「空へ!!」
第3話
「ワルキューレの騎行」


 お仕えします、永遠に・・・。

 RAcl-R123「ローラ」は、ツヴァイ家所有のアンドロイドである。
 だが、ローラの時間はアーリィを中心に動いている。
 したがって、ツヴァイ家のメイド頭ドーラが
「ローラちゃん、ちょっとお手伝いしてくれません?」
 とお願いしても、
「マスターのお迎えがあるから駄目」
 とすげなく断られてしまうのである。
 まあ、今日の試験の結果如何では、マスターの将来が決まってしまうのだから、当然といえば当然かもしれないが。

 ローラは、かの悪名高い「RAclシリーズ」人格プログラムを積んでいる。
 どういうわけか、この「RAclシリーズ」人格プログラムは、メインフレームに故意にバグが仕込んである。
 これは、大本の開発者であるある人物がアンドロイドに「人間の持つ揺らぎ」を表現させるために仕込んだらしい。
 その揺らぎのことを、専門用語で「萌え」というらしいが。
 それはともかく、RAclシリーズの例に漏れず、ローラにもバグがあった。
 その中の最大のものが、「家事ができない」ことだった。
 市販の家事プログラムも、メインフレームが邪魔してインストールできないらしい。
 それで、どうやってローラはアーリィに仕えているのか。
 本人曰く、「いざというときは、全身全霊を持ってお守りします」だそうである。
 要するに、彼女のとりえは戦闘行為のみなのだ。
 平和な時代には必要のないアンドロイドである。

「はにゃ〜??遅れる〜!!」
 ローラはアーリィの帰宅時刻に遅刻しかけていた。。
 機体の整備点検をしていたら遅刻しそうになったのだ。
 そして今、彼女は猛スピードでヴェルソーの公道を走り抜けていた。
 具体的には、スピード違反で警察官に止められるくらい。
「いいかい、ここでは時速50km以上で走っちゃだめなんだよ?」
 この日、彼は常軌を逸したスピードで走っているアンドロイドにスピード違反の注意をするという、
 これから先の人生においても二度とないだろうという経験をしていた。
「ええ??この標識って車にだけ適用されるんじゃないんですか??」
 まあ、普通人間サイズのものが時速50kmオーバーで走ることなど想定しないだろう。
「ま、まあ、普通はそうなんだが・・・。
 危険だから、50km以下で動いてくれないかな」
「す、すいませぇん」
 意外と素直に、そのヒューキャシールは謝った。
 それから彼女は、時速45kmで走り出した。
 ・・・今度、「法定速度をアンドロイドにも適用してください」って署長に言わなきゃな・・・。
 彼の望みが叶ったかどうかは、また別の話である。

 リンゴ〜ン、リンゴ〜ン
 ハンターズスクール終業のベルが鳴り、やがて、生徒たちが三々五々、校門を出てくる。
 その中に、アーリィ達もいた。
 そして、校門に続く道の向こうから聞こえる、声。
「マァスタァーーーーーーーー!!」
 ドップラー効果を伴ったその声は、はっきりとアーリィの耳にも届いた。
「げ!!ローラ!!」
 二本の足で器用にドリフトをかけ、砂煙をあげながら、ローラは校門の前に停止する。
「お迎えにあがりました!!」
 そして、ビシッと敬礼をする。
「お、おう、ご苦労さん」
 アーリィの視線は、ローラよりも、彼女の緊急停止によって穿たれた公道の長い傷跡の方に向けられていた。
 ・・・怒られんのオレなのに・・・。
「でででで。試験どうでした?」
 まるで我がことのようにハラハラしながら、ローラは尋ねた。
「・・・残念ながら」
 軽くうつむき、アーリィは言う。
「・・・まさか?」
 心配そうに覗き込むローラ。
「・・・合格に決まってんだろ?」
 顔を上げ、アーリィはにっこりと笑った。
「さすがマスターですっ!!」
 そう言って、ローラはアーリィに抱きついた。
 ちなみにローラの体重は乾燥重量で90キロばかりある。
「ぐわっ!!」
 重量級のタックルに、アーリィは思わず倒れこんだ。
「マスター?大丈夫ですか、マスター!?」
 アーリィは上からのしかかられていて返事ができない。
「どきなさいよこの馬鹿アンドロイドっ!!」
 そこに、ローラの背後から鋭い低空ドロップキックが飛んできた。
 さすがのローラもたまらず吹っ飛ぶ。
 もちろんしかけたのはフェイである。
 アーリィは胸を押さえて咳き込んでいた。
「大丈夫?アーリィ」
 どさくさにまぎれてアーリィの頭を抱き上げながら、フェイはそう尋ねた。
「ちょっと、お兄ちゃんになにしてんのよっ!!」
 さらに、そこにサキが駆けつけてきた。

ちょっと、未来のお義姉さんに向かってその口の利き方はなに?誰が未来のお義姉さんよ!!返してください、私のマスタぁ〜
誰が誰のだってぇ?フェイさん目がこあい〜そうよ、返しなさいよ!!・・・

 校門前のドタバタは、アーリィのクラスメイトが見かねて止めるまで続いた。

「次!!アーリィ・ツヴァイ!!」
 卒業式当日。
 アーリィは、75番目に卒業証書と、ハンターズライセンスを受け取っていた。
 ちなみに、ハンターズライセンスは卒業時の成績の順で手渡される。
 今期の卒業生は全部で80人。つまりアーリィは下から五番目である。
 なお、サキは最初に受け取り、フェイは5番目に受け取った。
 アーリィは書状とライセンスの入力されたBEE端末を受け取り、つぶやいた。
「やっと、同じところまで来た・・・」

つづく


*次回予告*

 ハンターは〜気楽な家業ときたもんだ〜♪
 仕事がないときゃ昼寝して〜♪
 って、そんなにうまくいきゃ苦労はしないんだけどね・・・

次回 「空へ!!」

第4話 「ガッツだぜ!!」

 こんじょだ、こんじょー!!

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