「空へ!!」
第1話
「The whole new world」
海辺の町で、全ては始まる・・・。
サキは朝に弱い。
昔はそうでもなかったが、ここ数年は三日に一度は朝を食べずに学校に行く羽目になっている。
「・・・むにゅ・・・」
今日もそうなりそうだ。
自室で、ノートの広げられた机につっぷしたまま、サキは気持ちよさそうに寝息をたてていた。
「おい、起きろサキ」
開けっ放しだったドアの向こうから声がした。
それは一つ年上の彼女の兄の声だったが、それはサキの耳には届いていなかった。
「・・・ったく、しょうがねえなあ・・・」
彼女の兄はため息を一つつくと、開けっ放しのドアから中に入り、サキの背中を揺する。
「サキ、朝だぞ」
背中を揺すられ、ようやくサキは顔を上げた。
「・・・あ・・・朝・・・?」
寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、すぐ後ろに兄が立っているのが見えた。
夢の続きかな、と少し考えて、すぐにそれが現実だと気づく。
「や、やだお兄ちゃんいたの?」
寝起きの姿を見られ、みるみるサキの顔は赤くなる。
そんなサキに構わず、彼女の兄は机の上に出しっぱなしだったサキのノートを手に取る。
「あ、それ」
サキの言葉を待たず、兄はパラパラとノートをめくり、中を確認する。
「テクニック講義のレポートか」
そして兄はノートを閉じると、サキに返した。
「術式の範囲化ができてないぞ。それだと敵の数だけフォイエを撃たないとダメだ」
それだけ言い残すと、彼女の兄は部屋を出ていった。
慌ててサキはノートの内容を確認する。
確かに、兄の言った通りの場所に誤りがあった。
「いけないけない・・・」
椅子に座り直し、謝った箇所を修正する。
そして見上げると、時計の針は登校の時刻を指していた。
「嘘〜〜〜〜〜っっっ!?」
サキ・ツヴァイは地元じゃちょっとした有名人である。
パイオニア2随一の「冒険家」であるイーノ・ツヴァイの娘。
彼女の肩書きはそれだけではなかった。
地元ヴェルソーのハンターズスクールで初めて、飛び級をした少女でもあった。
加えて、それなりに可愛い。
性格もいいほうだ。
しかし、彼女をよく知る者の間では、いま一つの事柄で有名であった。
極度のブラコン。
困ったことに彼女は「お兄ちゃん大好き」なのである。
「お、お兄ちゃん待ってぇ」
急いで準備をしたお蔭で、なんとか兄の出発に間に合った。
サキはなんとか玄関先で兄の裾を捕まえる。
「・・・あのなぁサキ。いい加減一人で登校しろよ」
サキは、ハンターズスクールの幼年科の頃からずっと、朝は兄と一緒に登校している。
幼年科の頃はサキが先に起きて兄を待っていたのだが、中等科に進んだあたりから徐々に立場が逆転しはじめた。
最近では、置いていかれたサキの方が遅刻することさえある。
「で、でも、せっかく一緒の学年なんだし」
中等科から高等科への飛び級が決まった時、サキは心の底から喜んだ。
一足先に高等科に進学していた兄は、これを期にサキとは別々に登校するつもりであった。中等科と高等科では校舎も始業時刻も違うので、いい機会だと思っていたのだ。
ところが、人一倍の努力家であったサキは、中等科の試験で「三期連続全て満点」というとんでもない成績をとってのけた。
教育委員会は彼女の能力を高く評価し、「高騰科への飛び級」を認可したのである。
「・・・ったく、しゃあねえなあ・・・。急ぐぞサキ。遅刻する」
そう言うと彼女の兄、アーリィ・ツヴァイはサキの手を取り、走りはじめた。
アーリィ・ツヴァイは世に言う「ダメ兄貴」だった。
パイオニア2随一の「冒険家」であるイーノ・ツヴァイの息子であるにもかかわrず、ハンターズスクールでの成績はいまいちパっとしない。
はっきり言ってしまうと、どん底に近い。
落第スレスレの路線をひた走っている。
見目は悪くないのだが、眼鏡のせいでいまいちパっとしない。
昔から目が悪いわけではなかったが、ある事件から急激に視力が落ちはじめたのである。
それは、彼が「問題児」と呼ばれるきっかけでもあった。
「空飛ぶ島事件」、その事件をヴェルソーの町の人間はそう呼ぶ。
たった四人の子供たちが、迷信であったはずの「空飛ぶ島」にたどり着いた。
そして、無事に帰ってきた。
もう、五年も前の話である。
アーリィにとって、それは忘れられない「冒険」だった。
今も時々、その時のことを思い出す。
『アーリィ!!大丈夫!?アーリィ!!』
「アーリィ!!アーリィ・ツヴァイ!!実技試験中に居眠りか!!」
教官のダミ声が、アーリィを現実に引き戻した。
そこは、バトルシミュレータの、密林を想定したフィールドだった。
「・・・あんま、試験中に思い出すもんじゃねえな・・・」
アーリィ・ツヴァイ、17歳、人間、男。
この実技試験を落とすと、根気の卒業は絶望的になる。
いわゆるひとつの、瀬戸際であった。
つづく
*次回予告*
彼女は彼が大好き。
それは、ずっと、すぅっと昔から。
そう、彼と彼女は幼なじみ。
・・・こんなにおいしいシチュエーションなのに・・・
あのトーヘンボクときたら・・・
次回「空へ!!」
第2話 「君がいるだけで」
大好きなひとは、いますか?
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