*Wanted to return…*
 
 
 

その日は突然きた

 

 

 

 

「ぐっ…」

自分の上がった息が妙に耳に響く

雨が降っているのに辺りは何故か静かだった

惨めに地べたを這いずりながら

伸ばした腕に泥水しか掴めなくても

 

ただ前へ進もうとまた腕を伸ばし、もう痛みさえ感じない体を引きずった

 

その裏路地には彼しか居ない

 

彼から流れ出す深紅の鮮血が

彼のこれまで進んできた途を示していた

雨水と混ざり滲み歪んでもなお

彼の存在を示している

 

 

この裏路地と同じような闇の中で

血の匂いと共に生きてきた自分は

ロクな死に方をしないだろうとは思っていた

 

元よりこのちっぽけな命には意味さえ無く

生きる事に何の執着も無かった

 

 

 

そんな自分は何処へ向かって居るのか

 

 

「怪我なんてしちゃだめなんだからね!」

 

帰ろうと想える場所がある

 

彼はそこへ行きたかった

 

どうしても

 

 

 

都合の良い事に思い出すのは笑顔ばかりで

そう言えば泣いた所を見たことがないと気づく

本当に

猫のようで嵐のような彼女は底抜けに明るかった

 

 

それでも

不安そうな顔が頭をよぎる

 

 

 

 

お前が廃棄王女だろうが何だろうが

俺はお前と同じ処へは逝けないろうから

 

 

 

まだ死ぬなよ

 

 

 

 

もう何も望まない…

…何も願ったりしないから…

 

 

 

 

息はもうすでに上がってはおらず

彼の体は裏路地にあって

 

雨はまだ止まない

 

 

 

 

 

 

 

彼の還りたいと思う場所も

彼を笑顔で迎えたであろう彼女も

それらを全て覆い隠すように

 

 

 

 

 

 

 

 

But at least a thought should just reach her at least.

 

 

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