「北川くん、はい、これ」
「ほぇ?」
チョコだった。
俺、北川潤。高校二年。自分でも言うのもなんだが、ほぼ全てが可もなく不可もなくといった感じの人間だと思う。三国志で言えば全能力70台。便利なような使えないような、そんな人間だ。
で、たまたま偶然クラスメイトの美坂香里と登校時間が一緒になった俺の目の前に出されてるチョコ。周りを歩く野郎共がちょっとそわそわしているのからもわかる通り、今日は俗に言う「バレンタインデー」というやつなのだ。
……あ、なんだか画面の前のみんなとはかなりの時差があるらしいけど、それはまあ勘弁してほしい。というか、勘弁してあげてほしい。寧ろ、できれば無視してほしい。
「北川くん?」
「ん、ああ、悪い。ちょっと設定説明を……」
「え?」
「いや、気にするな。今回は俺の一人称だから美坂は普通に喋ってればいい」
「………」
美坂は何か言いたそうだったが、言っても無駄だと思ったのか、それとも聞いてはいけないことだと悟ったのか、それ以上はたずねてこなかった。
「……で、いらないのかしら?」
「もちろん、いらないことはないんだが……それ、俺にか?」
別にバレンタインデーだ! などと意気込んでいた訳じゃないけど、こんなにあっさり貰ってしまうとなんだか拍子抜けした気分というか、俄かに信じられない感じがするな。
「何言ってるの、当たり前じゃない。その、つっ、付き合ってるんだし……」
と、そっけなく言って美坂は赤い顔をして下を向いてしまった。
うーん、そうだったのか。と言う事で設定追加だ。
俺と美坂は約一ヶ月前に俺から告白して付き合い始め、初めてのデートはSSではお約束とも言えるほど定番な遊園地。ほのラブなら序盤は二人でアイスクリームなんて食べながらイチャついていたところ、急に雨が降り出してついてないなぁとか言うんだけど、ラストは雨がやみ、夜空をバックに観覧車でキス。ギャグなら隠れてついて来た栞ちゃんや俺の兄貴(オリキャラ)などが登場してハチャメチャになるんだけど、お化け屋敷でおいしい目にもあいつつ、結局最後は観覧車でキスみたいな。そんなのを想像してくれれば嬉しい。18禁はジオなので不可と言う事で。
「細かいわね……」
美坂が俺の方をちらりと見て言った。
「何か言ったか?」
「……別に」
そう言うと美坂はまたそっぽを向いてしまった。どうしてもこっち世界のキャラにはなりたくないようだ。
「って、だからぁ……いるんだったら早く受け取ってよ!!」
「あ、悪い。ていうか、手下ろして喋ればいいのに」
「それってちょっと馬鹿みたいじゃない」
俺は「そうか?」と思ったが、口には出さなかった。これ以上美坂の感情を逆撫でする必要はないし、今回はギャグSSとは言え俺のやられがメインではないのだ。他ではあまりやってないギャグを目指さないと、このHPの存在価値がない。元々……うん、いや、危険発言は避けておくが。
「さんきゅな、美坂」
俺は改心の笑みを浮かべてチョコを受け取った。
「え、うん……その、美味しくないかも、知れないけど……」
「へ? もしかして、これって美坂の手作り?」
「う、うんっ」
今回の最大ヒットですよ、皆さん。文字通り真っ赤になって上目づかいで俺をチラチラと見てくる美坂。付き合うようになってから時々こんな顔も見せてくれるようになったのは、やっぱり気を許してくれてるってことなんだろうなぁ。それだけで本当に勇気を出して言って良かったと思う。
うん、やっぱり良いよな。北川×香里。
……ふと、自分が登校途中だと言う事を思い出したが、まあいい。このSSは舞台設定とか、他のキャラとかは特に必要ないんだ。久しぶりにSSを書き上げないとさすがにまずいって理由で書き始めたものだし。
「その前に欠番を埋めなさいよ……」
今のは美坂の独り言なのであしからず。
そんなやり取りの後、俺達はとりあえず学校に向かっている。このままどこかの草むらに……とも思ったが、そんなことすれば遅刻確定なのでやめておいた。さすがにこんなことで遅刻すれば相沢や斉藤になんて言われるかわかったもんじゃないからな。
それにまぁ、美坂と一緒に登校できるってのに、それ以上を求めちゃ罰が当たるってもんだろう。
「でもな、美坂。欲を言えば、もうちょっとタイミング測ってくれれば嬉しかったな」
「あ、そうね……登校中ってのはちょっと急ぎすぎた、かも」
美坂はそう言うと、少し俯いてしまった。
「いや、そうじゃなくてな」
「え?」
美坂は根本的に勘違いしてるな。男としてはこういう物は他の男に見せびらかしながらもらえるのが一番なんだ、多分。だが、この場合はそんな問題じゃない。それ以前の問題として――
「最初は『もしかしたら北川にあげるんじゃなくて、祐一にあげるんじゃないか?』と思わせておいて、最後の最後に『義理だからねっ』とか言いながらあげる方がエスエステキにはおいしいと言う意味だ」
「………」
呆然とする美坂。その顔はまさに「何言ってるの、ちょっと……?」って感じがぴったりだな。
「何言ってるの、ちょっと……?」
というか、言った。
「いや、だからな。エスエステキには相沢には『栞を助けてもらったお礼よ』とか言いながらチョコを渡しておいて、本命の俺へのチョコは恥ずかしくてなかなか渡せなくて、最後の最後に素直になって渡してハッピーエンドの方が読んだ後の心温まり感が違う、と言いたいんだ」
「………」
また呆然とする美坂。その顔はまさに「だから、何言ってるのよ……?」とでも言いたげだな。
「だから、何言ってるのよ……?」
お約束だった。
「うむ、なかなか良いノリだぞ、美坂。でもそれは二回でやめておいた方がいい。マンネリ化すると読者のみんなが飽きるからな。まぁ、それをパターン化してしまう手もあるが、短編ではさすがに危険だと俺は思う」
「訳わからないわよ……」
む、ちょっと本気で呆れ気味か?
「とにかく、チョコをくれる前に一山欲しかったな、ってことだ」
「一山って……。あたし達付き合ってるのよ?」
「それだ」
そうだ。俺は何かずーっと引っかかっていたものがあったんだ。
「バレンタインSSなのに、なんで俺達が最初から付き合ってるのか、ってことだ」
「なっ、何言ってるのよ!? 設定なんだから仕方ないでしょ!?」
美坂はそう叫んで「ハッ」という顔をした。とうとうボロを出したな……。
「ハッ」
それは言わなくていい。
「そうだ、設定だ。まずその設定が甘いんだ!! 俺はこんな普通すぎる設定じゃ北川×香里派は納得しないと言いたいんだ!!」
俺は高らかに宣言した。登校途中だとかそんなことはどうでもいい。
「じゃ、じゃあどんな設定なら納得するって言うのよ……」
ふっ、とうとう美坂も観念してこっちのキャラになることを認めたようだな。それでこそこのSSが成立するってもんだ。
「そうだな……奇抜なら奇抜なほど良いが……」
そう言ってふと考えこむ。そうだな、今まで見たこともないような設定の方がギャグSSとしてうけは良いかも知れない。例えば……
「人魚と登山家とか」
「……どうやって出会うのよ……」
む、確かに。巡り合えなかったら僕らはいつまでも見知らぬ二人のまま、か。それはさすがにいくらギャグSSと言えど書きようがないな。
「じゃあ、美女と野獣」
「パクリじゃない」
「ウサギとカメ」
「童話でしょ……」
「ギターとベース」
「話が変わってるわよっ!」
「ベースとドラム」
「パートの問題じゃないっ!!」
「ターンテーブルとサクスフォン」
「どんなバンドよっ!?」
うむ、さすが美坂だ。なんという的確なツッコミ。いい加減俺も満足したのでここらで終わらせるか。
「まぁ、人間今の状況に甘んじていないで、日々精進しろってことだ」
「あ、あれだけ言っておいてそんな強引なまとめなの……?」
美坂は納得いかないような顔だが、あまりのんびりと論議している暇もないのだ。
「このままじゃ遅刻しちまうしな」
というか、まだ遅刻してなかったのが不思議なくらいだ。
「え、えー!? なんでもうこんな時間っ!?」
それを聞いて時計を見る。うーん、予鈴五分前。これはやばいかも。
「そりゃ、あれだけ喋ってたらなあ……」
「ちょっと北川くん! 走るわよ!!」
そう言いながら美坂はすでに走り出していた。走りながら「なんであたしが……」などと呟いているようだ。
「大丈夫だって、相沢と水瀬のコンビよりは早く着くよ」
そう言って、俺の改心の笑み。
「全然フォローになってないわよっ! 一歩間違えば遅刻ってことじゃない!」
確かにその通りだとは思うけど……すごい失礼な意見だと思うぞ。
「まあ、のんびり行こう。人生まだまだ長いんだし」
「だからっ、なんでアンタはそんなにキャラ変わってるのよっ!?」
全速力で走りながら、俺の方を振り返って喋る美坂。相変わらず元気だな……。
「美坂に主役を譲ったんだ」
「いらないわよっ、こんなSSの主役なんかぁ!」
「いやあ、いいじゃないか。実に中途半端な展開で」
俺は今にも「はっはっは」とでも言いながら笑いそうな笑顔で言ってやった。
「はっはっは」
「言ってるじゃないのっ!!」
「そのツッコミが聞きたくて言ったんだ。よーし、今日も一日頑張るぞー!」
「なんであたしのツッコミを一日のカンフル剤にしてるのよ……」
美坂は「もう勘弁してよ……」とでも言いたげな表情だったが、走る速度は全く衰えていなかった。さすが陸上部キャプテンの水瀬の親友なだけはあるな。
「もう勘弁してよ……」
「って、なんでアンタが言ってるのよっ!?」
「ナイスツッコミ。よーし、これで明日も頑張れるぞー!」
「貯めるんじゃないわよっ!!」
以下エンドレス……仲のよろしいことで。
「えっ、終わり!? これで終わりなのっ!? まだ全然ラブラブシーンとか、さり気ない優しさを見せる北川くんに惚れなおすあたしとか、って、ちょっと!?」
「まあ、気にするなよ美坂。ほら、空がこんなに青いんだし」
「そうね……って、そんなので納得いくわけないでしょっ!!! このままじゃあたしはただのツッコミキャラで終わっちゃうじゃないのっ!!」
全身から「あたしは納得してないからねっ!」というオーラを出しながらも律儀に全速で走る美坂。
「あたしは納得――」
「それはもういいのよっ!!」
「グッジョブ!! よーし、これで明後日も――」
「しつこーいっ!!」
本当に終わり。
あー、やりすぎた……久しぶりに書いたと思ったらこんなのですか……。
一応危険な部分は結構削除したんですが、かなり卑怯ですね、うーん。オチも全然だし。
というか、無理矢理すぎてオチてないよなあ……(笑)
まあ、久しぶりのSSと言う事で勘弁してください。次はまた未定です(笑)
感想メールとかくれればやる気だすかなあ……と言っておきます(笑)