機動戦士ガンダム0105ーIllusional Raceー

第二部「ニュータイプ」


第2話「翔べ!ガンダム」


 アレクスたちが入り込んだのは、閉鎖された多目的整備ブロックだった。
 港湾ブロックの外園部にあたるそこは、回転していない無重量エリアである。
 もう何年も使われていないはずの空間に、そのモビルスーツは運び込まれていた。
 グラーブ・シモンにしてみても、誰もいないはずの場所に突如現れた人影をいぶかしんだ。しかも中学生くらいの子供たちである。
 グラーブもハンドライトを点灯して、その光線の中に緊張して身を寄せ合うアレクスたちがうつった。
 「なんだ、ガキじゃねぇか。おい、おまえら、どこから入ってきた?」
 子供と知って、グラーブは語気を弱めたつもりだった。

 その見知らぬ大人はかなり強圧的な詰問調だった。
 アレクスには自分たちこそがイレギュラーなのだと言う自覚があったから、それも当然、という思いである。
 しかし、明かりも灯っていない真っ暗な空間で、コイツは何をしていたのだろう。それがベンジャミンの懐疑だった。
 ユリは眉をしかめながら、真っ直ぐにその男を見つめていた。
 シアンは・・・その男を気にしながらも、横目でちらちらとモビルスーツを見上げている。
 「どこから入ったかと訊いている!」
 グラーブは少年達の間合いギリギリまで歩み寄ると、一番手前の少年に向かって唐突に拳を繰り出した。
 「アルっ!?」
 グラーブの一撃を受けてアレクスの身体が流れ、ベンジャミンがその身を受け止めた。
 「大丈夫、アル? ちょっと、どういうつもりよ!?」
 ユリが負けじと肩を怒らせてグラーブを睨み付けた。
 「ほう・・・」
 グラーブにしてみれば、一発お見舞いしてやれば子供たちは逃げ出すだろうと考えていたのだ。
 ところが、どうしたことか意外にも、しかも女の子が反抗してみせようとしている。
 彼は、フェミニストではなく、サディストだった。少女のみぞおちめがけて拳を放つ。
 しかしその攻撃は、飛び起きたアレクスにはね除けられた。
 「いい大人が、女の子をなぐるのかよっ!!」
 「ガキがっ!」
 グラーブの第二撃に対し、アレクスは上体をかがめて回避した。
 そのままの体勢からグラーブにめがけて足を振り上げる。相手の側頭部に命中した。
 「?!」
 蹴りが決まったハズなのだが、不思議と手応えは感じられない。
 アレクスの攻撃をものともせず、怒りと卑小な優越感に溢れるグラーブの笑みは、醜かった。
 「へっ、ガキがいきがりやがって! 無重力ではなぁ・・・こうやるんだっ!!」
 アレクスの身体が吹き飛び、ベンジャミンが受け止める。
 「・・・っ痛ぇ・・・野郎っ!!」
 「アル、もうやめろ!」
 再び飛びかかろうとするアレクスを、ベンジャミンが抑えつけた。
 興奮するアレクスを拘束しながら、彼はグラーブを睨んだ。
 「僕らは迷い込んだだけだ。僕らも悪いが、あなたはやりすぎだ。見たところ軍人のようだが、名前と所属を教えてもらおうか?」
 事なかれ主義の信奉者を自称するベンジャミン自身にしてみても、それは冷静な発言とは言えなかっただろう。
 ベンジャミンが騒ぎ事を好むのは、あくまでも自分が傍観者である場合だったが、彼とて感情はあった。
 ベンジャミンの反省もむなしく、グラーブの怒りは更に膨れ上がったようだ。
 「なんだと? ガキはなぁ、ママに泣きついておっぱい吸ってりゃいいんだよぉ!!」
 「っひ・・・!!」
 グラーブの怒声と剣幕に圧倒されて両膝を折ったユリは、半べそをかいていた。
 アレクスはむしろ冷静になって、このどうしようもない大人に対し、もはや呆れかえっていた。
 しかし、今にも殴りかからんとするソレは、とりあえず何とかしなければなるまい。
 シアンは・・・・・・一連のもめごとには上の空で、相変わらずモビルスーツを見上げていた。
 
 その時だった。室内の照明が突然に点灯した。
 「やめるんだっ、シモン中尉!」
 その一喝は決して大きくはなかったが、その声のしゃがれ具合が特徴的でグラーブ以上にドスが効いていた。
 「・・・・・・?!」
 声が空間中に反響したためにその発信源が判らず、アレクスたちは辺りを見回す。
 整備ブロックの壁面の中程の高さに設けられたデッキの、アレクス達から見て左側の、搬入扉の前。
 幾人かの兵隊を連れだって、白髪の小柄な老紳士が立っていた。
 老紳士はデッキの手すりを越えて身体を流してきた。それは手慣れた仕草というだけでなく、まるで若者のような溢れるエネルギーさえ感じさせた。
 「中尉、乱暴はいかん。何ごともほどほどに、な。」
 「これは・・・お恥ずかしいところをお見せしました。」
 男を叱責する老紳士は、まるで学校の先生みたいだったが、男の方には悪びれる様子もなかった。
 弱いものには力を誇示し、強いものには腰低く従う。
 それがグラーブという男の処世術だ。
 老紳士がアレクスたちを一人一人なめつけるように見渡していった。
 その視線はアレクスにはとても不快なものだった。
 「・・・・・・?」
 いや、視線だけではない。この老紳士が「とても嫌なやつだ」という感覚が沸き起こっていた。
 そして何故だろう、初対面な気がしない。過去に会っているというのか?
 ユリがアレクスに耳打ちしてきた。
 「この人さあ、学校のルグラン先生に似てるよね?」
 彼女の場違いなセリフに半ばずっこけながらも、そういうことでもないんだよなぁ、とアレクスは胸中でつぶやいていた。
 パニックに陥りかけていたユリが、自らを励ます意味でそんな想像をしてみせたことまでは、アレクスにはわからない。
 「中尉、この子たちを外まで案内してあげなさい。」
 おっとりとした声音で命令する老紳士は、まるでエビスサマのような優しい笑みを浮かべているのだが、アレクスにはその全てがウソくさく感じられた。
 シアンは未だに、モビルスーツをながめている。
 「モビルスーツに興味があるのかね?」
 「はいっ。あの、このモビルスーツって、ガンダムなんですよね!?」
 思いもかけない事態に陥ったにも関わらず、まだガンダムのことしか頭にないシアンの様子は、異常かもしれないとアレクスは思った。
 しばらくシアンを観察するようにしてから、老紳士は穏やかな口調で否定した。
 「いや、似ているけど、ちょっと違うのだよ。さあ、ここは立ち入り禁止だから、もうお行きなさい。」

 「こっちだ、ガキども。ついてこい。」
 「ほら、シアン。もう行くぞ!」
 「う、うん・・・・・・。」
 グラーブの後に続いてベンジャミン、ユリが港ブロックへの通路に入っていったが、シアンはまだモビルスーツを見ていた。
 アレクスはシアンの袖をひっぱりながら視線は、兵士たちの集まるところへ流れていく老紳士を追った。
 その場所は、アレクスたちがいる所から30メートルほど離れていた。
 「・・・あれ?」
 兵隊たちの間にまぎれてよく知っている人物が二人もいる。しかもそれは・・・・・・
 「父さんっ?! 母さん?!」
 アレクスの呼び声に、さすがにシアンも反射的にその方を振り返っていた。
 「・・・・・・? アレクス?!」
 母の声がかえってきた。父も何やら言ったようだが、聞き取れなかった。
 父と母は、さっきからその場所にいたのだろうか? だとしたら、どうして何も言わなかったのだろう。
 ユリとベンジャミンそしてグラーブが、何事かと、ひき返してきた。
 アレクスは、父と母のいる方へ近づこうとして身体を流した。
 「・・・・・・?!」
 父と母が、兵士に拘束されているように見えた。何かとてつもなく異常な事態に巻き込まれつつあることを、アレクスは感じた。
 怖く、なった。
 「母さん? どうしたのっ?!」
 母は、泣いているようだ。
 「アル! 来るんじゃないっ!」
 父が叫んだ。父さえも、冷静ではないようだ。
 何かが起こっている。父や母のような立派な大人でも対応しきれない事件が起こっているのだ。
 「ど、どうしたの、父さん?!」
 「逃げるんだ! アル!」
 「・・・・・・?!」
 二人の兵士たちが、アレクスの身体を取り抑えた。
 「シモン中尉、予定変更だ! その少年たちの身柄を確保しろっ!」
 「了解であります!」
 「きゃっ!」
 グラーブ・シモンは言うが早いか、ユリとベンジャミンを捕まえていた。
 アレクスは老紳士の前に連れ出された。
 シアンを捕まえるのだろう、一人の兵士がモビルスーツの足下の方へ流れていった。
 老紳士がグラーブと同じ笑い方をしているのを見て、さっきまでの不快感の正体をアレクスはつきとめた気がした。
 「父さんたちをどうするんだ?!」
 アレクスの訴えには応えずに、ブルックリン親子を見比べながら、ディアス(老紳士)は笑い出した。
 「どうやらまた祝い事が増えたようだな、アルフレッドくん? 君たちに、こんな立派なお子さんがいたなんて。どうして教えてくれなかったんだい? はは、はははは!」
 「ちがうっ! 彼らは『本当に』わたしたちの子供なんですっ! 先生が考えているような『こと』では、ないっ!」
 アレクスには、父とディアスのやりとりの意味が分からなかった。
 「アレクスくんと言ったか、君は、今年で何歳かな?」
 答えた方がいいのかどうか、アレクスは迷った。が、次の母の叫びで、迷いそのものは忘れていた。

 「シアン!? 何をするの?」
 振り返ると、兵士の手を逃れたシアンが、床を蹴ってモビルスーツの腹部へと流れていた。
 まさか、モビルスーツに乗り込もうというのだろうか?
 ディアスはシアンの動きをみとめると、懐から無反動拳銃を取り出していた。
 アレクスは叫んだ。
 「シアン! 逃げろ!」
 爆音とともに一発の弾丸が放たれて、シアンをかすめた。
 「少年、次は外さんぞ? そのモビルスーツから離れるのだ。」
 シアンがこちらを振り返った。躊躇しているように見えた。
 しかし、身体を揺すって方向を調節しながら、モビルスーツのコックピットとおぼしき箇所にとりついた。
 「少年っ!! 命を縮めたな。」
 恫喝とともにディアスが銃口をシアンに向けた。その銃撃がまだ威嚇であることを、アレクスは見抜いていた。
 ディアスからは、なぜか殺気が全く感じられなかったのだ。
 だが・・・
 「シアンっー!」
 母、リンダの身体が動いた。素早かった。
 ディアスがトリガーをひく。
 無反動弾丸が発射され、弾丸は何の躊躇もなくリンダの胸を、心臓を、ぐちゃぐちゃにえぐっていった。


 おかしなことが起こっている。
 父も母も連邦軍兵士に捕らえられて、兄のアレクスも捕まっている。
 ユリとベンジャミンは、あの凶暴な男が取り抑えている。
 そして、シアンにも兵士が迫っていた。
 しかし、そんな事態にも関わらず心を躍らせている理由が、自分でもわからない。
 逃げ道はない、しかも、どうやら捕まってもマズイようだ。
 だとしたら・・・・・・
 シアンはモビルスーツを見上げた。
 「やっぱり、ガンダムだよ、こいつは。」
 そして腹部にコックピットがあると直感し、床を蹴って、それを目指した。
 シアンの視界の中で、モビルスーツの重厚な質感が迫り、シアンの心臓は早鐘を打っていた。
 なんてことだろう?! ガンダムに乗れるっ!
 「シアン! 逃げろ!」
 アレクスの声は、シアンに届いていない。
 直後、どこかで轟いた銃声が自分を狙ったものだとわかり、シアンは慌てた。
 モビルスーツの装甲にとりつき、ハッチの手動開閉装置を探す。
 それは、偶然にも目の前にあった。
 「シアンっー!」
 母の悲鳴が聞こえたが、かえってシアンは急かされた。
 シアンがガンダムのコックピットにすべり込むのと、彼の母が撃たれたのは、ほぼ同時だった。
 何も知らないシアンは、急いでハッチを閉じて中からロックし、追いすがる兵士を閉め出した。
 外部の音が何も聞こえなくなった。
 「こいつ、生きてる?」
 モニタは消えていたが、いくつかのコンソールパネルが点灯していた。
 コックピットシートに座り、操縦桿を握ってみる。
 シアンは感動に奮えていた。
 自分が、あのガンダムのコックピットに座っている?!
 「どうやれば、動く?」
 いつか駐留軍の基地に見学に来たときに、遊ばせてもらったシミュレータを思い出そうとした。
 しかし、記憶の中のコックピットと、今シアンが座るそことでは、かなり違っているようだ。
 「くそぉ、それじゃダメなんだよ!」
 乗ることが出来ても、動かせられないんじゃどうしようもない。
 それでは、アムロ・レイにはなれない。
 ニュータイプには、なれないのだ。
 しびれを切らして、手当たり次第に計器類を操作してみたが、大きな変化は見られなかった。
 「くっそーぉ、うごけーっ!!」
 『ヒュウゥゥゥーン・・・・・・』
 「・・・えっ!?」
 シアンの叫んだ訴えに呼応したかのように、一瞬だけ軽い振動がコックピットを襲い、コンピュータの起動音に似た音がなりだした。
 コンソールの一番大きなモニタの表示が変化する。
 大きなロゴで『G・G』と表示され、次ぎに記号の羅列のような文面がめまぐるしく交錯する。
 「Gだって?・・・・・・ガンダムか?!」
 そして、全天周囲モニタが、外部の映像を映し出した。
 モニタ映像のすぐ目の前に、兵士が三人張り付いている。
 音声も入っているらしく、開けろだとか、早くしろだとかいう声と、不快な金属音が聞こえた。
 どうやら、ハッチをこじ開けようとしているらしい。
 開けられたら、お終いだ。シアンはそう思った。
 ガンダムから、降ろされる。
 「やめろー!」
 シアンはフットペダルを踏み込んだ。
 穏やかな振動と歩行音が、シートに座るシアンをおそった。
 「シミュレータと、同じじゃないか!」
 そう思った。
 コックピット正面の兵士たちは、慌てているようだが、しぶとく取りついている。
 「これなら、どうだ!」
 シアンはガンダムの右手を使って、兵士たちを払いのけた。
 『うわぁーっ!』
 モビルスーツの強大なパワーを、シアンはまだ知らない。
 ガンダムの親指が直接触れた一人の兵士は、身体を圧されて即死していた。
 「動く! 動かせるっ!」
 かつてない興奮に陶酔するシアンの目は、美しく輝いていた。

 ガンダムの足下を見ると、ユリとベンジャミンを抱えたグラーブが、こちらを呆然と見上げている。
 ユリが口を大きく開けて、何やら叫んでいた。
 「こいつっ!!」
 ガンダムの右手で潰すように見せかけると、グラーブは二人を解放してガンダムの腕を回避した。
 そのまま手の上にユリとベンジャミンを乗せ、コックピット手前にもってきた。
 つい先刻、知らずに兵士一人を絶命させた手だったが、そのデリケートな操作をシアンはいとも簡単にやってみせた。   ユリは、泣いていた。
 『シアン! ねぇ、開けて! おばさんがっ・・・リンダおばさんがっー!!』
 ベンジャミンが無言で、ある方向をゆび指した。
 そこには例の老紳士と兵隊たちがいて、アレクスがいて、父がいて・・・・・あ・れ?
 母がいない。いや、
 父がうずくまって誰かを抱えている。誰だろう?
 シアンの胸が、ざらついた感覚でいっぱいになった。
 だまらずシートから立ち上がって、モニタに目を凝らした。よく見えない。
 ハッチを開こうかと思ったそのとき、モニタが勝手に拡大表示に変わった。
 「!?」
 父の腕の中に抱かれた人物を、シアンは知っている。
 母だ。
 「かあさん!?」
 『わかったでしょう? ねぇ、シアン、ここを開けてっ!』
 どうやらシアンの声も外に聞こえているようだ。
 「ベン? 何があったの?」
 「あのじじいがお前を撃とうとして、リンダおばさんが楯になったんだ・・・。」
 シアンは絶句した。
 母さんが、殺された? 
 殺したのは・・・
 殺したのは・・・
 殺したのは・・・僕か?
 ・・・・・・。
 いや、ちがう。そうじゃない。
 殺したのは・・・
 母さんを、殺したのは・・・っ!! 
 
 『シアン、ここを開けて! 降りてきて!』
 ユリが顔を涙でぐちゃぐちゃにして、ハッチに寄りかかって泣き崩れた。
 何人かの兵士たちが、小銃を構えてガンダムを囲んでいるが、モビルスーツ相手に何が出来るわけでもない。
 老紳士が、准将とアレクスを連れて整備ブロックから出ようとしていた。
 「いや、そうじゃないっ! ベンっ!ユリを頼む!」
 ベンジャミンとユリを手でそっと流すと、ガンダムを前進させた。
 搬入用扉を、ディアス老が開く。
 シアンは加速をかけて、巨大な手を振り下ろし、その出口を塞いだ。
 勢いがあまり、ガンダムに壁面に体当たりさせしてしまった。
 激しい衝撃で、ブロック全体が揺れたようだった。
 「貴様っ、よくも母さんをっ! 許さない!」
 巨大な人型兵器に見下ろされながらも、ディアスにたじろく様子はない。
 『すばらしいっ! 本っ当にすばらしいよシアンくん! ほら、どうした?この私を殺してみたまえ!』
 「死ねぇーっ!!」
 シアンは激昂した。
 振り下ろした腕を再び振るって小さなディアスを狙う。
 ディアスはその大振りな一撃を難なく回避して、通路に飛び込んでいた。
 「逃げるなっ!!」
 そのすぐ横の巨大な搬入扉なら、モビルスーツも通れそうだった。
 アレクスと父の姿は、目に入っていない。
 シアンは、ガンダムの操縦を楽しんでいた。
 怒りは、その口実に過ぎない。
 「これならっ!」
 シアンはガンダムにビームサーベルを抜かせた。
 サーベルのビームが発振される瞬間、灼熱するメガ粒子の飛沫が足下の兵士を幾人か焼いていた。
 サーベルを突き刺して扉を斬り裂く。
 行く手が開かれ、シアンはバーニアを吹かした。
 通路の前方は港ブロックで、スレイプニルの白い船体が確認できた。
 「あれが、連邦軍の戦艦?」
 突如、一機のモビルスーツが向こう側から通路に躍り込んでシアンの行く手を塞いだ。
 「まだ、ガンダムがあるの?!」 
 Ξガンダムの頭部は、典型的なガンダムタイプの形状とやや異なるものの、シアンはそれをガンダムと認めた。
 『直ちに『ダブルG』から降りなさい。さもないと、サーベルでコックピットを焼きますよ。』
 穏やかだが、意志の強そうな、はっきりとした語調だった。
 通信回線が開かれているようだ。コロニー内なので、ミノフスキー濃度も薄い。
 グラーブやシモンと比べ、そのパイロットの声は優しい声で、ドスの効きなどとはほど遠い。
 それが、シアンを増長させた。
 サーベルを構え、Ξガンダムに斬りかかった。
 しかし、
 「うわぁっ!」
 サーベルを握るシアンのガンダムの右手は、あっさりと切断されていた。しかも、右手首から先だけが、である。
 相手は相当に熟練したパイロットのようだ。
 そしてΞのサーベルの先端は、ぴたりとシアンの目前に固定されていた。
 「勝てないっ!?」
 シアンはガンダムを後退させ、途中の分岐点で通路を横へ入った。
 真っ直ぐな通路が続いている。
 シアンは、おそるおそるガンダムを加速していった。
 緩やかにやったつもりが、強力なGがシアンをシートに押しつぶした。
 「調節が難しいっ?!」
 やがて、通路が行き止まりになった。いや、そこにはハッチがあった。
 左手側にコントロールルームがあり、人がいた。眠っているようだ。
 シアンはガンダムの指を使って、コントロールルームのガラス面をトントンと叩かせた。
 中の人が目を覚ますと同時に、驚愕に飛び上がった。
 「ここを、開けて下さい。」
 シアンは丁寧に頼んだ。
 コントロールルームの人が、慌てたように操作パネルをいじる様子が見えた。
 「脅すつもりじゃないのに。」
 やがて、摩擦音とともに目前のハッチが開かれていった。
 シアンの目に、コロニーの景色が飛び込んできた。
 「うわー・・・・・・。」
 人口の雲がそこここにたなびき、円筒の大地がくるりと一周しているのが雲の隙間から見え隠れしていた。
 そこには、壮大な空間が、拡がっている。
 初めてみる景色では、ない。
 しかし、全天周囲モニタの映し出すヴィジョンは、身体一つでその場所に浮いているように錯覚させた。
 「奇麗だな。」
 このときのシアンは、ついさっき起こった事件を、今も進行中であるその事件を、本当に忘れていたかもしれない。
 「僕は・・・ニュータイプかもしれないっ!」
 シアンは微笑んだ。
 「よーっし!」
 バーニアに点火する。
 「いっけー!」
 コロニーの空へ、飛び出す。
 「翔べっ! ガンダム!」 


      



0105トップへ