カントー地方中央部に位置する中規模都市、タマムシシティ。
ここの名物の1つと言えば、大きなビルがまるごとショップとなっているタマムシデパートだろう。
各階に様々なジャンルの商品が置かれており、日用品やポケモン関係のアイテムを買うべく多くの人が訪れる。
「いらっしゃいませ」
その女性は、タマムシデパートの従業員だった。
今、彼女が働くフロアへやってきたのは、11〜12歳ぐらいと思われる女の子。
子供とはいえ大事なお客が訪れたのを見て、すぐにお決まりの挨拶をする。
「……バンダナ、かぁ」
女の子が見ていたのは、衣類商品として並べられた中にある1枚のバンダナだった。
紺色をしたそれは、現在男性客がたびたび購入していく売れ筋商品である。
「いかがですか、そちらの品物は? 今、結構人気の品ですよ」
「え……」
従業員に声をかけられた女の子のお客は、改めてまじまじとバンダナを見つめた。
「男の子へのプレゼントなんかにも、よろしいのではないかと思いますけれども」
「……じゃ、じゃあ……」
女の子は少しばかり迷ったものの、前向きに考えてくれた様子。
彼女は顔を持ち上げると、従業員に申し付ける。
「これ、ください。プレゼント用で……」
「はい。ありがとうございます」
早速従業員は、商品を綺麗にラッピングをし始める。
作業をしながら彼女は、女の子がどのような相手に贈るのかと考えていた。
恐らくは多かれ少なかれ、女の子が好意を寄せる男の子なのだろう。
どうか女の子が、贈る相手と仲良くしていけますようにと……。
密かにそのような祈りを込めつつ、美しく包まれたバンダナを彼女にそっと渡すのだった。
第4編「傷(トラウマ)の記憶」
前回までのあらすじ:
レッドは偶然、ライバルのグリーンと再会する。
ところがその時の手違いにより、互いのポケモンが入れ替わってしまう。
仕方なく、しばしグリーンのポケモンを連れる事にしたレッドだったが……。
今度はふとした事からブルーとの口論になり、ブルーはレッドの元から離れて行ってしまうのだった。
夕日の中、ブルーは道端にあった小さな岩の上に座り、ぼぅっとたそがれていた。
その様子をパートナーのカメールは、心配そうに彼女の表情を見上げる。
「ガゥガゥ……?」
カメールは鳴いてみるが、ブルーの反応はなかった。
普段のブルーは、ポケモン達に対してもちょくちょく声をかけてくれるものである。
それが今日は、朝以降にブルーが発した言葉は数える程しかない。
朝、レッドとの口論が原因でそこから飛び出した、あの時からは……。
「…………」
横に置いた、自分の手荷物をまとめたバックへと、ブルーの視線は向いていた。
そういえばあの中には、レッドを連想させてしまう物がいくつか入っている。
1つは以前、ブルーがレッドの隙を見て盗んだトレーナーバッジ。
レッドにばらしてみたというのに、不思議とそこまでしつこく返せとは言わなかった。
いつでも取り戻せるとか、ブルーならその内返してくれるとか……そんな風に考えているのだろうか?
次に、これもレッドの物なのだが、彼から借りたタオルもバックには入っている。
たまたま朝に使わせてもらい、そのままレッドの元を飛び出して来てしまった為に返しそびれた物なのだ。
そして……更に、もう1つ。
「…………」
ブルーは何を思ったか、バックを開いて『それ』を取り出した。
美しくプレゼント用のラッピングが施された、タマムシデパートで購入したバンダナである。
「(別にこれ渡せなかったからって、どうなる訳でもないんだけど……単なる気まぐれだったし。そのままなのも、ちょっぴり後味悪かったわね)」
数秒間眺めると、結局ブルーはバックの中へと戻した。
「(特に深い意味で買った訳じゃない。ただ、何となくレッドにお礼がしたかったから買ったのよ。一応、助けてくれた訳だし。でも結局、渡し損ねちゃったな)」
バンダナを購入したのは、丁度レッドがグリーンなるトレーナーとポケモンが入れ替わってしまったという日の事であって、それから丸2日と3日目の朝はレッドと一緒にいた。
渡すチャンスは、十分にあったハズ。
しかし、何故か照れてしまって、うまく言い出せなかったのである。
「はぁ、私ったら何やってんだろ。バッカみたい……」
「……ガゥ?」
普段から要領のいいと自負しているブルーだが、この時ばかりはそれには程遠かった。
大体からしてお礼の意味とは言え、人に物を買ってあげる事自体がブルーには珍しい行為である。
しかも他人の為の出費を持ったのに、どういう訳かそれを不快とも思わなかった。
そもそも人との関わり自体を拒む傾向のあるブルーにとっては、レッドと会ってからは本当に自分が滅多にしないような事ばかりをしていたのだ。
「カメちゃん……。もしかして私、後悔してるのかな? レッドの元から飛び出て来た事」
「ガゥ?」
急に話を振られても、カメールは困った表情しかできない。
「はぁ。もう、何から何まで嫌になっちゃった」
……その時、近くでガサガサと音がした。
ブルーもカメールも、音に気付いて振り向く。
「え、何? 野生ポケモン……?」
すかさず構えるブルー。
しかし、やぶの中から出て来たのは、彼女にとっては天敵とも言えるポケモンだった。
「クェェッ!」
「っっ!? と、鳥……」
出現したのは、カモネギ。
鳥ポケモンはブルーにとって、最も恐ろしい相手なのである。
「こ、来ないでよ……。カメちゃん、水鉄砲!」
「ガゥッ!」
すかさずカメールが、水を吐いて攻撃。
カモネギはよろけ、その隙にブルーは走る。
「逃げるわよ、カメちゃん!」
最も苦手な相手には、関わらない方が一番。
そう判断したブルーは、カメールと共に逃走を開始。
……だが、今回のカモネギはさほど大型の鳥ではないのが幸いし、逃げるという行動を起こす事ができた。
ブルーにとって本当に恐ろしいのは、『大きな鳥』なのである。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……。こ、ここまで来れば……さすがに大丈夫ね」
すでに辺りが暗くなってきた中、ブルーとカメールは木に寄りかかって休憩する。
しかしそこで初めてブルーは、大事な物がそこに存在しなかった事に気づく。
「……って、ああもう! バックあそこに忘れてきちゃったじゃないのよ。ホントにもう、嫌になっちゃう」
ついてない事づくめだ。
ブルーは、心底そう思った。
「だから嫌いなのよ、鳥は……!」
半分八つ当たりのようにも取れる、ブルーの言葉。
しかし彼女には、そこまで鳥を嫌うだけの理由があったのだ。
今から何年も前。
幼いブルーは、巨大な鳥によって連れ去られた子供だった。
「やああっ!! 降ろしてぇぇ!! いやあああっっ!!」
鳥に捕まった時の自分は、とにかく大泣きしていた事しか記憶にない。
これが以後、彼女に鳥に対する心の傷として……トラウマとして、深く刻まれる事となる。
やがて幼いブルーは、その鳥にある場所へと連れてこられていた。
終始泣き続けていたブルーには、どのような土地の空を通って辿り着いたのかは知る由もなく。
ただ、気付けばそこにいたという感覚だった。
そこで待っていたのは……
「さぁ……これからは、私の言う事に従ってもらうよ。可愛いお嬢ちゃん?」
更なる恐ろしく、過酷な存在。
「う……あっ……恐い……恐いよ、お姉ちゃん……」
己の恐怖心を押さえ込んででも守りたいと思った、朱色の髪の少年。
「大丈夫……私が……私がいるからね……!」
そして、はかなくも必死に心を強く持とうと願う、自分自身だった。
「……ゥ……ガゥ……ガゥッ!」
横で鳴き声をひたすらあげ続けるカメールに、ブルーははっと気付く。
「え、カメちゃん?」
「ガゥッ! ガゥッ! ガゥッ!」
それは、カメールが必死に伝えようとする警告の声だった。
ブルーも次の瞬間には、その意味を察する。
「なっ!」
油断したと、ブルーは思った。
周囲を一面、鋭い目つきのオニスズメが取り囲んでいたのである。
今度はさっきと違い、逃げ場がない。
「もう、何なの……何なのよっ!!」
ブルーは全てが嫌になり、目に涙を溜めて叫ぶ。
「しっかり目を開けろ。前を見なけりゃ、何も始まらないし何もできないぜ!」
「……え?」
聞き覚えのある声。
まさかと思い声の方を向くと、続いて次の言葉が耳に届く。
「ピカ、電磁波だ! オニスズメの動きを止めるぞ」
「ピカァッ!」
ビリビリビリッ!
電磁波とは相手を麻痺させる、補助攻撃能力を持った電気タイプの技だ。
1匹のピカチュウがそれを決めている隙に、現れた少年がブルーに近づく。
「レ、レッド……!」
今度はさっきとは別の気持ちから、目に涙が溜まる。
「ブルー、大丈夫か?」
「何よ、もう……。いつもいつも、都合よく現れちゃってさ」
「いや、まぁ……何つーか……」
ポリポリと頭をかきつつ、ちょっとばかし目をそらしてレッドは言う。
「その、悪かったな。朝は少し、言いすぎたと思ってよ。ごめん」
「レッド……。ううん、私の方こそ……」
そうブルーが言いかけた時、レッドは彼女の背後からオニスズメの1匹が襲いかかるのを見た。
レッドは慌てて、ブルーを伏せさせる。
「ブルー、危ない!」
「え? ……きゃっ!」
ドサッ!
迫り来るオニスズメを、レッドがブルーを押し倒す事で回避した。
「ふぅ。大丈夫か、ブルー?」
「う、うん。平気」
「そうか……あっ」
そこでレッドは、ある事に気付く。
ブルーは何かと思ったが、すぐに自分の体が受ける違和感のようなものを感じた。
「……って、レッド!?」
2人が倒れ込んだ時、レッドの手をついた位置がブルーの胸の上であって……。
「やだっ!! エッチ!!」
ドゲシっっ!!
ブルーの拳が、レッドの腹部に思いっきりめり込んだ。
「ごふぅっっ!!?」
……かくして、レッドはしばし悶絶する(何)。
しかし今のオニスズメの攻撃を見ても分かるように、ピカチュウ1匹ではなかなか敵の動き全てを抑えるのは難しい様子。
「ねぇ、レッド。あのオニスズメ達、随分怒ってるわよ?」
「いてて……そ、そうだな……」
よろよろと立ち上がりながら、レッドは辺りをもう1度見渡す。
ピカチュウも少々息切れしながら、レッドの足元へと戻ってきた。
「大概オニスズメが怒る理由は、自分のテリトリーが侵されたからだ。ブルー、何かしたのか?」
「してないわよ! でも、知らない間に縄張りに入っちゃってたのかしら」
「うーん……。まぁ、悩んでいても仕方ないな。行くぞ、ピカ!」
オニスズメの集団を前に、レッドは構える。
その表情には、余裕の笑みさえ伺えた。
「グリーンからポケモンを取り戻した以上、恐れるものは何もねぇ! ピカ、10万ボルト!」
「ピカァァァッッ!!」
バチバチバチバチッ!!
息の合った攻撃で、オニスズメ達を一掃するレッドとピカ。
あっという間に、辺りは静かになった。
「す、すごい威力……」
「はは、どんなもんだ」
ところが……ミシっ!
「……ん?」
足元で不穏な音がしたのは、その時だった。
そうかと思った瞬間、いきなりレッドの足場が崩れ始める。
「なっ……うわ!!」
「レッド!?」
崩れる地面に飲み込まれ、レッドは暗闇の中へと落っこちてしまった。
この時レッドには何が起こったのか理解できなかったが、実は彼、地下空洞の真上に立っていたのだ。
それが10万ボルトの衝撃で一気に足場が脆くなり、とうとう崩れてしまったのである。
「…………」
「……ピカ……」
ブルーもピカチュウも、呆然とその様子を見ているしかなかった。
「……えっと、どうしよ」
「ピカァ〜……」
「助けに……行かなきゃよね? 一応、私も助けてもらった訳だし」
「ピカ!」
するとピカチュウは、やや離れた草むらへと駆け込む。
少ししてから顔をこちらへ向け直すと、口にバックをくわえて近づいてきた。
「あ、それ……私のバック!」
驚いた様子で、ブルーはピカチュウからバックを受け取る。
ピカチュウの見る目の前で、ブルーは顔をほのかに赤く染めながら、バックをぎゅうっと抱きしめるのだった。
「あ、ありがとう……レッドが拾って、持って来てくれてたんだ?」
「ピカ♪」
「……行こう、ピカチュウ。一緒に、レッドを迎えに」
続く
第4話……どーにも、情景描写の表現がスッキリしない一話となりました。−−;
今回はブルーサイドの話となりましたが、どうやら話数が奇数の時はレッド、偶数の時はブルーが主体の話となりそうです。
それでは続きもお楽しみに。