「甘い!」

 ドンッ――と衝撃波のようなものが走った。教頭が校長の拳を止めていた。俺は思わずよろけそうになるが、なんとかこらえる。

 緊張した空気の中、二人は冷静に語る。

「ほぅ……やりますな」

「言ったでしょう、パンダで修行したと」

 言うと、教頭は校長を弾き、吹き飛ばした。校長は先ほどのレンガの壁――生徒が倒れている方に飛ばされてゆく。このまま行けば直撃だ。

 だが、校長は体をひねって水平にし、レンガの壁に直立する形で衝突を避けた。そして、跳躍する。

 一瞬にして俺の前を通過する。それは初めて目の当たりにした神速を思わせた――思えば自分が眼で追えるというのは、慣れよりも先に、彼らが本気を出していないということなのだろう。彼らなりに被害を気遣っているのか、はたまた体力消費を押さえるためなのか。

 今度は校長が教頭を弾く。だが、教頭もその先にあった電信柱に足をつけ、それを砕いて戻ってくる。おぞましいバランスと跳躍力。

 ――だが。

「ぐはっ!」

 校長も跳躍し、教頭よりも瞬間早く拳を叩き込んでいた。それは教頭の腹にめり込み、みしりといやな音が聞こえる。

 それでも校長は容赦なく、ナックルで教頭を叩き落した。

 今までで一番強烈な打撃。辺り一体の物体が吹き飛び、地面には直径五メートルほどのクレーターが出来上がった。俺もあと少し近かったら、巻き込まれて絶命していただろう。恐らく彼らには、俺のことなど見えていない。

 校長は着地するとクレーターに歩み寄った。教頭の戦闘不能を確認するためだろう。しかし――。

「まだまだ!」

「うっ!」

 教頭は校長の背後から現れ、校長を蹴り飛ばした。校長は瞬間的に振り返り、腕をクロスさせて防御したようだが、完全には勢いを殺す事は出来なかったらしい。

 踏ん張りが利かず、校長は民家と公道を隔てる壁へと吹き飛ぶ。

 壁が全て砕け、民家が一軒崩れた。家の主は生きているのだろうか。だが、そんな疑問に浸っている暇は無い。

 校長は一秒もせず砂煙から飛び出してきた。手には民家から持ち出したのか、緑の柄のモップが握られている。そしてそれは瞬時に、教頭の頭へと振り下ろされる。

「ムッ!」

 ばしっ。と、拍子抜けな音がした。見ると、教頭が先ほどの名簿で防御していた。

 だがそんなものは耐久力に欠ける。直ぐにへし折れ、再びモップの柄が教頭の頭部を襲う。

 ――ガキィィィィンッ!

 こんどは金属のぶつかるような音がした。金属製の武器など教頭は持っていただろうか。

 しかし見ても、手には何も……いや、あれは。

「……ペンですかな」

 教頭の右手には、金属光を放つペンが握られていた。

「そうです。今日からの為に、鋼鉄製を特注で。だが、一つだと思ったら間違えです!」

 教頭が空いていた手を翻すと、そこにもう一つの鋼鉄ペンが現れた。それはそのまま、ガードのない校長の頭部に襲い掛かる。

「むんっ!」

 校長はモップを受けていたペンを弾き、それが戻ってくるまでの瞬間にモップを回転させ、二つのペンを同時に受け止めた。

 耳の痛くなる金属音があたりに響く。

「なかなか……しぶといようで」

「まだまだこれからですぞ!」

 校長はモップで両ペン(?)を弾くと横に跳び、五メートルほどの距離をとった。

 そしてモップを突きの体制に持っていくと同時に、今までとは質の違うまがまがしい殺気を放った。

「まずい!」

「覇ァ!」

 教頭が横に跳び、その一瞬後に、そこをモップが突き抜ける。

 モップが通過した一直線上の地面が、まるでパワーシャベルで掘り返したようにめくれ返った。周辺の物という物が、発生した波動により悲鳴をあげる。

 教頭は跳躍にモップの波動が加わり、上から見ると「コ」の字になっている校舎の中央に吹き飛ばされていった。


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