≪ ておの災難 =その2= ≫



 午後3時を回ったある日の昼下がり。いつも通りに客の居ない骨董品店の奥の座敷で、店主(代理)の帝王(ておと読め。)は畳の上に体を横たえ、表の通りを眺めながらまどろんでいた。
固定客の多い撰各亭では、主な収入はそういった顧客の注文品から得ており、店舗の営業はかなりいい加減に行われている。よって店主が日がな一日寝転んでいたところで然したる問題もないのだ。
こんなぐうたらな日々が続くことを信じて、店主(代理)は今日もやる気なしオーラ全開で昼寝にいそしんでいる。ところが最近そんな店主(代理)を悩ませるものがあった。
・・・さっきから店先に花が飛んでいる。気のせいかピンク色の物体も見えるような気がする・・・。気のせいだ。気のせいに決まっている。骨董品店の店先に、フリルのついた赤やピンクの物体がある訳がない。不釣合いだ。よって、先ほどからたたきの向こうをうろちょろしているものも幻覚だ。じゃなきゃ妖精だ。座敷童だ。コロポックルだ。
 帝王は徐々に迫り来る現実から目を背けようと、六畳間で寝返りを打った。その背に子供特有の甲高い声が掛けられる。
「「お兄ぃちゃ〜ん。」」
 ・・・幻聴だ。じゃなきゃ向かいの家の子供の声に違いない。骨董品やにガキが遊びに来るはずがない。よって今の声は俺に掛けられたものではない。
「「お兄ちゃんってば〜。」」
 今度は声と共に肩を揺すられた。小さな子供のすることだから大したことではない、とは言え徐々に揺れは激しくなっていく。そしてとうとう、声にも苛立ちが混ざり始めた。
「「ておさぁん〜〜〜〜!」」
「・・・っだあぁぁぁぁぁ!うっっさいんじゃ、ボケー!!」
 耐え切れずに飛び起きた帝王を前に、その子供たちは怯えた様子もなく、それどころかきゃっきゃとはしゃいでいる。(目つきも人相も悪いという自覚はあるらしい)
「わーい、起きた〜。」
「ておさん、遊んで遊んで〜。」
「よし、帰れ。」
「「ええ〜。」」
 最近店によく現れる子供たちは、綺麗に甲高い声をハモらせた。何故に気だるい午後の一時にガキのお守りなんぞせねばならなんのか。一円にもならないどころか明らかに何かがマイナスだ。適当に手を振ってまた寝転ぶ。
「いっしょにあそぼうよ〜。ももね〜、今日ね〜、学校のとしょかんでね〜、ご本かりたの〜。」
 何故文節一つ一つを伸ばす!?何故全ての語尾にハートマークが飛ぶ!?
「ておさんも〜、いっしょにご本読も〜よ〜。」
「ももちゃんなんのご本かりたの〜?」
 なんだってこのガキどもは人の神経逆撫でするような話し方ばかりするんだ。おまけになんで周囲に花が飛んでるように見えるんだ・・・。
「ておさんも〜、こっちきて〜。」
そうこうするうちにそのガキどもはしっかり座敷に上がりこみ、二人で本を読む体勢に入った。女の子の方が自分ともう一人(驚いたことに男らしい)の間のスペースをぽふぽふと叩いている。そこに入って行けというのか?
「もうええからはよ帰れや。わいは仕事せなアカンねん。」
 こころなし声に力が入らない。存在だけでここまでダメージを食らうとは。おそるべし、ジャリども・・・。
「いつもおしごとしてないじゃないですかぁ。」
「そーだよ〜。いつもねてるじかんでしょ〜?」
「わかっとんなら邪魔すんなあ!・・・・・・なんでそんなこと知っとんねん?」
「見てたもんね〜。」
「ね〜。」
 いつの間に。いや、どこからどこまで何を見られていたのやら。必死で思い出しても見られていた感じはしない。ストーカー技能保有者か?何がそこまでこのガキどもを突き動かすのか。
「あのな、ジブンら一体何が楽しゅうてここにくるん?何したいねん?」
「ておさんに会いにきたんですぅ。」
「ておさんとあそぶの〜。」
 またも見事なユニゾン。これで姉妹じゃないのが(色んな意味で)不思議なくらいだ。
「わいはお子様と遊ぶ趣味はない・・・。」
 一応コミュニケーションを取ろうとした心意気(?)を見事に流された。それ以前に会話が成立っていない気がする。やっぱりこのガキどもは自分と相容れない存在だ。見る見る力が抜けていく。畳に顔を埋めながら、このまま気を失いたいと思った。
「面白いからほっといたけど、アンタさっきから見てりゃなにやってるわけ?」
「げげ、静紗亜。」
「「あ、せしあ先生〜。」」
 顔を上げると座敷の入口で、何の因果か8年の歳月を経て運命的に再会してしまった中学の同級生、静紗亜が仁王立ちしていた。あいかわらず神出鬼没な奴だ。
「遙も桃子も何してるの?・・・こーんなところで。」
「こんなとこ呼ばわりかい・・・。お前この子ら知っとるんか?」
「私のクラスの子よ。」
 客は一人もこないのに今日に限っては天敵ばかりがやってくる。そう、このガキどもは天敵と認識する。なんとなく、そう、本能的に手に負えん。
「せしあ先生、ておさんのことしってるの〜?」
「せしあ先生こそ何してるんですかぁ?」
「足と荷物持ちを確保しに来たのよ。」
 またも同時発言。セシアは慣れているらしくいつも通りの無表情だ。あんな無愛想な顔で小学校の教師とは、世も末だ。いや、それより生徒たちの将来を心配した方がいいのかもしれない。もしセシアみたいなのが増えてったら・・・。日本の将来の為にこいつの教員免許取り上げた方がいいんじゃないだろうか。
「あし?」
「いどうしゅだんのことだよ。」
「はるかちゃんあたまいい〜。」
「先生ておさんとどこか行くんですかぁ?」
「え〜、だめ〜。ておさんはももとあそぶの〜。」
 しかしまあ・・・、子供と言うのはどうしてこう、ころころと興味の対象が変わるのだろう。特にこのモモちゃんというのは表情も思考も次々に変わっていく。ついて行けん・・・。ハルカちゃんは遊ぶと言って聞かないモモちゃんをなだめている。よく出来た子だ。・・・見た目はともかく。
「・・・もてもてじゃない。」
「アホ。お前の知っとる子なんやったら送ってったれや。」
「そんな暇ないわよ。これからすぐ出かけなきゃならないんだから。」
「はあ?」
「だからあんたを連れに来たんでしょ。早く支度しなさいよ。」
「はぁあ?ちょぉまてや、何の・・・。」
「静紗亜ー、行くわよー!」
「・・・疫病神が連れ立って来よった・・・。」
 宵とは思えぬテンションで店に入ってきたのは、静紗亜の同僚星華とそのお供たちだった。
「アンタ、いつから幼児趣味に走ったの?」
「ドアホ!人ん家上がりこんで開口一番がそれかい!わいの好みは35才から46才じゃあ!」
 思わず余計なことまで言い返した直後、背後から氷のような声が突き刺さる。
「フケ専。」
「熟女好みと言えー!お前まだ根に持っとんのかー!!」
「なんのことかしら。ほら、二人とも帰りなさい。もう暗くなるから。」
「「は〜い。」」
 ガキどもにとって静紗亜は絶対なのか、あれほどごちゃごちゃ言ってたくせに大人しく座敷を降りた。
「ておさん、またあしたあそぼうね。」
「やくそくですよ〜。」
「はいはい・・・。」
「「わーい。」」
「・・・あんたバカでしょ。」
「うっさい!ところでもしかして荷物もちっつーのは・・・。」
「決まってんじゃない。あんたの担当は怜としおんよ。」
「・・・・・・・・・は〜。」
 荷物の運搬に使うことが多い帝王の車ははっきり言って広い。一度に全員乗ることが出来る。いつだったか静紗亜に迎えに来いと呼び出され、ここにいる全員送ってやったことがあり、どうやらそれ以来当てにされてる、というか、都合よく使われてしまっている。逆らっても無駄と分かっていても、ため息が出るのは止められない。その日は○居に新しく出来た店に行くとかで、帝王は渋々、店を閉めて車を出したのだった。
「ヤローなんぞ隣に乗せられるかい!後ろ行け!後ろ!」
「ちぇ、いいじゃねえかよ。ケチ。」
「せ、星華さんは僕の隣に・・・。」
「えー、私広い方がいいなー。」
「ダメよ。帝王の助手席は私のリザーブなんだから。」
「むしろ僕にこそ相応しいと思うがね。」

「〜〜〜全員後ろに乗っとれ!!」

 とまあ、不本意ながらこれが最近の日常だったりする。




思えばておの不幸はここから本格的になってきたように思われる。
最初、店に来た時は珍しいくらいにしか思ってなかったのにね。
それがこんなに居着くとは!?って感じですか。
きっと、そのうちに毎日のように学校帰りに寄るようになるんだよ(笑)
そして、その度にておのヒットポイントが削られていくんだ・・。
ておってば可哀相…。

あぁ〜、関係ないけどハートマーク欲しいなぁ(ボソリ)

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