「ピカチュウ! 昨日教えてやった、例の技を試すんだ!」

 ツンとはねた髪が特徴の、1人の少年トレーナーが原っぱで戦闘を行っている。
 日が沈んできた頃に、レッドはよく知るその少年を発見したのだ。

「(あれは俺のピカチュウ……と、グリーン!?)」

 先日レッドは偶然、ライバルであるグリーンと手持ちポケモンが入れ替わってしまっていた。
 従って当然グリーンはレッドのピカチュウを連れている訳だが、その姿をたまたま発見できたのだ。
 今、野生のキュウコンと戦っている様子のグリーンに、レッドはすぐ駆け寄って行く。

「どくどく攻撃だ!」

 そうこうしている内にも、グリーンは手際よく戦闘を展開。
 ピカチュウが尾を敵キュウコンに刺し、毒を注入したようだ。

「いいぞ。電気タイプだからって、電気技しか覚えさせないのでは芸がないぜ、レッド!」

「(俺のピカチュウが、なんかサソリみたいにされてる……)」

 とはいえ、たった数日でピカチュウに新技を修得させている辺り、グリーンの実力は驚くべきものである。
 そんなこんなで、結局キュウコンはグリーンが投げるモンスターボールによって捕獲された。

「……! レッドか。どうやら、ようやく俺のポケモンが手元に戻って来るようだな」

「ったく、それはこっちのセリフだ。大体、あれはほとんどグリーンのせいじゃんか」

「むっ……」

 確かにレッドの言う事ももっともなので、グリーンは言い返せなかった。
 しかし何はともあれ、お互いに自分の手持ちを交換して全ては元通りになる。

「っと、そうだ。レッド、こいつもお前の物だろう?」

「え?」

 そう言って渡して来たのは、1つのバッグである。

「すぐそこで落ちてたんだ。お前の名前が書かれたタオルや、今までに取得したバッジまで、バッグからこぼれかけてたぞ。自分の手荷物ぐらい、きちんと管理するんだな」

「(……って、これはブルーのじゃ!?)」

 バッグに入っていたタオルやバッジは、明らかにブルーに貸してた(もしくは盗られていた)物だ。
 実際レッドはブルーがこのバッグを持っている姿を何度も見ていたし、間違いない。

「それにしても、レッド。お前、そのバッグは女物じゃないのか? 拾った、こっちの方が恥ずかしい」

「俺のじゃねぇっつーの!! それよかグリーン、これが落ちてたってどこに!?」

「何……?」

「(ブルーが自分の荷物を、そんな荒れた感じに落として行くなんて……。そういや、この辺りにも野生の鳥ポケモンがいたしな。あいつ、どういう訳か鳥を恐れてる感じだったし。何かあったんじゃっ!)」

 レッドは心配になり、それ以外何も考えられなくなる。
 よく事情の知らないグリーンだったが、とりあえず質問には答える事にした。

「……とりあえず、落ちてたのは向こうの方だ。ここから、100mぐらい先のとこだったと思うが?」

「分かった。サンキュー!」

「あっ、おい!」

 あっという間に、レッドは夜の闇へと消えていく。
 グリーンは「やれやれ」と思いつつ、とりあえず戻って来た自分のポケモン達を外に出し確認した。
 数日前と力量が大差ない事は、一目で判明してしまう。

「……まったく! 俺はレッドのポケモンをしっかり鍛えといてやったのに、俺のは変わってねぇぞ!」

 だが、変化が無い訳でもない。
 リザードを始め、グリーンのポケモン達はみなレッドの元で、トレーニングより遊ぶ事を優先されていた。
 レッドの前では素直な様子を見せなかったが、いざ親トレーナーの手元に戻ると、妙にすり寄って来る。

「……? こいつら……なんか、目つきがやけにニコニコと……」

 

 

 

第5編「敵」

 

前回までのあらすじ:
 レッドの元から離れたブルーだが、彼女のトラウマでもある鳥の野生ポケモンに襲われる。
 彼女が鳥に恐怖を覚える理由……それには、かつて彼女が遭った誘拐事件が関わっていた。
 回想にふける間に、今度は野生のオニスズメ集団に囲まれてしまうブルー。
 そこへレッドが駆けつける事によって危機を脱するが、レッドは真下にあった地下空洞に落ちてしまう。

 

 

 

 ブルーと分かれた後、レッドはとりあえずグリーンに会って自分のポケモンを取り戻す。
 ただ、同時にブルーの落としたバッグを発見し、彼女の危機を察して助けるべく走ったのだ。

「で……今、俺はここにいると……」

 横たわっていたレッドは、ゆっくり体を起こす。
 彼女を襲うオニスズメ達と戦ったのは、この洞窟の真上の地上である。
 見上げれば、意外にも随分な高度を落ちて来たのだと実感できた。

「案の定ブルーは鳥に襲われていた訳だが……何であいつ、あんなに鳥が苦手なんだろ? まぁでも、助けられたからよしとするか。後は俺が、ここから脱出しねぇとな」

 先程、一緒に戦っていたピカチュウは見当たらない。
 ピカチュウもブルーの所に一緒でいるだろうから、持って来たバッグも彼女に手渡してくれたかも知れない。

「しかし、どこから上に登ればいいんだ。俺、飛行タイプのポケモン持ってないしな。……ん?」

 その時、レッドは気付いた。
 洞窟の暗がりの先に、真っ黒な不気味な影が浮かび上がっている……!

「(何だ? 人……いや、違う!)」

 影だけ見れば人に近い姿形ではあったが、形状がどう見ても普通じゃない。
 人にしては頭や腰部分の形が変だし、腕も明らかに長かった。

「(……あ、オニスズメ!)」

 そこへ舞い降りて来たのは、先程ブルーを襲っていたオニスズメ達。
 彼等は興奮気味に、不気味な黒い影を攻撃し始めたのだ。

「……!?」

「……フゥゥォォォッ!」

 すると黒い影は、不気味なうなり声をあげた。
 そしてムチのような触手と思われる物を振り回し、次々とオニスズメに反撃する。

「なっ!?」

「ヂュヂュッ!!?」

「ヂュッ!!」

 黒い影が放つ攻撃は凄まじく、オニスズメ達は触手のムチで次々撃墜されてゆく。
 そこでレッドは、さっきブルーを助けた時にも、オニスズメ達がやけにいきり立っていた事を思い出す。
 オニスズメが怒るのは自分のテリトリーを侵された時……それはレッド自身が述べていた事だ。

「そうか……お前か……!」

 大体の事情が分かったレッドは、ようやく黒い影に言葉を向ける。

「ブルーじゃなく、お前がオニスズメのテリトリーを侵していたのか!」

 この時、すでにオニスズメのほとんどが打ち落とされ、地面の上で気絶していた。
 残りのオニスズメもようやく退却し、一通り片付けた黒い影は、今度はレッドに歩み寄る。

「……っっ!!」

 暗がりから出てきて、月明かりに照らされた姿は、これまで見た事もない相手だった。
 全体的にオレンジ色の体で、胸部分には青い水晶体らしき物が埋め込まれている。
 シルエットこそ人の形に近かったが、耳のでっぱり具合や腰での足の付き方、やけに長い右腕と、左腕の代わりについた2本の触手……どう見ても人間ではない。

「ポケモン……なのか!?」

 人でないとすれば、その異形の姿を持つ者はポケモンなのか?
 当然レッドの考えはそうなるが、ポケモンにしたってこのような姿をした種類は見た事が無かった。

 それもそのはず。
 時はまだ、150匹までしかポケモンの種類が正式確認されていないこの時代。
 今レッドの目の前にいるのは、明らかに未発見の種なのである。
 このポケモン……デオキシス・ノーマルフォルムが世間的に知れ渡るのは、まだ何年も先の話なのだった。

「……!! 来るっ!?」

 そしてデオキシスは、レッドに襲い掛かる。
 オニスズメを一撃で叩き落す強力な触手のムチを、レッドの体めがけて放って来た。

「クッ!」

 スレスレで回避したレッドだが、なおも追いかけてくる触手がレッドの左腕にまきつく。

「しまった! ……フッシー、行け!」

 残った右腕より、フシギソウ♂を繰り出すレッド。
 ムチ攻撃という点ではフシギソウも負けてはおらず、素早くつるを伸ばして迎撃に向かった。

「フゥゥオォォォ……!!」

 だが、デオキシスの触手はもう1本ある。
 自然とムチ対ムチの戦いとなり、お互いの隙を狙ってはムチを振るうという中距離戦闘に発展した。
 ところがデオキシスは、残った右腕も伸ばしてフシギソウに迫らせる。

「何っ!? あいつ、腕の方も伸ばせるのか!!」

 バキッ!
 フシギソウはそのまま殴りつけられ、更にデオキシスの触手でしばりつけられた。
 レッドとフシギソウ、この2体の動きを止めたデオキシスは、続いて胸の水晶体を紫色に光らせる。

「!!?」

 バシッ!! バシッ!!
 気付けば全身に強い衝撃が走り、レッドもフシギソウもその場にうずくまった。

「ナ、ナイトヘッドか……!」

「フゥゥォォ……」

「やっぱりお前、ポケモンなんだな……? けど、どこか普通の野生ポケモンとは違う。まるで何か特別な強い意志を持って、攻撃をしかけてきているようでならない。お前は一体……!」

 すると、レッドの頭の中に声が響いてくる。
 しかし耳から入ったものではなく、直接念波で脳に送り込まれて来る感覚だ。

“我……デオキシス……”

「!?」

“我……宇宙(そら)より飛来せし者……。我……姿変えし者……。我……姿見た者を排除せし者……!”

 デオキシスの右腕が、再度伸びた。
 今度はレッドに向けて、鋭く拳が彼の腹部をとらえる。

「ぐはっ!」

 だがレッドも、やられてばかりではいられない。
 自分の腰に装着された、最後のモンスターボールを手に取り、その中のポケモンに全てを託す。

「行ってくれ、ニョロ!」

 ニョロボンは、レッドにとってもっとも付き合いの古い、彼の小さい頃から共にいるポケモンだ。
 水の能力と格闘の力強さを兼ね備えたニョロボンは、またも迫り来るデオキシスの右腕を拳で叩き払う。

「!」

 一瞬驚いたデオキシスだが、構わず今度はナイトヘッドによる遠隔攻撃を開始。
 だがニョロボンも、水鉄砲という遠隔攻撃を持っている。

「(頼む、ニョロ……!)」

 相変わらずレッド自身は左腕をデオキシスの触手に取られ、身動きが取れない。
 後はもう、自分の古くからの友人を信じるしかなかった。
 そしてニョロボンも、ナイトヘッドに耐えつつじりじりとデオキシスとの距離を縮めた。

「……! 今だ、跳べ!」

 レッドの合図で、ニョロボンは地面に水鉄砲を当てながら、その推進力を得て跳び上がる。
 そのまま上空より、体をひねりながら回転攻撃を放った。

「地獄車!!」

 ズガガァッ!!
 当然まだレッドは知らないが、エスパータイプのデオキシスに格闘タイプは有効ではない。
 だが、そんなタイプ相性すら跳ね除ける程の、ありあまる威力がデオキシスに浴びせられた。

「フゥゥゥォ……ォォオォォォ……」

 大ダメージを負い、体をよろけさせるデオキシス。

“Lv1(レベルワン)では……対処不能……。戦線離脱……”

「あっ!」

 シュウンっ!
 これ以上の戦闘は無理と判断したのか、テレポートでその場から姿消した。 
 ともあれ、ひとまず危機が去った事でレッドはようやく安堵する。

「はぁ……やれやれ。フッシー、ニョロ、とりあえずお疲れさんな」

「……あ、いたいた。レッド〜!」

「ん、この声はブルー?」

 レッドの思った通り、それはブルーがレッドを発見した時の声だった。
 岩がゴツゴツしている中を、彼女とピカチュウが器用に上から跳び跳びで降りて来るのが見える。

「レッド、あんな高い所から落ちて大丈夫だった? って、ボロボロじゃない! 何かあったの?」

「え、あ……いや、まぁ。ははは……」

「……? まぁでも、無事でよかったわ」

 そう言って見せるブルーの頬笑みで、何故かレッドは疲れが吹き飛んでしまうかのようだったとか。

 

 2人が地上に戻った事で、色々と一段落。
 ブルーはしばらく間を置いてから、少し照れつつレッドに話しかけた。

「あ、あの……レッド?」

「ん?」

「さっきは本当に、助けてくれてありがとう。もう気付いているかも知れないけど、私……鳥がダメだから。その、昔ちょっと色々あってね」

「そうか。まぁでも、大したケガも無くて何よりだったよ。ブルーを1人にさせちゃったのは俺のせいでもあるし、お嫁に行けなくなったらさすがに気まずいからな」

「ばっ……何言ってんのよ、もう!」

 頬を膨らまし、不機嫌そうにそっぽを向くブルー。
 だがすぐに、彼女はレッドに背を向けたまま静かに語りかける。

「私ね、親がいないの。ううん、きっとどこかにはいるハズなんだけど……どこにいるか分からないのよ。私、1人ぼっちなの」

「……! ブルー……?」

「だから私、1人で生きていかなきゃいけないのよ。子供の私が生活費稼ぐにも、手段を選んでる余裕がないの。だから詐欺や泥棒をしたり……その、ミュウちゃんを捕まえて売ったりとかね……」

「そ、そうだったのか。ブルー、お前……」

 ブルーがお金の為にミュウを売りさばく事を、最初は腹立たしく思ったレッド。
 だがブルーにも、彼女なりの事情があった事を初めて知る。
 彼女の言う通り、子供1人が生活費を稼ぐのは容易な事ではないし、親を始め頼れる人がいないなら死活問題だ。
 レッドは、ブルーを腹立たしく思った時の、己の軽率さを恥じた。

「でも、だからってミュウちゃんを売りとばす事の正当化にはならないわよね」

「!! ブルー、それは……」

「だから、もういいの。……あ、そういえばレッド。私のバッグ、拾ってくれてありがとね」

「え? あぁ、見つけたのはグリーンだったらしいけどな。俺はそれ見て、ブルーに何かあったんじゃないかと思ったから」

 しかし、ブルーはバッグの中を見てある事に気付く。

「……? レッドに借りてたタオルと、レッドから盗ったバッジが無くなってる」

「あ、当たり前だろ。それ、俺のなんだし!」

「ふぅん、レッドって女の子のバッグの中身を平気であさるんだ? 何か、サイテ〜」

「ち、違う! バッグの中から、最初っから両方こぼれ落ちてたんだ。俺にだって、それぐらいのデリカシーはあるっつーの!」

「……やぁねぇ、何本気でムキになってるのよ♪ 私に嫌われると思って、慌ててるの?」

「なっ……そ、そうじゃなくって! あぁもう、勝手にしろ!」

 完全にからかわれたレッドは、不機嫌そうに腕を組むと、彼もまた背を向けた。
 しかし、そんなレッドにブルーが自分の背中もくっつけてくる。

「……!」

「だけど……レッドが助けに来てくれた時は、ちょっぴりかっこよかったわよ」

「……あ、あぁ」

 頬の辺りを人差し指でポリポリかくレッドの顔は、少々赤く染まっていた。

「…………。なーんてね♪ これな〜んだ!」

「……へ?」

 急に声のトーンが変わるブルーに、レッドは少し虚をつかれる。
 振り返り、ブルーが指し示す耳につけられたピアスとおぼしき物を見た途端、レッドの表情が一変した。

「あぁ!! グレーバッジとブルーバッジ、何で!?」

「バッグに入れてたのは、もしもの時の為の偽者よ。ホホホ♪ せっかくのバッジを、そう簡単に返したりするもんですか♪」

 するとブルーは、プリンを繰り出す。
 風船の如く膨らんで浮かび上がるそれの足にブルーはつかまり、フワフワ空へと逃げてしまう。

「オイコラ! まったく、どーゆー事を……」

「じゃーねー♪」

「くそーっ! 勝手にしろやい!」

 プンスカ怒るレッド。
 しかしその彼の足元に、ピカチュウが手でこづいてくる。

「……ん、ピカ?」

 見ればその口には、何かプレゼントらしきラッピングされた小箱がくわえられている。
 添えられていたメモ書きのような手紙を取り、何かと思い開けて見ると、中には彼女がタマムシデパートで買ったあのバンダナが入っていた。

―――――――
色々ありがと♪
愛をこめて……
☆ブルー☆
―――――――

 手紙には、そうつづられていた。
 それを見たレッドの顔が、また少し赤くなったのは言うまでもない。

「…………。まったく……」

 

 続く

 

 ちなみに原作ではブルーの手紙、「色々ありがと」ではなく「御協力ありがと」なんですよね。
 (プレゼントとかも原作には無かったですけど)
 なるべくそこだけでも忠実にやりたかったのですが、どうしても「御協力」じゃ変だなぁと思い、やむなく変更(ぁ)。
 「助けてくれて」でも良かったんですが、すでにブルーは何度も言葉でそう言ってるし、変かなぁとも思い。−−;

 さて、レブルストーリーもアクジェネみたく、次回タイトル載せてみましょうか。
 第6編「思慕の行き先」、ご期待ください。
 例によって話数が奇数番号がレッドメインの話なので、次回は偶数番号という事でブルーメインです。

 

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