或る秋の日
穏やかな日差しが差しこみ、空はどこまでも青く、高い。
時折吹く風に鮮やかに色づいた葉が舞っていた。
「これくらいでいいでしょうか」
はらはらと葉を落とす木々のその下で壬生屋はほうきを手に広い庭を掃いている。
「そうだな、もう少しかな」
声をかけられた瀬戸口が、少しそわそわしながら集められた落ち葉を見ながら言った。
彼の足元には二人で買ってきたと思われるさつまいもが数本置かれている。
どうやら落ち葉を集めてやきいもを作るらしい。
「意外でした。こういう子供じみたこと、お嫌いかと思っていましたのに」
「知らなかったか?俺はこういうの好きなんだ。また俺についてひとつ知ったってわけだ」
「まあ、うふふ…」
微笑む壬生屋の黒髪が日差しを受けて絹糸のように輝き、サラサラと風に靡く。
二人とも、何気ない会話をひとつひとつかみしめるように紡いでゆく。
こうして過ごす形には見えないものこそ、彼らにとって何より幸せを感じることのできる事だった。
落ち葉を適当に集め、その中にさつまいもを置く。瀬戸口がマッチで火をつけると、乾燥した葉は瞬く間に大きな炎をあげ、白い煙が昇った。壬生屋がその間にも丁寧に周りの落ち葉をほうきで集めている。
「瀬戸口さん、火が消えそうですよ。マッチを貸してください」
「いや、まて」
瀬戸口はしゃがみこんで、小さくなった炎に息を吹きかけ、新たに落ち葉を少しづつ上からかけたりした。
煙が喉や目に入るのか、咳き込んだり涙ぐんだりしながら、せっせと火を熾そうとしている。
やがてまた、落ち葉から小さな炎が見え始めた。
「こうやって火を甦らせるのがおもしろいだろ?マッチをまた使うなんて邪道なのさ」
壬生屋は今度は声をあげて笑った。
「なにがおかしいんだよ?」
「本当に、子供みたいなんですもの…」
「そんなに笑う事はないだろ」
「だって…」
壬生屋が笑い続けるのにむすっとしながらも、瀬戸口は真剣な顔つきで焼いもづくりにいそしんでいる。
普段の瀬戸口は自分がどきりとするような発言をする。その度に壬生屋はは己の未熟さや幼さに恥じ入り、嫌気がさすことすらある。
だが、時々こうして、幼い子供のような一面を見せる事もある。キラキラと目を輝かせ、まるでいらずら盛りの男の子のようだ。
そんな瀬戸口には壬生屋の母性本能をくすぐる部分があった。
大人のようでいて、子供のような、子供のようでいて、大人びている、きっと自分は彼のそんな所に惹かれてもいるのだろう、と壬生屋は思った。
そして、彼がこんな表情を見せるのは、どうか自分だけであるように、と瀬戸口の背中を見ながらぼんやりと考えていた。
「さ、そろそろいいかな」
瀬戸口が棒で焼けた落ち葉をつついて、アルミホイルに包まれたさつまいもを取り出す。
やはりうれしそうな顔で、瀬戸口はこさつまいもを二つに割って見せた。
「上手く焼けただろう?」
「美味しそうですね」
瀬戸口は割ったやきいもの半分を壬生屋に渡した。
「あ、ありがとうございます…」
妙に年寄り臭いところのある二人は律儀に「いただきます」と言ってからさつまいもを口にし、甘い香りと味に舌鼓を打つ。
「──っ!!」
急に瀬戸口が喉元を抑えてうずくまる。
「瀬戸口さん!?」
「の、のどに…詰ま…」
「だ、大丈夫ですかっ!?」
壬生屋が慌てて駆け寄り、瀬戸口の背中をさする。
瀬戸口はうずくまった姿勢のまま、ピクリとも動かなくなる。
「せ、瀬戸口さんっ!?しっかりしてくださいっ!!瀬戸口さんっ!」
壬生屋は涙目になって瀬戸口の体を揺すった。そして──
「なんてな!」
パッと顔を上げる瀬戸口。
「!?」
「ははは。お前さん、ほんとにからかい甲斐があるよ」
陽気に笑う瀬戸口に、事情を飲み込んだ壬生屋の顔が見る見る赤くなる。さっきまで『自分だけに見せて欲しい』と願っていた瀬戸口の笑顔だ。それなのに、その笑顔が今は少しだけ憎らしく思えてしまう。
「だ、だましたんですか!?酷い人!」
「まあ、そんなに怒るなって。俺の事、そんなに心配だった?」
「知りませんっ」
壬生屋はくるりと瀬戸口に背中を向けてしまった。
「すごく心配したのに…。貴方にもしものことがあったら、わたくし、わたくし…」
背を向けたまま、壬生屋は小さく言うと、両手で顔を覆う。その様子に瀬戸口はバツが悪そうに頭を掻いて、壬生屋の後ろから抱くように肩に手を置いた。
「わ、悪かった。俺が悪かったから、泣くなって…」
泣かせるような事をしておきながら、いざ泣かれると、なす術がないという情けなさである。
瀬戸口は壬生屋の肩を抱いたまま自分の方に振り向かせる。壬生屋は顔を覆って俯いている。黒髪が顔にかかって揺れていた。
「なあ、壬生屋…」
瀬戸口はますます焦って恋人の顔を見ようと、その手を掴もうとした。
が、壬生屋が自分から覆っていた手をはずし、そしてにっこり微笑んだ。
「な、なんちゃって…」
「へ?」
「さ、さっきのお返しです…っ!」
言うなり俯いてしまった壬生屋の顔は先ほどよりも更に火がでるかと思うほどに赤く染まっている。
「す、少しはわたくしの気持ちもおわかりになったでしょうっ」
突然の壬生屋の逆襲に目を丸くさせて呆けていた瀬戸口だったが、次の瞬間には破顔して小さく「自爆です」と呟いている壬生屋を抱きしめていた。
「瀬戸…口さん?」
「からかってゴメン。これはそのお詫び」
耳もとで囁き、抱く腕に力をこめる瀬戸口。
「じゃあ、わたくしも、その…。先ほどのお詫び…です…」
壬生屋も瀬戸口の背中に腕を回し、その大きな背中を抱きしめた。
色づく葉が舞い落ちる中で、二人はいつまでも抱き合っていた。
某てつおさんから頂いたネタ「やきいもをのどに詰まらせたフリをして壬生屋をからかう瀬戸口。仕返しに泣いたフリをする壬生屋」を使わせていただきました!(笑)
てつおさんのネタでは、最後は瀬戸口は「お仕置きだ」と言って壬生屋を抱きしめるんですが、なんか私の瀬戸口はいつもお仕置きばかりなような、そうでないような感じもしたので、今回は「お詫び」にしてみました。
──ってすることはどっちでも一緒なんですが。(爆)
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