俺は北川潤、17歳の高校2年生。
この歳で一人暮らしはちょっとめずらしいかも知れないけど、まあ、ごくごく普通の学生だ。
さて、ここでみんなに質問だ。今までの人生の中で一番大きなハプニングは何か? と、聞かれればどう答えるだろう?
別に犬に追いかけられただとか、目の前でソバ屋の出前が転んで、頭からソバが……でも何でもいいんだ。とにかくハプニングであれば。まぁ、大抵の人は日常にあるほんの小さなものを挙げると思う。
でももし、俺がそう聞かれたらこう答えるね。
『トイレから戻ると、テレビとビデオがあった場所に隕石が落ちていました』
って。
星をください
「なっ……なっ、なんじゃこりゃああああーーーーーっ!!!!」
別に腹から血が出て死にそうなわけではない。と言うより、もっともっと突拍子のないことだ。俺がせっかく昨日、休みをつぶしてまで掃除した部屋が破壊されている。それも徹底的に。
上を見上げると、天井にでっかい穴があいていて、上の部屋とその上の部屋、ついでに綺麗な夜空が丸見えだ。確か上の二部屋は空き部屋だからいいとして……いや、全然良くはないんだけど、とにかく俺の部屋がぶっ壊れてることよりはどうでもいい。
「大家さんに追い出される……というか、殺されるかも」
あの鬼大家、なんて言葉が頭に浮かんだ。
ていうか、隕石が落ちてくるなんて俺ってどれだけ不運なんだろう。今まで福引でも五等以上は当たったことがない俺だったけど、まさかこんなものが当たるとはな……ははは。あーあ。
……しかし考えてみると、よく燃え尽きなかったもんだな。昔に読んだ本では小さな隕石は大気圏で燃え尽きるとかなんとか書いていたような……。
ドガァン!!
「わっ、なんだっ!?」
隕石が開いた……ていうか、隕石じゃない!?
「ごほっ、ごほっ!」
誰かの声がする。巻き上げられたコンクリートの塵では見えないが、女の声のようだけど……。
「ここが地球ね……それで、アンタが北川潤。オーケー、わかったわ」
と、中から出てきたのは黒髪の女性。性格はちょっとキツそうだけど、まあ、美人だ。
じゃなくてっ!! なんで、いきなり人が出て来るんだよっ!?
「おっ、ちょっ、お前誰だよ!? い、いきなり人の部屋に突っ込んできやがって!!!」
「あら、この星ではお客にそんな態度が普通なの?」
「客ぅ……? って、俺はお前なんか知らないし、いきなりこんな……」
「ああそうね、自己紹介がまだだったわね」
そう言って、彼女は右手で髪をかきあげる仕草をした。不覚にも俺はその仕草に見とれてしまったのかも知れない。俺は息を殺し、彼女の声を待ってしまっていたんだ。
「あたしは美坂香里。惑星ドアーズの王女よ」
そして、返ってきたのは現実場慣れした答えだった。
一瞬の静けさの後、俺と彼女の罵り合いが始まったのは言うまでもない。
「まあ……お前の言い分はわかった」
「アンタ、ちょっと物分りが悪すぎるわよ……」
一時間近く続いた口論の結果、彼女の言い分をある程度認めてやることにした。
彼女が住んでいたのは惑星ドアーズとかいう所。
それは、この地球からは俺達の科学力で人生二回分かかる場所にある惑星である。
そして、彼女はその惑星全域を支配する大帝国の王女で。
たまたま俺の部屋に落ちたのではなく、はじめからここが目的地だった。
わざわざ日本語までマスターしてここに来た理由は……。
……俺と結婚するため、だとか。
「確かに、冗談じゃここまではしないよな……うーん、でもなぁ」
「なによ。まだ一時間くだらない話し合いする気なの?」
「そうじゃないけど……このでかい宇宙の中で俺と結婚するために来た……なんて言って簡単に信じられると思うのか?」
「うるさいわね。一番幸せにしてくれる人を検索した結果、機械がそう判定したんだから仕方ないでしょ」
……どんな機械だよ。
「この『宇宙の果てまで運命の人を追いかけて殺してでも結婚してやる君一号』は完璧なんだから……」
……それは、飛びっきり性質の悪いストーカー行為だ。
「とにかくっ、帰れっ!」
「はぁっ!? アンタ、せっかくここまで来てやったあたしに帰れって言うの!?」
「確かに、こんな所まで来たヤツをいきなり送り返すのは悪いと思うけど――」
「片道15分よっ!?」
「や、全然思わん。帰れ」
どんな速さだこの乗り物は。
「アタシと結婚できるって言うのよ!? 盛っていきなりズボン脱いで飛びついてくるならまだしも……いきなり帰れですってぇ!? アンタ正気なのっ!?」
「俺は犬かっ!!」
だめだ、コイツといると頭が痛くなってくる。早く追い出そう……って。
「おい」
「何よ」
「お前……この馬鹿でかい穴、直せるんだろうな……?」
よく考えたら、こんな穴を残して帰られるとそれこそやばいことになるのは目に見えている。
「直せるわよ。あたしを誰だと思ってんの」
「そうか……んじゃ、早いとこ直して帰ってくれ」
「それが頼む態度なのっ!?」
「お前がやったんじゃなきゃ、もっと違う態度に出てる」
そう言うと、彼女は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「言っとくけど、直さないからね。」
「……お前なぁ……」
完全に拗ねた。もう、これだから王女とかなんとか言われて甘やかされてるヤツは……。
「それに、直したら帰れないもん」
「なっ、どーゆーことだよっ!?」
「こんな大きな穴直そうと思ったら莫大なエネルギーを使うに決まってるでしょ。そこから更にこの船を飛ばすエネルギーなんて、宇宙中のどんな生物でも無理よ」
俺は文字通りぼーぜんとした。直せない? もちろん、俺に直す貯金なんてあるわけない。それじゃ、俺は大家に追い出されて明日から道端でおやすみなさい? 勘弁してくれよ……。
「星から王家直属の職人を呼ぶって手もあるけど……」
「えっ、それなら直せるのか!?」
「ただあと数十個は同じ穴がこの地域全般にできると思ってくれないと……」
「……やめろ。それだけは絶対にやめろ」
この上近所にまで大穴あけたら本気で明日この街を出なければならない……。
「って、そう言えば……なんで音がしなかったんだ?」
そうだ。よくよく考えてみると、隕石が落ちてきた音など全くしなかった。普通ならとんでもない大きな音がするはずなのに……。
「ああ、衝撃も音もあたしが消したのよ。できるだけ穏便に済ませたかったからね」
「そ、そうか……」
なるほど、変なエネルギーがなんとかって話は本当らしいな。
「で、そのエネルギーってのはどうやったら回復するんだ?」
「え? どうやったらって……うーん、そりゃ、温泉にでも使ってのんびりと旅の疲れを癒せば」
お、温泉って……お前本当に異星人なのか?
「まぁ、わかったよ。時間が経てば回復するんだな。仕方ない、この穴を直してくれ」
「エネルギー回復するまでこの部屋に泊まるわよ」
「……仕方ないだろ」
「結婚するわよ」
「それはしない」
「じゃあ直さないわ」
コイツは本当になんというか……。
「わかったよ、結婚も考えてやる。だから、とりあえず直してくれ」
「本当ね? 絶対よ?」
「あー、絶対絶対」
「……わかったわ、今すぐ直してあげる」
まぁ、考えるだけなんだけどな。
ピカッ、とちょっと眩しい光が部屋を包むと、全てが元通りに戻っていた。
「おお、すごいすごい。ここまで綺麗に戻るとは……」
なんか、前より綺麗になったような錯覚さえ覚える。衝撃的な破壊されようだったからなぁ。
「じゃ、ここで3ヶ月はお世話になるわよ」
「はあっ!? なんで3ヶ月もいるんだ、すぐ帰ればいいじゃないかっ!!」
「エネルギーが回復するまで――って言ったわよね?」
そう言って、にこり。
「…………」
はめられた……引っ掛けてやったつもりが引っ掛けられたのは俺だった。彼女のエネルギーが回復したかどうかなんて、俺にわかるわけがない。3ヶ月だっても「まだ」と言われれば、そう信じるしかないのだ。
「よろしくね、アナタッ♪」
「誰があなただ、この悪魔……」
「あら、あたしのことは香里でいいわよー?」
「知るかぁっ!! もっ、もう寝る!!」
「じゃああたしも寝るわねー?」
「ばかっ、同じベッドで寝れるかっ!!」
「婚約者なんだから、世間体は気にしないでいいのよっ♪」
「世間なんかどうでもいいっ、俺がいやなんだよっ!!」
「あらまぁ、照れちゃって。このこのっ」
「心底いやがってるんだっ!!」
そんなやり取りの中、俺は一生コイツに付きまとわれるような気がしていた……。
2度目の改訂。