「空へ!!」
第4話
「ガッツだぜ!!」
こんじょだ、こんじょー!!
「ロクな仕事じゃないってのは話聞いたときにわかってたのね。
でも、仕事選べるような立場じゃないのよ、こっちは。わかるっ!?」
呑みなれない酒に呑まれながら、メルはアンドロイドのバーテンに愚痴っていた。
「ええ。大変ですね」
バーテンはグラスを拭きながらそう応える。
仕事柄、このテの客には慣れている。聞いている振りをして適当に相槌を打てばいいのだ。
「あーもー!!あのクソ上司っ!!おかわりっ!!」
メルは、上司への文句と一緒に度の低い酒を飲み干し、おかわりを要求した。
話は2日前に遡る。
メルは、彼女のチームの仲間と一緒に、ヴェルソーのハンターズギルドに呼び出されていた。
彼女のチームのメンバーは、
ラグオル人のベテランヒューマー、リツ。
同じくラグオル人でリツの幼馴染のフォマール、フォゥ。
フォゥ所有のレイキャスト、シルバ。
そして他ならぬハニュエールであるメル・メイヤー自身。
彼女らはもう2年近く、このチームで仕事をしている。
具体的に言うと、メルがハンターになった翌年から。
彼女らは直属の上司を持ち、ハンターズギルド直轄のチームとして動いていた。
このような形態でハンター稼業を営むものは少なくなかった。
なにより収入が安定しているので、好んでハンターズギルド直轄となる者もいた。
そしてほとんどの直轄ハンターズは口をそろえて言う。「直轄になってよかったね」と。
ただしそれは上司に恵まれた場合の話である。
「ベルグマン博士の世界征服を阻止してほしい」
メル達の上司、オッド・バクスター隊長は開口一番、そう言った。
「はィ?」
思わずそう聞き返してしまうメル。
「ついては、君たちの考えうる方法で、博士と接触、計画の阻止に当たってもらいたい」
きわめてまじめな顔つきで、ロマンスグレーの中年ニューマンはそう言った。
どうやらメルの言葉を肯定と勘違いしたらしい。
「あの隊長、今「世界征服」って・・・」
ハンターズギルドの直属チームには、各チームごとに「○○隊」とチーム名が付けられる。
そして、直属の上司は「隊長」と呼ばれるのだ。
ちなみにメル達は「赤羽隊」という。チーム結成が決まったとき、部屋に赤い鳥の風切り羽が舞い込んだことから付けられた。
とうぜんエンブレムも「赤い風切り羽」である。
「ああ。ベルグマン博士は世界征服を企んでいるらしいのだ」
この隊長はこまったことに、時々こういった素っ頓狂な依頼を探してくる。
基本的にこの隊長は「正義」というものに傾倒していて、
こういう「じゃすてぃすはーと」(隊長談)にピンとくる仕事は逃さず請け負ってくる。
「市警からの依頼でね。何通も報告があったらしい」
現在、ハンターズの主な仕事はこういった、「警察機構では対象外になりそうな仕事」や
「役所では扱いづらい厄介ごと」や「凶暴な原生生物の掃討」などだった。
要するに何でも屋である。
「・・・それって市警がキ印って判断しただけなんじゃ・・・」
しかし、メルの突っ込みにも隊長はひるまない。
「それでは、健闘を祈る!!」
軍属あがりのびしっとした敬礼が、これ以上の議論は無駄だと語っていた。
「さーて、どうするよ?」
リツはA定の乗ったお盆を4人の揃ったテーブルに置きながら、そう言った。。
とりあえず隊長の部屋を出て、お腹も空いていたので4人はハンターズギルドの食堂でランチにすることにした。
ハンターズギルドの食堂はあんまり味はよくなかったが、桁違いにリーズナブルなので、
ヴェルソーのハンターズはほぼ全員利用していた。
「やだなー。いきたくないなー。おうちでのんびりしてたいなー」
メルは腰のあんまりないパスタをぐりぐりぐりぐり団子状にしながら、ぶちぶちと文句を言った。
「いかんなぁメル。それは一流のハンターズの取る態度じゃないぜ?
「どんな依頼も完遂する」・・・ハンターズ初等講義で習ったろ?」
黒髪の大男、リツはちちちち、とメルの対面で指を振ってみせる。
彼は、異様に「一流ハンターズ」というものにこだわる。
それは、彼が師と仰ぐハンター、イーノ・ツヴァイの影響であることは言うまでもない。
「いいもーん、あたしは三流でー」
テーブルの上でたれながら、やる気0の顔でメルはぼやく。
その肩を、ぽんぽん、と隣に座ったフォゥがたたく。
それと同時に、後ろに控えてゴツイ白レイキャストが言った。
「さすがフォゥさん!!「どんな仕事も一生懸命やりましょ」って言いたいんですね?」
フォゥは普段、あまり口を利かない。
それを代弁するかのように、影のように付き従うレイキャストのシルバが彼女の心のうちを語るのだが・・・。
それが当たっているのかどうかは、神のみぞ知る。
「・・・カニの味噌汁・・・」
フォゥはそう言って、自分の盆の上からB定の汁椀をメルのパスタの乗った盆に載せた。
ちなみにフォゥはカニが嫌いだ。
「ほら!!フォゥさんもこう言ってます!!がんばって仕事しましょう!!」
「カニの味噌汁」のどこに仕事を頑張れという寓意が含まれているのかはメルには分からなかったが、
とりあえずカニは好物なのでもらっておくことにした。
「仕事しないと、また隊長の「ライセンス剥奪だー!!」が始まるぜ?」
A定のハンバーグを食べながらリツは言う。
実際に隊長にライセンスを剥奪する権限はないが、査問委員会に剥奪を申請する権利は在る。
「・・・仕方ないなー・・・じゃ、手分けして接触してみましょ、そのなんたら博士とやらに」
ベルグマン博士である。
メルは諦めたように言うと、パスタをすすった。
それとほぼ同時に、フォゥが再びメルの肩をぽんぽんとたたいた。
「フォゥさんもはげましてますよ!!」
シルバがそうフォゥの心のうちを語る。
「・・・エビのフリッター・・・」
フォゥはそう言って揚げ物をメルのパスタの上に載せた。
ちなみにフォゥはエビも嫌いだ。
とりあえず捜査の開始を決めた「赤羽隊」の面々は、それぞれ別ルートからベルグマン博士への接触を図った。
メルは、正攻法で情報を集め、ベルグマン博士の不正かなにやらから、捜査権をゲットして乗り込むつもりだった。
リツは、ベルグマンの出している「警備員募集」の仕事に目をつけ、彼に直接雇われて接触する方法を取った。
フォゥは、なにを考えているのか、ベルグマン研究所の対面の公園の一角を陣取り、露天商を始めた。
「なるほど、こうやって日夜見張るわけですね!!さすがフォゥさん!!」とシルバは言っていたが、真相はわからない。
そしてとりあえず、メルの捜査は完全に行き詰っていた。
ベルグマン博士は悪いことなんざなぁんにもしちゃいなかったのである。
定時に仕事を終えると、リツはにこやかーに同僚達に手を振った。
「お疲れ様でしたー」「おう、またなー」「気をつけて帰れよー」
今日も平和だったなぁ、と一日の仕事を振り返る。
なーんにもすることがないので、警備員室で半日以上同僚とだべったり、ゲームをしたりしていた。
午後になって、近所のガキが垣根を破って進入してきたが、イベントらしいイベントといえばそれくらいだった。
「あー、今日も平和だったなー」
明日も平和だといいなー。
そう思ってリツは大きくのびをする。
そしてはっと気づく。
「ダメじゃんオレ!!順応しちゃ!!」
どんな仕事にも全力をもって取り組む「一流ハンターズ」の資質が、こんなところで災いしていた。
「・・・あのぅフォゥさん?もういいかげん帰りません?」
頭だけのシルバが、ぼそりとフォゥにそう言った。
シルバの設計上、バッテリーの持つ時間内であれば、頭部を切り離して稼動することが可能だった。
ちなみに今彼は、フォゥの露天の「売り物」のところに並べられている。
フォゥの始めた露天商は雑貨屋で、祭りの屋台よりもずっと品揃えがよかった。
そのおかげでこの3日間、近所の奥様方にも評判は上々だ。
ただ、開店当初から並べられているシルバの生首だけは、売れる気配すらない。
「これは、いくらかね?」
やってきた初老の紳士が、「売れ残りの生首」を指してそう言った。
それを聞き、シルバの生首が激昂する。
「失敬な!!私は売り物じゃないですよ!!フォゥさん、なんとか言ってやってください!!」
「・・・少々、お高くなります・・・」
「商談が必要かね?」
「・・・いろいろと・・・」
「では、私の研究所で話をしよう」
そう言って紳士は、対面の洋館を指差した。
「フォゥさぁ〜〜ん・・・」
フォゥはシルバの生首を抱え、ベルグマン博士の後に着いていった。
「・・・フォゥの奴が連絡をよこさないんだ」
ハンターズギルドのロビーで、リツが深刻そうな顔でメルに言ったのは、次の日のこと。
「嘘っ!?」
メルはこれ以上ないというくらい驚いていた。
フォゥはリツに惚れている。
直接言葉に出さないが、それは周知の事実であった。
とうぜんリツもその気持ちには気づいている。
そのへん師匠をはるかに超えているが、気づいてから5年以上回答を先送りにしているあたり、まだまだ師匠には勝てていない。
それはともかく。
フォゥは律儀に毎日決まった時刻になると、必ずリツの端末にメールを出す。
それは「おはよう」や「おやすみ」といった定型文ままの文章だったが、彼女がこのメールを欠かしたことは一度もない。
「おそらく、ベルグマンの核心に近づいたんだと思う」
「そして、トラブルに巻き込まれた・・・」
メルがそう言うと、リツはこくりと頷いた。
「乗り込む?どうする?」
メルが尋ねると、リツは背後に立てかけてあった黒い鞘に納まった大剣を手に取った。
「助けに行く」
それだけ言うと、リツは席を立った。
「・・・悪ィ、みんな」
気絶した警備員たちにすまなさそうに手を合わせ、リツは鞘に入ったままの大剣を背負った。
ここは、ベルグマンの研究所。
目の前には、「いかにも」といった感じの洋館がそびえている。
「で、中はどうなってるの?」
得物のヌンチャクをしまい、メルはリツに尋ねた。
「奥のほうはわからんが・・・途中までなら、よく知ってる」
まじめに働いてたんだもんねえ、と心の中で突っ込んで、メルはリツの後に続いた。
「・・・ほほほほ。ここから先にはいかせないわ・・・」
台本を棒読みするような口調で二人の前に立ちふさがったのは、フォゥ。
なんだかあやしげな衣装に身を包んでいる。
「どうしたんだ、フォゥ!?オレたちがわからないのか?」
リツはそう言いながらフォゥに近寄ろうとする。
「・・・私はフォゥではない、私の名前はレディ・デス・・・」
やっぱり台本を棒読みするみたいな口調でフォゥは言う。
「まさか、洗脳!?」
リツが驚いたようにそう言うと、フォゥはこくこくと頷いた。
「・・・・・・頷いてどうする」
一瞬で冷静になったリツの突っ込みに、はっと驚いた顔をしてフォゥは後ろを向いた。
そしておもむろに倒れこむ。
「おい?どうした?」
あわてて駆け寄り、フォゥを支えるリツ。
「・・・ああ・・・もう少しで思い出せそう・・・」
やっぱり棒読みで、苦しそうにそう言うフォゥ。
「・・・いやもういいって・・・」
さすがに付き合うのにも飽きてきたのか、疲れた顔でリツはそう言う。
「・・・ちっ・・・」
小さく舌打ちして、フォゥは立ち上がった。
そこに、ずっと状況を傍観していたメルがつつつ、と近寄ってきて、フォゥに耳打ちした。
「・・・やっぱ、「キスで元に戻る」って設定だった?」
メルの質問に、こくこくと頷くフォゥ。
「全く、無駄な時間食っちまった・・・。行くぞ、フォゥ!!」
そう言うリツに聞こえないような声でフォゥがこう言ったのを、メルは聞き逃さなかった。
「・・・こんじょーなし・・・」
「ふわははははは!!私の計画に気づくとはさすがと言っておこうか!!」
洋館の地下の、なぜか研究室の奥に作られた演台の上で、スポットライトを無駄に浴びながら、ベルグマン博士はそう叫んでいた。
「いやさすがって言うか・・・気づいたのあたしたち以外の第三者だし・・・」
メルはぽそりとそう言ったが、ベルグマン博士の次の台詞に、思わず突っ込んでしまった。
「それでこそ毎日「ベルグマン博士が世界征服を企んでいる」と警察に通報した甲斐があったとゆうもの!!」
「自分で通報したのかよ!!」
そりゃ警察も「警察能力では対応できない事件」と見ざるをえない。
いろんなイミで。
「しかぁし!!私の計画を止めることはできん!!出でよ、最終決戦兵器、ハルジオン!!」
ベルグマン博士が周りの冷たい視線と話の流れを無視しきってそう叫ぶと、研究所の床が割れた。
メルたちはあわてて飛びのいたが、床の開く速度は極めて遅く、安全に研究所の隅に移動できた。
「ふわははははは!!恐れおののくがいい!!
世界を支配するために私が生み出した超巨大アンドロイド、ハルジオンに!!」
ぐももももも。
まだ床は開ききらない。
「ええい、間がもたんわ!!」
そう言ってベルグマン博士は手元にあるパネルを操作して、床の開く速度を最速にした。
「最初っからそうしろよ・・・」
あきれ返ったようにリツはそう突っ込んだ。
「見よ!!ハルジオンの堂々たる姿を!!」
そしてその下から、巨大ななにかがせり上がってきた。
それは、身長10メートルはあろうかというレイキャストだった。
『ああ、フォゥさ〜ん、助けにきてくれたんですねぇ』
その声はまぎれもなくシルバだった。
「ハルジオン」ことシルバは、下からなおもフォゥに語りかける。
『もぉ、気づいたらこんなものに組み込まれちゃって。動きにくいったらありゃしない』
そう言いながら、両腕を伸ばす。
狭い研究室の中で。
ごっばぁん。
壁が吹き飛んだ。
「うわぁ、暴れるなシルバ!!」
『暴れてなんかいませんよぉ、ちょっと動いただけです』
さらに、シルバの立っている場所がせり上がり、今度は低い天井に頭がブチ当たる。
どっこぉん。
天井に穴が開いた。
「しまった!!ハルジオンをどうやって外に出すか考えてなかった!!」
「・・・いるよね、モノ作るのに夢中になって、移動のことまで考えない人・・・」
メルは冷静にそう突っ込んでいたが、あまり冷静でいられる状況でもなくなってきた。
シルバがどんどんせり上がり、いよいよ研究室は崩壊の兆しをみせはじめた。
天井から次々と瓦礫が降り注ぎ、壁も半分ゆがみ始めている。
「あっこら腕にしがみつくな!!」
どさくさにまぎれてフォゥはリツにくっついていた。
地下研究室は、いよいよ地下に埋まろうとしていた。
「おのれ、こうなれば最後の手段、この「自爆装置」で・・・!!」
「話をややこしくするなっっ!!」
いつの間にか近寄っていたメルが、ヌンチャクでもってベルグマン博士の後頭部をどついた。
あっさりと博士は気絶し、演台の上に突っ伏した。
「さて、これで終わりね」
そう言って研究室の方を見ると。
シルバはまだせり上がり、研究室は半分ほど瓦礫で埋まっていた。
「うわ、早いとこ止めないと・・・スイッチどれだっけ」
メルがてきとーにボタンを押すと、いきなり演台がせり上がり、そのまま天井に開いた穴を通って、地上の洋館の一室に出た。
「あれ・・・?」
そして地下から、「ぼずずずずずず」という何かが崩れるような重低音が響いた。
どうやらメルがいじったのは演台ごと地上の部屋に移動するための装置だったらしい。
「・・・ま、たぶん大丈夫でしょ」
二人とも一応、ベテランハンターズだし。
リツがフォゥに腕を抱え込まれて、身動きが取れないところに瓦礫の直撃を食らっていたような気がしたが、
それはそれで気にしないことにしておく。
ふと気が付くと、下着姿のフォゥが、上に馬乗りになっていた。
動こうにも、どうやらベッドの足に両手足を縛り付けられているらしく、動くことすらままならない。
「・・・あの、フォゥさん?なにをするつもりなんで・・・?」
とりあえず、質問してみる。
尋ねられたフォゥは、ほんの少し頬を染め、
「・・・既成事実・・・」
ぽそりと応えると、フォゥの手が、リツの上着にかかった。
「ちょっとまて冗談になってねえぞ〜っっ!?」
「・・・いただきます・・・」
リツの絶叫が洋館中にこだましたが、聞いている者は誰もいなかった。
『あのぅ、この場合私の立場ってもんは・・・』
つづく
*次回予告*
それは、五年前の思い出。
少年の決断。
すべてはそこから始まった・・・。
次回 「空へ!!」
第5話 「Memories」
覚えていますか、あの日のことを・・・。
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