ポケモンリーグを目指す少年レッドには、ライバルがいた。
同じマサラタウン出身で、有名なポケモン研究者であるオーキド博士の孫。
……名を、グリーンと言う。
『旅は順調のようじゃな、グリーン。とうとうリザードも二度目の進化を迎えたか』
今、グリーンは祖父オーキドとパソコン画面で通信を行っている。
レッドもそうだが、彼は定期的に連絡を取って旅の報告をしているのだ。
『この調子なら、お前とレッドがポケモンリーグに挑戦する日も遠くはなかろう』
「もしそうなったら、絶対に俺がレッドに勝ってやるがな」
『ははは、強気じゃのぅ。まぁ実際、レッドのフシギソウはまだ最終進化には至っておらんし、レッドが旅に連れる主力メンバーのポケモンはまだ4匹。先日捕まえたキュウコンを合わせて現在5匹を連れておるお前の方が、確かに一歩リードしていると言えるかも知れんがな』
「4匹? レッドの奴、例の3匹以外に新たなポケモンをメンバーに加えてるのか」
以前、ひょんなトラブルから互いのポケモンが入れ替わった時……。
レッドのポケモンは、ピカチュウ、ニョロボン、そしてフシギソウだった。
今の所グリーンは、レッドの持つ他のポケモンを知らないのである。
『いやいや、実はもう前にレッドが捕まえとったポケモンがおるんじゃが、わしがお願いして少しばかり預からせてもったんじゃ。何せこのポケモンは数が希少じゃから、ぜひこの機会に生態を調べさせてもらいたかったのでな』
そう言ってオーキド博士は、後ろに超大型のポケモンを出して、画面の向こうにいるグリーンへ見せる。
「カビゴン……か」
『よいか、グリーン。お前の方が一歩リードしてるとは言え、レッドの成長力はお前に匹敵するものがある。うかうかしとると、いつ追い抜かれるか分からんぞ。絶えず精進を続ける事じゃ』
「分かったよ、お爺ちゃん。それじゃ」
プツリと、グリーンはパソコンの通信を切った。
彼はポケモンセンターの外へ出て、腰に装着している自分のポケモンが入ったモンスターボールを確認。
「(ゴルダック、カイリキー、(レッドとポケモンが入れ替わる原因になった)ポリゴン、更にレッドにピカチュウを返す直前で捕獲したキュウコン。……そして!)」
5個のボールの中から1つを選び、グリーンは手に取る。
目の前にそれを投げると、中から紅蓮な炎を尾に宿した、大きく立派な体格の火竜が姿を現す。
「フッ! 集中的に鍛えたかいがあって、ついに最終形態。飛べ、リザードン!」
第6編「思慕の行き先」
前回までのあらすじ:
グリーンから自分のポケモンを返してもらい、オニスズメに襲われるブルーも助けたレッド。
しかし誤って地下空洞に落ちてしまい、そこで未知のポケモン:デオキシスに遭遇。
苦戦しつつも何とか撃退すると、ブルーが空洞に落ちたレッドを探しにやって来る。
そして手紙の付いたプレゼントを残すと、彼女はプリンで夜空へと飛び去るのだった。
「ここは通り抜け禁止だ。出て行け!」
「えーっ。そんな事言わないで、通してよ〜」
ブルーはレッドと別れたタマムシシティ近辺から東に進み、ヤマブキシティに来ていた。
いや、正確にはヤマブキシティに入ろうとしていたのだが、門の先に進ませてもらえない様子。
「ダメだ!」
ヤマブキシティは壁に囲まれた町で、東西南北の計4ヶ所にある門を通ってでのみ入る事が出来る。
すでにブルーは3つの門の通り抜けを拒否され、最後の西門に来ていたのだが、ここも結局追い出されてしまった。
「ケ、ケチー! イ〜だ!」
……ヤマブキシティと言えば、カントー最大の都市である。
ブルーはこれまで、様々な町を点々としながらお金を稼いで来た。
それが都市という、その効率が特に見込めそうなヤマブキシティに限って、どうしても入る事ができない。
「さーって、どうしよーかしら。……ぷりり」
彼女はプリンを繰り出す。
ブルーが空を飛ぶ際に活躍するポケモンで、風船の如くフワフワ浮かぶ事が可能。
いつものように彼女はその足につかまると、プリンを空へ浮かび上がらせた。
「門が通れないなら、やっぱり空から入るしか無いわよね。だけど……」
ブルーがつかまるプリンがヤマブキ上空に来ると、一面家々が並ぶ広大な都市が姿を見せた。
一見すると、このまま空から町へ入れそうに見える。
だが、あまりに簡単過ぎると逆にそれが疑わしく思えると、彼女は考えていた。
「(東西南北の門を封鎖。それはつまり、ヤマブキシティへの侵入を拒んでいるって事よね。なのに、空から侵入する事への配慮が何も成されてないっていうのは、さすがにねぇ……)」
彼女は、帽子のようにかぶって両目に装着するらしき、妙な形状の機械を取り出す。
ただのメガネ……には、ちょっと見えない。
「(あたしの作った、エスパー探知用のスコープ。本当はミュウちゃん発見の為に作った物だけど、もしかしてこれを使えば何か見えるかも知れないわ)」
見た感じヤマブキシティの上空には何も無さそうだが、目に見えないトラップがあるのではと彼女は予想。
そこで実際にスコープを通して見てみると……案の定、肉眼では確認できない紫の幕を発見した。
「……やっぱり」
紫色の幕は、ヤマブキシティ全体の上空を一面覆い、ドーム状になっていた。
恐らく、エスパーポケモンか何かが発しているバリアーだろう。
「(ご苦労な事ねぇ。こんな大きな町の全てをバリアーで覆うだなんて。よっぽど町に侵入されたらまずい事情でもあるのかしら?)」
「町に異常は無いようだが……」
「……!」
不意にブルーは、誰か少年のものらしき声を聞いた。
横を見ると、少し離れた所でリザードンに乗った、見慣れない少年が空を飛んでいる。
「ん?」
と、どうやら相手もブルーの姿を確認した様子。
「あら、いい男発見。こんにちはーっ、デートしない?」
「な、なんだ……あの女」
いぶかしげな面持ちで、リザードンに乗る少年ことグリーンはそう口にする。
実際、気安く声をかけてきた少女の顔は、スコープを装着した状態なので結構不審に見えた。
「無視だ、無視! リザードン!」
グリーンはリザードンを呼びかけ、ブルーをほっといてヤマブキシティに入ろうとする。
当然彼には、バリアーなど見えていないのだ。
それをスコープを装着していた事で知るブルーは、すぐに彼を呼び止める。
「慌てちゃダメよー! バリアーがあるわ」
「何!?」
ガガガッ! バリバリバリッ!
呼びかけられた時点では時すでに遅し、リザードンはもろにバリアーへと突っ込んでいた。
墜落する程ではないが、ダメージを負ってしまうリザードン。
「おい、お前! それならそうと、早く……」
「このバリアー、エスパー系のポケモンが発生させたものだわ。でも町全体を覆っているなんて、ただごとじゃない」
グリーンの言葉を遮り、ブルーはスコープを外しながら自分の得た情報を述べる。
それはいいのだが、まだグリーンとリザードンは少し不機嫌そうだ。
「(ったく! ……まぁいずれにせよ、門が通行止めならバリアーを何とかしないとな)」
そこでグリーンは、早速リザードンに攻撃指示。
「……リザードン!」
ボゥボゥと激しい火炎放射で、先程ぶつかった辺りのバリアーを攻撃してみる。
炎の当たった部分の幕が変色して目に見え始めるが、破れる様子は全くない。
「(だめか……)」
攻撃を止めると、すぐに何事も無かったように見えないバリアーとなってしまった。
「ねえ、あなた!」
そこへ、またも気安く呼びかけて来るのがブルー。
「どうしてヤマブキに入りたいかは知らないけど、ここはあたしと手を組まない?」
だがグリーンの態度は、始めに彼が述べた言葉通りだ。
無視を決め込むと、彼はリザードンを更に空高くに上がらせる。
「(これだけ巨大なバリアーだ。ポケモンが作り出しているなら、部分的に弱い所があるんじゃないか? 例えば、中央部……!)」
早速、グリーンはバリアー最上部と思われる場所まで上り詰める。
そこで再び、リザードンの火炎放射を試すが……
「中央部も……ダメか」
強度は、さっき攻撃した部分と違うようには見えなかった。
やはり力押しだけでは、バリアーを突破できないようである。
「(参ったな。ヤマブキが入れるようになるまで、他の町を回って待つしかないのか? だが、時間を置いたからといって、バリアーが無くなるという保証は……)」
「ねぇ! ねぇってば〜!」
そこへまたしても、ブルーがグリーンの後をついてきて声をかけてきた。
バリアーを突破できない苛立ちもあり、とうとうグリーンは痺れを切らす。
「だ〜! 何なんだ、お前は。俺に関わるな!」
「何よ、その言い方〜! あなたもあたしと同じで、ヤマブキシティに入りたいんでしょ? だったら、一度手を組んだ方がやりやすいと思わないの?」
「……じゃあ聞くが、お前にはバリアーを突破する手段に見当がついてるのか?」
「あたしのスコープは、エスパーの念波をキャッチできるの。このバリアーをスコープで感知できたって事は、これは間違いなくエスパーポケモンの力なのよ。つまり、そのポケモンを倒せばバリアーは無くなるはずだわ」
「そんなのは当たり前だ! 中に入れないのに、どうやってバリアー内のポケモンを攻撃する気だ?」
「そ、それは……ホラ。実体の無いポケモンなら、バリアーをすり抜けられるんじゃないかしら? そんなポケモンを使って……」
「俺はそんなの持ってはいない。そんな事を提案する前に、お前がそれをやったらどうなんだ。やらないのは、お前もそんなポケモンを持っていないからだろう?」
「う゛……」
痛い所を突かれ、ブルーは唸る。
「それなら、お前に用はない。俺は俺のやり方で、バリアーを突破するからな」
「ちょ、ちょっと! 待ってってば〜」
今度は地上に降りようとするグリーンを、懲りずにブルーは追いかけた。
グリーンの苛立ちは溜まる一方だ。
「何だ、しつこいぞ!」
「まぁまぁ♪ 私はブルー。せっかく会ったんだし、これっきりだなんて言わないでよ。この私と釣り合う男なんてそうそういないけど、あなたは結構かっこいいし、ここは休憩がてら一緒にお茶でもしてさ〜」
「お断りだ! お前みたいな軽薄女に、わざわざ付き合ってやるつもりはない」
「なっ……け、軽薄女ですって〜!?」
さすがにカチンと来たらしく、ブルーの方も声を荒げた。
「それは聞き捨てならないわ。ちょっと失礼じゃないかしら!」
「あまりにも、しつこいからだ! ……ん?」
その時グリーンは、ブルーの持つバッグに目がつく。
どこかで見覚えのある物だったからだ。
「そのバッグ……確か、レッドに渡してやったのと同じやつだな」
「え、レッドを知ってるの?」
これには、ブルーも意外そうな顔を見せる。
「やっぱり、そうか……。俺はグリーン。レッドは、俺と同時にポケモンリーグを目指す旅に出たんだ」
「なるほど〜。あなたが話に聞いた、レッドのライバルなの。じゃあそのリザードン、前にレッドがポケモン入れ替わったって言ってた時にいた、あのリザードが進化した子なのね?」
「…………。お前、レッドの彼女なのか?」
「ばっ……!! 違うわよ。何で、あんな奴の!!」
途端に顔を少しだけ赤くし、ブルーは否定する。
「レッドは、私がちょっとおだてて利用しようとしてやっただけの奴よ。何で私が、あんな奴の彼女になる訳!?」
「そうか。確かに、レッドは騙されやすそうな奴だからな。あいつを手玉に取るのは、さぞ容易かった事だろうな」
「むっ……」
「あんな奴、俺はライバルだなんて思っちゃいないがな。勝手にあいつが俺と張り合おうとしてて、その割には実力が伴わない始末だ」
「…………」
「後先考えずに行動して、肝心な所でドジを踏んで、何をするにも詰めが甘くて、いつもどこか抜けてて、トロくて、本当に先が思いやられ……」
「レ、レッドは強いわよ!! あたしを助けてくれたし、あんたなんかに負けるような奴じゃないんだから!!」
耐え兼ねたブルーは、ついそう怒鳴ってしまった。
「……ふっ」
「あ……」
思わず口元に笑みを浮かべたグリーンを見て、ブルーは顔を赤くする。
さっきまで執拗にグリーンを追い回していた彼女が、今度は逆にこの場から逃げだしたくなった。
「そんなに、レッドをけなされるのが嫌か」
「ち、違っ……!」
「心配するな。あいつは強いポケモントレーナーだ。……俺も認めてる」
「!! グリーン、あなた……」
すると、急にグリーンはリザードンを翻(ひるがえ)させた。
翼が起こした少々の風が、ブルーのプリンをあおる。
「きゃっ」
「今日はヤメだ。この調子じゃヤマブキに入る手立ては見つからなさそうだし、俺は出直す事にする」
「って、ちょっと!」
「それに俺は、お前なんかに付き合ってやる暇はないからな」
それだけ言い残し、グリーンを乗せたリザードンは飛び去る。
ハイレベルなスピードを誇るそれは、あっという間にブルーの前から影も形も消してしまった。
「……いーっだ! こっちこそ、もうあなたなんかに付き合ってやるもんですかー!」
とっくに聞こえないハズの声を、ブルーは腹の底から叫ぶ。
そしてしばらくして落ち着いた後、ブルーはそっとプリンに語りかけた。
「ねぇ、ぷりり」
「……ぷりゅ?」
何かと、プリンは鳴き声をあげて返事をする。
「…………。もう1回、レッドに会ってみようか?」
「ぷり!」
「もう1回会って……今度は、もうちょっと素直な態度で話をしてみたい」
彼女は、バッグの中から2つのトレーナーバッジを取り出す。
レッドからせしめた(?)、グレーバッジとブルーバッジだ。
「…………。マサラタウン出身のレッドがニビとハナダを通って、私と会ったのがタマムシだった。という事は、レッドが次に進むのはセキチクシティかしら?」
「ぷりゅ!」
「目指すは南ね。行こう……もう1度、レッドに会いに!」
プリンはブルーを乗せて、ひたすらふわふわ南を目指し始める。
その行き先は、彼女が想う相手の元……。
ゆったりのんびりした遊覧飛行のようなそれは、ブルーの心を落ち着かせるのには十分だった。
続く
レッドがカビゴンを持ってた事を完璧に忘却していた、作者のアットです(ぇ)。
冒頭の部分はぶっちゃけた話、その事へのリカバリー……。
忘れていたと言えば、ブルーの一人称は『私』ではなく『あたし』らしい。
アクジェネのケイコとかと同じなんですよね。
しょうがないので今話から『あたし』にしましたが、また忘れて『私』と書きそうな予感もする。
では次回、第7編「形態変化(フォームチェンジ)」。
ぜひお楽しみに。