『THE RED BOOK』
どの町にも古本屋は存在する。この町の古本屋はたいてい小さくて、暗く、そして古びている。そして、そこにはたくさんの湿った部屋と本棚がある。そこにあるほとんどの本は店と同じくらい古いものだ。何冊はもっと古い。
 ある一軒の古本屋の隅っこに、本当に暗くて古い本棚がある。そこにはあまり本は置かれていない。何冊かの本は、一昔に売られていた古い幼児本ばかりである。例えるならば、「不思議の国のアリス」、『黒の美人』などである。それらの幼児本を読んでいた子供達はすでにこの世にはいない。おそらく二度と読まれることのない本ばかりであろう。
 また、この古本屋の右側のかどにある本棚の底のは、タイトルがない本がある。しまいには、作者の名前も出版者の名前もない有様であった。その本の表紙は真っ赤で、しかも、重い。店の従業員でさえもこの本の存在を忘れていた。誰もこの本の存在を知るものはいない。
 エバーバイル通りにあるその古本屋は、そのうち店終いする計画を立てていた。そんな店終いする前のある日、ティシモー・ブライアンと名乗る一人の男が店にやってきた。この時店は丁度ビックセールを行っていた。全ての本が20%割引であった。ブライアンは貧しくはあるが、大の本好きであった。彼にとって、この時は本を買うには最高の機会であったのだ。
 彼は10冊の本を選んでいたが、この時「真っ赤な本」を見つけた。彼はその「真っ赤な本」を丁寧に手に取った。彼はタイトルがない事に気づいた。表紙が破けて誰かが赤い紙で修理したであろう刑跡を確認できた。だが、その赤い本は元々の表紙のようにも見えるのであった。ブライアンは最初の1ページをめくった。その本の内容は怪談であった。本の中に取りついている1人の女の幽霊の話である。書き方がとても奇妙であった。英語で書かれているであろう。しかし、何かおかしい。ブライアンはなぜなのかはわからなかった。ただ、何かが奇妙であった。
 ブライアンはこの本を置こうとした。しかし、できなかった。その本に対する彼の好奇心がそうさせなかったのである。そこで、彼はその本をレジへと持っていってしまった。従業員は値段すらわからないので、ブライアンにその本をタダであげた。
 その夜、ブライアンは今日手に入れた「真っ赤な本」を読み始めた。お気に入りの座椅子
に腰をおろし、手にはビール一缶とピーナッツを食べながら。その時の時間はすでに深夜を回っていた。
 物語はとても怖いものであった。それどころか、腰を抜かす程のものであった。とてもよく書かれている。作者は誰なのか次第に不思議に思った。また、この本の作者が他に書いた本のことも気になり始める程であった。物語の内容は、一人の若い女性が読書のさなかに殺害されてしまう、という内容である。「真っ赤な本」。
その物語に登場する若い女性は最後のページをめくった矢先に斧で殺害されたのである。彼女もまた、ブライアンと同様に、貧しくて、本をこよなく愛した人であった。
 ブライアンは読み進めているうちに寒気を感じた。かなり怖いのだが、読み続けてしまう。すでに止まらない状態になっていた。物語の最後が知りたくて仕方がない。
 すでに午前3時をすぎているが、ブライアンは気づいていない。完全に彼の心は物語に向いている。だが、彼が127ページをめくったその時、突然ある1人の、誰かが彼を見ているのだ。彼は悲鳴を押し殺した。ブライアンはすかさず本を置き、部屋辺り一面を見回した。そこには誰もいない。彼ただ一人であった。「真っ赤な本」と彼だけ。彼は目を覚ますのに頭をふった。
 もう一度「真っ赤な本」を手に取り部屋を見渡した。だが、一語読もうとしたその時、彼は再び顔を見てしまった。女性の顔である。1人の女性が「真っ赤な本」の陰から覗き込んでいるのだ。彼は恐ろしさの余り、立ち上がり、本を落とした。だが、もうそこには誰もいない。
 ブライアンは汗が背中を伝うのを感じた。彼はもう、とても、本当に怖くなった。女は笑みをうかべていた。女は確実に笑っていた。彼はもう本を読む気はなれなかった。だが、読み終えなければならない。最後の物語を知るために。
 ブライアンは再び本を手にとった。汗はもうびっしりかいていた。そして、本を再び読見始めた。とすると、突然また本の背後から、三度目である。顔が現れたのだ。が、今度は、女がブライアンに近づいてきたのだ。どんどん、どんどん、ブライアンに向かってきた。
 女は手に斧を握り締めていた。
 ブライアンは、心の底から「やめてくれ」と叫んだ。そして、彼は本を投げ捨て、それを燃やしてしまいたかった。しかし、できない。物語の最後を確認するまでは。
 ブライアンがページをめくるごとに、女は本の陰からブライアンに近づいてくる。
もうあと、数ページしか残っていない。が、女はもう彼のそばまで近づいている。女の匂いをかげるほどまでに。女は古い本の匂いがした。だがまた、本を置いてしまえば、女は消えてしまうだろう。
 そして、やっとブライアンは最終ページにさしかかった。女をすぐそばに感じることができる。しかし、ブライアンが本の背後を覗き込むと女はすでに消えていた。ブライアンはほっとして、胸をなでおろした。おそらくは、結局ブライアンの想像にすぎなかったのかもしれない。
 ブライアンは、安心したせいか、眠気が彼を襲った。彼は欠伸をし、そして、最後のページをめくった。
最後のページには、たったの一行だけが書かれていた。ブライアンはそれを読みながら悲鳴をあげた。
『ブライアン、女はおまえのすぐ後ろ・・・。』

                        〜完〜