「海へ!!」
第5話

「Foxと鳥」

  狙うは一石二鳥、ってか。

「ん〜、なんか久しぶりだなあ」
 ここのところシティ内での内部調査がメインだったので、ラグオルに降りるのは本当に久しぶりだった。
 フォックスは大きく伸びをした。
「ほらほら、後ろがつかえてんだからさっさと行く!」
 後ろから、同僚のエルがせっついてきた。
 しぶしぶフォックスが道を開けると、次々に人影がパイオニア2からの主転送装置から現れた。
 一番小柄な人影が、今回の依頼主、サヤカ・ランドール。
 なんでも学術調査のためにラグオルの海へ向かうらしい。金持ちの家の次女である。
 次に現れたヒューマーは、エルの後輩のイーノ・ツヴァイ。
 一流のハンターになるべく日夜努力を続けている青少年である。フォックスはこういうタイプが好きだ。
 からかうと面白いから。
 最後に現れたレイキャシールは、ドーラ。
 悪名高いRAclシリーズの後期型で、彼女曰く『私の仕事はメイドですので、戦力として期待しないでくださいね』だそうだ。
 家事は万能だそうだが、はてさてどこまでが本当なのか怪しいものである。
 全員が降りたのを確認すると、フォックスはエルに尋ねた。
「で、どっちに行けば『海』なんだ?」
 エルが言うには、ここからは南へ向かい、密林を抜けて山脈を越えて、赤道収束帯に向かうらしい。
「その前に、この近所で武器のテストをしておきましょ」
 エルはそう提案した。
 今回の依頼では、海へ向かうことになる。
 海までの距離は遠く、パイオニア2の支援範囲を大きく外れるため、リューカーやテレパイプに頼ることはできない。つまり、フォトンを使用する武器の、バッテリーのチャージが行えない、ということだ。
 そこで、彼らは一計を案じた。
 武器を全て、フォトンを一切使わないものに統一したのだ。
 実際、イーノの腰には刀が下がっているし、フォックスが背負っているのは愛用のライフルではなく大型の『弓』だった。
 そういったフォトンを使わない武器は『アンティーク』と呼ばれ、骨董品として扱われている。
 実際、フォックスは多大な時間と金をかけて、この『弓』を用意していた。
 イーノも、父親に頼み込んで、ツヴァイ家の倉庫から、この刀『銘刀ホムラ』を借り出していた。
 そして、5人が森エリアを進んでいると、おあつらえ向きにブーマの群れがあらわれた。
「行くわよ、イーノ!!」
「はい!!」
 エルのかけ声とともに、二人のハンターはブーマに向かって駆け出した。
 フォックスもあわてて準備をするが、どうもこの『弓』という武器は銃とは勝手が違う。
 フォックスが攻撃の準備に手間どっている間に、二人のハンターはすでに接敵していた。
 エルは、それまでたたんで腰の後ろに下げていた二つの短い棒を鎖でつないだ武器を構える。
 それはかつて、『ヌンチャク』と呼ばれた武器だった。
「はいっ!!」
 エルはそれを初めてとは思えない手さばきで操ると、一撃でブーマのアゴを砕いた。
 実はエルはアクション映画好きで、折りを見ては『ヌンチャク』の練習をしていたのだった。
 イーノもそれに続き、手にした刀でブーマに斬りかかる。
 フォトンのセイバーより少々重かったが、普段から鍛えているイーノにとっては、大した差ではなかった。
「せいやぁぁ!」
 それに、サヤカのテクニックによる援護が加わり、ブーマの群れは見る間に数を減らしていく。
 フォックスがようやく初弾をつがえ終わったころには、戦闘は終わっていた。
「・・・ま、いいか」
 少々不満は残ったものの、次の機会にとておけばいいさ、とフォックスは考えることにした。

 しかし、昼を過ぎ、木の密度が『密林』と呼べるほどになっても、敵は全くあらわれなかった。

「腹、へったな」
 いい加減昼も過ぎ、太陽が西の半球に差し掛かりはじめたのを見て、フォックスが言った。
「そうね。このへんでお昼にしましょうか」
 エルの一言に、新米ハンターズの二人は嬉しそうな顔をした。
 まだ駆け出しであるイーノとサヤカの二人には、この強行軍は少し辛かった。
「それじゃあ、準備しますね」
 ドーラが背負っていたコンテナを地面に下ろし、食料を取り出そうとしたのを見て、エルが止める。
「待って。持っている食料を食べるのはあくまで最後よ。
 せっかくだから、食料は現地調達しましょう」
 エルは、林冠を見上げながら言う。
 そlこには、色とりどりの鳥たちが舞っていた。
「ねえ、せっかくだから二手に分かれて探しましょ」
 唐突に、サヤカがそんなことを言った。
「そのほうが効率もいいと思うし。エルさんもそう思うでしょ?」
 言ってサヤカはエルに向かって目配せする。
 イーノからサヤカのことを聞いていて、女の勘でサヤカの気持ちに気づいていたエルは、その合図の意味を理解した。
「そうね。サヤカの言う通りだわ。
 私とフォックスとドーラ、サヤカとイーノに別れて探しましょ」
「え〜!?」
 唯一、イーノが不満をもらしたが、結局女二人の連合軍には太刀打ちできず、サヤカと一緒に食料を探すことになった。

 フォックスは、樹の陰から泉に群れる鳥たちを見て張り切っていた。
 ようやく『弓』を使って、エルにイイトコが見せられる。
「がんばってね、フォックス」
「ファイトです、フォックスさん」
 女性二人の応援を受け、フォックスのやる気は頂点に達していた。
「まかせとけって!!」
 軽くガッツポーズをすると、矢をつがえて鳥の一匹に狙いを定める。
 弦をひきしぼり、限界まで引いたところで、手を離す。
 矢はあらぬ方へ飛び、樹木の間に消えた。
「・・・」
「・・・」
 女性二人の視線が痛い。
「い、今のはお遊びだって。次こそ・・・」
 再び矢をつがえ、弦を引き絞る。
 手を話すと、矢は今度は水面に突き刺さり、盛大な水音を立てた。
 その音に驚いて、鳥は全て飛び立ってしまった。
「あ〜あ」
「かっこわるぅ・・・」
 立つ瀬がない、とはこのことである。

 一方そのころ、イーノ達は木の上で羽を休めている鳥に狙いを定めていた。
 サヤカがあれにしよう、と言ったからだ。
「で、どうやって捕まえるんだよ」
 イーノ達は、飛び道具を持っていない。
 けっこう高い位置にいるその鳥をしとめるには、飛び道具が必要だった。
「こうするの♪」
 サヤカが呪文を詠唱すると、上空から一条の稲光がその鳥を貫いた。『ゾンデ』のテクニックだ。
 鳥はぼたり、と地面に落ちてきた。
「へえ、考えたな」
 イーノは素直に感心する。
「えへへ」
 サヤカはイーノに誉められて上機嫌だった。

 結局フォックスの弓では獲物が取れない、ということで、ドーラが食料の調達に出た。
「で、コレかよ」
 フォックスが体を縄でぐるぐる巻きにされ、手ごろな木に縛られた状態で言う。
 ドーラが捕まえてきたのは、例えて言うなら『でっけぇダンゴ虫』だった。
 ただ少々牙があって、その表面はケバケバしい緑色をしていたが。
「・・・で、なんで俺は縛られてんだ?」
 ドーラが持ってきた獲物を一足先に確認したエルは、問答無用でフォックスを木に縛り付けていた。
「・・・あら。だってほどいたらフォックス逃げるじゃない」
「・・・てめー・・・」
 そんな二人のやりとりは気にも留めず、ドーラは鼻歌まじりに調理を始める。

 その頃、イーノは鳥をさばいていた。
 サヤカの提案で、この場で鳥を食べることにしたのだ。
 向こうには、腕利きのハンターズが二人もいる。自分たちが取る獲物なんかより、ずっと多い獲物を取っているだろうというのが、サヤカの言い分だった。
 本音はもちろん、『イーノと二人きりで食事がしたいから』である。
 持ってきたゴム手袋で手を覆うと、羽をむしって小型のナイフで内臓を取り出す。
「わー、イーノ上手だね」
 サヤカがそう言って感心する。
「・・・誉められるようなことはしてないよ」
 それでも少し照れながらイーノは言う。
 実は、彼はラグオルの長期滞在に備えて、サバイバルシミュレータで何度も訓練していたのだ。
 鳥がさばき終わると、二人は調理にかかった。
 手ごろな大きさの石を見つけると、近くの小川でそれを洗い、サヤカのテクニックで熱する。
 そして、準備が整うと、サヤカが不意に大きなハッパを取り出した。
「なんに使うんだ?それ」
「ちょと匂いかいでみてよ」
 イーノは言われるままそのハッパの匂いをかぐと、なんとも言えないいい匂いがした。
「これで、鳥を巻いて焼くの」
「へえ。考えたな〜」
 イーノの感心する前で、サヤカはテキパキとハッパを鳥に巻き付け、石の上に乗せる。
 実はサヤカは、自分の家のシェフに頼んで、料理のいろはを教えてもらっていた。当然、いつかイーノに手料理をご馳走するためである。
 ほどなくして、辺りは香ばしい香りに包まれた。
 加減を見てハッパを外すと、いい感じに鳥は焼きあがっていた。
 それを、サヤカが適当な大きさに切り分ける。
 そして、それを一切れナイフに指すと、
「あーん☆」
 とイーノの口元に持っていった。
「い、いいよ、自分で食べられるし」
 イーノは慌てて辞退しようとしたが、サヤカは反論した。
「大人しく食べないと、鳥わけてあげないよ。
 この鳥、あたしが取ったんだから♪」
 ムチャクチャな論理だったが、言うことをきかないと本気でそうするだろうと長年の付き合いで知っているイーノは、大人しくサヤカに従った。
「・・・あーん」
「素直でよろしい☆」

「できました!!」
 振り向いたドーラの持つ万能中華鍋の上では、先ほどのダンゴ虫がぶじゅぶじゅと音をたてて丸焼にされていた。
「食材本来の味を生かすため、味付けは塩・コショウのみです!!シェフ本日お勧めの逸品です!!」
 じまんげにドーラは胸を張るが、フォックスにはそれはどう見ても人間が食べていものには見えなかった。
「まあ、おいしそう♪」
 白々しくエルが言う。
「だったら、お前食ってみろよ」
 げんなりした顔で言うフォックスに、エルは笑顔を張り付けたままで応える。
「あらイヤよ。だってわたしまだ死にたくないもの」
「てんめー・・・」
 そう言うフォックスを無視し、エルはぱちんと指を鳴らした。
 ドーラは全てを察し、フォックスの背後に回り込んで無理矢理口を開かせる。
 それを確認したエルはさいばしでダンゴ虫を適当な大きさに切り分けると、褐色の肉汁をしたたらせる『それ』を、フォックスの口に運んだ。

「あ〜ん♪」
 そして、絶叫が密林にこだました。

 
「Foxと鳥」おわり


*次回予告*

 いっい湯だっな♪
 いっい湯〜だっな♪
 湯っ気っがてん〜じょからポタリと背中へ〜♪

 次回「海へ!!」
 第6話「温泉でGO!!」

 はぁ〜 びばのの♪

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