「それでね、大学のときに一度離れ離れになったんだけど、赴任先でばったり再会しちゃって。あの時の怜君、すっごいへこんでたなあ。」 帝王は小料理屋のカウンターで、なぜか延々と幼馴染四人組みの思い出話を聞かされていた。諏訪禄と森永星華の出会い(そして一目惚れ)に始まり、小中高、そして学校が違っても星華の下僕として生きた大学時代を経て、やっと現在にたどり着いたところだった。 「でもやっぱり一緒にいる方が楽しいよね。O川を希望してよかったなー。静紗亜さんと会えたし、こうやって帝王君とも仲良くなれたしね。」 「仲良うなったつもりはないんやけど。」 「何言ってんのさ。僕達仲間じゃないか!」 それは正に、熱血体育教師に相応しい台詞だった。 「帝王君じゃないかー。」 夕食を取ろうとふらりと外に出た帝王は、住宅街の外れで向かいからやってきた自転車と、それに乗った諏訪禄にばったり出会ってしまった。クラブ指導とテストの採点で遅くなった禄は、いつもべったりくっ付いている星華に置き去りにされ、一人で帰宅するところだという。 「ところでこんな時間に何してるの?」 「飯食い行くねん。」 「え、じゃあ僕も一緒していいかな?今日は疲れちゃって作る元気ないんだよね。」 この幼馴染カルテットとやらに関わってろくな目に会ったことがないが、コイツ一人くらいなら大したことはないだろう。そういえば何度か一緒にのみに行ったときも、他の三人に比べてまともだった。特に断る理由もない。 「別にかまわんけど。」 「じゃあ決まりだね。どこに行くつもりだったの?」 「この先の『庄和』(そうわ)ちゅうとこや。」 こうして帝王と禄は連れ立って、帝王行きつけの『料理が美味く、食事も出来て、酒の品揃えが抜群』という小料理屋に向かった。 そしてかれこれ一時間後。 「もー、星華さんてば今日もかわいいかった〜。星華さんはいつもかわいいいつでもかわいいすっげ〜かわいい。」 甘かった。所詮コイツもあの四人組の一人。他の三人とそう大した違いなどなかったのだ。以前見た限りではいつも騒ぎの中心にいるのは星華と怜で、どちらかといえば禄はそんな星華の面倒を見るので振り回されてて・・・・・・だからか。 今日はお守りする相手がいないせいだろう、食事の後、銚子三本ずつ空けた辺りで禄に異変が見られ始めた。酒に弱いわけではない。見た感じそれほど酔っている様には見えないし、自分と変わらないペースで飲んでいるのだからそこそこ強いのだろう。それは異変というよりは・・・変・・・だった。 「でさあ、星華さんが僕に向かって怒鳴るわけ。もうその怒鳴り声も歌のようでさ、それにそのときの目つきといったら!あの真っ黒できらきら光る目が、真っ直ぐ僕のことを見ててね、僕のとこだけを・・・。あ〜〜、星華さ〜ん!好きだーー!」 どうしよう・・・。わりと普通と思っていた禄の壊れっぷりに対応できないでいる間にも、星華さん話はどんどん溢れてくる。おまけに次々と空の銚子が禄の前に並んでいく。 「そのときにね、星華さんが言ったんだ〜。僕がいてくれてよかったって。あのときの星華さん、すっげ〜〜かわいかったー。」 止まらない止まらない。酒も話も。 「でね、約束だからって、食事を作りに来てくれてね、台所に立つ星華さんの後姿!色っぽかったな〜。それでその後一緒に食事をしてね、もう星華さんたら料理すっごい上手でさー。あんなお嫁さん貰えるなんて僕って幸せ者だよね。」 あの料理でか!? 「かわいいしー、やさしいしー、スタイル抜群だしー、その上料理も上手だなんて。やっぱ星華さんサイコー!」 あ、なんかもうどうでも良くなってきた。語られてるのがアレだと思わなきゃいいんだ。聞き流せ、自分。 「それでね〜、その時屈み込んだ星華さんの肩からあの綺麗な黒髪がさらさらと落ちていってね、真っ白な項が・・・。もう思わず鼻血ものだったね!」 「はあ・・・。あんな貧相な体になあ・・・。」 「何言ってんの!?星華さんはナイスバディじゃないか!あの華奢な手足。細い首。守ってあげたーい!!」 「華奢って・・・、つまり貧相な体っちゅーことやろ?胸なんて二つ合わせても片手で余るやないか。」 「星華さんの素晴らしさはそんなとこじゃ量れないよ!そりゃ、もうちょっと大きかったらなぁとは思うけど。・・・せめてBカップくらい。でも!これからいくらでも僕が協力するし!!」 「きょ、協・・・そうか、まあ・・・がんばれや。」 他に掛ける言葉が見付からなかった。 「うん!」 「そんじゃ〜、今日はこの辺で・・・。」 「あー、そうだねー。続きはまた今度ね。」 その機会があれば断固拒否する。 禄が自力歩行できてよかった。自転車を押しながらふらふらと去っていく背中を見送ってやっと一息つく。・・・まずい、星華がか弱くてかわいらしい女の子に思えてきた。そんな訳ありえない。しかしそう思わせるほどに禄の語りは熱かった。 とにかく二度と、単品であいつらに付き合うのはよそう。 一つ勉強をした夜だった。・・・疲れた。 |
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