児童会長の発案により、新ルールの導入された玉入れ。各組それぞれの助っ人が決まったのを見て取り、会長は手元のストップウオッチを確認した。まだ制限時間は1分弱残っている。思惑通りに、林檎の父上と骨董品屋が助っ人に入った。今のところリードしている黄色組には案の定、担当の諏訪先生が助っ人に入ったし、これで差が縮まって混戦を楽しめると言うものだ。 思った通りにアッサリと決まってしまい、ややつまらないと思いながらも、放送担当の相田貴行が各組の助っ人とその身長を発表し終わるのを待った。 少し早いが助っ人は決まったことだし、競技に移らせようと、会長が再びマイクに手を掛けたところ、グランドの向こう、黄色組の応援席からグランドを横切り駆け寄ってくる小さな影が見えた。 なんだろうと興味を惹かれ見ていると、その影は真っ直ぐ役員テントに向かってくる。そこまで来るとその顔も判別できた。見覚えがある。確か1年の生徒で・・・錦木副会長の弟だったはずだ。 その1年――錦木多良葉――は役員テントの中でも滅多に人が近付かない、会長と学園長用のテントの前まで一気に走り抜け、目を丸くして(当社比)その様子を見ていた学園長の前でぴたりと止まった。 当然、会長も、テントにいた役員たちも、何事かと注目する。人々が固唾を飲んで見守る中、その1年生はかわいらしく小首をかしげ、学園長を見上げながら、恐ろしいことを口にした。 「せんせえ、きいろぐみのすけっとしてくれない?」 その瞬間、世界は凍りついた。 「・・・・・・・・・・・・た、多良――。」 「あははははははははははははは!!」 なんとか衝撃から立ち直り、無難に事を収めようとする学園長の声を、隣にいた会長の笑い声(爆笑)が掻き消した。その声と姿に、やっと硬直から抜け出したところだった役員たちがまた固まる。 「か、会長が、声を上げて笑っている!」 「笑えたんだ!笑えたんだ!冷笑とか失笑以外にも出来たんだ!!」 「何か起きるぞ!何か目覚めるに違いない!」 「怖いよー、おかーさーん!」 一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図となったテント内。それを静めたのもやはり会長だった。 「貴行、マイク。」 「ははは、はいぃっ!!」 『・・・競技を始める前に、黄色組の助っ人の変更を知らせる。黄色組の助っ人は諏訪先生に代わり・・・・・・学園長が務める!』 大地が揺れた。 その時の場内の様は言い表すことが出来ない・・・。赤、青、黄色と、敵味方を問わず、子供たちはなぜか身構えた。観戦に来ていたご父兄の方々も、ある人は息を飲み、ある人は固まり、そしてある人は荷物をまとめだし、そしてなぜかカメラを構える者もいた。・・・中にはまったく気付いていない幸せな人々もいたが。 「こーちゃん、学園長だってー。」 「えー、でもやっぱり玉入れといったらライガ君でしょ。ここは赤組の桃ちゃんかな〜。」 「でも青組みの人もかなり大きいわよ?」 「とりあえず、手分けして写真とろうね!」 「もちろん!」 「そんな、僕の立場は〜〜!?」 せっかく星華さんにいいところを見せようと思ったのに。そう背中が語っていた。でも、相手が学園長ではおおっぴらに不満を言うことも出来ない。そんな風にでっかい肩を丸める諏訪先生の後ろで、玉入れに出場する為に集まっていた黄色組の生徒たちが円陣を組んでいた。 「が、学園長って、あれだろ?アノ学園長だろ?」 「人を睨み殺せるんだろ!?」 「そんなわけあるか!でも逆らった生徒を退学にしたって噂聞いた・・・。」 「俺は気に入らない教師の給料を70%減らしたって・・・。」 「・・・・・・と、とにかく、みんな機嫌を損ねないようにしろ!」 「命が惜しかったら負けても絶対文句言ったりするなよ!」 『おう!!!!!』 この瞬間、黄色組の心は最も固く結びつき、一つとなった・・・。 「城島・・・、貴様、何を考えている・・・。」 「発表してしまったものは仕方ありません。良いではないですか、生徒との交流も学園長の務め。ほら、あの1年が呼んでいますよ。」 扇子の先で示された方に顔を向けると、テントから少し離れたところでその1年が大きく手を振っていた。それを見て学園長は大きなため息を一つつき、苦々しげに児童会長を見てから、仕方なく立ち上がった。 続々と選手入場。林檎応援団長の指揮の元、完璧な布陣を敷く赤組。助っ人を中心に分散する青組み。そして、・・・円の片隅で丸くなって固まる黄色組。 そこへ役員テントから近付いて来るすらりとした人影。やや長めの髪と、秋らしい茶のスーツの裾を風になびかせながら歩み寄るのは、まぎれもなくこの学園のトップ、学園長様!足元にちまいのがまとわり付いているのはご愛嬌。 学園長は黄色組の玉入れの円の中に入ったところで立ち止まり、腕を組んだ。眉間の皺が通常より2、3本増えているように見えるのは気のせいではないだろう。 それを見て、さらに怯えて小さく固まる黄色組の面々。反対に赤組と青組みは準備体勢に入っている。 審判が競技用ピストルを構え、一段と選手たちの緊張が高まった。その時・・・。 玉入れの競技に必要不可欠である籠、その3mはあろうかという竿の先にくくりつけられた籠を見ていた学園長が、ぼそりと何かつぶやいた。 「・・・・・・頭が高い。」 『なんとー!学園長の一言で支柱(大抵は竹製である)が弓なりに曲がったー!?控えました!学園長に向かって頭を下げました!O川学園長の権力は無機物にまで通じるのかー!!恐るべしO川学園長ぉーー!!』 「なんじゃそりゃー!?」 「物質の法則捻じ曲げるんじゃねー!」 どよめきが場内を覆った。赤と青の選手の中には、玉を握り締めたまま止まってしまっている者もいる。だが、一番慌てたのは誰であろう、黄色組の選手たちであった。 「お、おい!どーなってんだよ!?」 「知るか!とりあえず玉入れろ!おい、誰か籠上向けて抑えとけ!!」 ちなみに黄色組の支柱を支えていた係りは半泣きだった。 その様子を目の当たりにした役員テント内部では、またも会長が(腹を抱えて)笑っていた(大爆笑)。 「構わん。ぞ、続行しろ。」 『続行です!このまま続行の指示が出ましたー!』 最早言葉もない役員たち。そんな中、職務に忠実な(報道魂)相田だけが正気を保ち、マイクを握り締めていた。 会長の指示が全児童に伝わり、白熱の玉入れは再開された。 そして二度目の銃声が鳴り響いた。 『みなさん手を下ろしてください。終了でーす。これは数えるまでもないでしょう、黄色組、明らかに異常です。籠が山盛りになっています。みっしりです。玉入れの籠にあるまじき状態です。』 「そんなんありかー!?」 「ふざけんなー!!」 赤、青サイドから思わず沸き起こるブーイングの嵐。そりゃそうでしょう。それを受けて、役員テントでは協議が行われた様子。手にマイクを持った放送担当者の言葉を、その場にいた全員が、固唾を飲んで待ちます。 『え〜、役員の協議の(会長が意見を聞いてみた)結果、この度のハプニングは助っ人の特別ルールが適応されるということで、結果に変わりありません。黄色組みに10点が入りま〜す』 「「「「「そんなー!」」」」」 赤、青ともに強力な助っ人がいたとは言え、全員総出で詰め込んだ黄色に敵うわけもなく、この自然界の法則を無視した結末に、方々から悲鳴のような声が上がった。 「こんな珍しいものが拝めるとは。助っ人・・・・・・大成功だったな。」 しかし会長はいたくご満悦。そんな中、学園長は終始腕組みをしたまま、ラインギリギリのところでことの成り行きを見守っておりましたとさ。(不機嫌オーラ)まあ、スーツ(イタリア製との噂)に革靴で参加するのも微妙ではある。本気で玉入れに参加してたらもっと微妙だが・・・。 そしてテントに戻ってこられた学園長を会長は笑顔(?)で出迎えました。 「いやいや、お疲れ様でした学園長(笑)」 「・・・・・・・・」 「いやー、おもしろかった。今年からこれは是非恒例にしましょう(笑)」 「・・・・・・・・」 その後いつも以上に不機嫌そうな顔でパイプ椅子に座る学園長をみて、会長は何度も顔をそむけて声なき爆笑を繰り返した。そしてその二人を遠巻きに見る役員たちの姿・・・その心は、『触らぬ神に祟り無し』 そしてそこには、跳ね回る多良葉と、その頭を撫でる相田の姿もあったそうな。 「でかした、多良ちゃん!」 「わーい、せんせえありがとね!」 笑顔満面の多良葉に益々眉間の皺を深くする学園長。それを見て益々笑いが深くなる会長。なんだか少しお可哀想な学園長。ですがこの人の哀れさには敵いますまい。 「僕の立場は〜!?星華さーん!!」 純真な生徒たちの飾らない言葉に散々傷付けられ、挙句助っ人もいつのまにかお役御免となってしまった諏訪先生。まあ、それも個性というものです。 黄色組が勝ったのはせめてもの救いでしょ? そんな風に、一部で男の純情(笑)玩びながら、運動会は続いていく? |