「空へ!!」
第2話
「君がいるだけで」
好きな人は、いますか?
シミュレータによって投影されているヴァーチャル・リアリティと頭では分かっていても、覆いかぶさる緑の天蓋は、否応なく圧迫感を感じさせた。
設定温度は32度。ちょうど真夏の温度である。
「・・・まったく、湿度までご丁寧に再現しなくてもいいってのに・・・」
フェイは、そんな中を汗を拭きながら、歩いていた。
先ほど、同級生と一戦交えてきたばかりなのである。
今、フェイはシミュレータを用いたハンターズ実技試験の真っ最中であった。
試験の方式は、バトルロワイヤル。
最後に残った者に最高点を与え、撃破数に応じて加点が与えられる。
そして、フェイは開始30分、すでに3人を撃破していた。
「でもアーリィったら、どこに行ったのかしら」
アーリィとフェイは今、同じシミュレータで試験を受けている。
フェイは開始からずっとアーリィを探していた。
そんなにフィールドは広くないはずなのに、こんだけ探しても会えないなんて・・・。
しかし、見つけたところでどうするか。具体的なことは何も考えていなかった。
ただ単純にアーリィに会いたかった。
「それが恋するオ・ト・メ、なのよ〜♪」
栗色の長い髪が、シミュレータの風に揺れた。
「ぶぇっくし!!」
突然襲ってきた寒気に、アーリィは場違いな大きいクシャミをした。
「・・・なんだよ今の・・・シミュレータのバグか?」
ぼやきと同時に、背後で生まれる気配。
「・・・ったく、しゃあねえなあ・・・」
せっかく物陰に隠れて不意打ちを狙っていたのに、これでは意味がない。
案の定その気配は、自分のほうへ向かってきている。
「ブランか・・・ま、軽く相手してやるかな」
近づいてくる相手が見えているわけではなかったが、アーリィにはその相手が誰か、分かっていた。
ブラン・コードネル。
ショットでの範囲攻撃を得意とする、ラグオル人のレンジャーである。
余談ではあるが、パイオニア1のセントラルドーム爆発事故以来、ラグオル上に文明を持った生物は存在しない、と言われ続けてきた。
しかし、ラグオル上に「人類」が存在していたのである。
地価で生活し、その上その絶対数も少なかったため、パイオニア1の調査にかからなかったのである。
ただ、パイオニア1の上層部は、他の文明のことなどよりも、もっと違う「何か」に惹かれていたようではあったが・・・。
そして、イーノ・ツヴァイ・・・アーリィの父親によって、現地ラグオル人との出会いは果たされた。
彼らは永い地下生活によって種として疲弊しており、パイオニア2の入植を快く受け入れた。
そして、彼らの協力もあって、3年という短い期間で、パイオニア2の完全入植は完了したのである。
ラグオル人の身体能力は、パイオニア2の人類と大して差はない。
ブランがアーリィを捕捉したのも、先ほどのクシャミが直接の要因だろう。
ガサッ。
下生えが、音を立てて揺れた。
次の瞬間、先刻までアーリィのいた辺りを、無数のフォトンの銃弾が穿った。
「ちっ!!外したか!!」
ブランは舌打ちをして、ショットを構えなおした。
この試験で、シミュレータに持ち込める武器はひとつだけ。
ブランはショットの弱点を承知の上で、ショットを己が武器とした。
彼は同級生の中でも特にショットの扱いがうまかったし、これならば他の同級生にも引けはとらないと確信していたからだ。
しかし、この状況ではショットの欠点は致命的だ。
ショットの欠点、それは・・・。
「外れ、だ」
ブランの背後から声がした。
取り回しの悪さ。長物ゆえの取り回しの悪さが、ショットの最大の欠点であった。
初弾を外せば、相手の接近を許してしまうことになる。
「しまっ・・・!!」
ブランが振り向こうとした瞬間、彼の頭部は仮想現実の銃弾で撃ち抜かれていた。
「遅いんだよ」
アーリィがそう言う間に、ブランの体は薄れ、消えていった。
シミュレータのメインコンピュータが、ブランは死亡したと判断したのだ。
この試験で、シミュレータに持ち込める武器はひとつだけ。
そして、アーリィはハンドガンを選択していた。
彼の、最も得意とする武器である。
「5人目・・・っと。モテる女はツラいわね〜」
得物のパルチザンを回しながら、フェイは周囲を確認する。
人の気配はない。
あれからずっとアーリィを探しているのだが、一向に見つかる気配はない。
「・・・まさか、最後の二人で出会ったりして?
・・・そんなお約束、あるわけないか・・・」
彼女がそう判断する根拠はあった。
アーリィはもともと、出来が悪いわけではない。
どちらかといえば、優秀な部類に入る。
なぜ彼が悪い成績をとり続けているのか、フェイは知っていた。
アーリィは父親に対して、強烈なコンプレックスを抱いている。
パイオニア2とラグオル人との出会いのきっかけを作った、「伝説の」ハンターである「父」イーノ・ツヴァイ。
その父親の大きすぎる業績は、息子であるアーリィの人生にも影響を与えていた。
何をするにつけ、「イーノ・ツヴァイの息子」という肩書きが付いて回る。
アーリィにはそれが、たまらなく嫌だった。
そして彼は決めた。
父と同じ道は歩まない。
父の名には頼らない。
そこでまず、悪い成績を取る所からはじめた。
フェイにはどこか間違っている気がしていたが、うかつに突っ込んで嫌われてはアレなので、ずっと黙っている。
「・・・でもホントに、どこにいるのかしら・・・」
フィールドの設定範囲はそんなに広くない。
なのに出会わない、というのもある意味奇跡であった。
「やっと3人目かよ・・・誰か一人勝ちしてやがるな」
試験開始からすでに1時間近く経っている。
なのに、この狭いフィールドで出会ったのは、たったの3人。
あきらかに、誰かが一人で勝ち星をあげているとしか考えられない。
そして、その勝ち星を上げている人物とは。
「きゃ〜〜〜♪やっと見つけたぁ★」
「・・・お前かよ・・・」
その人物の黄色い声を聴いた瞬間、アーリィの顔にどっと疲れが湧いて出た。
もちろん声の主は、フェイである。
気配を読むのを怠っていたとはいえ、こうもたやすく接近を許してしまったのは、相手がフェイだからである。
「相変わらず気配消すの上手ぇよな、お前は」
「きゃ★褒められちゃった」
フェイはわざとらしく照れて見せる。
アーリィの顔の疲れが2割増した。
せっかく気配を読ませずに近づいたのに、不意打ちを仕掛けなかったのは、フェイが正々堂々としたタイプだからではない。
実際、彼女の撃破した8人のうち6人までは、不意打ちで仕留めている。
なぜ、アーリィに対して不意打ちを仕掛けなかったのか、理由は単純。
「せっかくだからさ、ちょっとお話しない?」
単にアーリィと話がしたかったからである。
「するか馬鹿」
返答と同時に、アーリィはハンドガンを抜き撃った。
フェイは即座にパルチザンを回転させ、柄でハンドガンのフォトン弾を弾く。
「ひど・・・いきなり撃つなんてさ」
むくれながら、フェイはパルチザンを構える。
「言っとくけど、手ぇ抜いたらキライになるぞ」
言いながらアーリィは一足飛びに間合いを離す。
アーリィに嫌われる。
フェイにとっては最大の脅し文句だ。
「じゃ、勝っちゃったらゴメンね?」
とても「仕方なく」とは思えないスピードで、フェイはパルチザンでアーリィを薙ぐ。
アーリィの試験合格の最低条件は、「撃破数4」。
まさに、瀬戸際であった。
つづく
*次回予告*
私の「在る」理由。
それはただあなたのため。
だってあなたは、
世界でたった一人の私の「ご主人様」だから・・・」
次回「空へ!!」
第3話「ワルキューレの騎行」
お仕えします、永遠に・・・。
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