くらくらする。 寒気もある。 (ヤバイ、かな…) 正月三日、バイトをしている神社も人出は下り坂。 ほっとしたところに疲れが出たのかもしれない。 次第にたっているのも辛くなってきて、少し休もうと席を外して本殿からの外渡り廊下を歩いていると、ぐるん、と世界が回った。 あ、倒れるな。思った瞬間、しっかりと背中を支えられた。 「遥くん!大丈夫ですか!?」 そこに居たのは、思いもかけない人で。 「真、さん?どうして…」なんてバカなことを口走った。 「初詣です。ああ、熱がある。そういう時は休まなきゃダメじゃ無いですか!怒りますよ!?責任者はどこにいるんです?」 「多分事務室に…」びっくりしたのは、めったに見られない真さんのすごい剣幕。 問われるままに考えもせずに答えていた。 「あ、いいです。ちょうどカモが。そこの暇そうなバイト君、責任者に遥くんが高熱のため早退する旨伝えておいてくれませんか?よもやバイトが一人早退した位で困るような迂闊な体制でやっている訳でもないでしょうし。大体神社関係者は正月稼ぎ捲ってるんだから豊かな心でそれくらい許可して当然ですよね?あ、そうそう遥くんの着替えと荷物も持ってきてもらえます?」 「ええ!?オレがっすか!?」 「君以外の誰に向かって僕が喋ってるように見えるんです?分かったらとっとと行って来て下さい。それとも脅されて動くのがお好きですか?」 僕はこの時のことをぼんやりとしか覚えていないけど、後で山本君が「マジ怖かったっすよ!笑顔なのに目が笑ってないんすよ!言うこと聞かざるを得ないんっすよー!」 なんて言っていた。 大げさだよ、ちっとも怖くなんかないのにな、って言うと、「そりゃ、遥さんが特別だからじゃないっすか?」なんて返されて、なんだか恥ずかしかった。 結局僕は神主装束のまま真さんの車の中にいる時点で記憶を戻した。 「ご自宅でいいですか?」真さんの言葉に…僕は首を横に振った。 まだお年始のお客が来て落ち着かないから。 こんな時間に帰ったら親が心配するから。 …そんなの建前で。 本音は、真さんと居たいから。 真さんは「じゃあ僕の家になりますけど」と少し嬉しそうに連れていってくれた。 家に着くと客間で取り合えず着替えをして、ストーブを点けた真さんの部屋で真さんの布団に寝かせてもらって。 「寒く無いですか?」って心配そうに聞かれて、我儘のつもりで「寒いです」と返すとそれならって、布団に入り込んで僕のこと抱き締めてくれた。 「人肌がいいって言いますしね」なんて笑って。 顔を上げられない僕に「苦しくないですか?」って尋ねてくるから「大丈夫です」なんて言ったけど、こんなにも真さんに包まれて、おかしくなる程胸が苦しかった。 「ごめんなさい…きっと僕のせいですよね…年越しの…」突然の耳元での沈んだ声。 「ち、違います!僕の体調管理がダメだったから…!…でももしそのおかげで風邪引いたのなら、僕真さんに感謝しなきゃ…そのお陰で今こうしていられるんだもん…」慌てて言ったけど、それは本当の気持ちだった。 心配されて、抱き締められて幸せな気持ちになる。 でも真さんはもっとぎゅっと僕を抱き締めると苦しげに言った。 「そんなこと言わないで下さい…僕が悪いのだとしたら、僕のこと許さないで下さい。神社で君が倒れたとき、心臓が止まりそうになった。君を傷つけるものは、たとえ自分だって許せないんです」 「真、さん…」 痛い程真剣な声。 抱き締める腕は少し震えていて。 「…大丈夫です。約束、したでしょう?僕は貴方を置いてなんてどこにも行きませんから。それでも自分が許せないなら、僕がいいって言うまで抱き締めていて下さい。」 震える腕も。 切ない声も。 臆病な貴方に。 抱き締められることで包んであげられるのなら。 どんなに貴方のことが好きか、触れ合う体温で伝えられたなら…。 僕は本当に、真さんのことが好きなのだから…。 「そういえば、お参りはちゃんとできたんですか?」思いついて言う。 「まだですけど、メインは遥くんの着物姿を見ることでしたから別に…」 「し、真さん…」さらりと言われた言葉に、恥ずかしくて熱が上がりそうになる。 「やはりよく似合ってましたよ。神前もいいかなって思いましたね−」 「何がです?」 「僕達の結婚式です」 「え、僕白無垢ですか?」 「僕が着たとこ見たいですか?」 「意外と似合うかも」 「遥くん〜?でもやっぱり教会かな。タキシードでいいですけど、ブーケは持ってもらいますよ。僕が作りたいんです。遥くんのは。誓いを込めて作りますから。」 「嬉しいけど…それじゃ投げられ無いです」 「君って人は…いいです、もう寝ましょう。一眠りしたら送ってあげます」 髪を撫でられて気持ち良くて。 聞きながら眠りへ… うとうとと思う。 早く大人になりたいと。 貴方の腕の中に居て、それ以外に帰る場所なんて。 真さんは僕を傷つけるものを許さないと言ったけど。 僕が真さんに対してそう思っちゃいけない理由なんかないから。 真さんを置いて家に帰る自分を遣る瀬無く思うのも無理はないでしょう? だから。 ―――貴方と生きて行くことを決めた。 |