「空へ!!」
第5話
「Memories」



覚えていますか、あの日のことを・・・。

 アーリィ達が親達に見つかったのは、彼らが航海に出て5日目の朝。
 ヴェルソーから南へしばらく行った、小さな島の連なる、多島群の町に寄った時の事だった。

『あー。あーあー。テステス』
『なにやってんのよあなた!!』
『いやマイクのテストだってばさ』

 その町の宿屋の外から、拡声器を通しても分かる聞き慣れた声がした。

『あー、アーリィ・ツヴァイに告ぐ。お前たち一味はすでに包囲されている』
『犯人説得してんじゃないのよ!?もう!よこしなさい!!
 ちょっとアーリィ!!聞いてんの!?サキも出てらっしゃい!!今ならお尻ぺんぺんで済ませてあげるからっ!!
 フェイちゃんとメルちゃんもっ!!ご両親心配してるんだから!!』

 部屋の中を見渡してみると、リツがいなかった。
 その代わり、彼のベッドには書置きが置いてあった。

 悪い サヤカさんには逆らえねえ  リツ

 どうやら、彼が内通者となって、両親に連絡をとったらしかった。

「あんの裏切り者〜!!」

 メルは髪を逆立てんばかりに怒っていた。
 しかし、いない人間に文句を言ったところで始まらない。
 そこで、アーリィは一計を案じた。

「あのさ、メル姉」

 たしか、この宿屋とすぐ裏手の建物は、細い路地によって隔てられていたはずだ。
 そう、人一人が通るのがやっと、くらいの・・・。

「いくわよ、みんな!!」

 その数分後。
 干されたシーツがはためく宿屋の屋上に、荷物をまとめたアーリィ達がいた。
 メルの合図とともに、四人は一気に駆け出す。
 中天に昇りかけた太陽を背に、四つの影が空を舞った。

 どさっ。

「いたっ」

 着地でサキが転んだだけで、四人は無事向こう岸へと渡ることができた。
 そのまま四人は、その建物の非常階段を使って下へ降りようとする。

「あ!!あんなとこにいます〜!!」

 対岸からドーラの間の抜けた声がした。
 宿屋の屋上から、ようやく上がってきた両親達が顔を出していた。

「待ちなさいアーリィ!!」

 鬼のような形相でサヤカがそう叫ぶ。

「ご、ごめん母さん!!」

 それだけ言い残して、アーリィは非常階段を駆け下りた。


 港に泊めておいた船は、幸運なことに無事だった。
 しかし、隣にはヴェルソー港湾警備隊の高速艇が泊まっていた。

「げ、親父達こんなので追ってきたわけ・・・?」

 メルの父親、フォックスは彼女ら一行を追うのに、港湾警備隊から高速艇を徴発していたのだった。
 しかし、それがここで裏目に出る。

「ねえ、これ使わせてもらおうよ」

 フェイは、高速艇の舷側をぺんぺん、と叩きながら言った。

「でも、動かし方わかんないんじゃどうしようも・・・」
「大丈夫、あたしパパの船自分ひとりで動かしたりできるもん」

 実際、フェイの手際はあざやかだった。
 コントロールパネルの下をこじ開け、キーとなっている部分をいじって、船の動力を動かしたのだ。

「船ってさ、たいがいどの船も同じしくみで動いてるからさ」

「いいとこのご子息」のアーリィやサキやメルにはない知識であった。
 そして、フェイが舵を握り、船は動き出す。
 ようやく追いついてきた両親達が桟橋で騒いでいたが、船のエンジン音がかき消してくれた。

 さすがに『高速艇』と言うだけあって、以前に停泊していた港町は、すぐに水平線の彼方に消えた。
 高く登りつめた太陽を背負って、船は進む。

「ねえフェイ、進路はこっちで合ってるの?」

 メルの質問に、フェイは曖昧な笑顔で答えた。

「あはは・・・わかんない」

 海図は、この船にマウントされたナビに登録されているはずだったが、正規の方法で起動していないために、ナビは完全に沈黙していた。

「・・・っとに・・・あてずっぽうで行っても、見つかるわけないじゃない・・・」

 メル達一行は、ヴェルソーの伝説にある「空飛ぶ島」を探していた。
 それは、このラグオルに点在する港町では、どこにでもある伝承のようだった。
 実際、立ち寄った町の全てで、「空飛ぶ島」の情報が得られた。
 ただしどれも、迷信の域を出ないもので、ようやく昨日立ち寄った町で、『嵐の晩の次の朝、日の出の方角に現れる』
 という情報を得たところだった。

「・・・ま、嵐の晩まで待つ気はなかったけどさ」

 メルは言い訳のようにそう呟くが、本当は「日の出の方角」である東に進路を取るつもりだったのだ。
 しかし、太陽の方向を見る限り、今の進路は北だろう。
 ・・・まだ、旅は続くのよね・・・。
 メルはチラリと、アーリィの方を盗み見る。
 彼は、眠気を訴える妹を、船の座席の上で寝かしつけていた。
 メルのこの旅の目的。
 それは、ヴェルソーの『空飛ぶ島には死者の魂が集まる』という迷信からだった。
 死んだ母親に逢い、彼女がなぜ、命を賭してまで自分を生もうとしたのか、それを尋ねるためにメルは『空飛ぶ島』を追い求めていた。
 しかしそれは建前。
 本当は、ずっと想いを寄せる年下の幼馴染、アーリィとの仲を進展させるためだった。
 彼の年はまだ12で、『恋愛』を意識するにはまだ幼すぎたが、「きっかけ」を作るには十分だろうと、メルは淡い期待を抱いていたのだ。

「・・・あのさ、アーリィ」

 小声でアーリィに呼びかけたメルだったが、すぐにフェイの大声でかき消された。

「なにこれ!?舵が利かないよっっ!?」

 フェイは必死に舵を切ろうと舵輪にしがみついていたが、一向に動く気配はない。
 この高速艇の舵には、かなり強力なパワーアシストが付いている。
 ちょっとやそっとのことでは、舵輪が動かなくなるようなことはない。
 異常な事態に、メルもフェイに加勢する。

「なによこれ・・・動かないっっ・・・」

ハンターズスクールの中等課程でフェイよりもずっと身体を鍛えていたメルが加勢しても、舵輪はビクともしない。
そして、アーリィの叫び声が、事態の急を告げていた。

「メル姉!!前!!」

 彼の叫びに、前方を見ると、広大な黒雲が北の空を覆いつくしていた。

「・・・嵐・・・!!」

 港町に住むメルには、嵐の恐ろしさが十分過ぎるほど分かっていた。
 そして、船はまっすぐ、嵐の方向へと向かっていた。
 あの規模の嵐に巻き込まれれば、こんな船などあっという間に転覆してしまうだろう。

「早く、舵を・・・!!」

 しかし舵は言うことを聞かず・・・。
 結果、船はそのまま嵐に突っ込んだ。

 滝のような雨、壁のような波、そして液体のような圧力を持った風が、容赦なく船を翻弄した。
 四人にできたのは、ただお互いの名前を呼び合い、近くにあるものにしがみつくことだけだった。

*つづく*
*次回予告*

 それは、記憶。
 五年前の、記憶。
 自分たちに与えられた、『力』の記憶・・・。

次回、「空へ!!」
第6話「愛・おぼえていますか」

ずっとずっと、忘れないよ・・・。


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