「海へ!!」
第1話
「Sayakaのお願い」

 言い出しっぺは、いつも彼女。

 サヤカ・ランドール、人間、15才。
 名家であるランドール家の次女として生まれ、何不自由ない生活を送ってきた彼女だったが、一つだけ不満があった。
 おさななじみが最近かまってくれないのだ。
 昔は、誘いをかければすぐに遊んでくれたのに、最近は「ハンターの修行で忙しい」とか言って、話し相手にすらなってくれない。
 サヤカはものすごく不満だった。

 その日の夜、サヤカは自室から電話をかけていた。
「ねえイーノ、明日ヒマ?
 ヒマだったら映画見にいこーよ」
 お金ないならおごったげるからさ、と続けようとしたサヤカだったが、電話の相手はつれない返事を返してきた。
『ヒマじゃねーよ。
 明日は先輩とチャレンジシミュレータやる約束してんだ』
 電話の相手は、イーノ・ツヴァイ。
 代々軍の高官を輩出している家、ツヴァイ家の末っ子で、サヤカと同い年のおさななじみだ。
「ぶー。いいじゃんそんなのー。
 たまには遊ぼうよ、昔みたいに一緒に」
 手近にあったクッションを抱え込み、サヤカは言った。
『ダメ。先輩のが先約だし』
 イーノはあくまで誘いにのらない気だ。
 だったら。
「じゃあさ、あたしも一緒にシミュレータやってもいい?」
 サヤカも一応、イーノにつきあってハンターズライセンスを取得している。
 そんなサヤカに、イーノは言った。
『ダメダメ。お前トロいから足手まといになるし。
 あ、明日早いからもう切るぞ。じゃあな』
 あ、ちょっと待って、と言おうとしたサヤカだったが、それより早く電話は切れてしまった。
 しばらく、受話器を持って口をぱくぱくさせていたサヤカだったが、やがてそれにも飽きたのか、受話器をベッドに叩きつけると、言った。
「イーノのバカ!!」

 その夜、サヤカは夢を見た。
 それは、ずっと昔、まだ二人が小さかったころ。
 イーノは、サヤカに向かって、プラスチック製のオモチャのセイバーを掲げながら、こう言った。
『誰も見たことのないところ。誰も行ったことのない場所。
 そこに行くのが、オレの夢なんだ』
『あたしも一緒に行ってもいい?』
『もちろん!!サヤカも一緒につれてってやるよ』
 イーノはそう言って、にっこり笑った。
 そこで、目が覚めた。

 サヤカの目を覚ましたのは、メイドのアンドロイドの声だった。
「起きてください、サヤカお嬢様」
 素敵な夢を中断されたサヤカは、しぶしぶ上半身を起こした。
「ささ、着替えて顔を洗って。
 またお姉様にどやされますよ」
 言われるままに寝間着を着替え、洗面所で顔を洗う。
 部屋を出て食堂に向かう間、サヤカは今朝の夢を思い出していた。
 ・・・昔のイーノ、ちっちゃくてかわいかったなぁ・・・。
 思い出しながら、にへらと笑う。

 今日は特にハンターズとしての仕事もなかったので、サヤカは暇を持て余していた。
 だからこそイーノを誘ったのだが。
 なかなかオフが噛み合わないってのも原因なのかなぁ、などと思いながらサヤカは街を歩いていた。
 特にすることもなかったので、今日は街でショッピングでもするつもりだった。
 ところが。
 ふと何かが目に止まって、サヤカは足を止める。
 彼女の目の前にあったのは、『ランドール・ライブラリ・センター」。
 ランドール家が公に貸し出している、書物データバンクだった。
 今朝の夢が、サヤカの脳裏をよぎる。
『誰も見たことのないところ。誰も行ったことのない場所。
 そこに行くのが、オレの夢なんだ』
 そうだ。
 ここになら、なにかあるかもしれない・・・。
 そう思ったサヤカは、すぐにそこへ入っていった。

 検索をはじめて30分。
 さっそくサヤカは音をあげていた。
「どだい、こんだけあるデータから探そうってのが、無理なのよねえ・・・」
 カチカチカチ、と端末のスイッチをクリックしながらサヤカは言う。
 このライブラリ・センターの蔵書量は約3億3千万件。
 その中からイーノの気に入りそうなのを探すとなると、実際骨だった。
 ちこ、ちこ、ちことスイッチをクリックするたびに動く画面をぼーっと見つめていたサヤカだったが、ふとある単語に目が止まり、それにカーソルを合わせる。
 そこには、「海」と書かれていた。
 海。そう、サヤカは海を見たことがない。
 いや、映像データなどでは知っているのだが、本物の「海」というものを彼女は知らなかった。それは、同じ移民船『パイオニア2』で育ったイーノにも同じことが言える。
 そして、サヤカは「海」のデータをさらに引き出す。
『なお、現在調査が進められているラグオルでは、未だ海の調査はなされていない』
「これだぁ!!」
 そう叫んだサヤカを、利用者の冷たい視線が貫く。
『館内ではお静かに』のポスターが目に入る。
 サヤカは真っ赤になってそこを出た。

 サヤカはライブラリ・センターを後にすると、ハンターズギルドへ向かった。
 当然、イーノに会うためだ。
 しばらく待つと、イーノが年上のニューマンの女性とハンターズギルドから出てくるのが見えた。
 そのニューマンの女性が彼の言っていた「先輩」である。
 サヤカは二人が別れたのを確認すると、イーノに向かって叫んだ。
「イーノ!!」
 イーノはそれに気づくと、サヤカの方へとやってきた。
「あれ、お前今日オフじゃなかったっけ?」
 いぶかしげに言うイーノにはかまわず、サヤカは言った。
「ねえイーノ、海連れてってよ」
「・・・はあ?」
 イーノの周りには、『?』マークが飛んでいた。



「Sayakaのお願い」 おわり



*次回予告*

 サヤカの無茶なお願いに、イーノは困惑する。
 だが、「誰も見たことのない」ラグオルの『海』はイーノの冒険心をこれでもかとくすぐった。
 そして、イーノは『海』へ行くために、出発の準備を始めるのだった。

 次回、「海へ!!」
 第2話 「Enoの冒険」

 そして、彼は海を目指す。

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