だが、ダメージはそれほどないようだった。

 教頭のスピードは校長を超越している。それが今のではっきりとわかった。だが校長も負けていない。教頭をスピードタイプだとするなら、校長はパワータイプ。一気に力でねじ伏せるタイプだ。その証拠に一撃一撃の威力は、教頭を遥かに超えている。

 校長は瞬時に起き上がると同時に跳躍。上空にいる教頭へ襲い掛かる。空中では慣性に任せるしか無いから隙が大きい。これは教頭の大きな打算だった。だが――。

「うがっ!」

 なぜか教頭は空中で慣性を無視し、上昇中の体を急降下させて校長にカウンターを食らわせた。そのまま二人とも地面に落下し、触れる寸前、教頭だけがその場から退いた。

 轟音と共に校長は地面に突っ込んだ。さすがに校長と言えど、これは無事ではすまないだろう。校長の衝突によって発生した砂埃が、周辺の視界を遮る。

 それにしてもなんで教頭は空中で急下降できたのだろうか。幾ら超人的とはいえ、彼らも人間。慣性を無視する事は出来ないはずだ。

 教頭の方を向く。

 そこで俺は、一つの異変に気が付いた。

 ――教頭がハゲになった。

 今まで髪の毛があったはずのそこは、ほとんど不毛地帯となっていた。かろうじて産毛のようなものが頭の輝きを遮っているものの、それは明らかに変化として捉えられるものだ。見間違いではない。

 しかし教頭はその変化を気にした風も無く、上を見ている。俺も見上げる。

 黒い物体が飛んでいた。

 その物体の正体は昼の太陽による逆光で確認できなかったが、それが落下し、教頭がそれをキャッチしたとき、その正体が判明した。

 ――ズラだ。

 上空から落下した物体はズラだった。しかしなんでズラが?

 教頭はそれを頭につけて髪形を整えると、じっと見ている俺の視線に気が付いたのか、独り言のように言った。

「このズラは――重さが五百キロある」

「うそっ!」

「私はこのズラを空中で外し、蹴り上げた。物質にはその場に留まろうとする力が働く。その力は質量に比例し、もちろん五百キロとなれば相当な力が働く事になる。つまり、瞬間的に地面の役割をするのだ。その地面を蹴った私は、慣性によって下方向に加速。そして校長先生にカウンターをお見舞いした……ということです」

「なるほど……油断していましたな」

「校長――?」

 なんと校長は無事だった。晴れかけていた砂煙の中から、ゆっくりとそのシルエットが浮かび上がってくる。

「まだ……無事でしたか。さすがです」

「フフフ……この程度では、まだまだやられませんな」

 完全に姿を現した校長は、バーコードが少し崩れて風になびいているのを除き、ほとんど無傷だった。校長は屈みこみ、地面に落ちていたメガネを拾う。

「おや? そのようなものを着けている余裕があるのですかな? そろそろ本気で行かせていただこうと思っていたのですが」

「……気付いていたのですか」

「打撃により弾いたのです。その質量に気が付かないわけがないでしょう」

「なるほど」

 そう言うと、校長はゆっくりと息を吸って言った。

「このメガネも、五百キロあります」

「マジかよっ!」

「ほほぅ……」

「そろそろ本気を出す。そう教頭先生はおっしゃいましたな?」

「そうですが、なにか」

「では、お互いに装備を軽くしましょう、それではいささか得意のスピードも生かしきれていないのでは?」

「なるほど……すでに見抜いていましたか」

 言うと、教頭はズラ取って背広を脱ぎ、脇に投げた。着地の瞬間、タイルが砕けて地響きが起こる。教頭が口を開く。

「いまのズラは五百キロ。背広は六百キロあります」

 もはや驚きすらも通り越して、何も出てこない。校長も対抗する。


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