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ここは、とある町にある冒険者の酒場である。 朝食を取るには少し遅めの時間帯のせいか、人気の少ない店内ではいくつかの冒険者のグループ達が暇そうにそれぞれのテーブルについて他愛のない会話に花をさかせている。 「暇ですね〜」 「そうね」 「何かいい仕事ないですかねぇ」 「ないからこうしてここにいるんでしょ」 一つのテーブルに向かい合う形で座りながら1組の男女が食後のお茶を片手に一息ついている。 彼らは同じパーティーで、一緒に冒険をする仲間同士で、男のほうをロークといい、女をセシアという。 「シーナさん、遅いですね〜。いったいどこまで行ったんでしょう?」 「どうせまた、迷子のグラスランナーどもを探しにでも行ってんでしょ。しばらく帰ってこないわよ。それにしても、うるさいのがいないと静かでいいわね〜」 彼らのパーティーは本来なら人間5人、グラスランナー2人、ハーフエルフが1人という大所帯で、これは冒険者のグループとしても珍しい人数だといえる。 だが、本来ならうるさいくらい賑やか食卓も今日は何故かロークとセシアの2人きりという奇妙な組み合わせだ。 ほかのメンバーはともかく几帳面なシーナの姿が見えないのはおかしい・・・そう思っての発言だったのだが、セシアにはあまり興味のない話題だったらしい。 そういえば、いつも必要以上にうるさいグラスランナー(約一名)の姿も朝から見かけなかった。 そう考えると、セシアの言っていることは当たっているのかもしれない。 ロークがそんなふうに頭を悩ませていると、食後のお茶を楽しんでいたセシアが思い出したように口を開く。 「うるさいのといえば・・・今日はセイカはどうしたのよ?あんたが単品で朝食取ってるなんて珍しいんじゃない?」 「・・・・・セイカさんなら、二日酔いでまだ寝てますよ。一応朝食にも誘ったんですけど、気持ち悪いから食べたくないって・・・」 「ぷっ、ざま〜ないわね」 「そんな!だいたい、セシアさんがいけないんですよ!いくらいつもより多めに依頼量が入ったからって、酔った勢いとはいえ、昨日の夜にセイカさんと一気飲み勝負なんかするから!」 「そんなこと言ったって、むこうから仕掛けてきたんだからしょうがないじゃない」 「断ってくれてもいいじゃないですか。セイカさんがお酒弱いこと、セシアさんも知ってるでしょう!!」 「うっさいな〜、だいたい弱いくせに勝負しようなんていうセイカが悪いんじゃん。そんなにセイカのことが心配ならセイカの部屋で看病でもなんでもしてくれば〜」 「僕だってできることならそうしたいですよ!でも、そう言ったらセイカさんが・・・」 「セイカがなによ?」 「ブラウニーの方がまだ役に立つって〜!!」 「つくづく不憫なヤツ」 机につっぷして『うわ〜ん』と盛大に泣き始めたロークに、セシアの声はあくまでも冷たかった。 そんなことを言い合っていると、どこからともなく声が・・・。 「お2人とも、暇なんですか?ひまなんですね?」 みると、2人が座っているテーブルの横に大きな帽子をかぶった小柄な少年が一人立っている。 年の頃は12〜13歳といったところか、まっすぐ伸びた銀髪を肩の上で綺麗に切りそろえ、神官のような服装をしていた。 全体的に色素が薄く、すけるように真っ白な肌と、少年らしい大きな瞳が印象的だった。 「はぁ」 およそ、酒場とは不似合いな少年の出現に当然の事ながら2人は困惑した。 本来酒場とは、冒険者達が依頼や情報を求めて集まる場所だ。たまに依頼主が自ら冒険者に依頼を頼みにくる場合もあるが年配のものがほとんどなため、この少年がそうだとは思いにくい。 「見たところそこそこの冒険者とお見受けします。よろしければ、僕の依頼を受けてくれませんか」 けれど、2人の予想に反して、少年は依頼者だったらしい。 こんな小さな子供が昼間とはいえ酒場に直接依頼に来るとはなんとも奇妙な話だ。セシアは胡散臭いという表情を隠しもせずに少年の顔を見る。 「いいですけど」 「本当ですか!」 が、なにを思ったか(何も考えていないのか)ロークはあっさりと依頼を了承する。 もちろん、依頼人である子供は大喜びだ。 「ちょっと待て、こういう時は依頼の内容と値段を交渉してから決めるのが普通だろ」 「え〜、こんな小さい子からお金取るんですか〜?いいじゃないですか、受けてあげましょ〜よ」 「じゃあ、私の分のお金はあんた持ちね」 セシアはロークにちろりと冷たい視線を向けると、容赦のない一言を言い放つ。 特別金に困っているわけでもなかったが、それでもただ働きというのは彼女のプライドが許さなかったし、わずかながら警戒心もあった。 「えっ・・・・・・。いいですよ、セイカさん貯金から出しますから」 出しちゃうんだ・・・。 だが、それで諦めると思ったロークは一瞬躊躇したのちにあっさりとセシアの要求を飲み込んでしまった。 もちろん、セシアとしては胡散臭いこの依頼を諦めさせる為にわざと言ったのだが、どうやら頭の鈍いロークには通用しなかったらしい。 まぁ、金さえもらえるなら別にいいか。どうせ暇を持て余していたところだ。それに、もし本当に嫌な依頼だったら後で断ればいい。セシアは自分の中でそう結論付けると、大きなため息を一つついて、目の前の少年に開いてる席に座るように促した。 少年は自分のことを『パテット』と名乗った。 驚いたことに日は浅いけれど冒険者だと言い、今はこことは別の宿屋に仲間と一緒に泊まっているらしい。 どんな経緯があったか知れないが、こんな小さな子供と一緒に冒険をしている者達にセシアは心の中でこっそり同情した。 「で、依頼の内容は?」 「あの、僕はレイのことが大好きなんです」 「はぁ?」 セシアに促され、頬を真っ赤に染めながらもじもじと恥ずかしそうにパテットはしゃべりだす。 当然といえば当然だが、説明も何もなくいきなり始まった愛の告白に2人はついていくことができずにしばし呆然とする。 「恋話ですか、いいですよねぇ、恋は」 「分かりますかぁ〜!?」 「えぇ、もちろんですよ!!」 だが、さすがと言うかなんと言うか・・・ロークの立ち直りは早かった。 いまだ事態を飲み込めずに呆然としているセシアをおいて、和気あいあいとパテットとの恋話に花を咲かせている。 もちろん、ロークの場合相手はあのセイカのことだし、パテットの言っているレイという名の想い人もなかなか個性的な人物のようだ。 しかも、話を聞いているとどうやらパテットの一方的な片思いのように聞こえる。 お互いに、一方通行な片思いの相手について熱く語りあっている図は、はたから見ると非常に奇妙な光景だった。 これは、断ったほうが無難かな。恋愛ごとなんて後で厄介なことになったら面倒だし。 呆れながらも2人の会話を聞いていたセシアがそう思い始めた頃・・・。 「でも、出会ってもうずいぶん経つのにレイってば未だに僕のこと子供扱いだし、そろそろステップアップしたいなぁ・・・って」 パテットが両方の人差し指をくるくると回しながら、照れくさそうにもじもじと言った。 ステップアップって・・・。 その光景を見た2人が、思わずかわいいっと思ったかどうかは知らないが、 「分かった。その依頼引き受けましょう」 「ほんとですか〜!」 見事、依頼は成立した。 「これからよろしくお願いしまっす!」 パテットは嬉しそうにそう言うと立ち上がり、感謝の意味をこめてか2人に向かって勢いよくお辞儀をした。 その拍子に、被っていた大きめの帽子がポロリと落ちて机の上に転がった。 ロークは何気なくその帽子を拾い上げ、パテットに渡そうとして一瞬息を呑みこんだ。 サラサラの髪がゆれ、今まで隠れて見えなかった少年の耳が姿を表す。 それは、自分のものとはまったく異なり、大きく尖っていた。 「エルフ?」 それが、2人の冒険者と銀髪の少年とのちょっと変わった出会いだった―――。 |