「で、仲良くなったところで忠告なのですが、あなた、少し武装が足りないのでは無いのですか」

「武装? 武装って」

 その瞬間、空気を痺れさせるような破壊音が、辺りを駆け抜けた。

「何があったんだ――」

 音のした方向に目を向けると、そこには俺と同じ制服を着た少年が、背にしているレンガの壁に蜘蛛の巣状のひびを作って倒れていた。

 少年の位置は、丁度校門のある通りが一望できる位置だ。つまり彼は、校門側から何らかの力で吹き飛ばされてきたのだ。少年はすでに気絶しているようで、ピクリとも動かない。

「これは……どういうことだ」

 校長は少し表情を曇らせた。

「まさか知らないんですか。うちの風習を」

「知るわけない……俺は今日始めてここに来たんだ。おまけに何も知らされていない。どういうことなんだ、これは絶対におかしいぞ!」

 俺は校長に掴みかかった。しかし、校長は怯まず、

「なら目で確認するが早いですな」

 俺の腕を静かに剥がし、ゆっくりと角から校門の方を覗き込んだ。

 再び人間がふっとんで来るのを警戒しているのだろうか。もしかすると、同じ生徒である俺は、あの仲間入りをするのだろうか。なんだか恐ろしくなってきた。

「あ、教頭先生です。これなら安心ですな」

 そういうや否や、校長は俺を引っ張って校門まで早足で歩いた。そこには、校長が言っていた教頭らしき人物が立っている。

 そいつは細身の男で、輪郭のはっきりした顔立ちはなにやら知的なものを感じさせる。鼻に乗せた四角い銀縁のメガネも、それを高めるのに一役買っていた。

 教頭は口を開く。

「ああ、校長先生。おはようございます」

「おはようございます教頭先生。修行から帰るなり、いきなり飛ばしていますな。二つの意味で」

 校長は先ほどの少年の方を振り向き一瞥すると、うれしそうに言った。

「ははっ、面白いご冗談を。この分野においては、まだまだ校長先生には及びません」

「ほぅ、『この分野においてでは』ですか。と言う事は、修行の成果もあったようですな」

「もちろんですとも。山にこもってパンダと戦って来た成果を甘く見てもらっては困ります」

 パンダ? 普通クマだろ。まあ、どっちみち普通の人間には倒せないけどな。ってか、パンダって数が少ないんじゃなかったか。むやみに倒していいのだろうか。

「この二日間で二百頭倒しましたからな。完璧です」

 完璧じゃないし。なんだかパンダが気の毒になってきた。

 パンダが動物園で見られなくなる日も近いかもしれないな。近いうちに動物園に出かけよう。……って、二日? 日本にニ百頭もパンダがいるのか?

 いや、もうこれ以上つっこむのはやめよう。こいつらにはどんな常識も通用しないのだから。いちいち考えてたら、胃が何個あっても足りない。

「まあ、その成果は直ぐにわかるでしょう。期待していますぞ」

「任せて置いてください」

 校長の弾んだ声に答えるように、教頭はぽん、と胸を叩いた。

 その時、なにやら叫び声と共に、地響きが足を伝ってきた。

「なんだ? この叫び声は」

 教頭の後ろの景色に目を向けると、大量の人間が突進してくる姿が目に映った。どうやら叫び声はそこから聞こえているようだ。俺は校長に質問した。

「あいつら、なんでこっちに向かってくるんだ?」

「あれはですね、私たちを倒そうと、集団で襲い掛かってきているのですな」

「あいつら命知らずだな……。で、なんでそんな事を?」

「先ほど言った風習ですよ。まあ見ていなさい」

「は?」

「まあ、見ていなさい」

 言われたとおり、見る。

 みんな恐らくこの学校の生徒だろう、集団はそれぞれの年齢が近い。全員目を血走らせて、凄い殺気を放ちながらこちらへ攻めてくる。こちらへ攻めてきて……って、冷静に分析してる場合じゃない!

「おい、これ、まずいんじゃないか。逃げたほうがいいだろ」


小説トップに戻る 5ページ目に進む

トップページに戻る

Copyright © Lock&Shift(http://www.geocities.co.jp/Playtown-Rook/8480/). All rights reserved.