永遠の木・前編


昔、貴族の娘でありながら騎士を志した女がいた。
珍しい深紅の瞳に鴉の濡れ羽色という表現が合う黒髪を高く結い上げた美しい女だったが、その外見とは裏腹に剣の腕は一流であった。
そんな女を人々に尊敬と畏怖を込めて『紅玉の戦乙女』と呼ばれていた。

昔、エルフでありながら人間である『紅玉の戦乙女』に付き従った男がいた。
スナイパーのような弓の腕を持っていながら男は炎の精霊と契約を交わし、戦いの時には常に後ろに控え、女の愛用の剣に炎の力を与えつづけていた。
そんな男を一部の者は冷やかしに『紅玉の戦乙女』の下僕だと呼んだが、男は気にも留めなかった。


出会いは何だったかさえも忘れてしまったが、二人は一緒にいた。
いつの間にか、命を預けられる相棒はお互いのみだった。

・・・しかし、離別の時が訪れた。

「・・・一週間後、私はどこぞの王族の男と婚姻を結ぶことになった。」
まるで何でも無い事を話すように淡々と女は語りだした。
だが、無表情でありながら深紅の瞳からは涙が溢れていた。
「そうか。」
男はそっけなく返しながらも、年頃の娘のように泣きじゃくることも出来ない女に、女の言葉の残酷さに心を痛める。
「お前と会うことは無い、いや、会うことが出来ないだろう。」
「・・・。」
「貴族として生まれた以上、政治の道具にされるのは覚悟の上だ。」
女は男から離れて窓辺に近づく。
「知らないモノ、見たことのないモノがあったのに・・・この広い世界をお前と一緒に見たかった。」
「そうだな。」
「・・・もっと、お前と一緒に旅をしたかった。」
「私も、だ。」

これが、二人の最後の会話となった。


Side:エルフ

私はすっかり腑抜けてしまったなと自分でも思う。
彼女と離れてしまってからといものの、旅をする気も湧かずあれからずっと森にいた。
唯一無二の相棒と認めた彼女が居ない。
私にとって片翼を奪われたようなものだった。

「いっそ攫ってしまおうか。」

出来やしないと判っていながらも何度もそう思った。
王家と血縁にある貴族の婦人を攫う事になるわけだから、下手したら全世界から追われる事になるのは目に見えている。
彼女はそれを良しとはしないだろう。
それに頑固な彼女は私が迎えに行っても多分、一緒に来てくれるはずがない。
などとぼんやりと考えていると、妹(といっても血縁というわけじゃないが)が飛び込んで来た。
「お兄ちゃん・・・」
「どうした?」
妹は今にも泣き崩れそうな表情だった。
「あの人が・・・・。」

・・・嫌な予感が。


Side:ナイト

意識がだんだん遠くなっていくのが分かる。
かすみ始めた目が自分の腹から溢れる鮮血が大理石の床と、有名らしい仕立て屋が作った真っ白なドレスを赤く染めていくのを見た。
真っ白な無駄に豪華な一人だけの部屋、そこに倒れている自分。
その様子を皮肉げに笑う。
こんな所で、こんな格好で、こんな形で死を迎えることになるとは。
戦場で華々しく散りたかったものだ・・・。
いや、あいつから離れた日に私は死んだ。
命、全てを預けられる者と離れたのだから、死んだも同然だろう。
あいつと世界を巡る事が私の生きがいだから。
もう一度共に世界を見る事を願った。
その為には、肉体が邪魔だと思った。
今の私には、私を閉じ込める監獄でしかない。

迷いは無かった。
あの些細な誤解からあいつが森に帰ってしまったとき、危険を承知して一人であの聖なる森に立ち向かった日。
あの日、共に在る事を誓ったから。

「お前の為なら我が身を捨てよう。」

いや、あいつの為じゃないな。
これは私の為だ。
走馬灯の様に冒険の日々が蘇って来た。
死が差し迫っているのにその思い出にわくわくしている自分が居た。
意識が完全に落ちる瞬間に見えたのはやっぱりあいつだった。




〜あとがき〜
今回のお話は『永久』をコンセプトになっておりますw
女ナイトさんがヒロイン(?)なので愛情を露骨に出さずクールな作りしたいと思ってますw
でも、死んでるねぇ・・・・(;;
後半で私が本当に書きたかった事に繋げるためなので(^^;
異種族同士の恋愛って大好きなんですYO!(イキナリですかい・・・)
だってエルフって寿命無いけど人間て短命じゃないですかぁ
そこに生まれる愛は切ないものになるだろうなと・・・。
要するに切ない話も大好きなんですよ!!!(←力説)
あんまり語るとネタバレしそうなのでこの辺にしておきますわw
後編は前編ほど長くないと思いますが、このお話の根っこの部分が出てきます。
・・・正直前編は前フリにしか過ぎません(言ってもうたw)