「海へ!!」
第3話
「Lの憂鬱」
人の心は、それほどに・・・。
その日、エルがギルドに顔を出すと、受け付けから声をかけられた。
「エル〜。指名の依頼が入ってるわよ〜」
エルがカウンターに行くと、受付嬢がいつものように依頼内容の説明を聞かせてくれた。
「ランドール家からの指名で、『サヤカ』っていうフォマールのコをラグオルの海まで護衛するのが仕事。
報酬は4万メセタ。けっこう破格ね」
しかし、エルには現在、遂行中の依頼があった。
「でも、今やってる最中の仕事もあるし」
少し当惑した顔で、エルは答えた。
「あ、急ぎじゃないみたいよ。仕事が終わるまで待ってくれるそうよ。
あとね、あと一人募集の空きがあるみたいよ」
悪い条件ではなかった。
「わかったわ。今の仕事が終わったら考えるわ」
そう言って、エルはギルドの奥へ向かった。
ギルドの奥、普段は会議やミーティングに使われる会議室で、その会合は開かれていた。
会合のメンバーは、エルをはじめ、手練れのハンターズばかりだった。
その中の一人、リーダーらしきフォニュームが言う。
「昨晩、潜入捜査員から連絡があった。
今晩、大きな取引が行われるらしい」
彼らは今、武器の密売組織を追っていた。
その組織は、ハンターズ用の武器を一般に横流ししている組織だった。
それだけならまだしも、その組織には現役のハンターズが荷担しているらしかった。
そこでギルドは小人数の精鋭ハンターズに極秘に依頼をし、彼らに事件の解決を委ねたのだった。
「そこで、連絡を待ってリュード達Aチームはアジトを、エル達Bチームは取引現場を同時に抑えてくれ。
頼んだぞ」
リーダーの声に皆が立ち上がり、部屋を出る。
何故かエルは、浮かない顔をしていた。
その夜。
中間層の倉庫エリアの片隅に、エルは仲間のハンターズ達とともに、潜伏していた。
じっと息を殺し、とある倉庫を監視する。
しばらくそうしていると、黒塗りのエア・カーが三台、その倉庫の前に止まった。
密売組織の車だ。
ハンターズ達の間に軽い緊張が走る。
各々得物の安全装置を解除し、いつでもフォトンを出せるようにして、さらに闇に身を沈める。
密売組織の人間が次々と倉庫の中に入るのを見送り、本部からの連絡が入るのを待つ。
まるで、一秒が一時間に感じられるほどのわずかな時間の後。
端末に、連絡が入る。
『GO!!』
その短い合図とともに、ハンターズ達は倉庫になだれ込む。
ヒューキャストが一瞬の判断で犯人達の武器をハンドガンで撃ち落とす。
犯人の一人が放ったテクニックを、フォニュエールが自分のテクニックで、打ち消す。
逃げ出そうとする犯人達を、レイマーの最低出力のショットが足止めする。
そして、エルは一人のニューマンの女性と相対していた。
「・・・あなただったのね、やっぱり・・・」
そこにいたのは、彼女の仲間。
一緒にハンターズライセンスを取得した時からの、仲間。
彼女は、密売組織とつながっていたハンターズの一人だったのだ。
「・・・あなたを、逮捕します」
その夜、エルは馴染みのバーのカウンター席で飲んでいた。
「エルさん、少し飲みすぎですよ」
決して酔うことのない、アンドロイドのマスターがカウンターの向こうからそうエルに注意する。
「・・・今日は、飲みたい気分なのよ・・・」
そう言って目を伏せるエルに、マスターはそれ以上何も言わなかった。
『彼女』が密通しているハンターズの一人だと気づいたのは、捜査のかなり初期の頃だった。
エルは何度となく、さりげなくを装って『彼女』に密売組織に荷担するのを止めさせようとした。
しかし、それは徒労に終わった。
「・・・なんか、疲れたなぁ・・・」
言って、グラスを傾ける。
グラスの中の氷がカラン、と鳴った。
「陰気くさいなあ、エルさんよ」
唐突に、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには知った顔があった。
レイマーのフォックス。
本名はフォックスではないのだが、その細い目と性格から、『フォックス』の通り名がついた。本人もそれを気に入っていて、仕事でもプライベートでもその名を使っている。
「フォックス・・・報告は終わったの?」
「ああ、終わったさ。じゃなきゃこんなとこにいるわけないだろ?」
言って、フォックスはエルの隣の席に腰を下ろす。
フォックスは今回の捜査で、一番重要な任務をこなしていた。 それは、潜入捜査員。
危険な任務ではあるが、彼はその腕を見込まれてその任務についていた。
フォックスは彼女と同じのひとつ、とマスターに頼んで、話しはじめた。
「まあ、仲間を逮捕しなきゃならんかった辛さは解るけどな。
いつまでそうやってへこんでるつもりだ?」
「・・・あなたには関係ないでしょ」
フォックスはマスターからグラスを受け取って、続ける。
「関係あるさ。俺だってお前の仲間だしな。
落ち込んでる仲間を励ますことは、そんなにいけないことかい?」
言ってグラスの中身をあおる。
まだ大き目の氷がカランと鳴った。
エルは応えず、じっとグラスの中の氷を眺めている。
フォックスは続ける。
「気にするなよ、あいつとはちょっと生き方が違っただけさ。
仕事を続けてりゃ、忘れることもできるだろう。少なくとも、酒に溺れて忘れるよりはずっといい」
エルはその台詞を聞いて、顔を上げた。
・・・確かに、いいオトナのするこっちゃないわね・・・。
酒の表面に写った自分の顔を見て、軽い自己嫌悪に陥る。
エルは、自分の頬をぱん、と叩いた。
「ありがと、フォックス。なんか吹っ切れたわ」
「いや、礼を言われるような事はしてないよ」
そして、エルは『あの依頼』のことを思い出す。
「・・・それでさ、お礼がわりといっちゃなんだけど。
割のいい依頼、紹介してあげる」
エルが依頼主とそのツレに会ってびっくりするのは、それから数時間後のことである。
「Lの憂鬱」おわり
*次回予告*
ドーラの仕事はメイドさん。
お掃除、お洗濯、料理にお裁縫。
ドーラにできないことはありません☆
次回 「海へ!!」
第4話 「DーRが行く!!」
ドーラ、がんばっちゃいます♪
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