第六話 説得
その夜、詩音は旅館の宴会(もはや小夜美さんが飲み出したせいで宴会以外の何ものでもなくなってしまった)を抜け出した。
詩音は海岸の階段に座り込んで考えた
進むべき・・・・・・
本当にそうなのだろうか
私は所詮生徒でしかない
先生は毎年何百人もの生徒を見てきている
その中で私だけが特別な存在になることは・・・・・・
ありえない
そんなわけがない
詩音「そう言えば私って何であの人好きになったんだろう?」
そう言えば考えたことがない
何故好きだったか
詩音「あれ・・・・・・おかしいですね・・・・・・何でだろ
あの人と出会ったときはとても懐かしい思いに駆られたのに」
詩音はさらに考えた
ふと、思い当たる節があった
詩音「そう言えばあの人、父の元で少し手伝いをしていたと・・・・・・
・・・・・・・・・もしかしたら」
詩音はばっと立ち上がった
詩音「きっとそうだわ、あの人は・・・」
詩音は走り出した
神津邸に向かって
詩音「間違いない。きっとそうだ。そうに違いない」
夜の闇を詩音はただただ走る
〔詩音の視点〕
進まないと・・・
進むべきなんだ
例えなんと言われようが・・・
後悔はしない
私は神津邸の門まできた
・・・・・・・・・
走りながら喋るんじゃなかった
息が・・・
息を整えた私はインターホンを押す
カーーーー
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんでやねん
私は気を取り直してもう一度押した
モーーーーー
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
って変わってるし
すると中から
響介「誰ですか?」
先生の声が聞こえた
詩音「ごめんください」
すると引き戸がガラガラと開き先生が出てきた
詩音「夜分失礼します。・・・少しだけ・・・お話をさて頂けませんか・・・?」
声が震えている。しっかりしないと
詩音「こ・・・こんな時間にご無礼だとは重々承知の上でお願いします・・・だからどうかお話を」
響介「・・・入りなさい・・・」
先生は静かにそう言った
まるで絞り出すような声で・・・
竹蔵「旦那様、お客様ですか?」
竹蔵さんが台所から顔を出した
響介「ああ・・・・・・すまんが茶を出してくれ」
竹蔵「かしこまりました」
居間に通されしばらくするとお茶が出された
さらにしばらくすると先生が現れた
先生が私の向かい側に座った
響介「先ほどのインターホン少し驚いただろう」
確かに
詩音「変わった・・・・・・音ですね」
響介「ああ・・・・・・・14種類ある」
・・・・・・14種類も!?
響介「ちなみに全て竹蔵の物真似だ
・・・・・・・・・・・・・・
ある意味すごいですねそれ
竹蔵さんがお茶を持ってきてくれた
そして竹蔵さんは奥へ下がった
先生はお茶を少しすすった
響介「本題に戻ろうか双海・・・まず聞くが話とは進路に関すること・・・ではないようだな」
先生は私の顔を見て言った
詩音「・・・はい・・・」
すると先生は頭を掻いた
詩音「ご迷惑は承知なのですが・・・申し上げたいことがありまして・・・」
響介「・・・・・・そうか・・・」
先生は静かに言った
詩音「私は・・・その・・・先生が・・・先生のことが、その・・・す、すしで・・・」
って何言ってるの私
響介「いつかはこういう時がくると思っていたよ」
いやーーー何か告白失敗のままイベント続行ーーーー
絶対フラれる
響介「君の気持ちにはうすうす気づいていたよ」
詩音「え・・・・・・」
やっぱり気づいていたんだ
響介「いくら僕でも君の立ち振る舞いで何となくわかる。何がどうなってるのか」
それもそうか・・・・・・・
響介「では、聞こうかな・・・何故僕なんだい?」
今までの私ならここで答えに詰まって轟沈していただろう
でも今は
詩音「私は・・・・・先生とお会いしたことがあります
私が8才でフィンランドにいた頃、日本から父の手伝いにやってきた人がいます
それがあなたです
・・・・・・・・違いますか?」
これで否定されたら全てが崩れ去ってしまう
お願いします。神様、どうか・・・・・・
響介「そうだ。あの時君のお父さんの手伝いをしていたのは僕だ」
詩音「では・・・・・・私があなたとした約束を覚えてますか?」
あの時、まだ幼かった・・・・・・といっても小学生だったけど
私の面倒をよく見てくれていたのはこの人だった
よく考えれば多くの日本語はこの人に教えてもらった
彼は言った
『先生になる』
『いつか君をお嫁さんにもらおうかな?』
詩音「あなたはあの時言ったように教師になりました」
響介「そうだ、君に言ったからな」
私はあの時彼の言葉に対してそう答えた
『じゃあ、その時はまたお勉強教えてね』
『うん、約束だよ絶対に』
って・・・・・・・さりげなく婚約宣言してたんだ・・・・・・・
響介「あの時の約束のために10年待った、そして再び君に出会えたが無駄になってしまった」
この人は・・・・・約束を信じてずっと待っていてくれたんだ
詩音「無駄なんかじゃありません。私は今こうやってあなたの前にいるじゃないですか」
そう、私はここにいる
響介「でもね・・・僕は君を悲しませたくないんだ」
悲しませたくない?
響介「君だからこそ話をしよう。君だから教えてあげよう」
私は黙っていた
響介「伊吹みなも・・・彼女のことは知っているね」
みなもさん!?
詩音「え、ええ・・・」
何かイヤな予感がする
響介「では彼女の病気のことは?」
ますますイヤな予感が・・・・・・・・・・
詩音「知ってます。臓器の移植が必要だと」
なんでみなもさんが・・・
響介「彼女に適合するドナー、彼女の従姉妹、桧月彩花が死んでいることも知っているね」
以前今坂さんが一度だけ私に話してくれたことがある
その時こう言われた『智ちゃんには絶対言っちゃだめ』と
彩花さんの死には三上さんが関わっている
彼が彩花さんを呼びさせしなければこの事故は起きなかっただろう
だから今でも彼は雨が嫌いらしい
彩花さんの死んだあの雨の日が・・・
響介「これによって伊吹の臓器移植は絶望的になった。適合するドナーなんてなかなかいないしね」
ドナー
まさか
響介「そう、僕の臓器は彼女に適合するそうだ。検査でわかった」
急に先生は悲しそうな顔になった
響介「しかし検査の過程で解ったことなんだが・・・」
次の言葉は今まで私が聞いてきたどんな言葉より重かった
響介「僕はどうやらあと半年ほどしか生きられないそうだ」
詩音「え・・・な、何の冗談を・・・」
響介「僕の命はあと半年ってことだよ」
先生は淡々と言った
目の前が真っ暗になった
響介「最も、手術を受ければ何とかなるようだがね」
詩音「じゃ、じゃあ、受けてくださいよ、手術」
響介「確率は40%ほどらしい」
先生は遠くを見ている
詩音「怖いんですか?」
響介「だろうな・・・・・・」
詩音「何で・・・こんな話を私に・・・?」
響介「君に諦めて欲しいから・・・約束・・・破ってしまったね」
勝手すぎる
彩花さんの言っていた悲劇とはこういうことだったのか
詩音「お言葉ですが、先生、私は決して諦めません」
諦めてたまるものか
こうなったらとことん説得してみせる
詩音「あなたは手術を受けて病気を治して、みなもさんの病気を治して、私を・・・」
前に進まなきゃ
ここまで来たのだから
詩音「私を幸せにしてもらいます!!」
・・・・・・
言っちゃったーーー
しかもかなり大胆な発言
響介「今の話・・・・・・・・聞いていなかったのかい?」
詩音「聞いていました
何が40%ですか何もしなかったら直る可能性は0ですよ
私が試験で古文の点数80点以上取る可能性なんて40%以下です
それでも受けなかったら0%です1%でも可能性があるなら挑戦してみないと」
響介「いや、テストの点数云々という部分はあまり関心できんが」
言えてる
詩音「ともかく、手術受けてください
受けるって言うまでここを動きませんよ」
響介「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
詩音「それに・・・・・・
私が付いてます死なせたりしませんよ」
3時間後
二人とも動いてない
響介「・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・負けたよ」
え?
詩音「それでは」
響介「ああ・・・・・手術を受けよう
そして何としても生き延びないと・・・・・・」
私は勝利した
先生を説得できた
響介「ところで双海」
詩音「詩音でいいです」
響介「では詩音」
詩音「何ですか、先生」
響介「不正解だな
別に先生って呼ばなくてもいいだろ?」
先生の顔がかすかに赤い
詩音「そうですね、響介さん
ところで・・・・・・何ですか?」
私も顔を赤らめる
響介「足、痺れないか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
確かに
3時間も・・・・・・・いや、それ以上正座してたから・・・・・
完全に痺れてる
〔第三者視点〕
響介は詩音を旅館まで送ることにした
ちなみに地図を持って
詩音「あの・・・・・・」
詩音は何か言いたげだ
響介「どうかしたか?」
詩音「それ、世界地図ですよ」
沈黙・・・・・・
響介「・・・・・・気が付かなかった
全く・・・・・・」
詩音は笑い出した
詩音「うふふ、そんなことじゃ、先が思いやられますね」
響介「全くだ。こっちの地図なら問題ないだろう」
しかし響介が新たに取り出した地図を見て詩音は頭を抱えた
詩音「響介さん、それ日本地図」
〜あとがき〜
まだ続きますよ
だってまだ初日だし・・・・・・
それにしてもこの二人ボケとツッコミ最高かも・・・・・・