「海へ!!」
第2話
「Enoの冒険」


 そして 彼は海を目指す。

 イーノ・ツヴァイ、人間男、15才。
 彼は今、一流のハンター目指して修行中である。
 つまりは、駆け出しハンターである。
 彼は今日も、ハンターズギルドのトレーニングルームで、己を磨くべく訓練に明け暮れていた。
 しかし、今の彼の頭の中には、昨日のサヤカとのやりとりがこびりついていた。

『ねえイーノ、海連れてってよ』
 ハンターズギルドから出てきた彼に、おさななじみのサヤカはそう言った。
 海。知っている単語ではあるが、移民船であるこのパイオニア2に海など存在しない。あるのは、水泳用のプールくらいだ。
『・・・はあ?
 泳ぐならプールだろ?海ってなんだよ』
 イーノには、彼女の言葉の意味するところが理解できなかった。
『違うの。ラグオルの海だよ』
『はあ?ラグオルの海なんて、行ってどうすんだよ』
 サヤカは、彼の反応を予想していたのか、構わず続けた。
『あのねイーノ、よく聞いて。
 ラグオルの海には、まだパイオニア2の誰も行ったことがないんだよ』
 イーノは、はっとした。
 自分の抱えていた夢が、思い出される。
 誰も行ったことのない場所。誰も見たことのないところ。そこへ行くのが、彼の夢だった。
『だから、さ。海連れてってよ』
 サヤカはそう言ったが、イーノの反応は彼女の予想していたものとは違っていた。
『ダメだ。もし行くとしても、そんな危険な所にお前なんか連れていけるわけない』
『どうして!?約束したじゃない!!』
『・・・約束?約束ってなんだ?』
『・・・!!イーノのバカ!!もう知らない!!』
 そして、サヤカは泣きながら走り去ってしまった。

 サヤカとの『約束』も気になってはいたが、彼の頭の大部分を占めていたのは、未だ見ぬラグオルの『海』の事だった。
 太古の昔、『冒険者』たちは必ず『海』を目指したという。
 現代の『冒険者』たるハンターズも、『海』を目指すべきじゃないのか。
 彼の頭の中は、その考えでいっぱいだった。
 しかし、海へ行くとなると、それなりの準備は必要になるだろう。
 パイオニア2の支援範囲からは外れるだろうから、フォトンを扱う武器はバッテリーの補充がきかないので、極力避けねばならない。また、薬もそれなりの量持っていかなくてはならないだろう。食料も必要だ。
 それに何より、仲間がいる。
 駆け出しで依頼もほとんどこなしたことのないイーノに、仲間がいるはずもなかった。
「・・・どうしよっかなぁ・・・」

 トレーニングを終え、ギルドを出ると、そこに見知った顔があった。
 イーノの先輩で、ハンターズのいろはを教えてくれた、ニューマンのエル。
 短く刈り込んだ金髪に、バランスの取れた肢体を持つ、ハンター屈指の美人である。
 ただ、少々性格がキツい。
 イーノは、だめもとで彼女にその話を打ち明けてみた。
 彼女の反応は、半ばイーノの予想どおりで、彼をがっかりさせた。
「やめておきなさい、イーノ。駆け出しのあなたに、そんな無茶な冒険は不可能よ」
 しかし、イーノは食い下がった。
「でも、エル姉みたいな一流ハンターがついてきてくれれば・・・」
 そんなイーノに、エルは諭すように言った。
「いい、イーノ。
 一流のハンターズってのはね、報酬もなしに仕事はしないものよ」
 そう言って、エルはギルドに行ってしまった。
 イーノは、その場はおとなしく引き下がった。

 その夜、イーノは夢を見た。
 大きな帆船に乗り、自由にラグオルの『海』を駆け回る
自分の夢を。
 それは、かつて彼が見た『海』のデータバンクにあった映像だったが、夢の中で彼は確かに潮の匂いを嗅ぎ、海の風を感じていた。
 目が覚めた時、彼の頭の中は海へ行くことで一杯だった。

 その日、イーノが悩みながらギルドに顔を出すと、そこにはサヤカが居た。
 諦めの悪い奴、と思いながら口を開こうとしたイーノだったが、サヤカの方が一手早かった。
「あ、イーノ、丁度いいところに」
 サヤカの顔には、とびきりのイタズラを思い付いた時の笑顔が張り付いていた。
 まーたロクでもないこと思い付きやがったな・・・。
「あのね、今日はランドール家から直接イーノに依頼にきたの」
 ランドール家の、依頼・・・?
 イーノの頭を、いやな予感が走り抜ける。
「あたしを、ラグオルの『海』まで護衛すること。
 報酬は4万メセタ。指名でギルドに依頼登録したから、正式な依頼だよ♪」
 予感的中。
 このバカ娘は、じぶんちの財産を利用して、観光に出かける気だったのだ。
「お、お前なあ、そんな危険な・・・」
 続けて言おうとしたイーノの台詞を、サヤカがさえぎった。
「正式な依頼だよ?断るの?
 それともイーノは、わざわざ指名してきたクライアントを断るような、三流ハンターズだったのかな〜?」
「三流ハンターズ」のあたりに、イーノはかちんときた。
「こ、断るわけないだろ!!
 わかったよ、海まで護衛してやる!!」
 まあ、サヤカも一応ハンターズの一員だ。仲間としては少々頼りないが、戦力にはなるはずだ。
 そう自分に言い聞かせ、イーノはこの依頼を納得しようとした。
 そして、そこにサヤカが付け加える。
「そうそう。イーノだけじゃ危ないから、エルさん達にも指名依頼しといたから☆」
 それはとどのつまり、「イーノとサヤカの護衛を、エル達に頼んだ」という意味だ。
 し、信用されてないでやんの・・・。
 イーノは思いきりへこんだ。
「あれ?どしたのイーノ、急に壁にもたれかかったりして?
 体の調子でも悪いの?訓練のやりすぎだよ、だから言ってるじゃない、たまには休養も必要だって。
 あ、そうだ、今度ショッピングつきあってよ。新しい服が欲しくてさ・・・」
 イーノの耳には、サヤカの言葉は届いていなかった。



*次回予告*

 彼女は、プロのハンターだった。
 彼女には、仲間がいた。
 しかし、その仲間は・・・。

 次回 「海へ!!」
 第3話 「Lの憂鬱」

 人の心は、それほどに…。


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