校長が駈ける。教頭めがけモップを振り下ろす。

 轟音を立て、タイルごと地面が砕ける。教頭はいない。

「おや?」

「こっちです!」

「ぬぉっ!」

 カツンッ――。

 一瞬で背後にまわった教頭が凪いだペンが、校長の顔面すれすれを通過し、そこにあったメガネを弾きあげた。

 目を合わせる二人。

 一瞬だけ校舎に静寂が訪れる。

 お互いに必殺の間合いにあるためか、タイミングを計っているようだ。

 しかし。

 カツンッ――。

 メガネが地面についたとき、瞬時に静寂は消えうせる。

「うぉぉぉぉお!」

「はぁぁぁぁあ!」

 もはや緑色の空間としてしか認識できない校長のモップを、両手のペンだけで受けきる教頭。それでも教頭は反撃して、それをまた受ける校長。

 その繰り返しを行う姿は、お互いにダンスを踊っているように見えた。打ち付ける文房具と掃除用具の音色も、それを際立てる音楽のように聞こえる。

 俺は今まで心にわきあがっていた感動を表す言葉を、それによって見つけた。

 美しい。

 ただその一言。

 神威の技のぶつかり合いは、それだけで人を魅入らせる力を持つ。

 例えその戦士が中年でも、例えその戦士がバーコードでもメガネでも教師でも、それは変わらない。人間があこがれるような力がそこで輝いていればいいのだ。



 どれだけの間やり取りが行われたのだろうか。日が高く上ってきた。

 その熱さに精神力を奪われたのか、ついに戦いのダンスは終わりを迎えた。

「ぐぁっ!」

 教頭の両ペンを、校長のモップが弾き飛ばしたのだ。防ぐものが無くなった教頭の喉元に、寸分たがわずモップの先があてがわれる。そこにはなぜかアヒルのストラップがついていて、戦果に歓喜するようにプラプラと揺れている。

「ゲームは終わりですかな?」

「くっ……」

 悔しさをあらわにする教頭。だが、校長は余裕の表情は見せない。あくまで冷徹だ。

 戦いは完全に終わったかに思えた。

 だが――。

「まだですっ!」

 教頭は今までに無い速度でモップを掴み、瞬時に握力でへし折った。同時にそれを校長の方に押しやると、遥か後方――校舎の側壁に跳躍した。

 ――目が錯覚した。

 次の瞬間には突然、教頭が飛び掛る姿が目に映ったのだ。

 まるでコマ飛びをしたかのようだった。

 校舎の側壁が破壊音を立てて崩れたから、恐らくすでに壁を蹴っていたのだろう。だが、それを行った瞬間は全く見えなかった。

 それは今までで最も早い移動。教頭はそのままの勢いで拳を振り下ろす。

「残念ですな!」

 モップを捨て、後方によける校長。地面が砕ける。

 そして校長も校舎を蹴り、教頭へ反撃する。だが――。

 すでに教頭はいなかった。

「またしてもどこへ……ぐぉっ!」

 教頭は跳躍中の校長の上にいた。校長に一撃をかわされた後、校長と同じ行動を同じタイミングで行ったのだ。その証拠に、校長が蹴った側壁には破壊痕が二つついている。蹴りによってタイルが剥がれ、蜘蛛の巣状にヒビが入ったものだ。

 教頭は校長の背で跳躍した。反作用で校長は地面へ叩きつけられる。


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