女子と言うのは暴走する生き物である。 ましてや集団、その上思春期の乙女達と来ては… 午後の一つ目は応援合戦である。 得点は入らないが毎年盛り上がる種目である。 が、今年の盛り上がり方は尋常ではなく、なぜかと言えば、林檎・ホープと錦木椎奈が応援団長を務めるためなのである。 なにやら親御さんたちも、カメラを持つ手に力が入っているような…。 全員参加の種目のため、子供に頼まれたと言うのは建前、自分もこっそり楽しみにしていたりなんかして。 なんと言っても見目麗しく文武両道、礼儀も正しいとなれば、名声はしっかり親の耳にも届いていて、父母の人気があるのも頷ける。 しかしその主役二人は、それぞれにため息をついていた。 「こーゆーのって男がやるもんなんじゃないの?」 「いいじゃないか、似合っているし。またファンが増えるな、これは。」 現在林檎は応援合戦のために、衣装を着ていた。 長い髪は下ろし、黒の長ラン、深紅の長襷をかけ、なんちゅうかこう、ワイルドというか、もう…めっちゃかっこいいのである! 理由はどうあれ憂いを秘めた目には色気すら漂い、されどクールな雰囲気は、とにかくかっこいいの一言に尽きた。 「…それが嫌なんだってば…」 林檎はニヤニヤと笑う友人の前で、また深いため息をついた。 「はあぁぁ…」 こちらのため息はもう一人の主役、椎奈のものである。 (目立つの、苦手なんだよね…) けれども今回の応援団長は、満場一致の推薦により決定されてしまったので、断ることなど椎奈には出来なかったのだ。 だが、椎奈は役目を放棄するような人間ではない。与えられた仕事に全力で尽くすタイプだ。ぜひ、部下に欲しい人材である。 「一度引き受けたんだ、最後までがんばらなくちゃ!」 そう思い直した椎奈ではあったが、 「「「椎奈君!!」」」 と、青組女子数名によって、更なる窮地に立たされることになるのだった…。 動くたびに長い漆黒の髪と、深紅の襷がなびいた。 広いグラウンドにマイクも無いのに朗々と響く声… 頭上で大きく旋回させた襷と同色の団旗を目前でぴたりと止めると、林檎は低く、 「いざ、出陣!!」 と、大きく響かせた。 そして、 「「「おお!!」」」 と、赤組の生徒から上がる地を揺るがすような応え。 …大成功といっていいだろう。 それが証拠に、一瞬の静寂の後… 「「「ッキャーーーーー!!林檎お姉さまーーーーーー!!!!!」」」 …ファンクラブのお嬢様方はどうやら耐え切れなかったようですね。 先輩がお姉さまになっとりますがな。 感動の余泣いていらっしゃる娘まで。 こりゃ大変だ(人事) 観客席のお母様方も 「いい・…タカ○ヅカよりもいい!!!!」 ちょっと飛んでしまわれたようですね、ご愁傷様です。 しかしこの興奮覚めやらぬ中、青組の応援です。 こんなに盛り上がっちゃ、ちょっと不利なんでないの?と思いきや、なにやら女子の皆さんは自信ありげで…。 その理由はすぐに分かりました。 寸分乱れぬ扇に開いた青組の生徒たちの中央から進み出た人物を一目見た瞬間に… 「き、「「ッキャーーーーーー!!!!!」」」 「椎奈君!?あれ、椎奈君よね!?」 「いいえ、あちらにいらっしゃるのは王子よ!プリンスがいらっしゃるのだわ!!」 「ちがうわ!ナイト様よーー!!ああ!守られたい!!」 「なんにしても、「「かっこいいーーーーー!!!!」」」 などと言う光景がそこかしこで見られたその格好とは… 一点の曇りも染みも無い純白の白ランに白手袋、澄んだ空色の鉢巻は長く背に垂れ、同色の腕章と、装飾のついたやや重めの団旗。 もともと正統派美少年で、髪も目も色素の薄い椎奈のこと、そんな格好をされてしまっては、アーサー王かランスロットかというような完璧ぶりなのである。 「辰子さん!!」 「OK!こーちゃん!!」 ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ!! …こちらも絶好調ですね。 「王子がー王子がー」 「うう、いいよ!超良すぎ!!」 「ね、椎奈君には絶対白ランだって言ったでしょ!?」 こちらは椎奈君ファンクラブのお嬢様方。 今回ほぼお一人でこの衣装を御作りになられたお嬢様は、後にデザイナーになられるのですが、今までの最高傑作は、と聞かれるたびに、「あのときの萌が今の私を作ったのです」と、この日の衣装をおっしゃられるとか。 「よう!王子やないか!今帰りか?」 「止めてくださいよ、帝王さん…」 「何―?何で椎奈君が王子なんですかー?」 「あ、真は知らんのかいな。それがな、運動会でな、」 「うわーーー!!もう!止めてくださいって言ったのにー!違います上条さん、なんでもないんです!僕、もう失礼します!さよなら!」 「あーあ、いっちゃった。…帝王君、楽しんでるでしょう?僕だってもっと椎奈君とお話したかったのに。」 「ぶはは、すまんすまん。いや、このネタだすと、あいつが年相応になって面白うてな」 「で、そのネタってなんなんです?独り占めはずるいですよー?」 「それがやな…」 と言う風に、町じゅうから王子と呼ばれるようになってしまった椎奈なのでした。 学校のアイドルどころか、町じゅうのアイドルになっちまったらしいですよ、あの二人。 アイドル誕生もイベントの華?むしろ鼻血を噴きそうなんですけど…などと思いつつ、心臓に悪いほど運動会は加速する。 |
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