フォーチュン・クッキー
「やっと終わったばい」
小隊長室でもくもくと事務仕事をしていた、ひょんなことから事務官となった中村光弘は大きく伸びをした。
「それにしても、司令はどこ行きよったとね?」
中村が小隊長室を出ると、まもなくその司令を発見した。
茜大介、12才。彼こそが現在の5121小隊司令の天才美少年だった。
中村は茜に声をかけようとしたが、彼の様子をいぶかしく思い開きかけた口を閉じた。
茜はその整った横顔に厳しい表情を纏いつかせていた。きつい翠の瞳が睨みつける先を見やると、栗色の髪の小さな少女が彼女の相棒の背の高いオペレーターの自称美少年に駆け寄るところだった。
「たかちゃ〜ん」
「どうした?ののみ」
「うん、あのね。かたぐるましてほしいのよ」
「ああ、いいぞ。」
「ののみねぇ、たかちゃんがだぁいすき〜」
「俺もののみが大好きだぞ」
東原ののみと瀬戸口隆之の仲睦まじい様子のオペレーターコンビを茜は悔しそうな表情で睨み続ける。
中村はそっと茜に歩み寄るとぽんとその肩を叩いた。
びくっとして振り返った茜は中村を確認すると緊張を解いた。
「おまえか…」
「何しとっと?」
「東原はあいつが好きなのか?…」
「瀬戸口か?東原はまだ子供じゃけん、恋愛感情とは違うと思うけん。あれはどうみても親子か兄妹に見えるけんね」
「…そうか?」
「気になるなら告白してみなっせ?」
茜は忽ち真っ赤になってどもった。
「ば、ば、馬鹿な…こ、告白なんてこの僕が…か?」
「じゃけん、黙ってるだけでは伝わらんと思うとよ」
「ば、だ、誰がそんな…」
「ばってん、東原のこと好いとっと?」
「うるさい!」
茜は顔を赤くしたまま怒鳴ると、その場を後にした。
「はあっ…素直じゃなか」
中村はそんな茜の後姿を見ながら溜息をつく。
「ほんなこつ世話の焼ける奴たい」
翌日の放課後、中村は食堂でクッキーを焼いていた。
そこへ匂いに誘われたのか、ののみが入ってきた。
「ふわぁ、いいにおいだねぇ、みっちゃん」
中村はののみを見るとにこにこして話しかけた。
「おお、ののみちゃんか。よかところに来たね。ちょうどクッキーば焼けたところじゃけん、食べていきなっせ」
「わぁい。ののみねえ、みっちゃんのつくったおかし、だいすきなのよ」
食堂の椅子にちょこんと座ったののみの前に中村は皿に盛ったクッキーを置いてやった。
「紅茶も飲むね?」
「うん、じゃなくて、はい!」
テーブルを挟んでののみと中村のティータイムが始まった。
ののみは美味しそうにクッキーを頬張る。
「えへへ、おいしいね、みっちゃん」
「ののみちゃんはほんなこつ嬉しそうに食べてくれるから、俺も嬉しか」
「だって、ほんとうにおいしいのよ」
ののみはお世辞など言わないから中村は余計気をよくした。
「たくさんあるから、もっと食べなっせ」
「ありがとうなの、みっちゃん」
「ところで、ののみちゃん。好きな男はおるね?」
「ほぇ?ののみはみんな、だいすきだよ」
「いや、まあ、それはそうだろうけん…じゃあ、瀬戸口のことば、どう思っとる?」
「たかちゃん?だいすきなのよ」
「茜のことは?」
「だいちゃんもすきなのよ」
「そ、そうか。」
これは茜にとって脈があるのかないのか。茜には「だい」が付いていなかったから瀬戸口に負けているらしいと中村が悩んでいると、ののみは満面の笑顔で付け加えた。
「ののみはみっちゃんのこともだいすきなのよ」
『お、瀬戸口と俺は同列たい?』
「そ、そりゃ、うれしかばい。で、一番好きなのは?」
「??う〜ん…ののみ、わかんない。みんなだいすき」
皆一緒なら、まだ望みはあるんじゃないか?茜
ののみはふと別のカゴに入ったクッキーに目をやった。
「みっちゃん、あれはなぁに?」
「ああ、これはフォーチュン・クッキーたい」
「ふぉ、ふぉおちゅん?」
「幸運のクッキーって意味たい。外国で中華料理の後に出されるおまけのおみくじたい。このクッキーを割ってみると中におみくじがはいっとるたい」
「ふわぁ、おもしろそうだねえ、おみくじのクッキー」
「ののみちゃんも、一つ引いてみなっせ」
「わあ、いいの?」
ののみは顔を輝かせた。
「よかよか。でもこのクッキーにはおみくじでなく、運命の人の名前がはいっとるたい」
「ふぇ〜うんめいのひと?ののみのうんめいのひとはだれかなぁ?」
ののみは真剣な顔をしてクッキーを選んだ。そして一つ手に取ると中村を見上げる。
「これ、わっていいの?」
中村が頷くと、ののみは指に力を込めてパキンとクッキーを割った。中には白い紙が入っていた。ののみはそれを覗き込む。
「あかね だいすけ…ああ、だいちゃんだ。ののみのうんめいのひとは、だいちゃんだったのね!」
実はそのカゴに入っているフォーチュン・クッキーの中身にはすべて茜の名前を仕込んであったのだが、中村はそんなことはおくびも出さなかった。
「うん、そうみたいけんね」
ののみが「だいちゃんかぁ…」などと呟きつつ、頬を赤くしているところを見ると姑息な手段だが上手くいったのかも知れないと思った。ここでもう一度、茜の話題をふってみようと口を開きかけたその時だった。
「おお、美味そうな匂いじゃないか!」
食堂に入ってきた者がいた。
「あれ?かおりちゃんだ」
「田代か。おまえもクッキー食うね?」
整備士の田代香織だった。
「お、いいのか?じゃあ、いただき!」
田代はフォーチュン・クッキーの入ったカゴに手を伸ばした。
「だぁ〜〜〜〜〜〜〜!そ、それは・・・」
中村が止めようとしたが、一瞬遅く、クッキーは田代の歯に噛み砕かれた。
「あん?なんだ…紙が入ってるぞ?」
田代が口から紙を取り出す。
「あのね、かおりちゃん。そのクッキーはおみくじのクッキーなのよ。なかにはいってるかみには うんめーのひとのなまえがかいてあるのよ」
「そいつは面白そうだな。ええっと…あかね、茜かぁ。俺の運命の人って」
田代は満更でもなさそうな顔でその名前を口にする。
「めーなの!だいちゃんはののみのうんめいのひとなのよ!ほら!」
ののみがムッとした顔で自分の引いたおみくじを見せながら田代に詰め寄る。
田代はののみの差し出した紙を見てう〜んと唸った。
「確かにあかねって書いてあるなぁ。……おい、中村っ!」
突然の田代の指名にびくつく中村。
「な、なんね?田代」
「これはどういうことだぁ?」
「ど、どういうことだろね?俺にもさっぱりだけん…」
中村はへらへらと笑って誤魔化した。
「あのねぇ、みっちゃん。うんめーのひとは、ひとりにひとりしかいないのですか?」
「え?いや、そんなこともないような…ばってん、男と女がお互いに運命の相手だと認めて恋人同士になった
ら、恋人は1人だけたい」
それを聞いた田代はぽんっと手を打った。
「じゃあ簡単じゃねえか。茜にもおみくじを引かせりゃいいんだよ」
「それはいいかんがえなのよ〜かおりちゃん」
「よし、早速!」
ののみと意見の一致を見た田代がフォーチュン・クッキーのカゴを奪おうとした時、中村はさっとそれを取り上げた。
「こっちじゃなか!」
「なにすんだよ?」
中村は急いで別のカゴを用意する。
「さっきのは、男の名前しか入ってないけん。男に引かせるならこっちにしなっせ」
茜の名前ばかりのクッキーを引かせる訳にはいかない。だが、こんな展開を予想していた訳ではないので、今渡した方は女子の名前がランダムに入っているのでののみの紙を茜が引き当てるかどうかはわからない。それはもう神のみぞ知るだ。
「だいちゃ〜ん!」
「茜!」
小隊長室にいきなりどやどやと押しかけられて、茜は戸惑った。
「何か用か?」
「何も言わずにこれを引け!」
田代がカゴを茜のデスクに置いた。
「何だ?これ」
「うんめーのひとがきまる、クッキーなのよ」
「は?運命の人…?」
茜には何が何だかさっぱりわからない。
「何でもいいから、さっさと食え!」
田代の迫力にとっさに茜はクッキーを一つ取る。
「取ったぞ。食べたらいいんだな?」
「だいちゃん、ののみのなまえをひいてね」
「俺の名前だよな?茜」
二人の女子に詰め寄られても、まだ頭が???の状態の茜だった。
改めてクッキーの形状を見てみる。そしてののみと田代の後にいた中村に尋ねた。
「これ、フォーチュン・クッキーだよな?中村」
「おお、茜は知っとるね?ばってん、中身はおみくじでなく女の子の名前たい。」
そこへののみが口を挟んだ。
「うんめーのひとのなまえなのよ。ののみもかおりちゃんも、だいちゃんがうんめーのひとだったの。だからだいちゃんのうんめーのひとをおしえてなの」
「フン、馬鹿馬鹿しい。こんな物に運命を決められてたまるか。」
茜は吐き捨てるように言った。
「ふぇぇ?だいちゃん」
「おまえは瀬戸口が好きだったんじゃないのか?東原。こんなおみくじで僕の名前が出てきたからって、僕のことが好きになれるのか?」
「うん、ののみはたかちゃんもだいちゃんもだいすきなのよ。でもね、たかちゃんのうんめいのひとはののみじゃないの。ののみ、しってるもん」
ほんの少しだけ寂しそうに呟かれた言葉に茜ははっとした。
「おまえ…ちょっと付き合えよ」
「うん?」
茜はののみをどこかへ連れて行った。
後に残された田代と中村はあっけに取られた。
「俺を無視しやがって、どういうことだ?」
「あ〜、つまり茜は田代には縁がなかったってことたい」
「まあ、いっか…あいつら並んでると妙に可愛いもんな」
可愛いもの好きな田代は茜とののみの後姿を目で追いながら笑った。
「おまえばよかおなごたい。今日は俺の特製クッキー、もっとご馳走してやるばい」
中村が田代を誘うと、田代も応じた。
「よ〜し、食べてやるからどんどん出せよ?」
「よかたい、よかたい」
「だいちゃん、おくじょうでなにするの?」
「告白はここでするものらしいからな」
茜はののみを屋上へ連れてきていた。
「おみくじなんか引かなくても、僕の運命の相手は東原だと思ってる」
「だいちゃん?」
茜は顔を赤くしてののみに告げた。
「だから…少しでも僕のことを好きでいてくれるなら…僕の女に…いや、僕の恋人になってくれ!」
「ふぁー…」
ののみも真っ赤になって頷いた。
ここに小隊一幼い恋人達が誕生した。
「ねえ、だいちゃん。さっきのおみくじ、ほんとうはだれのなまえがかいてあったのかなぁ?」
「え?」
茜はまだ手にフォーチュン・クッキーを握り締めたままだったことに気が付いた。
手に乗せたままそれを眺めていると、不意にののみの小さな手がそれを奪った。
「あ、おい!東原」
ののみは構わず、そのクッキーを割って中の紙を取り出す。
「えへへ、ののみ、じしんあったのよ。ね?」
ののみが見せた紙には『ひがしはら ののみ』と書いてあった。
FIN
果林さんのサイト『かりんの小部屋』でのリクエスト企画第3位の茜のの!なんとも可愛いカップルですね〜♪ほのぼのしちゃいます。「こんなものに運命を決められてたまるか」という茜のセリフがカッコイイ!そう、運命は自分で決めるものさ!
仲人の中村が、かなりいい味出してますよね〜!侮れない男&イイヤツです。かおりんとはどうなってしまうのでしょうか?(笑)こうして読むと結構お似合いっぽいですが…。
大切ないただきものへ
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