「海へ!!」
第9話

「Sayakaの勇者様」

  そして二人は・・・。

 試練の洞窟の扉が閉まるのを確認して、村長とサヤカとリツの一行は、その場を後にした。
 なだらかな丘を下り、村に着くと、村は騒然としていた。
 出たらしいぞ。空見の子供が見つけたらしい。なんで、こんな時に。
 そんな単語が飛び交い、辺りを満たしている。
「これこれ、何があったのじゃ?」
 村長が、手近な村人に説明を求める。
 その村人は一瞬考え込んだが、すぐに村長に事情を話した。
「実は・・・猿神が出たんです」
 その言葉を聞いた途端、村長の顔は青ざめた。
「なんだと!?猿神が!?本当かそれは!!」
「ええ。子供の中でも目のいいフォゥが見つけましたから。間違いないはずです」
「なんということだ・・・」
 サヤカは事情が飲み込めず、リツに説明を求めた。
「ねえリツ君、『猿神』ってナニ?」
「おいらも詳しくはしらないんだけど・・・」
 たどたどしくリツの説明してくれた内容によれば、その『猿神』というのは二本の鋭い角をもち、鎧のような肌を持った猿の化け物だそうだ。
 その『猿神』は何百年も生きていて、数十年に一度現れてはこの村を襲うらしい。
「そして、我々は若い娘を贄とすることで、『猿神』を鎮めてきたのじゃ・・・」
 重々しく村長はそう語った。

 イーノ達の前には、洞窟が広がっていた。
 どうやら古代闘技場跡は洞窟の奥にあるらしい。
 イーノ達が奥に進もうとすると、岩の陰から異形の生物が姿を現した。
 二足歩行のは虫類のような姿をしたそれらは、次々と姿を現しはじめる。どうやら自分たちのテリトリーが荒らされたことを快く思っていないようだ。
「タダでは通してくれそうもないわね・・・」
 エルがそう呟く。
「だったら、押し通るまで!!」
 そう言って、じわじわと遠巻きに近寄ってくるそれらに向かって、イーノは駆け出した。
 そして、先手必勝とばかりに斬りかかる。
 その斬撃は一撃で敵を斬り裂き、絶命させる。
 この数ヶ月に及ぶ長い旅は、確実にイーノを成長させていた。
 パイオニア2にいたころはシミュレータのエネミーにすら四苦八苦していたイーノだったが、実戦を積むことで得た経験が、彼を戦士として鍛え上げていたのだった。
「・・・行くわよフォックス。私たちの分がなくなっちゃうわ」
「オッケィ」
 そう言って、二人も戦列に参加する。
 ものの数分とかからぬうちに、動く敵はいなくなった。

 さらに奥へ進むと、そこには扉があった。
 どうやらここが、地下闘技場の入り口らしい。
「開けるぞ」
 フォックスがそう言って扉に手をかけ、押す。
 すると、扉は重い音をたてて開き、視界が開けた。
 と、同時に、あたりに光が満ちる。
 上を見てみると、そこにはラバンの村の天井と同じものがしつらえてあった。その天井は外界の晴天を映し出している。
 闘技場はかなり広い真円をしており、床には土が敷き詰められている。誰もいない観客席がそこがかつて闘技場として使われていたことを示していた。
 4人が闘技場の奥へ進もうとすると、突然、正面の扉が、音をたてて開いた。
 そこから姿を現したのは、ラグオルの地上で最も巨大で獰猛な生物。
 イーノが、その名を叫んだ。
「ドラゴン!?」
 ドラゴンは久しぶりに現れた獲物を値踏みするように眺めると、戦闘開始を告げるときの声を上げた。 「まあ、楽勝だな」
 軽い調子でフォックスは言う。
 たしかに一流のハンターズであるエルとフォックスが組めば、ドラゴンなどものの数ではない。
「・・・イーノ。あなた一人で戦いなさい」
 エルはそう言って、ヌンチャクをしまいこんだ。
 イーノは驚いた顔で、エルを振り返る。
「え、でもエル姉・・・」
「今のあなたならできるはずよ。やってみなさい」
 そう言って、エルはフォックスとドーラに下がるように手振りで示した。
 どこまでこの新米ハンターが成長しているのか、エルは見てみたかった。
 もっとも、もう『新米』と呼べるほど、イーノの腕は悪くなかったが。
 イーノは頷く。
「ああ、やってみる!!」
 そして、ドラゴンに向かって剣を構えた。

 村では贄を決めるための会議が、村長の家で行われていた。
 だが、どこの親が自分の娘を贄に差し出そうというのか。
 会議は遅々として進まなかった。
 そして、村長が、重い息を吐きながら呟く。
「せめて、あの方達が村にいてくれたら・・・」
 イーノ達4人のことだ。
 サヤカは客人として、その会議を聞いていた。
 もし、ここにイーノ達がいてくれたら。
 彼らはきっと『猿神』を倒し、この村を救ってくれるだろう。
 だが、彼らはいない。
 サヤカは、自分にできることを、考えた。
「私が、贄になります」
 サヤカは唐突にそう言った。
「姉ちゃん!?」
 隣で退屈そうにしていたリツが、驚いたように顔を上げた。
「しかし、あんたは村の客人じゃ。あぶない目にあわせるわけにはいかん」
 村長はもっともらしいことを言う。
 その村長の言葉に、サヤカは反論する。
「大丈夫。おとなしく食べられる気なんてありません。
 イーノ達が帰ってくるまで、私が『猿神』をなんとかします」
 サヤカのその言葉に、並みいる大人たちはおぉ〜、と声を上げた。
「いいの・・・ですかな?」
 まだ信じられないものを見るような目で、村長はサヤカにそう尋ねる。
「はい。私はイーノを、信じてますから」
 サヤカの言葉に、村長の腹も決まったようだった。
「では、すぐに支度を。贄の祭壇は、村の入り口からしばらく行ったところにあります」
 そう言って村長はサヤカを案内するべく、立ち上がる。
「待って、おいらも行く!!」
 唐突に、リツが叫んだ。
「こらリツ!!これはごっこじゃないんだぞ!!」
 村長がそうたしなめるが、リツは聞かない。
「おいらが姉ちゃんを守るんだ!!兄ちゃんが戻ってくるまで!!」
 リツは頑として聞かない。
 そこで、サヤカは言った。
「・・・リツ君。ここで待つことも、君の大事な役目なの。分かって」
「姉ちゃん!?」
「あなたも巻き込んだら、イーノ達に会わせる顔がないじゃない?だから、君はここにいて」
「・・・うん」
 サヤカの説得に、しぶしぶリツは頷いた。

 ドラゴンは大きく首を振ると、灼熱のブレスをイーノに向けて吹きかけてきた。
 イーノはそれをドラゴンの死角にはいることでかわすと、一気に足元へ駆け寄った。
 そのまま、ドラゴンの弱点の一つである、足に斬りつけた。
「でやぁっ!!」
 たった一度の斬撃で、ドラゴンはたまらず足を折る。
「おお、やるなイーノの奴」
 フォックスは感嘆の声をあげた。
 ドラゴンの体は、まんべんなく厚い鱗に覆われている。そのため、弱点を的確に突いても、ある程度の打撃を与えられなければ、ダメージを与えることはできない。イーノはそれを、たったの一撃でやってのけた。的確に弱点を突く技と、必殺の一撃を放つ力がなくてはできない芸当だった。
 イーノはすぐさま頭に駆け寄り、狙いを定める。
 狙いを定めたのは、ドラゴンの体で唯一鱗に覆われていない場所・・・眼球である。
「でりゃぁぁ!」
 裂迫の気合いとともにイーノの放った突きは、ドラゴンの瞬幕を貫き、眼球を抜け、脳にまで達した。
 イーノは剣から手を離し、その場から飛び退いた。
 ドラゴンは苦悶の声をあげ、何度かのたうち回り、そして、絶命した。
「ふう・・・」
 一息つくイーノに、仲間たちが駆け寄ってきた。
「やるじゃない、イーノ」
 後ろから、エルが声をかける。
「あんなやり方、どこで覚えたの?」
 少なくとも、ハンターズギルドではそういった戦闘パターンはレクチャーしてくれない。
 イーノは少し照れたように答える。
「前に、フォックスさんが矢でブーマの目を貫いて倒したことあったでしょ。あれがヒントで」
 たいした応用力だ。もう、彼は立派な一人前のハンターだ。
 エルは、イーノに向かって手を差し出す。
「おめでとう、イーノ」
 イーノはその手を握り返す。
「ありがとう、エル姉」

 奥の扉を開けると、そこには台座があった。
 その上に柄だけが出た状態で、一振りの剣が刺さっていた。
「あれが、炎の剣・・・?」
 イーノはおそるおそる近寄る。
 残りの三人もそれに従う。
 台座の前に立ち、イーノは剣の柄に手をかける。
「抜くよ。いい?」
 エルがうなずいたのを確認して、イーノは剣を抜いた。
 何の手応えもなく、柄だけが台座から離れた。
「あれ・・・?」
 この形状には見覚えがある。
 そうだ、セイバーだ。
 イーノがその柄の周りを調べると、案の定トリガーのようなものがあった。
 イーノがそれを引くと。
 炎の色をしたフォトンの刃が、そこに現れた。
 だが、このフォトンはイーノの知っているものとは異なっていた。
これが、先住文明の遺産なのだろうか。
「それで、『炎の剣』ってわけか・・・」
 
 ラバンの村の入り口からしばらく行ったところに、その祭壇はあった。
 森の中の開けた場所に、石でできた粗末な祭壇がしつらえてあった。
「ではサヤカ殿。くれぐれも、頼みましたぞ」
 イーノが戻ったらすぐにここへ向かうように告げる、といい残して、村長は立ち去った。
 村長が立ち去ってしばらくして。
 木陰から、リツがひょっこりと顔を出した。
「リツ君!?」
 サヤカは驚いてリツに駆け寄る。
「ごめん、姉ちゃん!!でもおいら、じっとしてらんなくて・・・」
 リツは申し訳なさそうに小さくなっている。
 だが、サヤカにはそれが演技だとわかっていた。
 このしたたかな少年は、自分が何を言っても、村に帰りはしないだろう。
「・・・しょうがないわね。私の言うこと、ちゃんと聞ける?」
「うん!!」
 先ほどまでのしおらしい態度はどこへやら、満面の笑顔で、リツは応えた。
 しょうがないなあ、とサヤカは祭壇に腰掛け、リツを見守る。
「おいらが、姉ちゃんを守るんだ!!」
 そう言って、リツは自分で持ってきたナイフを、虚空に向かってぶんぶんと素振りする。
 サヤカはそんなリツを見て、少し昔を思い出していた。
 それは、ハンターズライセンス取得の試験でのこと。
 サバイバルシミュレータでの最終試験で、サヤカは大量のエネミーに囲まれてしまった。
 そこへ、同じ試験を受けていたイーノが割って入ったのだ。
『フォースのお前は下がってろ。俺が守ってやる』
 教科書どおりの模範回答だったが、イーノが守ってくれたことを何より頼もしく感じたことを、サヤカは今でもよく覚えている。
 サヤカがそうして思い出に浸っていると、突然、大きな獣の叫び声が聞こえてきた。
「まさか・・・」
 サヤカは、リツを逃がそうと動いた。
 しかし、次の瞬間。
 林冠を飛び越え、巨大な影がサヤカ達の前に降ってきた。
 巨大な二本の角。まるで鎧のような肌。『猿神』だ。
 サヤカの知っている範囲内で例えるなら、それは『ヒルデベア』に似ていた。だが、似ているのはおおまかなシルエットだけで、グロテスクな顔やその身にまとった威圧感は、『ヒルデベア』のそれではなかった。
『猿神』は贄の存在を確認すると、のしのしと祭壇に近寄ってきた。
「リツ君!!逃げて!!」
 しかし、リツは目を見開いたまま動きを止めている。恐怖に足がすくんでいるらしい。
 サヤカはあわてて呪文を詠唱し、『猿神』に向かってテクニックを発動させた。
 紅蓮の爆炎が『猿神』を包み、よろめかせる。
 その隙に、サヤカはリツの体を引っ張り、その場から逃げようとした。
 しかし、テクニックによって発生した煙が薄れ、視界がはっきりすると、『猿神』は大きく息を吸い込んで、サヤカに向かって灼熱のブレス吐き出した。
「あぶない、リツ君!!」
 サヤカはとっさにリツを抱き、引き倒した。
「あうっ!!」
 避け損なった灼熱のブレスは、サヤカの右腕を容赦なく焼いた。
「ね、姉ちゃん!?」
 ようやく呪縛から逃れたリツが、倒れたサヤカを助け起こす。
『猿神』はもうすぐそこまで迫っていた。
「逃げなさい、リツ!!」
 サヤカはリツをかばうように、『猿神』とリツの間に立ちはだかった。 
 そして、『猿神』はサヤカに向かって拳を降り下ろした。
 しかし、その拳がサヤカに当たることはなかった。

 一人の人影が、サヤカに降り下ろされた拳を剣一つで受け止めていた。
「待たせて悪かったな、サヤカ」
 聞き覚えのある声。この声は・・・。
「イーノ!!」
 試練を終えたイーノ達が、村長に事情を聞いて慌てて駆けつけたのだ。
「ここからは俺の仕事だ。サヤカはリツを連れて下がってろ!!」
 言って、イーノは剣を払う。
 流された『猿神』の拳が、空しく地面を叩いた。
「サヤカ、こっちへ!!」
 駆けつけたエルがサヤカにレスタをかけ、リツと一緒に後ろへ下がらせる。
『猿神』はイーノと向かい合って、動けずにいた。
『猿神』の本能は告げていた。この男から目を離してはいけないと。
  「よくもサヤカを傷つけてくれたな・・・」
 イーノは低い声でそう言って、『ホムラ』を鞘に戻し、『炎の剣』のトリガーを引く。 
「・・・このカリは、高くつくぞ!!」
 そして、『炎の剣』で『猿神』を薙ぐ。
 しかし、それより一瞬先に、『猿神』は後ろへ飛び退いていた。『猿神』はこのまま逃げるつもりだった。
 しかし、木の陰から放たれた一本の矢が、『猿神』の右の瞳を貫いた。
 フォックスの放った矢だった。
『猿神』は苦悶の声をあげ、顔を抑える。
「今だイーノ!!やっちまえ!!」
 フォックスの声に応え、イーノは高く飛び上がると上段から『猿神』の脳天に向かって『炎の剣』を振り下ろした。
『炎の剣』のフォトンの刃は、『猿神』を易々と真二つに斬り裂いた。
   
『猿神』を倒したイーノは、『炎の剣』をしまいこむと、サヤカの所へ行った。
 そして、サヤカに謝る。
「ごめんなサヤカ、遅れちまって」
 うつむいているサヤカの頬に、そっと手を延ばす。
 顔を上げたサヤカは、泣いていた。
 今まで張り詰めていた緊張の糸がほどけ、安堵の涙があふれてきたのだ。
 サヤカはそのままイーノの胸に飛び込んで泣いた。
「お、おい・・・」
 イーノはどうしていいのかわからず、困惑する。
 それを見ていた仲間たちは、めいめいにそこを立ち去った。
「さ、リツ君。先に村に帰りましょ」
「さ〜、お邪魔虫は退散すっかな」
「がんばれ、お嬢様〜☆」
 仲間たちが去って二人きりになったイーノとサヤカだったが、イーノは自分の胸で泣き続けるサヤカを持て余して硬直していた。
 しばらくすると、落ち着いてきたのかサヤカは泣き止んだ。
 イーノは泣き止んだサヤカに、話しかける。
「お、落ち着いたか?」
「・・・うん。ありがと・・・」
 そう言って、サヤカはイーノから離れる。
「よし、そんじゃ帰るか」
 言って、イーノは仲間の後を追おうとする。
 しかし、それをサヤカの台詞が止めた。
「待って、イーノ」
 みんなの折角作ってくれたチャンスだ。
 このチャンスを逃したら、このニブチンは一生自分の気持ちに気づいてくれないだろう。サヤカはそう思った。
「・・・何だ?」
 イーノは立ち止まり、サヤカの方に向き直る。
 サヤカは軽く深呼吸すると、続けた。
「私ね、イーノに言わなきゃいけないことがあるの」
「何?」
 イーノはどーせまたしょーもない事だろ、とタカをくくっていた。のだが。
「私ね、イーノが好きなの」
 その台詞を聞いて、イーノは再び硬直する。
「・・・へ?」
「言っとくけど、友達とかそーゆー意味で言ってるんじゃないんだからね。男の人として好きなんだからね!!」
 補足説明まで一気に言い切り、サヤカは真っ赤になる。
「そ、それで・・・イーノは私のこと、どう思ってるの・・・?」
 そう質問されたイーノも、真っ赤になっている。
「え、えと・・・嫌いじゃない、かな」
 それだけ言うのがせいいっぱいだった。
 しかし、今のサヤカはそんな府抜けた台詞では満足しなかった。
 サヤカはおもむろにイーノの両頬を手ではさむと、まっすぐ自分の目を見させて、言った。
「もー!!そうじゃないでしょ!!
 好きか嫌いか、って聞いてんの!!このニブチン!!」
 イーノはサヤカの剣幕に、もう一度きちんと答える。
「は、はい、好きです」
 その台詞を聞いて、サヤカはようやくイーノの両頬から手を退けた。
 そして、満足そうに微笑むと、
「よかった・・・」
 と言って、再びイーノの胸に体を預けた。
「お、おいサヤカ・・・」
 イーノはどうしていいかわからず、またおろおろしはじめる。
 そんなイーノに、サヤカは呆れたように、言った。
「・・・もー、こんな時くらいしっかりしなさいよね・・・。
 ・・・イーノのばか♪」


「Sayakaの勇者様」おわり

*次回予告*

 青い空!!
 白い雲!!
 そして、輝く太陽!!

 次回「海へ!!」
 第10話「彼女が水着に着替えたら」

 う〜み〜は〜ひろい〜なおおきい〜な♪


目次に戻る/長屋に帰る/続きを読む