少年の名は、レッドと言った。
彼はマサラタウンと呼ばれる田舎町出身で、現在カントー地方を旅している。
その目的は、ただ1つ。
「行けぇ、フッシー!」
本日の天気は快晴。
空は一面、まるで水彩絵の具一色のみで塗ったかのような色をしていた。
かすかな濃淡が、芸術的な自然の空色を美しく表現している。
その空の下は一転して、様々な種類の緑が生きる草原。
暖かい風の中、レッドは道端で出会った少年とのポケモンバトルで熱くなっていた。
「今だ。つるのムチ!」
ザンッ!!
フッシーと呼ばれたフシギソウが、つるのムチによる鋭い攻撃を放った。
相手のポケモンは、一撃で戦闘不能。
「うひゃあ……。つ、強いなぁ。レッド君と言ったっけ? 君、本気でポケモンリーグ狙えるんじゃないか?」
「いやぁ、そっちも十分手強かったさ。まぁ俺は当然、ポケモンリーグを狙ってるけどね!」
対戦相手は、気絶したポケモンをモンスターボールに戻す。
勝利したレッドの方は、自信たっぷりの口調だ。
それはレッドにとって、達成すべき大きな目標なのである。
そう。
レッドの旅の目的は、最強のトレーナーの集うポケモンリーグを目指す事だった。
第1編「Starting of Red」
タマムシシティ。
カントー地方の中央部に位置するこの町は、数多くのビルが立ち並ぶにぎやかな都市だった。
「ん、あれは……」
レッドは、壁際に座る1人の少女を発見する。
自分と同じ位の年齢で、しかし外見はやや大人っぽいスタイル。
それと、ウェーブのかかった栗色の美しい髪が印象的だ。
「はぁ〜、結構安くしてるつもりなのになぁ。なかなか客も来ないわね、カメちゃん?」
「ぐわ〜おっ」
彼女のポケモンであるカメールと並び、退屈そうにぼーっとしている様子が伺えた。「よぉ、ブルー。何やってんだ?」
「きゃあっ!?」
いきなり名を呼ばれ、ブルーという名の少女は飛び上がる。
「なっ、なななっ……レッド!?」
わなわなと震えながら、ブルーはこちらの名を口にする。
レッドは気にせずブルーの販売していた商品を手に取り、じっくり観察した。
「おいおい、またまがい物売ってるのかよ。人が来ないの、その為なんじゃねぇか?」
「か、関係ないでしょ! 以前、私に『騙された』クセに」
「むっ」
その通り。
レッドはブルーに一度、騙されてまがい物のアイテムを買わされた事がある。
その時はブルーに抱きつかれる等、巧妙な手口に引っかかりゴミ同然のアイテムを購入させられたのだ。
「けど、その後で俺にポケモンバトルで捕まって、結局お金を取り戻されたのはどこの誰だったっけ〜?」
負けじと、レッドも反論。
逆に口論で追い詰められ気味となったのは、ブルーの方である。
「ぐっ……悪かったわね。けど私だって、タダで転んでる訳じゃないわよ? コレとか」
そう言って、ブルーは2つのバッジを見せた。
「……? あ゛ぁ゛ッ! お前それ、俺のグレーバッジとブルーバッジじゃねぇか。どうも見当たらなくて、荷物に紛れ込んだかと思ったらお前の仕業かよっ!」
トレーナーバッジと呼ばれるそれは、ジムリーダーなる各地の強豪トレーナーに勝利した証である。
レッドはこれまで、数人のジムリーダーに勝利しバッジを獲得してきた。
どうやらブルーは、いつの間にかそれをかすめ取っていたらしい。
「ほ〜っほっほっ♪ 何たってコレは、いくらお金を積んでも手に入らない品だもの。返して欲しい?」
「はぁ〜、もうマトモに相手するのも面倒だ」
そう言うと、レッドはため息をついてブルーの隣に座り込む。
怒って突っかかって来ると思っていたブルーは、レッドの冷めた態度を見て少々つまらなそうだ。
「なぁ、ブルー。何でまたお前、詐欺だの泥棒だのやってるんだよ?」
「レッドには関係ないでしょ? ほっといてほしいわね」
「そういう事してなきゃ、結構かわいいと思うんだけどな……」
「な゛っ!?」
不意を突かれた言葉に、ブルーは顔を赤くした。
「何の……つもりよ、突然!?」
急にたじろぐものだから、レッドの方が内心驚いていた。
かわいい。
その単語自体は、特段ブルーが慣れていない言われ方でもない。
元々の彼女の容姿自体、すでに美少女と呼ぶに相応しいのだが。
それ以上に、ブルーの方が意図的に、いわゆる『女の武器』によって幾度となく男どもから引き出してきた単語だからだ。
余談だが、中でも彼女の得意武器はウソ涙らしい。
……そう、これまではあくまで、ブルーが相手に「かわいい」と呼ばせてきただけである。
それがこんな状況下、相手の方からストレートに言われるというのは、実は彼女にも経験が少ない。
「私をおだてて何を企んでるのか知らないけど、レッドなんかの策略には引っかからないわよ!」
「いや、別にそういう訳じゃないんだがな。どっかの誰かさんじゃあるまいし」
その言葉を最後に、しばし沈黙する2人。
レッドはその場に座り込んで動こうとはせず、店の方も相変わらず客が寄って来ない。
「…………」
こうなると、なかなか会話を切り出すキッカケは訪れないものである。
これといって、話題も思い浮かばない。
次第にブルーの方がやきもきしだした頃、ようやく誰かがこちらに歩いて来るのが見えた。
「あ、いらっしゃ……」
客だと思ったブルーは、すぐさま反応する。
だが現れた男達を見て、ブルーは少し顔を硬直させた。
「ん。どうした、ブルー?」
不思議そうにレッドが尋ねるが、ブルーは冷や汗をたらす。
「や、やっばぁ……」
思わずブルーは、後ずさり。
そんな彼女に、男の1人が詰め寄る。
「へっへっ。やっと見つけたぜ、小娘。俺達組織から盗んだデータディスク、返してもらおうか?」
「や、やぁねぇ♪ データディスク? 何の事やら、私にはサッパリ……」
「とぼけたってムダだ。お前が俺達のアジトに潜入した事は、隠しカメラにばっちり映っていたからな。お前がディスクを盗む場面も含めて、だ!」
「……あ、やっぱり?」
思わず苦笑するしかない、ブルー。
背後は壁で、誰が見ても逃げ場が見当たらない状況だ。
「(何だブルーの奴、こいつ等から何か盗んでたのか。けど、データディスクって何だ? それに、組織って……)」
やや不思議に思ったレッドが、何気なく男達に目を向ける。
「(って、コイツ等! ロケット団じゃねぇか)」
彼等の制服を見て、レッドはようやく相手の正体を悟った。
ロケット団……それはポケモンマフィアとも呼ばれる悪の組織であり、ポケモンを悪用しての強盗事件を各地で起こしている集団だ。
最近では、違法研究も行っているとのウワサもあり、今やカントー地方中のニュースを独占している存在である。
実はレッドも旅の中で、これまで幾度かロケット団に遭遇している。
それだけに彼等がどういう者達かという事は、レッドは人一倍よく知っているのだ。
「おい、ブルー。こいつ等から一体、何を盗んだんだ?」
その質問に対し、ブルーではなくロケット団員が答える。
「幻のポケモン、ミュウの生態データが入ったディスクさ。ミュウを捕獲する為に必要な情報が全て詰まっていて、そいつをこの女は盗んだって訳だ」
「ミュ、ミュウ?」
「知らんのか? 小僧、お前だってこの世界にポケモンが全部で何種類存在するかぐらい知ってるだろ」
「何種類って、ポケモンは全部で150種類だろ? それがどうした!」
……この頃はまだ、そういう時代だったんです(ぇ)。
「まぁ世間一般では、そう言われているがな。実は幻の、151匹目のポケモンが存在する。それがミュウだ」
「!?」
「ミュウは、凄まじいエスパーの力を秘めた幻のポケモンだ。そいつの力を手にすれば、我々ロケット団は更なる繁栄が可能となるのだ! どうだ、驚いたかぁっ!」
「(うわ〜……わざわざココまでべらべら喋ってくれるかね、普通。こいつ等って、機密情報も何もあったもんじゃないな)」
こんな感じにレッドが呆れている時、一方でブルーは何かのタイミングを計っていた。
そして……突然、合図の声を放つ。
「今よ、メタちゃん!」
「なっ!?」
すると、ブルーとレッドの背後にあった壁が、いきなりドロドロと溶けだす。
壁はあっという間に無くなってしまい、代わりにメタモンが出現。
「メタモン!? その壁、メタモンの変身だったのかよっ!」
「何事も用意周到にしておく事が、私のモットーよ。バイバイっ♪」
すぐにブルーは回れ右して、メタモンをモンスターボールに戻しつつ駆け足で退却。
あまりの早業に、しばしロケット団達もあっけに取られてしまう。
「……って、みんな何をしてる! 早く追いかけろ!」
団員の1人の言葉で全員がはっと思い立ち、そのまま揃ってブルーの後を追いかけて行った。
こうして、レッドは1人だけポツンと残される……。
「な、何なんだ……一体?」
思わず呆然と立ち尽くすレッド。
ぴゅうう〜……と、彼の横では冷たい風が流れていた。
場所は変わって、ポケモンセンター。
「オーキド博士。今、手空いてる?」
『お、レッドか。一体どうしたんじゃ?』
センターの一角に設置されている、利用自由なフリーのパソコン。
レッドはその前に立ち、テレビ電話的な通信を行っていた。
通信の相手は、オーキド博士。
レッドの出身地であるマサラタウンに住む、ポケモン研究の権威とされる人物だ。
かつてレッドは、オーキド博士よりフシギダネとポケモン図鑑を与えられた事がある。
何でも全種類のポケモンの生態を記録した図鑑を作る事が博士の夢らしく、それをレッドに託したのだ。
数限られた貴重な図鑑を貰ったのは、レッドの他にライバルで博士の孫でもあるグリーンという少年。
そして旅立ちに際し、レッドとグリーンは博士より珍しいポケモンも授かったのである。
「なぁ、博士。もともと博士の元にいたポケモンって、ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメの3匹だったよな?」
「そうじゃよ。ヒトカゲはグリーンに与え、フシギダネはレッドに任せたのではないか。今ではグリーンも立派にヒトカゲを育て上げ、リザードに進化したと聞いたしのぅ。君のフシギダネも先日、フシギソウに進化したと言っておったな?」
「あぁ。それでさ、残った最後の1匹ってどうなったんだ?」
「う゛……ゼニガメか。うーむ、何と言えばよいのか……」
「?」
オーキド博士の謎な反応に、レッドは疑問を持つ。
ほどなくして、オーキド博士はその理由を答えた。
「実はのぅ……盗まれてしまったんじゃ、ゼニガメは」
「な、何だって!?」
「じゃから今は、ゼニガメがどこでどうしておるのか分からん」
「……うーん……」
レッドはしばらく何かを考え、再びオーキド博士に質問をする。
「なぁ、オーキド博士。ゼニガメの進化形って、確かカメールだったよな?」
「ん、そうじゃが……それが一体、どうしたんじゃ?」
「ゼニガメやカメールって、珍しいポケモンだ。やっぱり、そう何人もが持っているポケモンだなんて事はあり得ないよなぁ?」
「そりゃ、わしの手元にすら1匹しかおらんかった位じゃからな。カントー地方中のポケモントレーナーを探したとしても、持っているのは数える程しかおらんと思うぞ」
「と、いう事は……まさか」
「ひょっとして、レッド。何か、思い当たる事でも?」
「ん。あぁ、実は……」
ポケモンセンターを出たレッドは、続いてブルーを探す事にした。
先ほどブルーが逃げた方向を元に、どこに行ったのかをくまなく探す。
すると……町外れの崖になっている場所で、ブルーを発見。
「あ、いた!」
だがそこには、ロケット団の集団も集まっていた。
しかもさっきよりも数が増えている。
ブルーはポケモンバトルで応戦しているが、崖の方に追いやられつつあるようだった。
「あの数じゃ仕方ないか。何にせよ、まずはブルーを助けないと! おい、ブルー!」
「……! え、レッド?」
意外そうなブルーの眼前に、レッドは現れた。
もちろん戦いの邪魔に入られた事に、ロケット団は快く思わない。
「な、何だ貴様は。関係ない者は、入ってくるな!」
「……ぶぶー!」
と、ブルーはロケット団員に対して両腕でバツを作って見せる。
「関係ない者じゃ、ありませーん! この人、私のダーリンで〜す♪」
「んなっ!?」
ガァンとショックを受けた様子で、ロケット団員達は硬直した。
どういう意味でショックを受けたのかは、想像にお任せしますが(何)。
「それにしても、やっぱり助けに来てくれたのね〜♪ 信じてたわぁ、レッド」
「って、オイ。いきなり抱きつくな。そんな事している場合じゃないだろっ!」
大体何を信じていたのか、レッドは心底怪しく思った。
とりあえず気持ちを改め、ロケット団の方に向いて構えるレッドとブルー。
「何にしても、あのロケット団員達を全滅させるぞ。ブルーも、戦えるよな?」
「オッケー♪」
「ぐぬぬ……ナメたガキ共だ。オニドリル、痛めつけてやれ!」
ロケット団員は、オニドリルを繰り出した。
レッドにとっても戦った事のある相手で、対抗手段も大方分かるポケモンである。
だが、ブルーは……
「なっ!? と……鳥っ……!?」
「ん? ブルー、どうした?」
「あっ……あぁっっ……!!」
ブルーの様子が、明らかにおかしくなった。
顔はみるみる蒼白になり、唇も震えて紫色になっていく。
冷や汗がしたたり、全身でガクガク震えだす。
どう見ても、体調が良いとは思えない様子になっていった。
「おい、ブルー! 一体、どうしたんだよ?」
「いやっ……いやあああっっ!!」
震えたまま、ブルーはうずくまって涙を流す。
「(ウソ涙じゃなく、本当に泣いてる……!?)」
さっきレッドが駆けつけた際、ブルーはロケット団の集団を相手に応戦していた。
彼女には、それなりのバトルの腕前がある。
そんなブルーが、鳥ポケモンのオニドリル1匹を目にしただけで怯えるとは、今のレッドには全く理由が分からなかった。
何にしても、レッドは震えるブルーを抱きかかえる。
こんなブルーは見た事がないのだ。
しかしながら、その様子を待っててくれるほど敵も甘くはない。
「はははっ、小娘の方は具合が悪いらしいな。オニドリル、上空から攻撃しろ!」
空高く飛び上がる、敵のオニドリル。
そこから、急降下してレッドに襲い掛かる。
だがレッドは、すでに次の手を打っていた。
「ピカッ!!」
呼ばれて飛び出たのは、1匹のピカチュウ。
直後に電気ショックを上空に向けて放出し、オニドリルに命中。
そのままオニドリルは撃墜した。
「なぁっっ!!?」
「おい、ロケット団……」
「……ぬ!?」
「俺にもよく分からないが、ブルーがこうなった以上、どうやらゆっくり相手にしてやる時間は無さそうだ。覚悟しろ……!」
それから、数分後。
ロケット団員は全て気絶し、あちこちに倒れている姿が見られた。
戦闘を終えたレッドは、すぐにブルーを改めて抱きしめる。
ブルーはというと、まるで泣き疲れた幼い子供のようにスヤスヤと眠っていた。
「ブルー……大丈夫か? 一体、どうしたんだよ?」
眠っていて返事をしないブルーに、レッドは独り言に近い形で話しかける。
こうして改めて見ると、やはりブルーは可愛い女の子だ。
普段は(良くない意味で)シッカリした性格の彼女が、今はなんと儚げな事か……。
守ってあげたいという想いが、レッドの心の中で自然と沸き起こるのを感じた。
それからしばらくして、先ほどレッドが連絡をしていた人物がやって来る。
「おーい、レッド。こんな所におったんか?」
「……あ、オーキド博士」
レッドは、やってきた博士の名を呼ぶ。
オーキド博士はレッドの側まで来ると、レッドの腕の中にいるブルーの顔を覗き込んだ。
「む、この子がゼニガメを盗んだ犯人と思われる女の子なんじゃな?」
「え、あ……あぁ……そうなんだけど……」
レッドは少し言いづらそうに、即頭部を人差し指でポリポリとかくような仕草を見せる。
それから意を決して、オーキド博士に無茶なお願いをしだした。
「なぁ、博士。やっぱりもうちょっと、この子にカメールを任せて様子を見ないか?」
「んなっ、何じゃとぉ!!?」
ようやく盗まれたポケモンが戻って来ると思っていたオーキド博士は、意表をつかれる。
「大体ほら。ブルーが博士のトコからポケモンを盗んだ犯人と、完全に決まった訳じゃないだろ?」
「む、むぅ……しかし……」
「カメールもブルーに懐いているみたいだし、間違ったポケモンの育て方はしてないと思うんだ。なっ、頼むよ」
レッドは両手を合わせて、オーキド博士に頼み込んだ。
仕方なく、オーキド博士もしぶしぶ了承する事に。
「全く、しょうがない奴じゃ。じゃが、責任はレッドに取ってもらうからのぅ」
「……え゛」
「おぬしに渡したポケモン図鑑、必ず完成させるんじゃぞ! 分かったな?」
「! あぁ、約束するよ」
……この日、少年は1人の少女を守った。
ほんの些細な事なのかも知れない。
それでも少年は、どういう訳か少女を放っておく気にはなれなかった。
彼女がどういった経歴を持ち、なぜ悪行まがいな事をしていたのか、それはまだ分からない。
ただ今は、眠る少女を両腕で優しく包み込み続ける……。
続く
本作品は、ポケスペで個人的に一番好きなカップリング、レッド×ブルーをテーマにした小説です。
それ以外にテーマとかありません。
単にレブルを書きたかっただけでしかないのです!←
そんな訳で、タイトルをどうするか悩んだものの、結局特にひねりも無く、そのまんまな題名になってしまいました。
この小説は、序盤はあえて原作のポケスペを連想させる部分がいくつかあります。
そこは独自でアレンジしたりして、オリジナリティもそこそこ出していたりしますが……。
話が進むに従ってオリジナルな話も増えてくると思いますので、どうぞご期待ください。