「さ、帝王、出かけるわよ!」 「はあ?」 日曜の朝だった。今日も朝から昼寝の体勢に入っていた帝王は、いきなり飛び込んできた人物に度肝を抜かれた。半分眠っていた頭をなんとか起こす。 「なんやねん、一体。」 「だーかーらー、出かけるの!早く支度しなさいよ。」 「だから何でわいが出かけなアカンねん。」 「このアタシが誘ってるからに決まってるでしょ!」 そう言って腰に手を当て、無い胸を目一杯張って断言したのは、ただの顔見知り、森永星華だった。 「それやったら他の奴誘えや。禄とか、禄とか禄とか禄とか。」 あれならいついかなる時でも尻尾振って付き合うだろうに。 「あのバカ今日に限ってバイトだなんて言うのよ。せっかくこのアタシが誘ってやったって言うのに。静紗亜としおんは用があるって言うし、しょうがないから怜で我慢しようと思ったら、アイツ日射病で倒れたって言うのよ。」 「日射病!?この季節(とっくに秋)に!?」 「今朝は日差しが強かったから。」 「いや、たしかにいい天気やったけど、いくらなんでもそれくらいで・・・。」 貧弱とは思っていたが、そこまでとは・・・。 「で、しょーがないからアンタを誘ってやってるってわけよ。わかった?」 「ほう。理由は分ったわ。」 「じゃさっさと行くわよ。」 「いやや。」 「はあ!?アンタ話聞いてなかったの!?」 「しっかり聞いとったわい!どこにもわいが一緒に行かなアカン理由なんぞなかったやないか!」 「だから、他の奴が捕まんなかったからアンタで我慢するんでしょ!」 「我慢してもらわんで結構や!とっとと去ね!!」 「アンタ、一体誰に向かって口利いてると思ってんの?」 「あぁ?一体どこのどいつや。つべこべ言わんと、とっとと・・・!」 塩を撒こうかと思ったその時、緊迫感をぶち壊す間延びした声が聞こえた。 「「てーおーさ〜〜ん!あっそびましょ〜!」」 「・・・何よ、あんたたち。」 「・・・・・・面倒事が増えよった。」 店に駆け込んできたのは例のけったいなガキどもだった。 「「あ〜、星華先生〜。」」 「悪いけど、帝王はアタシと出かけるの。アンタたちは帰りなさい。」 「え〜、やー!ておさん桃とあそんでくれるっていったもーん!」 「約束したじゃないですかぁ!」 喧々轟々。しかもどれもこれも甲高いキャラヴォイス。耳に突き刺さるようだ。 「うっさいわー!店先でごちゃごちゃぬかすんやない!」 「そうよアンタたち、静かにしなさい。」 「お前もじゃあ!」 なんだってこいつはいつも自分が正しいと思っていられるんだろう。その自信の根拠が知りたい。いや、聞いたら後悔するだろう。 「僕たちのほうが先にておさんとやくそくしてたんですよぉ?」 「そーだもん。ちゃんとやくそくしたもん!」 いや、した憶えないし。 「ったく、しょーがないわね。怜じゃあるまいし生徒相手に本気になるわけにもいかないし。」 いや、さっきまで十分本気だったし。 「分ったわ。それならみんなで出かけましょう。」 「何でそうなるんやー!?」 「アンタね、譲り合いS玉って言うでしょ。これなら丸く収まるじゃない。」 その中に一人、確実に入れられてないのがいるだろう・・・。先の読めないテンションで、場は盛り上がる一方だ。 「というわけで、行くわよ!人数増えたし車出しなさいよ。」 「え〜、ておさんの車?ておさんの車?桃のりたーい!」 「わーい、おでかけ〜。どこに行くんですか〜?」 「おほほほ、このアタシの気の向くままによ!」 「「わーい!」」 地獄に行けと言うことか!? 「さ、そうと決まったら早速出発よ!」 「「はーい!」」 「・・・嬢ちゃん、ぼん、せめて家ん人に電話しとき。」 「あ、はーい。ちゃんとておさんとおでかけするって言っておきますね。」 「桃おとーさんにでんわするー。」 「・・・最後の言葉になるかもしれんからな・・・。」 思わず口にしてしまった言葉は幸い誰の耳にも届かなかったらしい。 その日、まだ気が済まないと言う星華を、あまり遅くならないうちに生徒を送り届けねばと説得した。はっきり言ってダシにした。子供たちがいてくれてよかったと思った。生きて帰ってこれた。T父の山には地図に載ってない道が数多く存在することを知った。・・・車が四駆でよかった。 |
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