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「星華って、時々そういうのするよね。」 「どういうの?」 「ほら、そうやって左手の甲で口元覆うでしょ。癖?」 「ああ、・・・そうね、おまじない、かな?」 「・・・似合わないんだけど。」 「何よ、いーじゃない別に!何か落ち着くのよ!」 あの日左手にかけられた魔法。効果は絶大。12時の鐘はまだ、鳴らない。 ++ Memory ++ 王子様なんか要らない。 だってもう子供じゃないんだし。 女はずっと、現実的だから。 顔、文句なしに可愛い。(というより美人の類ね) 体、小柄だけどバランスが取れてる。(ナイスバディっていって過言じゃないでしょ?) 性格、好きな人のためなら変えなくも無いわ。(今のままのあたしが好きな人を探すけど) 家事、は、余り得意とはいえないんだけど、(最近の男は家事が出来てなんぼだと思うの) トータルで言えばこんなにも完璧なあたしの周りにはでも、ろくな男がいない。とてもじゃないけど釣り合わないようなのばっかりで。 小学校の教師なんかやっているから、出会いは当然限られてくるし、まあ、職場の人ばっかりよね。 生徒の成長を待つわけにも行かないから、自然、同僚ってことになるかもしれないんだけど・・・。これがまったく当たりナシ。 ちょっとオカシイフェミニズム男とか、ちょっとオカシイ貧弱男、ちょっとオカシイ年齢不詳上司に、・・・ちょっとオカシイ脳みそ筋肉男。 小さなときから気が付けばあたしの後ろをついて来て、正直ウザイとこもあったりして。 あたしのことを女神みたいに思っているのは当然としても、あたしの言うことは絶対だし、気は利かないけど、言うことはきいてくれて。 我侭を言えば喜ぶし、辛らつな言葉(自覚はあるの、一応)にもめげることは無くて、もしやそういう趣味なのかと思ったこともあったけど、どう考えたって、(そりゃ女の子には基本的に優しいけど)そんな態度はあたしにだけしてる。 周りの人にはそんなのが結構見かねるみたいで、(ご親切にも!)たまにうるさい事を言ってくる奴もいる。例えば、幼馴染とか。 (お前なー、いーかげん禄をどうにかしろ。総合的に見れば悪い物件じゃないぜ?まあ、俺には遠く及ばねーけどよ!・・・おい!話はまだ終わってないっつの!ようはな、あいつ以上にお前の言うこときく奴なんか過去にも未来にもいねえんだから、そろそろ良い目を見させてやってもいいんじゃないのかってことだよ!) そんなの言われなくたって分かってるわよ。禄以上の人なんて、(別な意味で)そうそういやしないってことくらいは。 でも、応じるわけにはいかないのよ。 ずっと心の中にいる、あの人以外、いらないの。 そっと唇に左手の甲を寄せる。左手の魔法。遠い記憶。 古い映画のワンシーン。タイトルも内容も覚えていなくて。幼い子供には、理解できなかったから。でも、そのシーンは余りにも綺麗で。子供心に、憧れを植え付けた。 だから一緒に見ていた相手と、春の野原でごっこ遊びをした。 落ちていた木の枝が、長さもぴったりあって、王家に伝わる剣となった。 あたしはひざまづいて俯いた相手に向かい合って、剣を肩に差し出した。 あたしは王家の美しい姫君。目の前には幾度となく自分を守ってくれた、りりしい若者。 「そなたを、きしににんめいします。」 「ありがたき、しあわせ。」 「そなたは、こんごともわたくしをまもりなさい。」 「おおせのままに。」 そして、あたしの左手を取ると、そっと唇を落とした。 「・・・ちかって。わがうるわしのひめぎみ。」 そう言って、あたしを見てにっこりと笑って。 きっと赤くなっていたはずよ、あたしの顔。だって、とっても熱くて、口元の汗を、左手で、ぬぐった―――。 風に揺れたのは感情。その幼い発芽。瞬間に魔法のかかった左手。消えない面影。 その日から、あたしにはナイトがいるの。 だから王子様なんか要らないわ。 女はもっと、現実的なの。 生っ白い王子様じゃ、剣をとってあたしを守れやしないでしょ? 豪華な暮らしを続けたら、お腹の突き出た王様に、なるのがオチってもんじゃない。 ナイトがかけた魔法。 覚める気なんかないの。 姫君の権力で、国中の時計を壊してやるわ。 それで絶対12時なんかならないじゃない? だから禄、あんたに応じるわけにはいかないのよ。 だってあんたは、すっかり忘れてしまっているじゃない? あの日のナイトのあんた位、かっこよくなれたらその時は―――――――― その時こそ、時計は捨ててしまってあげる。 終わり |