運命の扉 3
「レイヤのことかわいいってアンジュさん、思っているんでしょ。ならレイヤ、って呼んであげてください。」
そう言うと、セイは先に歩き出したシキを追って行った。
「どういうことですか?」
村から出てすぐ、セイはシキに尋ねた。シキは答えない。
その後ずっと無言で歩いていた。
どれほど歩いただろうか、遠目に本拠地が見えてきたときシキはぽつりと言った。
「分かってることは教えてあげる。でも、なぜ、とは聞かないでほしい。」
「・・・・・・分かりました。」
セイには納得できなかったが、それだと何も知れないことになる、と思い承知した。
「リコールの村はルカに襲われたわりにはたくさんの村民が生き残った。」
「そうらしいですね。」
「各家庭からね、一人ずつ、足止めするものを選んだんだ。それは子供だったり、老人だったり。ルカは、あの性格だからね、一人ずつ惨い殺し方で殺していった。」
「それで殺されたのが。」
「あの家から出されたのはエイト、だった。本当はエンジュさんの家からも一人、出されるはずだった。でも、彼女の旦那さんが知らせたことによって助かった、ってことで免除された。」
「その旦那さんは?」
「今でも生きて家族を養っている。エンジュさんやアンジュさんも農業をしているけど、あそこまでのんびりとしているのは旦那さんがいるからだよ。」
「アンジュさんの旦那さんは?」
「そのころにはもう亡くなっていたらしい。」
セイは沈黙した。
「・・・・・・罪悪感、を感じていたんですね。」
「アンジュさんにはもう二人、子供がいた。あの、赤ちゃんぐらいの子だ。その子を助けるため、エイトを捨てたんだ。でもその子も逃げる途中病で亡くなったらしい。」
「アンジュさんはなぜレイヤ君をわかっていてエイトって呼んだんでしょうね?」
「なぜっていう質問は受けない、そういったはずだよ。」
「すみません。」
シキの言葉にセイは謝った。これすらも答えてもらえない、と言うことはだ、なぜ、そのことをシキが知っているのか?と言う質問もできないだろう。
セイはそのことを聞くことができなかった。
「人は思ったより黒いものだよ。」
最後に本拠地に入るとき、そうポツリ、といったシキの言葉がセイの耳から離れなかった。
◇◆◇
アンジュは私と同じだった。
大切なものを救うため、大切なものを捨てた。
そのことは後悔していない。
ただ、たった一つ違うことは私は大切なものを捨てることによって大切なものを守れた、そして彼女は守れなかった、そういうことだ。
一歩間違えれば私もそうなっていたかもしれない。
いや、私も、一番大切なものを守りきれなかった私も同じ者、なのであろう。
◇◆◇
その夜、シキの部屋にナナミが来た。
「ありがとうございます。あの人たちを救ってくれて。」
開口一番そう言われ、シキは少々面食らってしまった。ただ、何となく今日のことだと分かった。
「なぜ君が知っているんだい?」
「セイが一人で行こうとしているときはこっそり付いて行っているんです。それで彼女たちのことを知って。セイが来ない日とかも気になって行ってたんです。今日も夕方暇だったから。」
「そうして黙ってついて行っているの?」
「だって、いつもべったりだと息が詰まるでしょ。長い時間がかかるときとかは、行きたい、って言うけどね。」
少し大人びた風にナナミは言う。
「そうなんだ。」
「エイトはうらんでない、あの子はあなたたちを守れて満足だった、そう、アンジュさんに言ったよね。それから、アル村に行ってみるといいって。エイト君はそこで生きているんでしょ?」
「二人に聞いたのか。あれが彼女たちが探しているエイト、だとは限らないけどね。あと、君に礼を言われることじゃない。」
「ううん。私はあの状態がいやだったけど、何も言えなかった。だからありがとうなの。」
ナナミはきれいに笑い、シキに抱きついた。
たとえ、あのエイトがアンジュの子供だったとしても、アンジュの、そしてエンジュの心は影を引きづったままだろう。
何の、解決にもなってないのかもしれない、それでも、彼らの止まった時が動けばいい、そう思った。
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