「海へ!!」
第8話
「Enoと古代の村」
『勇者』と呼ばれし、少年は・・・。
パイオニア2を出発してから、もうどれくらい経っただろうか。
最初の半月までは数えていたが、今はもう誰も数えていない。
ずいぶんと遠くまで来たのは分かるが、あとどれだけ行けば『海』へ着くのか、見当もつかない。
「本当に海へなんて、行けるのかな・・・?」
キャンプを張って休もうとしている時に、不意にサヤカが言った。
「おいおいどうしたんだ依頼主?アンタがそんなんじゃ、ここまで来た甲斐がねえぞ」
獲ってきた獲物の鳥をさばきながら、フォックスが言う。
「そうよサヤカ。あなたが信じなきゃ、海なんて行けないわ」
エルもそう言って励ましてくれる。
当初はイーノにかまってもらいたくてこの依頼をでっちあげたサヤカだったが、今は『海』を見てみたいと考えるようになっていた。
「大丈夫。俺が連れてってやるって約束しただろ?」
食器を並べながらイーノがそう言った。
サヤカはその言葉を聞き、イーノがあの日の約束を思い出したのかと思った。
「イーノ、覚えててくれたの!?」
期待をこめてそう言うサヤカ。
「覚えてるもなにも・・・依頼受けた時にそう言ったぞ?」
やっぱイーノはその程度よね・・・。
一瞬サヤカはげんなりしたが、すぐに気を取り直した。
イーノもああ言ってくれてることだし。
「ま、あと少し位頑張ってみますか!!」
小さくガッツポーズを取るサヤカの後ろから、ドーラが声をかけてきた。
「お食事の準備ができましたよ〜」
次の日、半日ばかり進むと、突然視界が開けた。
山の頂を越えたのだ。
その先に広がる世界は、青い描線で縁取られていた。
水平線だ。
5人は揃って広がる世界に見入っていたが、イーノがぽそりとつぶやいた。
「あれが・・・海」
それを皮切りに、皆が喋り出す。
「やった、やっと見えたよ!!」
サヤカは、昨日の発言が嘘のように、海が見えたことに喜び、はしゃいでいる。
「あんなに綺麗な青は・・・見たことないわ」
水平線を見つめ、エルはそうもらす。
「残念だな、カメラ持ってくりゃよかった」
「ああ大丈夫です、しっかりメモリしましたから♪」
すっかり観光気分で、フォックスとドーラは盛り上がっている。
「とにかく、これで具体的な目標も見えたわけよね!!」
サヤカは俄然、やる気になっていた。
「そいじゃま、とりあえず・・・」
そう言いながら、全員の手を引っ張り、無理矢理重ね合わせる。
全員最初は疑問を顔に出していたが、サヤカが何をしたいのかだいたい掴めてきた。
そして、サヤカは自分の手を上に重ねる。
「それじゃあ、行くわよ、みんな!!」
そして、全員の声が一つに合わさる。
『海へ!!』
しばらく進むと、急に空模様が怪しくなってきた。
「ありゃ・・・こりゃ一雨来るかな?」
野外活動の経験が多く、こういったことには一番慣れているフォックスが、空を見上げながら言った。
「あ、ちょうどあそこに洞窟が見えますよ。あそこで雨宿りしましょう」
ドーラの指さした先には、山肌にぽっかりと洞窟が口を開けていた。
入り口が奥に向かって傾斜していない。使えそうだ。
「そうだな。あそこで雨宿りするか」
案の定、フォックス達がその洞窟に避難してすぐに、雨が降り出した。
「ふー、間一髪だったな」
いつもはそう都合よく雨宿りする場所が見つからないので、濡れることも何度かあったのだが、今日はツイている。
「んじゃー、ここでキャンプにしますか、今日は」
そう言ってキャンプの準備をしようとしたイーノの後ろから、一足先にサヤカとドーラと共に洞窟に入っていたエルが呼びかけてきた。
「ちょと二人とも、こっち来て」
どうもただごとではないらしい。
イーノとフォックスの2人は、神妙な面持ちでエルの後についていった。
洞窟の奥に行くにつれて、あからさまに洞窟は変化を見せはじめていた。
磨かれた壁。通気のために開けられた穴。
あからさまに、人の手が入っていた。
「こりゃ、どういうことだ・・・?」
フォックスは辺りを見て驚いている。
ラグオルに先住文明は存在しない。
先行して調査を行っていたパイオニア1からの報告では、そうなっていた。
しかも、この洞窟の磨かれた床にはほこりが積もっていない。頻繁に人の出入りがある・・・つまり、人がいる、ということだ。
「サヤカとドーラが少し奥へ行ってるわ。
・・・私も正直、驚いてるのよ」
こころなしか、エルの歩調も早くなっていた。
「で、二人は何をしてるんですか?」
『きゃああああああ!?』
イーノの質問にエルが答える前に、奥からサヤカとドーラの叫び声が聞こえてきた。
「サヤカ!?」
慌ててイーノは、走り出す。
最初にサヤカのところへ着いたのは、イーノだった。
「無事か、サヤカ!?」
いつでも腰の剣を抜けるように柄に手をかけながら、イーノは言った。
当のサヤカは、そんなイーノを見て少し顔を赤らめる。
「あ、ごめん。驚かせちゃったね」
そう言ってサヤカの指さした先には、
十才ほどの幼い『人』がいた。
その生き物は、二本足で立ち、毛のない手足を持ち、服を着ている。間違いなく『人』だった。
ただ、ヒューマンとは違い少々耳が長く、尖っている。どちらかと言えば、ニューマンに近かった。
パイオニア2を出てから初めて見る自分たち以外の『人』であった。
「このコが、急に出てきたからおどろいちゃって」
サヤカの言う『このコ』は、なにやら意味不明な言葉を発していた。どうやら向こうも相当驚いているらしい。
「意味は解らないけど、間違いなく言語だわ。
・・・このラグオルに、私たち以外に文明を持つ人類がいたなんて・・・!!」
エルも、未知の人類と接触したことをひどく驚いていた。
5人と、その異文明の少年は、しばらく睨みあっていたが、突然、少年が走り出した。
「あ、待って!」
サヤカが慌てて後を追う。
「私たちもいくわよ!!」
エルの号令に、全員が走り出した。
少年を追っていくと、突然、開けた場所に出た。
その光景を見て、全員言葉を失った。
そこには『村』があった。
何本もの柱に支えられた巨大な空間の底に、大小の家屋らしき建造物が十数件建っていた。
その建造物は、すべて規則正しく削られた岩のブロックでできており、ここに住んでいる住人がそれなりの文明を持っていることが容易に想像できた。
そして何より驚くべきは、その天井に、『外の風景』が映し出されていることだった。
今は、雨を降らす雲が、満天を染めている。間違いなく、外の風景だ。ただし、雨は降ってはいなかった。
「信じられない・・・」
エルはそう言って立ちすくんだ。
「すげえ・・・」
イーノも、言葉を失っている。
そこに、突然声をかけられた。
「いらっしゃいませ。異邦人の勇者様」
全員があわてて声のした方を見ると、そこには先ほどの少年と、一人の老人、それに連れられてたくさんの人だかりがいた。
「こ、こんにちは。わたしたちの言葉がわかるの?」
最初にそう口を開いたのは、サヤカだった。
「ええ。この『口伝の板』さえあれば、動物とすら言葉を交わすことができます」
そう言って老人は、自分の胸もとを指さした。
そこには、パイオニア2とは違う文明体系の装置が、提げられていた。
「トランスレーターみたいなものね。
・・・それで、一つ聞きたいんだけど。
あなた達は私たちの敵かしら?味方かしら?」
エルはそう言って、警戒の体制を取る。
ちょっとエル姉、とイーノがたしなめたが、エルは警戒を解こうとしない。
「こっちとしては、無用の争いは避けたいんだけど?」
そう言うエルに、老人はかすかに口の端を上げてみせる。
どうやら笑ったらしい。
「敵ならば敵に。味方なら味方になりましょう」
どうやら、敵意がなければ敵対はしない、という意味らしい。
ようやくエルは警戒を解いた。
「・・・分かった。敵じゃないみたいね」
「分かっていただけて幸いです。
次は私たちの番ですな。
あなた方は、あの『光の柱』から来なさったのかな?」
『光の柱』・・・?
イーノは思い当たらなかったが、フォックスにはすぐにピンときた。
「あれか、パイオニア1とパイオニア2の通信が開いた時の」
あれはたしかに、、地上から見れば光の柱に見えるだろう。
「そうだ。オレ達はあそこから来た」
くわしく説明するのが面倒だったので、フォックスはそう説明した。
「ならば、あなた方は預言にある『勇者様』ですな」
そう言って、老人は深々と頭を垂れる。
「ようこそ、ラバンの村へ。勇者様」
それにならうように、他の村人たちも頭を垂れた。
その夜、村長と名乗ったその老人の家で、ささやかな宴が催された。
「すごいな兄ちゃん、ブーマやっつけたことがあるんだ!」
最初に出会った少年が、イーノの話を聞いて目を輝かせている。その胸には、例の『口伝の板』があった。
『口伝の板』は、村人が全員付けての余りあるほど、この村の寺院の倉庫にあるらしい。
「ブーマなんか、屁でもないさ。ゴブーマやジゴブーマの大群とも、やりあったことがるんだぞ」
鼻高々に少年に語るイーノ。もう有頂天になっている。
「リツくん、あんまりイーノ誉めないでね。
すーぐ調子にのるんだから、この馬鹿」
サヤカは『リツ』と名乗った村長の孫にそう注意する。
彼は、村の子供の仕事である『空見』、外の天候と中に映し出されている天候に違いがないか確認する仕事、に出ている時に、イーノ達と出会ったのである。
「なんだよ、本当の事だろ?」
「調子にのるな、って言ってるの。
・・・ブーマごときで何いい気になってんだか・・・」
呆れたように言うサヤカに、リツが尋ねた。
「じゃ、お姉ちゃんはもっと強いヤツと戦ったことがあるんだね?」
その瞳は、『お姉ちゃんはもっと強いんだ』と期待していた。
「え?えっとねぇ・・・あはは」
一方その頃、エルとフォックスは上座で村長と話をしていた。
村長が、話があるからと二人を呼んだのである。
「地下の闘技場跡から、『炎の剣』を取ってきてくだされ」
それが、村長の発した一言であった。
なんでも、地下の古代先住文明の闘技場跡には危険なモンスターが徘徊していて、その奥に古代先住文明の遺した『炎の剣』という武器があるらしい。それを取ってくることが、『勇者』としての試練だそうだ。
「あの少年の話を聞く限りでは、あなた方はブーマ位物の数としないようだ。その腕があれば、この試練、たやすいはず」
老人の瞳は暗に、『歓迎するのは、その試練の代償だ』と語っていた。
「わかった。受けてやるよ、その試練とやら」
言って、フォックスは匂いのきつい地酒をあおった。
次の日の早朝、5人は村長の案内で、地下闘技場の入り口に連れてこられた。
村長と、その孫以外に他に人はいない。皆、村の仕事があるそうだ。
「いってらっしゃい、イーノ♪」
サヤカは笑顔で手を振る。
彼女はここに1人で居残る。何故なら、この『試練』のしきたりとやらで、齢15より下の女性は、この『試練』に参加できないそうだ。ちなみにドーラは、荷物持ちとして参加する。
「いいな〜、兄ちゃん・・・」
リツは、何度も『冒険』と称してこの地下闘技場跡に乗り込もうとしたのだが、村の大人たちにその度に止められているそうだ。
「リツも、大きくなったら冒険に出ればいいさ」
そう言ってイーノは、リツの頭を撫でる。
「すっかりお兄ちゃんしてるわねえ、イーノ」
そう言ってエルがからかった。
イーノは少し照れくさそうにしていたが、末っ子の彼にとって、リツが『お兄ちゃん』と慕ってくれるのは、まるで弟ができたようで、本当にうれしかったのだ。
「それでは、そろそろよろしいかな?皆様」
そう言って、村長が急かす。
『試練』の開始時刻は決まっているそうで、日の出から約1時間がその開始時刻だった。
間もなく、その時間になる。
すると、入り口を閉ざしていた大きな扉が音もなく横にスライドして、開いた。
「それじゃ、行ってくる!」
見送るサヤカとリツに、イーノは手を振った。
「Enoと古代の村」おわり
*次回予告*
長い試練の先に、その剣はあった。
その剣は少年の手によって引き抜かれ、少年のものとなる。
そして少年の凱旋には、ある事件が待っていた。
次回「海へ!!」
第9話「Sayakaの勇者様」
そして二人は・・・。
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