、わかってくれた人がいることが、俺にはたまらなく嬉しかった。


*********


・・・あの時。
最後のラバータが発動した瞬間。
複数ヒットを受けていたら、やられていただろうメンバーたち。
あの時、俺はとっさにスターアトマイザーを使っていた。
ラバータが複数ヒットしていたかどうか、本当の所はわからない。
複数ヒットの瞬間に、重なった2撃目が来る前に、スターアトマイザーの回復が割り込めるかどうかなんて知らない。
だが、俺は最善を尽くした。
アイテム回収を、囮をしていたレイマーの俺でなければ、あの状況、あのタイミングでスターアトマイザーは使えなかったはずだ。
ヒューキャストの言葉が耳に残っている。

『あのスターアトマイザーは、素晴らしい判断だった』

わかる奴にはわかったのだ。
ヒューキャストの言葉を反芻して、俺はニヤニヤと笑った。

これだからレイマーは止められない。

上手くもない口笛などを吹きながら、俺はシミュレーションの成功を報告しに行った。



 「ただひとたびの奇跡」  END 


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