鋼の兎

 時はおよそ二万年前。
 移住民族の一つが、突然の嵐により一人の男だけを取り残して壊滅した。
 唯一生き残った男の名はラズル。彼は一族の副族長を勤めていた男だった。
 彼は信仰深い男だったが、仲間全てを奪った神に対して、そして一つの教えに対して疑問を抱いた。


 ――世界は常に、神により最善の方向へ進められている。


 仲間を失ったのは最善のことで、これが世界のためになっているなのだろうか。これにより、失ったもの以上のものを誰かが得たのだろうか。
 そんな疑問を抱えた彼は、その後自分を助けた一つの民族に答えを求め、一つのチャンスをつかんだ。


 それは「神に最も近い存在」への接近。


 その人物ははきっと答えを知っている。心の休まる場所を与えてくれる。そう思ってやまない彼は、黒月の日に存在への接近を試みる。


 二つの月の影の下で、忘れ去られた過去が徐々に時間を取り戻す。


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