壬生屋の瀬戸口仕置き帳

わたくしは壬生屋未央。このブログ…もとい、日記は、わが5121小隊の汚点、色魔瀬戸口隆之の悪行を懲らしめるため奔走するわたくしの戦いの日記です。


忘れもしない3月4日。
その日、私は鼻息も荒く…っておほほ、表現がお下品になってしまいましたわ。
つまり、期待と不安を胸に、初登校(?)いたしました。もちろん、人型戦車のパイロットとしてアニ…兄の仇、幻獣をけちょんけちょんにするためですわ。
制服が支給されたのですが、こんな「萌え狙い」なちゃらちゃらした服が着れるかってものですわよ。
兄曰く「胴着もまたその筋の心を刺激する」そうですが、この服装だけは譲れません。なぜかはよくわかりませぬが、とにかく、それがわたくしのルールなのです!!

服装の事はともかく、衝撃的事件は部隊発足初日のHRでいきなりやってきたのです。
多少翔んだ感のある叔母さまの挨拶のあと、私たちもこの後の親睦を込めて、と自己紹介をいたしました。わたくしは旧家の娘らしく楚々と自己紹介を済ませましたの。

その後、つり眉気味なのにタレ目という多少ありえない風体…ですが、兄の次くらいに整ったお顔の殿方、瀬戸口隆之なる人物が「野郎たちはさようなら、お嬢さん方こんにちわ」などと軟派な事を口にするではありませんか!!

これから死地に赴くわたくし達の初顔合わせ、部隊の結束を誓うという時になんたる不埒な事を言う殿方でしょう!
わたくし思わず、宮崎作品キャラの怒り状態のように髪の毛をふくらませ「不潔です!」と叫んでしまいましたの。
そうしたら、そうしたら、こともあろうにその瀬戸口という男、わたくしに向かってこう言ったの…こう言ったのです!!


「そういう所、かわいいね」

か、か、か、か、か、可愛いですってぇ〜〜〜っ!?

女性に向かって容姿について言及する事は、たとえ誉め言葉であろうとも「セクシャルハラスメント」だ、と聞き及んだことがあります。ふふ、舌を噛みそうになりましたが上手く言えましたわ。

ああ、なんたる事でしょう。
男は所詮、みな狼。あ、兄はもちろん違いますが。
その後、芝村さんを巡って瀬戸口君含め、なにやらみなが問答していたようですが、それどころではありませぬ!
あの男は甘い言葉で女性をたぶらかし、挙句の果てにあんな事やこんな事…
はっ…なぜか鼻血が出てきてしまいました。

とにかく!!

わたくしは誇り高き壬生屋の娘。そんな浮ついた男に引っかかる人間ではありませんが、この小隊、それにこの部隊のために場所を提供してくれている女子高校の生徒がこの男の毒牙にかかるやもしれません。

今日からわたくしが、彼の行動を逐一見張り、不埒な言動あらば、天に代わって成敗せねばなりますまい。なぜなら、わたくしは、フランスの女王なのですからっ!
…いえ、違いますわおほほ。なぜならわたくしが壬生の血を引く娘だからですわっ!!

そうこうして瀬戸口隆之という男の言動に目を光らせていると、あろうことか、小隊最年少の東原さんに親しげに話し掛けているではありませぬか!
いきなり幼い子供…しかもかわいそうにどうやら彼女はわけのわからぬ実験の犠牲者とか…可愛そうでなりません。そんな子から毒牙にかけようとはやはりこの男はすべての女性に仇なす存在!!

わたくしは「不潔です」の気合いと共に、木刀を瀬戸口君の脳天にお見舞い致しました。

すると瀬戸口君は血をダラダラと垂らしながら「乱暴なご挨拶だな」と、わけのわからぬ事を言ってきます。これのどこが挨拶なのですか!!!天誅です!
ですから「これが挨拶しているように見えますか!」と再び木刀を構えると、なぜか瀬戸口君はわたくしの前で大爆笑するではありませんか。…なんて失礼な殿方でしょう。
わたくしは悔しさのあまり、もう一太刀瀬戸口君の脳天にお見舞いしたのです。
それでもよろけながらふらふらとわたくしに近寄ってくる瀬戸口君!

ふ、不潔菌が移ってしまいます!近寄らないで下さいなっ!!!
それにしても、私の渾身の一撃を食らって意識を保つとは…。まさか、わたくしの腕が落ちたのでしょうか。少し不安です。

その後もわたくしのこの胴着のことやら髪の事について、かわいいだの綺麗だの言ってくる瀬戸口君。
ふっ!その手に乗るものですか!
わたくしはナンパなセリフを吐きまくる瀬戸口君のわき腹にも木刀一閃をお見舞いして差し上げました。

東原さんは、最初のうちは不安そうにわたくしたちを見ていたのですが、何故かその後、わたくしと瀬戸口君を見ながら「なかがいいのね」とほわほわとした笑顔を向けていました…。

幼い子供にこういったつまらぬ諍いの場面を見せるのはどうかと思っていたのですが、「仲がいい」と見えるとは、やはり子供の発想というのは侮れません…。しかし瀬戸口君の不埒さにささくれ立っていたわたくしの心は東原さんの笑顔で少し癒されたような気がします。

こうしてわたくしの5121小隊における第一日目は終了しました。

これこそ、わたくしが瀬戸口隆之という色魔を退治せしめんと決意した日だったのです。



○月△日

いきなり衝撃です…。瀬戸口君が女性にちょっかいを出さぬように見張ろうと教室に入ると、なんとあの男、わたくしと同じパイロット所属の速水君に抱きついているではありませんか!!!
不潔!
不潔!!
不潔!!!
不潔!!!!
不潔!!!!!
わたくしの不潔ポイントが5ポイント加算!ゲームオーバーです!!

というのはものの例えですが、ついこの間「野郎はさよなら」などと言っておいて、とんでもない男です。わたくしは知っているのです…殿方同士というのは、そういう事やああいう事をして、あんな風やこんな風になるらしいのです!不潔です…あまりに不潔すぎます…。
いいえ!わたくしの頭の中は決してピンク色になどなっていません!!

とりあえず、「軽く」速水君に忠告を与えた後(なぜか速水君は真っ青でした。わたくしのお説教が効いたのでしょうか…。しかし、このくらいの事で怖がっていて、どうして幻獣と戦えましょう。どうにもぽややんと頼りなさそうな殿方ですが、大丈夫なのでしょうか)、わたくしは瀬戸口君の後を追いました。

「お待ちなさい!」と警告しているのですが、瀬戸口君は「待てるか!」と叫びながらちょこまかと逃げ回り、わたくしの剣をかわしていきます。
な、なんと逃げ足の速い方なのでしょう…。はぁはぁ…。オペレーターではなく、スカウトでもなさったらどうなのでしょうか。しかしながら、女性のわたくしがこうして勝負をしようというのに、背中を見せるという不甲斐なさ。やはりわたくしがその性根を叩きなおすしかないようです。

───瀬戸口君を追って女子高の廊下まで来たのですが…瀬戸口君を見失ってしまいました…。

しかし!隠れる場所と言ったら倉庫か男子用トイレしかありませんね。

女のわたくしが男子用トイレにまで入るとは思っていませんでしょうから、ここはトイレに行くのが正解と見ました!
いざ!!わたくしは、一応周りに人が居ないのを確認し、男子トイレに突撃いたしました。

『びんご』です!トイレの窓から逃げようとしている瀬戸口君を発見。

わたくしに気付いた瀬戸口君は「男子トイレに入ってくるヤツがあるか!」などとわめき散らしていますが、いきなり幼児と仲良くなったり殿方に抱きつく事に比べたら、婦女子が男子トイレに入るくらい、何という事はありますまい。

問答無用で壬生屋流円月殺法でみね打ちして差し上げました。

醜い叫び声をあげて気絶する瀬戸口隆之。ふ、やりましたわ。

ここが男子トイレであるという事を忘れて、わたくしは勝利のポォズを掲げたのです。

正義の大・勝・利!!!!!



□月×日

男子トイレに入ったせいか、今日、わたくしの発言力が減っていました…。
少なからずショックですが、瀬戸口君を成敗しましたのでプラスマイナスゼロという事に致しましょう。発言力などより、瀬戸口君の女好きを治す方が先決です!

朝、登校すると、驚いたことに瀬戸口君のファンクラブが出来ています。
昨日あれだけ思い知らせてあげましたのに、瀬戸口君と言えば、ちゃっかりと何事もなかったように登校し、ファンクラブの会員らしき女子高の生徒に手を振っています…。上がる黄色い声援。
ああ、瀬戸口君のあのような一見優しげな見た目に騙されるとは、おろかな…。いいえ、しかし、だからこそ、あの色魔から世の女性達を守らねばなりません。

瀬戸口隆之、覚悟!!
わたくしは堂々と正面から瀬戸口君に向かって刀を振り下ろしました。

「俺が何をしたというんだ!」と抗議する瀬戸口君。もはやあなたの存在そのものが女性たちを惑わせているのです!問答無用で鬼しばきを抜くわたくし、猛烈な速さで逃げてゆく瀬戸口君。

教室まで追いかけていったのですが、むなしく始業のベルが鳴ってしまい、一時休戦です。

昼休み、お昼を食べよう、と提案してくださった速水君に賛同したわたくしと芝村さん、東原さんと…なぜか瀬戸口君と一緒に昼食を摂りました。瀬戸口君は調子よくわたくしのお弁当の中身を誉めたりしていますが、とりあえず黙殺してさしあげました。小さな子供の前で刀を振りまわすわけにもいきません。

みなで表面は和やかにお弁当を食べていると、速水君が突然「ねえ、壬生屋さんてさ、瀬戸口君のことが好きなの?」と言ってくるではありませんか!わたくしは、はしたなくも食後のお茶を噴き出してしまいました。い、い、いきなり何をいうのでしょうか、この一見ぽややんな人は…。
わたくしは「このような不潔極まりない方は大嫌いです!」とはっきり申し上げたのですが、速水君も東原さんも気味が悪いくらいににこにことしてらっしゃいます…。何故か顔が熱いような…。きっと観に覚えのないことを言われて焦ってしまったからですわね。ほ、おほほ…。

瀬戸口君の方を見ると、わたくしに向かってバチンと片目をつぶって見せました。片目をつぶったからなんだと言うのでしょうか?わたくしに瀬戸口君の行動の意味がはよくわかりませんでした。ひょっとして馬鹿にされているのでしょうか?

芝村さんは、この話の筋がわからないご様子で、速水君にものすごい勢いで説明を求めていました。




○月×日

放課後、グラウンドでスカウトの来須さんとお話しました。寡黙で黙々と自分の任務をこなす部分は殿方として尊敬に値する方だと思います。瀬戸口君とは似ても似つかないですね…。
来須さんは「目に見えるものだけが真実ではない」と、わかるような、わからないような事を仰いましたので、わたくしは言葉の真意を来須さんに伺おうとしたところ、あの男が女子高の生徒の肩に馴れ馴れしく手をまわしたりしているのを発見してしまったのです!!

わたくしにとっての真実、それは瀬戸口君がとてつもなく不埒な殿方だという事です!

わたくしは瀬戸口君に駆け寄り、有無を言わさず斬って捨てました。

来須さんの仰る目に見えない真実とやらは、とりあえずこの色魔をなんとかしてから考える事に致しましょう。


<続く>


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