空回りする歯車


シキはエンジュの旦那であるルイを知っていた。
セイに連れられてここに来る途中の町で彼と会い、少し話した。
エイトがアル村にいる、ということを話すと、ルイは喜んでいた。
そのルイの顔には生々しいやけどの傷跡があった。
「これはあの時の?」
「そうだよ。エイトのことを教えてくれてありがとう。この行商が終わったらエイトを、恨んでいるかもしれないが迎えに行きたい、そう思う。」
「そうですか、では、連れがいるので。」
まさか、そのすぐ後、アンジュとエンジュの家に行く羽目になる、とは思わなかった。

◇◆◇

ルイとシキは偶然出会い、部屋代を折半するということで町の宿に一緒に泊まったのだった。
「行くあてはあるのか?」
ルイが尋ねると、シキは思案げな顔をした。
「今のところないね。」
ルイはシキのような子供が不遜な言葉遣いであっても気にしないだけの懐の深さがあった。
「でも珍しいな、このご時世にこんなところを子供が一人旅してるなんて。」
「そうかな?」
「ルカが来るかもしれないってときに。」
「ま、腕に自身はあるからね。それより君の話を聞かせてよ。僕の目的は見聞を広めるってことにあるんだから。」
「不遜だな。」
ルイはそう言って笑い、村の様子を話した。村の子供たちや畑の様子、アンジュの話、そして妻のエンジュ、そしてエイト、お腹の中にいる子供の話を延々と聞かされたのだった。

それは夜更けのことだった。なぜか外が騒がしい、そう感じてシキは起き上がった。
窓の外を見る。何もない。しかし何か胸騒ぎがする。
「どうした?」
ルイがシキが起き上がった気配を感じ問いかけてくる。
「いや、なにか・・・。」
シキは黙り込む。ルイも外を見るが何もない。
「何かいやなことでも思い出したか?」
ルイはやさしい調子で聞く。
「いや。」
シキは暗い目をしていた。
と、急に人が騒がしく動き出した。そんな気配があった。
「ルカが、ルカが来るぞー。」
走り回っている人々の一人が声を上げて叫ぶ。
「行こう。早くしないと馬が取られる。」
シキとルイは動き出した。

シキとルイが厩に到着するともうそこは荒らされていた。
「村に知らさなければ。」
ルイはあせる。
「なら、あそこから取っていこうか。」
シキが指差した向こうにはこの町一番の豪邸があった。

シキに指差された豪邸の主は、馬に乗せたたくさんのにと逃げ出そうとしていたところを、何ものかの襲撃に合い、一匹を残してすべての馬を逃がされたと言う。
一匹は哀れみ、だったのであろう。他にも馬をたくさん持っているところは襲撃に合い、たくさんの馬を失った。
それによって助かった命は幾分か増えたのだった。

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