ピョンッピョンッピョンッ……!
「ん? ……どわぁっっ!!」
それは突然、タマムシシティの外れで起こった。
いきなり何かが飛び跳ねて来たかと思うと、続いて人影も見えた。
と、思った瞬間にその人影がレッドの体に激突。
互いに腰に装着させていたモンスターボールが、バラバラと周囲に転がってしまう程の勢いだった。
「イテテテ……。な、何だ?」
倒れたレッドが体を起こすと、そこにいたのは角ばった形をした鳥の模型みたいなポケモン。
その姿を確認するに次いで、レッドと激突した人物が放つ、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「待て、ポリゴン! ったく、戻れ」
「……! グリーン?」
「む……? 何だ、レッドか」
激突した、彼の名はグリーン。
オーキド博士の孫にして、同じマサラタウンを旅立ったレッドの良きライバルである。
第3編「入れ替わるポケモン」
前回までのあらすじ:
ポケモンリーグを目指すトレーナーの少年、レッド。
泥棒や詐欺まがいの行為を繰り返す少女、ブルー。
出会ったばかりの2人は今一つ気が合わなかったが、ふとしたキッカケから両者は互いに興味を示す。
レッドは鳥に対し極度に怯えるブルーを、ロケット団の魔の手から守る事に成功。
目を覚ましたブルーは、彼女が盗んだゼニガメをそのままブルーに任せていいと、オーキド博士を説得したレッドから聞くのだった。
ブルーは、タマムシデパートへ買い物に出かけていた。
その帰り道を気分良さそうに歩いていた彼女だが、やがて見え始めたレッドの姿に疑問を持つ。
「……?」
どこかレッドの背後に、ズ〜ンと暗い縦線が何本も降り注いでるように見えた。
何があったのか、後頭部に大粒の汗を浮かべつつブルーは近寄る。
「え、えっと……レッド。なんかやけにテンション低めだけど、何かあったの?」
「……あぁ、ブルーか。おかえり……」
様子のみならず、口調もどこか暗かった。
「どうしたのよ、一体。明らかに元気ないじゃない……」
「いや、なんつーか……実はな」
レッドは、つい今しがた起こった出来事をブルーに伝える。
それは、以下のような物だった。
「やれやれ、せわしない奴だなぁ。全く」
レッドは偶然、ライバルのグリーンと再会していたのだった。
しかし両者がぶつかり合った為、互いの手持ちポケモンを入れたモンスターボールはあちこちに四散。
ぶつかって来たグリーンは二、三、言う事を言うと、ボールを拾ってさっさとどこかへ行ってしまったのだ。
「よし、これで全部だな。……むっ!」
ようやくレッドも、全てのボールを拾い終えた。
だがその時、背後に忍び寄る巨大な影にレッドは気付く。
「野生のポケモン! サイドンか」
しかし、そこは戦い慣れたポケモントレーナー。
慌てる事なく、レッドは冷静に自分のポケモンを繰り出そうとする。
「よし、行け。ニョロ!」
レッドが選んだのは、サイドンのパワーに対抗でき、かつサイドンとタイプ相性のよいニョロボン。
彼はモンスターボールを投げ、ニョロボンを繰り出した。
……いや、その予定だったのだが、そこで自分が放ったポケモンを見て不測の事態に気付く。
「え゛。リ、リザード?」
それは、グリーンのパートナーであるポケモンだった。
無論レッドも見覚えがあるので、すぐにグリーンのポケモンだと分かったのだが……。
何にしても、自分のポケモンでなければ簡単には言う事を聞いてくれない。
戸惑っている間にも、サイドンはレッド目掛けて巨大な足を踏み鳴らして来た。
「えっ、うわわ! ちょっ……タンマ! わあぁっっ踏まれ……」
……ぷち。
「要するに……どゆ事?」
「つまり、俺のポケモンは全てグリーンの奴が間違って持って行っちまったみたいなんだよ。代わりにグリーンのポケモンは全て、俺の方に来たらしくてさ」
現在、本来のレッドが連れる手持ちポケモンはピカチュウ、フシギソウ、ニョロボンだ。
だが今はそのいずれもが手元に無く、リザードを始めレッドの言う事を全く聞かないグリーンの手持ちポケモンばかりが存在したのである。
「リザードに、それからゴルダックとゴーリキー……ねぇ」
その、グリーンというトレーナーが親だというポケモン達を、ブルーは1匹ずつ名を数え上げるように言った。
「な、なぁ……リザード達? こうなっちゃったからには仕方ないし、少し仲良くしようぜ。な?」
恐る恐る、レッドはリザードに手を差し伸べる。
だがその直後、リザードは大きな口を開けると、バクンと噛み付く動作をしてきた。
「うぉっ!?」
レッドはぎりぎりで手を引っ込めたが、とりあえず仲良くするのは至難の業である事は理解できたらしい。
「こりゃ、どうしようもないわね」
「トホホ……」
しかしグリーンのポケモン達は、そんな落ち込むレッドにさえ全く興味を示さない。
彼等はもはやレッドの事など無視し、互いに顔を見合わせると周囲を円状にぐるぐる走り始めた。
ドドドドド……と、走るポケモン達の足音を聞き、レッドもその事に気付く。
「あら〜、自主トレなんか始めちゃったよ。あいつら」
「体力作りって事かしら?」
「グリーンの奴はよくしつけてあるなぁ」
「誰かさんがズボラ過ぎるんじゃなくって?」
「うるせっ! トレーニングなんて、実戦でやればいいんだよ」
するとレッドは、どかどかと少し不機嫌そうな足音をたてながら、近くに流れる川の方へと向かう。
ブルーは顔でも洗いに行くのかと、さして気にも留めず自主トレを続けるポケモン達を眺めた。
……するとやがて、川からレッドの声が聞こえてくる。
「おーい、お前達。やめやめ!」
「?」
「そんな事よりも、今日は川遊びだ!」
「って、な゛!?」
振り向くと、レッドはすっかり川に入る格好になっていた。
そのまま川に飛び込むと、実に気持ちよさそうに泳ぎ始める。
「ほらほら、お前らも早く来いよ〜♪」
グリーンのポケモン達は、唖然としながら顔を見合わせていた。
彼等はグリーンの元でいる時は、常に戦いに備えて特訓するよう躾(しつけ)がされていたのだ。
このような軽い『遊び』を持ち掛けられた経験がほとんど無かったので、戸惑うのも無理はない。
それよりもブルーの方が、顔を真っ赤にして大声を出す。
「ちょっと、何て格好してんのよ!」
「何て格好って……服来たまま川には入らないだろ?」
「で、でもねぇ! 女の私だっているのに」
「? だからちゃんと海水パンツはいてるじゃんか」
「…………」
確かに、その通りだ。
レッドの述べる事は正論以外の何物でもない。
「おーい、どうしたんだ? お前ら、早く来いよ〜」
何となく、グリーンのポケモン達も彼のペースに乗せられ始めていた。
自主トレを中断するという、グリーンがいれば叱られる事が明白な行為。
それを同じトレーナーのはずであるレッドが、あえて勧めてるのだ。
「ガ……ガゥ……」
未だ戸惑いを隠せないが、ゴルダックが低く鳴いてから川に近づいていった。
そしてレッドの手が届く範囲まで来ると、いきなり腕を引っ張られ川にダイブ!
「ガゥ!?」
ドボンっ!
その様子を見たゴーリキーも、後に続いて飛び込み……ドブンっ!
「うぉっ! あははははっ、そうこなくっちゃ。……っと、リザードは炎タイプだから入れないかなぁ?」
最後まで渋っていたリザードも、仲間2人の姿を見てとうとう我満できなくなった様子。
さすがに炎タイプだけに飛び込みはしなかったが、川に顔をつけるとブルブル首を振って水しぶきをあげる。
「うわわわっ!?」
「ガルルルッ!」
「ガゥっ♪」
「やったな〜! はははっ♪」
……何だか知らない間に、よく分からない状況になってしまった。
ブルーは、心底そう思う。
彼女もまたポケモンと一緒にいるというのに、どういう訳か不思議な孤独感を抱いた。
「…………」
「……がぅ?」
隣にいたカメールが、首を傾げつづブルーを見ている。
「カメちゃん……。わ、私は行かないわよ! なんか端から見てて、バカみたいじゃない!」
「……がぅぅ〜……」
「……もしかして、カメちゃんが行きたいだなんて言うんじゃ……?」
よく考えたら、カメールは水タイプのポケモンである。
水浴びが嫌いなハズがない。
どうやら目の前の光景に少し期待をしたものの、ブルーの言葉にちょっぴりガックリした様子だ。
「カ、カメちゃん……そんな顔しないでよぉ……。あ〜、もうッ!!」
レッドは、相も変わらず川遊びに夢中。
さっきまで相手にしてくれなかったグリーンのポケモン達も混ざり、すっかり楽しんでいる。
「へへっ、こっちだこっち! ……ん?」
そこでレッドは、水着に着替えたブルーが川に入って来た事に気付く。
「え……ブルー?」
「か、勘違いしないで! カメちゃん達が……みんな川に入りたいって顔してたもんだから、しょうがなく付き合う事にしたのよ。別にレッドの楽しそうな姿を見て羨ましかったなんて、これ〜っぽっちも思ってないんだからね!」
「あ……そ、そ、そうなの……か……」
「…………。何よ、じろじろ見たりして!?」
「えっ、いや!! ご、ごめんっっ!!」
見とれていた事を指摘され、レッドは慌てて逆方向へ泳いで行った。
……とまぁ、そんなこんなでレッドとブルー、そしてグリーンのポケモン達という、一時的とはいえ何とも奇妙なチームが結成されたのであった。
そして、3日経った朝の事。
「ふわぁ……おはよう、ブルー」
朝、起き出したレッドは、顔を洗うブルーに声をかけた。
「おはよ、レッド。って、あれ。タオル忘れちゃった」
「あぁ、じゃあ俺のタオル使えよ」
「え……あ、ありがと」
そんな事の後、ブルーは朝食を済ますと荷物から1枚のデータディスクを取り出す。
これを自分のノートパソコンにさし込み、何やら操作し始めた。
「何やってんだ、ブルー?」
「忘れたの? 例の、ロケット団から奪ったデータディスクを見てるのよ」
「あぁ……。あれ、まだ持ってたんだ」
「当たり前でしょ。せっかく手に入れたミュウちゃんのデータ、そうやすやすと捨てられるもんですか」
「ふぅん」
レッドは、さほど強くは気に留めずに話を聞いていた。
そして、ふと思う。
何故ブルーは、そこまでしてミュウが欲しいのかと……。
そういえばロケット団も、やたらミュウに執着していた。
「(何か凄いポケモンなのかな? 確かに珍しいっていうなら、俺も捕まえてみたいとは思うけど……)」
考えても始まらない。
そう思ったレッドは、ブルーに直接聞いてみる事にした。
「……なぁ、ブルー。ロケット団って、何であんなにミュウを追ってたんだろうな?」
「あぁ。私も詳しく知らないけど、どうも何か生物兵器みたいなポケモンを作ろうとしてたみたいね」
「せ、生物兵器!?」
予想もしなかった単語の登場に、レッドは驚く。
「うん。ミュウの細胞から、何か凄いのを生み出そうとしてたみたい。私は興味なかったから、詳しく調べなかったんだけど」
「ったく。本当にとんでもない奴だな、あいつら。……んで? ブルーは何で、そんなにミュウが欲しいんだよ」
「そりゃあ、お金に決まってるでしょ♪」
「……は、お金!?」
これまた、予想しなかった単語だ。
いちいち驚くレッドに、ブルーは続けていいのか少しだけ彼の様子を伺うが、すぐまた気にせず話を再開する。
「そうよ。だって誰も見た事のない、幻のポケモンよ。高く売れるに決まってるじゃない」
「……ったく、呆れたよ。ロケット団は生物兵器で、ブルーはお金か。どっちに捕まっても、ミュウにはいい事ない訳だな」
「あら、そんな事無いわよ。ミュウちゃんは世界中にごく少数しかいない訳なんだし、1匹じゃ寂しいでしょ。私に捕まえられて、飼い主ができた方が幸せなんじゃないの?」
「だ、だけど。お前なぁ!」
「まぁ私としては、お金が入ればそれでいいんだけどね。これ程の一攫千金商売は、そうそう他には無いんだから」
もはやブルーは、レッドの様子を伺ってから喋るなどをする事は無かった。
彼の気持ちも知らず、嬉々と話をしてゆく。
「そういう風に言うの……やめろよ……」
だがレッドは、少し押し殺したような声でブルーに言った。
ブルーは特に気にしていない様子だが。
「何でよ。いいじゃない♪ 手伝ってくれれば、レッドにだって分け前少しあげるわよ〜?」
「そうじゃないだろッ!!」
突然、レッドは怒鳴り声をあげた。
ビクッとしたブルーの、パソコンを操作する指が止まる。
「……え」
「何だよ、お前! まるでポケモンを商品みたいに……物みたいに扱いやがって! ポケモンだって、生きてるんだぞ。それを売って金儲けしようなんて、酷い事だって思わないのか!」
「け、けど……そんなに怒らなくっても」
「そうやって、相手がどんな奴でも金さえ貰えればミュウを渡すのか!? 中にはポケモンを平気で傷つけたり、武器としてしか見ていないような奴だっているんだ。ロケット団みたいにな。たとえ相手がそんな奴でも金さえ貰えれば、お前は捕まえたミュウを渡しかねないっていうのかよ!」
「……そ、そんな事……そんな事、言ってないじゃない!」
「でも、売るんだろ? 捕まえたポケモン、自分の手で育てる訳でもなく、信頼できる人に任せる訳でもなく、商品として他人に金で売りつけるんだろ。そんなの俺……許せねぇよ!」
「……!!」
ブルーの表情が険しくなった。
バタンとノートパソコンを乱暴に閉じると、手際よく荷物をまとめて行く。
「……な、何だよ。ブルー?」
「やっぱり私……ここからは1人で行く」
「何っ!?」
「よく考えたら私、あんたと目的自体が違うんだし。一緒にいる意味ないもの!」
まとめ終えた荷物を手にすると、最後に自分のポケモンが入ったモンスターボールを腰に装着。
唯一ボールの外で遊んでいたカメールも、ブルーが呼んで出発を促す。
「カメちゃん、行こう!」
そのただならぬ様子に、カメールも少し困惑気味の様子だ。
慌てて彼女の元に駆け寄ると、困った表情で1回レッドの方に振り返り、それから再びブルーの後を追いかけていった。
「おい、ブルー。ちょっと待てよ」
「さよなら、レッド! 楽しくなかった訳じゃないけど……やっぱり私達、気が合わないのよ!」
顔を合わせる事なく、ブルーは歩行にしては速めの足運びで、その場から去ってしまった。
少し離れた所にいるグリーンのポケモン達だけがその場に残り、じぃっとレッドの方を見ている。
「な、何だよ?」
そう尋ねても、ポケモン達はぷぃっとあさっての方角を向いて知らん顔だ。
ただ、レッドも少々言い過ぎたかなという罪悪感は抱いていた。
続く
さて、レブルストーリー第3話ですが……。
前半部は原作ポケスペ第18話が元になってる話です。
あの話で、もしレッドとブルーが一緒にいたら……みたいな要素が入ってたり。
それが川遊びのシーンですね。
それでは続きもお楽しみに。
もし時間があったら、掲示板とかに感想書いてくれるととても嬉しいです。