暴れん坊ヒーロー
(後編)




翌日──。昨夜と同じ面々が同じ場所に集っていた。
芝村準竜師は中村屋光弘の酌で酒を飲を楽しみながら、靴下の到着を待っていた。
「中村屋、最近は荷改めが多いらしいと聞く。まさかばれる事はあるまいな」
「お任せください。芝村御用達の荷となれば、警察ごとき、わたくしどもの荷物に指1本触れることはできはいたしませぬ。芝村サマサマでございますな」
「ぐふふふ…もうすぐ南蛮渡来のソックスが我が手に…。中村屋、我等はもはや一蓮托生。せいぜい芝村の名を使って、これからもソックスの抜け荷に精を出すがいい」
「はは〜〜っ!せいぜい甘い汁を吸わせていただきます。はっはっは!」
「がっはっは!」


「靴下に群がる薄汚いウジ虫どもめ。宴もそこまでだ」

「何者だ!?」
突然響くその声に準竜師と中村屋は声の主を探って廃屋から庭に出てくる。その暗闇に佇む長身の男に目を凝らす二人。
「靴下をこの国にたれ流し、民を蝕む輩め。許せぬ!」
男の糾弾に二人は動じる事もなく、汚い笑みを浮かべた。
「どこの青二才か知らぬが早々に立ち去れ。我は芝村だ。本来なら手打ちにする所だが、今去ればなかった事にしてやろう」

「愚か者!俺の顔を見忘れたか!」

「?」
なおも威圧的な態度の男の顔を準竜師は凝視した。次第に暗闇に浮かぶ青い瞳、青い髪。忘れようはずもない、その男は──。
「あ、青の厚志!!」
「な、なんですと!?絢爛舞踏さま!?」
つい先刻までふんぞり返って酒をあおっていた準竜師が地面に這いつくばるように頭を下げ、中村屋もこの男が本物の青の厚志であると悟り、慌てて厚志の前にひれ伏した。
厚志は青い瞳に冷たい炎を宿らせ、二人を見下ろした。
「芝村勝吏。誇り高き芝村一族の面汚しめ。お前の楽しみにしていた靴下はここへは届かぬ。せめてもの情けだ。潔くこの場にて腹を切れ!

芝村準竜師は開き直りとも取れる「がっはっは」という笑声と共に立ち上がり、己の一族の長を睨んだ。
「国の守護者、青の厚志ともあろうお方がこのような所においでになるわけがないっ!!」
であえぃ!であえぇぇ〜い!!という準竜師の声に準竜師の部下や中村屋の用心棒などが一斉に厚志を取り囲む。
「こやつは青の厚志をかたる不埒ものだっ!斬れ!斬り捨てぇいっ!!!」
「しかたあるまい…」
厚志が手をかざすと手のひらから宝剣が現れた。まぎれもないこの世界の守護者たる証を目にして周りがざわめく。鋭い眼光で周囲を威圧し、宝剣をかざす厚志に怯むがやがてその静寂を破って一人の男が奇声を発しながら厚志に斬りかかると、他の者も一斉に厚志に襲いかかる。

ジャーンジャーンジャーン チャラチャチャラチャ チャーチャーチャー!(暴れん坊○軍のテーマ)

数十人はいようかという達人を厚志は驚異的な身のこなしで連中をかわし、一人、また一人と斬り捨てていく。
まるきり勝負にならなかった。あまりの剣捌きに後ずさるツワモノを己の気迫と剣で追い詰めながらも、その呼吸は微塵も乱れる事がない。
「斬れ、斬れ!」とわめきながら部下を囮に逃げようとする準竜師と中村屋の前にどこからか沸いて出た現れた壬生屋と瀬戸口が刀を構えて立ちはだかる。
「さ〜て、仕事、仕事、と…」
「逃がしません!覚悟なさい!!」
「くっ…!!!」
新手の登場に逃げ場を探そうと振り返る二人。だが、その先には彼らの使用人をことごとく倒した厚志が行く手を阻んでいた。
「お、おのれ…!!」
窮地に追い込まれた準竜師は自ら刀を抜いて、半ば自棄になって厚志に斬りかかった。
厚志は鼻でひとつ笑っただけで、準竜師の刀をはじいた。刀が準竜師の手から離れ、衝撃で巨体がよろめく。中村屋はもはやその場から動く事もできずに、へたり込んでいるだけだった。

「成敗!!!」

厚志が命ずると瀬戸口が煙玉のようものを地面に叩きつけた。
小さな爆発音とともに、辺りに煙がたちこめ、やがて何かが宙からボタボタと落ちてきた。
それは無数の靴下だった。
準竜師と中村屋に靴下が降りかかり、やがて厚志の背丈程まで靴下が積もり、二人の姿は完全に埋もれてしまった。

「靴下に埋もれて逝ければ本望だろう。」
もはや見るのも耐えかねるといった表情で厚志は靴下の山を一瞥すると、宝剣を納めた。その前に壬生屋と瀬戸口が跪く。

「隆之、未央、ご苦労だった」
厚志は満足げに瀬戸口と未央を見下ろす。瀬戸口がじっと靴下の山を見つめているのに気付いた厚志が口を開く。
「どうした、瀬戸口?」
「いや、死んだのか?こいつら…」
「死んだ?」
厚志がぞくりとするような危険な笑みを浮かべる。

「死などという祝福を俺がこいつらに与えると思うか?二人はこの程度で死ぬような連中ではない。奴等は重要な証人だ。これからソックスハンターを一網打尽にして……それからこの俺に逆らったことを一生かけて償わせてやる…」

くっくと喉を鳴らして笑う厚志に瀬戸口と壬生屋は顔を見合わせ、跪いたまま小声で囁きあう。
「俺、やっぱりこいつにだけは逆らわないことにするよ」
「馬鹿な事を言うものではありません。それに、厚志様に逆らって敵うとお思いなんですか?」
「…」



警察が踏み込む前に屋敷に戻ると、厚志は瀬戸口と壬生屋に休暇を取る事を勧めた。
壬生屋の腕の傷を思いやってのことらしい。厚志の所有する保養地の別荘の使用まで許可してくれた。
部屋で久しぶりの休暇のために荷造りをしている壬生屋の嬉しそうな後姿を眺めながら、瀬戸口がボソリと漏らした。
「いつもコキ使ってばかりの厚志がこんなあっさり休暇をくれるなんて…どうも嫌な予感がするなぁ〜」
「バチ当たりな事をおっしゃらないで。せっかくの休暇なんですから、楽しんできましょう?」
壬生屋の笑顔に瀬戸口もたまらなくなって彼女を抱き寄せた。
「そうだな。久しぶりに仕事を忘れて楽しむのもいいかもな」
「貴方は仕事があろうとなかろうといつも同じではありませんかっ。現に昨日も…わ、わたくしは怪我を負っていたというのに…」
「ごめんごめん。だってお前が誘うような事するからいけないんだぞ?」
「わたくしが何時、ささ、さ、誘ったというのです!」
「それ、その顔だよ。誘っているだろう?」
「ち、違いま…あ…」



瀬戸口と壬生屋がよろしくやっている頃、厚志は執務室から専用回線を使って電話をしていた。
「善行か。俺だ。緊急任務だ。明日から一週間ほど俺の別荘、報酬は通常の倍出す。…うむ、そうだ。費用はいくらかかっても構わん。…ああ、では頼む」
受話器を置いた世界の守護者はソックスハンタァから民を救った事と、これからもたらされるであろう部下の「もろもろな情報」に思いを馳せ、静かに笑ってソファに身を沈めた。
──こうして今日も世界の平和は守られたのだった。


<後書き>
なにも前後編にするこたぁないよな!
時代背景をハッキリさせるとちょんまげの青さま、とかになってしまうので(笑)その辺を明確に書かなかったので、分かりづらい文になってしまいましたね。まあ、あんまり文明が進んでいない辺りの話と思ってください。
暴れん坊将軍が青さまでお庭番瀬戸壬生。でも、瀬戸壬生ラブラブイチャイチャがメインだったはずなのに、青さましか出張ってない!!ありゃま!死という祝福を与えるつもりはない、というのはバンコランのセリフですが、青さまに似合いそうなので拝借しました(笑)。
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