1、大した事件も無い日常でも

部屋に響き渡るトロイメライの音。
それは機械的で、限りなくピアノの音に近かろうが携帯電話はピアノにはなれない事を象徴している。
そんな音で目が覚めた。
眠気でろくに働かない頭。
そのぼんやりとした思考で充電器に突き刺さっている携帯を手に取り、通話ボタンを押す。
正直、取りたくない。
誰からの電話かは想像ついているのだから。
「……もしもし。」
「晶?母さんだけど―」
「…わかってる、また夜勤明けで帰るから風呂沸かしといて欲しいんだろ?」
「あと今日はゴミの日だから出しといてくれる?」
「………ん。」
そこで電話を切った。
まだ何か話していたようだが、どうせいつものようにちゃんと学校に行けと言うだけだろう。
面倒だが、今から煩い母親が帰って来ると考えれば悠長に家で寝ている訳にもいかない。
諦めて布団から這い出る。
欠伸をかみ殺しながらゆっくりとした足取りで洗面台へと歩いていく。まだまだ気温は温かく、眠い季節だ。
適当に身だしなみを整えれば浴室へと行き、風呂のスイッチを入れる。
後は勝手に風呂が沸いてくれるから俺は何もしなくてもいい。
自室へと戻りハンガーにかかっている制服を取れば居間へ行き、ソファーへ腰掛けるとテレビを点ける。
朝のニュース番組が映ればもう星占いの時間。
……今日は朝食抜きかな。
軽い溜息と共に立ち上がると制服へと袖を通していく。
大体着替え終わった所でせめてこれぐらいはと冷蔵庫を開け、缶コーヒーを取り出して胃に流し込んだ。
そして朝の支度の締めくくりであるウチの学校の襟章を着けて家を出る。
階段を駆け下りながら考えるのは遅刻しないかとの心配。
ウチの学校は校門で生徒指導の先生達が見張っており、遅刻と共に服装のチェックが入る。
特に何故か校章をつけることを強制しており、つけていないだけで呼び出されて注意を受け、三度それがあれば掃除等の罰。
更に罰が三度続くと三日間の自宅謹慎ととんでもなく厳しい。
なので大半の生徒は忘れずにつけてくる。
……大半は。