「むっ、なら私も」

 メガネと一緒に、背広を脱ぎ捨てた。

 地面が砕け、さっきよりも大きな衝撃が足元に届いた。

「メガネが五百キロ。背広が八百キロあります」

「ぬっ。ならばこちらは……」

 言って、ネクタイとベルトを取り、投げる。

 地面が砕ける音。

「いまの二つで、一トン」

「奇遇ですな、私も……」

 同じ物を外し、捨てる。

 破壊音と地響き。

「いまの二つで、一トンですな」

「むむっ。では私は……」

「じゃあ私は……」

「私は……」

「……」

 お互いにいくつ装備をつけていたのか知らないが、とうとう二人はパンツ一丁になるまで続けてしまった。二人とも明らかにヘンタイである。

 ブリーフ姿の校長が言う。

「合計、五トン」

 青白のストライプ柄のトランクスをはいた教頭が言う。

「合計、五トン」

 両者校舎の内側の両脇に立ち、対峙する。渦巻く熱気。

 ――まさか。

 最後に。

『これで合計五トンと――百グラム!』

 二人パンツを脱ぎ捨て、それが普段のパンツよりはちょっぴり早めに落下。地面に落ち、乾いた音を立て。

『うおおぉぉぉぉ!』

 究極の予行練習が、終わりを迎えた。



「まさか……こんな事になるとはな」

 目の前には何も無かった。いや、数秒前には校舎があったのだが、二人の放ちあった拳の衝撃波で、全て吹き飛んだのだ。

 で、なぜ俺が助かったかと言うと――。

 目の前にある物体を見上げる。

 こいつのおかげだ。大変不名誉だが、俺はこいつのおかげで生き長らえた。

 それは校長たちが投げた衣類などの塊。

 投げ捨てられた超重量のそれらは、その後の戦いの衝撃により運良く一つにまとまった。中央を囲むように立つ校舎の構造のおかげなのだろうか。とりあえず、何かあるごとにこの山を盾にしたのだ。そして最後の強力な一撃が来たときも、この盾が防いでくれた。

 辺りを見回す。学校周辺の民家などもかなり崩れていて、とても見晴らしがいい。殺風景だとかいう言葉は、あの超絶的な破壊を目の当たりにした俺の頭からは浮かんでこない。それが終わっただけでも世界は平和であり、目の前の景色もすばらしい見晴らしなのだ。雲ひとつ無い空には、鳥が数羽舞っていた。

 ふと視線を地上に戻し、両脇にいる教師を見る。

 完全にボロボロになった二人は、大の字になってころがっている。幸運な事に、捨てられたパンツが見事に二人の股間にあてがわれ、その恥部を公衆の目から守っていた。……いや、公衆の目が恥部から守られた、だ。

 しかし何にせよ、戦いは終わったのだ。

 全て。この校舎と共に。

 意識があったのか、二人が言葉を交わす。

「教頭先生……やりますな」

「校長先生こそ……強すぎます」

 二人は静かに笑った。そしてふいに――。

「はて、大事な事を忘れていましたぞ、教頭先生」

「私もです。まだ戦闘参加者が残っていました」

 戦闘参加者? もう教頭と校長の二人だけじゃないのか?

 二人が起き上がり、こちらを見た。

 ――まさか。そうだった。

 俺は今日この学校に転校したんだ。だから習慣にも参加しなければならない。待てよ、このままじゃ俺、生きて返れないぞ。

「くっ!」

 俺は正門を振り向くと、自分でも驚くほどのスピードで駆け出した。後ろで声が聞こえた。



『草辺君。君で最後だ』



 校長達が起き上がったのとほぼ同時に、俺は空を見上げていた。

 それは地上で起きていることなど何も知らなくて、どこまでも平和で。

 きっとどんなに年月が過ぎてしまっても、雲ひとつない美しい空だった



――END。


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