『 20××年 東京 数年前、東京を起点にクラッカーたちによる電磁波戦争が勃発。個人データの消失、改ざん、売買などが起こった。それは一気に日本全土に広がり、しだいに日本は荒廃していった。データの消失により、諸外国からの交易はいやおうなしに途絶え、それにより事態は更に悪化、電磁波戦争を引き起こした張本人であるクラッカー帝王が、日本を支配し、それにより人々は食べ物を得ることでさえ困難な状況に陥ってしまっていた。 「『君の女はいただいた、返してほしくば、私のところまでこい。帝王』ってなんだよこれ。しかも、手紙だし…。クラッカーならそれらしくしろっつーの。」 そう叫ぶと、無造作にその手紙をテーブルの上に放り投げ、ソファーに寝そべった。 彼はこの世界を元に戻そうと、活動をしている ―――自分さえ良ければそれで良いという性格からして本当に元に戻そうと考えているかはさておき――― 一人の戦士とでも言っておこうか、彼の名は禄。 「女…?」 テーブルの上の手紙に目が行く……。 心当たりがないわけではない、何人か自分の脳裏に浮かぶ女がいる。とはいえ、その女達はすべて一晩限りの関係。自分の女だとはっきり言えるような相手ではない。 はっきりそう言えるような相手はいない…。 いな…い……? 「まさか!?」 そう呟くと、勢いよくソファーから起き上がり、ハンガーにかかっていたコートを剥ぎ取り部屋から飛び出していった。 禄が向かった先は、コンピュータ戦争に対策をこうじるどころか帝王に逆らえず力をかしている政府に敵対する、反政府組織「FLASH」。そのFLASHがある廃工場の一角。 彼女に始めて会った時ナンパをしたことはしたのだが、彼女には自分などまったく相手にされておらず、勿論、自分の相手といえるような関係ではないのだが、女…といえば、彼女―――FLASHのリーダーである星華―――しか思い浮かばない…。 「バーーーーン」 激しい音がして、FLASHのサブリーダーである怜は重い頭を上げた。今まで手入れでもしていたのだろうか、彼が座っているソファーの前のテーブルには、銃の手入れ用の道具が散乱し、手には銃を持っている。 「おまえはドアぐらい静かに開けられないのか?」 怒気を孕んだ低い声で、禄に向かって言った。 「おい、あいついるか?」 「あいつねぇ、どこのあいつかねぇぇぇ」 怜の声のトーンが徐々に上がり、銃口が禄に向けられた。 「おまえのせいだろ、自称戦士さん」 一発の銃声が禄の足元で響いた。 「手荒い歓迎だなぁ、ただ聞いただけだろ、あいつが居るかって」 その銃声に身じろぎもせず、答える。 「おまえ以外に誰がうちのリーダー攫うって言うんだよ!!これから、お前のところに向かおうと思ってたんだ、ちょうど良かったよ」 怜はソファーから立ち上がると、もう一度禄に銃口を向ける。 「ちっ、やっぱ星華だったか。怜。お前んとこのリーダーな、俺じゃなくて、帝王に攫われたんだよ」 「そんな嘘通用すると思ってんのか?」 銃口は禄の心臓に狙いをさだめている。 「嘘ねぇ、嘘だと思うなら調べてみることだな。俺の女に間違われて攫われたみたいだから、俺にも責任がある。俺は星華を助けに行ってくる。じゃあ、またな」 そう言うと禄は、一目もくれずに駆け出していった。 』 「この後、星華が囚われている帝王の元へ乗り込んで、彼女を助けるって感じになるんですけど、どうですか…?」 そう言って、THE☆集A社文芸部から頼まれた仕事のあらすじをざっと、樹崎渡は語った。言ってみればこれは、敏腕編集長としてしられている伊井森編集長への挑戦だった。最近は頼まれる仕事も多くなり、書きたい物も書かせてもらえるようになった。しかし、だからこそこれは、挑戦なのだ。 『自分がどうしても書きたいものを書いて、認めてもらう』と言う。 樹崎自身いちふじょし一腐女子として、やおいというものが大好きだ、これは断言できる。編集長から頼まれた今までのやおい小説の仕事だって、勿論好きで、面白くて書いていた。 だけれども、自分でもどうしてそんなことを感じているのかよくわからないのだが、樹崎の胸の奥深くでなにかが叫ぶのだ。「カッコイイラブロマンスを書いてよーーーーわたりさーーーーーん。」と。本当に何がなんだかよくわからない…だけれど、書かないことにはこの気持ちがおさまりそうもなく、こうして、伊井森編集長に挑戦してしまっていた。 「あのー編集長?」 恐る恐る編集長の顔を除きこむ。 「お姫様を助ける王子って王道じゃないですか、それを現代風にアレンジしてみたんです」 そして、更に迫ってみる。 「うーーーーん、でもこれはボツで」 さすが敏腕と言われるだけのことはある。伊井森編集長は作家にとって『最大の敵』ともとられるその言葉を満面の笑み付きで樹崎に返したのだ。 「えっ!?」 予想外に早い返答に、勿論、こちらは固まり寸前・・・。 「ちょっとはね、良いと思うんだけど…、これ最初のほうダーク●ンジェルのパクリですよねぇ。それにちゃんと最後まで書いてないじゃないですかぁ、そうゆうのはちょっと…伊井森的に頂けないかなぁって、」 「伊井森的に…だめ、ですか…?」 固まりそうになる体から、かろうじて言葉を搾り出す。 「うん。だから、ボツで」 さすが敏腕、駄目出しも可愛いキャラボイスと笑顔がついていた。 「でも困ったなぁ、樹崎先生が落ちとなると代わりの誰かをいれないと……あっ!!ぽえ夢先生!!」 さっきからことの一部始終を、一歩下がって見守っていた売れっ子の星ぽえ夢は不意に伊井森編集長に声を掛けられた。 「なんですか……?」 伊井森編集長の期待に弾んだ声を聞くなり、更に一歩下がるような態勢になる。 「今回樹崎先生の原稿がボツなんで、「パテレイ」いきましょうよぉーーーーー」 語尾にハートマークいくつも付くような、弾み声をぽえ夢に向ける。 「げっ、ちょっと、まっ…」 ぽえ夢が反論を繰り出す前に、伊井森編集長はデスクから立ち上がり、彼女の首根っこをつかんで、打ち合わせ室に向かって行った。 「樹崎先生、次はちゃんとしたのお願いしますねぇ」 とどめの一言もやはり、笑顔…。 「樹崎てめぇ、おまえがちゃんとしたの書かねぇから、おれがとばっちりくうんじゃねぇかーーーーーーーーーーー!!」 そして、その日の編集部には、駄目出しされた部分をネタ帳に記入する樹崎渡の姿と、打ち合わせ室から断末魔の悲鳴が聞こえていた。 樹崎渡の挑戦は次回へつづく。 |