五度目にもなる学校もやはり平凡で、つまらなかった。



 転勤族の親父の影響で繰り返している転校。しかし、その先にあるものはなんら面白いものではない。五度目になる初登校から一週間過ぎた今、俺が学校に抱いたイメージは「平凡」の一言で表せるほど味気ないものだった。

 どこへ行っても同じだ。普通に授業をやり、普通に部活動をして、普通に友達づきあいをする。そりゃあもちろん、変わった教師やクラスメートもいるにはいるが、俺が求めているのはそんな「限定された刺激」じゃない。

 俺はもっと学校全体が刺激にあふれているような、そんな学校に通いたいのだ。

 あるわけ無いとは思うけれど、あるならばそんな学校に通いたい。

 だから、夜遅くに返ってきた親父にダメモトで言ってみた。「たまには変わった学校に行きたい。平凡とは縁の無いような所は無いのか」と。

 すると、聞いた親父はにやりと笑った。そして軽い口調で言った。

「そうか。じゃあ今度の転入先は、飛び切り変わった所にしような」

 嘘くさすぎた。

 だから俺はそれが冗談だと思っていた。完全に流されたものだと信じ込んでいた。

 そんなものが、本当にあるとは知らなかったから。

 だから、しばらくたって再び住まいを変え、六度目になる初登校日が訪れたとき、親父がこう言った時は驚いた。



「そうそう。今日からお前が通う学校は、きっと期待に答えてくれるぞ」





 全く、初日からついてない。

二日前に地図で確認しただけの馴染みのない通学路を、後ろを向かないように意識しながら早足で進む。もちろん、心の端では背後に気を配りながら。

 俺は先週この地に越してきて、今日が転入先の学校への初登校日だ。親父が転勤族なので、転入は初めてではない。

だが、今現在のシチュエーションは全く経験のない異常事態だ。

 俺の後ろを誰かがつけている。

 向こうはこっちが気付いていることを知らないのか、電柱の影から影までを移動するという漫画のようなアホらしいパターンを、俺が気付いてから今までずっと続けている。

 こんな行動を後ろでちょこまかと繰り返されて気付かない方がおかしい。

 きっと彼は変質者以前に、頭のネジが何本か外れているのだろう。登校初日からこんな変質者に付きまとわれるなんて、本当についてない。

 まあそんな人物に声をかけるのもどうかと思うので放っておいているのだが。

「おっと……」

 俺は不意に自分の足にもう片方の足を引っ掛けて倒れてしまった。背後に気を使いすぎていたようだ。起き上がろうとすると、ふと視界の端に人が立っているのが目に止まった。顔を上げ、見上げる。

 後ろをつけていた変質者だった。

 まず目に入ったのは、自ら発光しているかのような眩しさを誇る頭。そしてそれを丁度ストライプをかけるように覆う、見事な均等感覚を備えた髪。俗に言うバーコードヘアというものだ。他にはオプションとして鼻の上に黒淵の分厚いメガネ、安そうな背広を着用している。まあ典型的なオヤジの像だ。

 そのオヤジはこちらに腕を差し伸べていた。とてもいい笑顔と共に。

 俺がぽかんとしていると、オヤジが口を開いた。

「大丈夫ですかな?」

 怪しい追跡を繰り返していたオヤジは、これまたへんてこなしゃべり方をした。しかし、それはふざけているようではなく、むしろ心から親切で声をかけているように思える。だが油断してはいけない。変質者と言うのは、何をするかわからないから変質者なのだ。この裏にどんな異常が隠れているかわかったもんじゃない。関わらないのが一番だ。

「あ、ああ」

 俺はオヤジの手を借りずに起き上がると、視線をズボンにだけ向けて、ついた汚れをはらった。オヤジもはらうのを手伝ってきたが、無言でその手を制する。

「ほほっ、ケガが無くて何よりですな」

 オヤジは微笑みかけてくるが、俺は視線を合わせずに軽く頭を下げ、早々に目的地への進行を再開した。しかし――。

 オヤジも一緒に、しかも今度は横に並んで歩き始めた。おまけに、こちらをちらちらと無遠慮に見まくってくる。気になる。気になりすぎる。

 しかもそれは徐々に大げさなものになり、顔を覗きこんでくるようになったときには、ついに耐えられなくなっていた。

「……なんだよ」

「いや、何でもないですぞ」

「ちらちらと顔を覗き込んでおいて、なんでもないはずがないだろ」


小説トップに戻る 2ページ目に進む

トップページに戻る

Copyright © Lock&Shift(http://www.geocities.co.jp/Playtown-Rook/8480/). All rights reserved.