第9編「Lv3(レベルスリー)」
前回までのあらすじ:
ロケット団のボス、サカキと一戦を交えたブルー。
持ち前の機転で戦い抜いて、見事に難を逃れると共に秘密のコハクを手に入れた。
一方でレッドは、ようやくセキチクシティ近辺に訪れたブルーとの再会を果たす。
だがそこへ現れたのは、Lv3(レベルスリー)に強化されたデオキシスだった。
先日サカキと戦ったばかりのブルーは、あの時と同じか、あるいはそれ以上の迫力を感じていた。
普段の彼女にとってなら、未知なるポケモンなどは格好の捕獲対象である。
だが、しかし……この相手に対してばかりは、さすがにそんな気がおこらないのだ。
「フゥゥオォォォォ……!!」
低く唸るデオキシスに、レッドとブルーは身構える。
「ブルー、どういう事なんだ?」
「知らないわよ。本当に、いきなり襲いかかってきただけなの!」
……シュンっ!!
不意にデオキシスが、姿を消した。
「!?」
それは、あまりにハイスピードな動きをした故の現象だった。
ほんのかすかに、レッドはデオキシスが真横に現れる瞬間を見る。
「(速……っっ!!)」
ガツッ!!
レッドは当て身をくらい、地面に倒れこんだ。
「レッド!?」
「クッ、ピカ! 電光石火だ!」
素早い動きが自慢のピカチュウを向かわせ、デオキシスの動きに対抗する事に。
だがデオキシスの動きは想像以上で、左右1本ずつの触手のような腕で、ピカチュウの電光石火に難なく対処する。
「な、何だとっ」
“……神速……”
ズガッ!
デオキシスの声が頭に響くと、直後にピカチュウの小柄な体は、あっけなく吹っ飛ばされた。
しかもその先に、ゴツゴツした大岩があるではないか。
「まずい、一旦戻れ!」
慌ててレッドが、岩に激突する前にピカチュウをボールに戻させる。
それとほぼ同時のタイミングで、ブルーはプリンを繰り出していた。
「レッド、相手のスピードが尋常じゃないわ! 素早さで勝負しちゃダメよ」
「あぁ、そうみたいだな。ニョロ、頼むぜ!」
プリンとニョロボン……2匹がデオキシスを挟むように立った。
前後から攻撃すれば、少しはダメージを当てられるかも知れない。
「ニョロ、地獄車だ!」
「プリン、トライアターック!」
ズガガガガっ!!
両者の力いっぱいな攻撃が、デオキシスに向けられる。
しかしその時、不思議な紫色をした半透明の障壁が出現。
「なっ!!」
気づけばデオキシスは、さっき出現した時の、横幅が大きなサイズとなった姿に変身している。
そしてデオキシスを取り囲む、リフレクターと光の壁を合成させたような半透明障壁……。
各々が合体して多面体のような形になった障壁達は、全ての攻撃を阻んでしまうのだった。
「またさっきの姿になっちゃった。レッド、これって……」
「……さっきコイツ、ディフェンスフォルムって言ってたよな。こいつは状況に応じて、姿を変えているんだ」
「じゃあディフェンスフォルムってのは、防御に特化した姿って訳?」
「あぁ。そしてスピードフォルムは、素早さ特化の状態って事だ!」
そしてデオキシスは、またも姿を変える。
今度は、レッドが数日前に初めて遭遇した時の、Lv1(レベルワン)の時の状態になった。
「さながら、あの状態はノーマルフォルム。……そうか。あいつの言うレベルってのは、形態のバリエーションという訳か」
初めてレッドがデオキシスと戦った時には、形態を変化させる様子は見られなかった。
それがLv1(レベルワン)の時だったからとすれば、説明がつく。
つまり今、Lv3(レベルスリー)のデオキシスだからこそ、3種類の形態バリエーションを持っているという事なのだ。
「フゥゥオォォ……!!」
「!? 来るぞ、ブルー!」
相手の唸り声を聞き、レッドは警戒を発する。
もちろんブルーも、言われるまでもなく身構えていた。
「レッド、ここは一旦動きを止めましょ! いっせいに眠らせる技を使えば、片方ぐらい効くかも」
「分かった。ニョロ、催眠術!」
「ぷりり、歌って!」
しかし、デオキシスの方が行動は速い。
ノーマルフォルムは、右には腕、左には2本の触手がついている形態だ。
デオキシスは触手を伸ばしてプリンを捕らえ、口を塞いで歌えなくさせてしまう。
「ぷりゅっ……っっ〜!!」
「あっ、ぷりり!」
デオキシスはそのまま、右腕を振りかぶってパンチを繰り出す。
「催眠術も通用しない!? ニョロ、もういいからプリンを守れ!」
このままでは確実にやられてしまうと踏んだレッドが、ニョロボンをプリンの前に立たせた。
直後に叩き付けられたデオキシスの拳を、ニョロボンはどうにか受け止めるが……バシッ!!
「あぁ!!」
両腕が塞がったニョロボンに対し、デオキシスはサイコキネシスをぶつけた。
拳を押さえ込むのに精一杯だったニョロボンは、そのまま跳ね飛ばされてしまう。
「(単に形態バリエーションが増えているだけじゃない。力量そのものが、以前とはケタ違いだ!)」
更にデオキシスは、ある場所にサイコキネシスを放った。
それは……ブルーの、足元!
「きゃっ!?」
バシッ!
地面が崩れ、よろけるブルーだったが……倒れ込むその背後は、急斜面になっている。
「ブルー、危ない!」
弾かれたように、レッドが駆け出した。
力の限り走って、どうにかブルーを抱き止めるが……バシィッッ!!
「ぐぁっ!?」
今度は、レッドの背中にサイコキネシスが撃たれた。
激痛にさいなまれながら、レッドはブルーを抱きしめたまま急斜面に倒れ込む。
「(デオキシスの奴っ……これを狙ってたのか!)」
完全にバランスを崩し、2人の体は一気に転がり落ちてしまった。
そうして姿が見えなくなってゆく様を、上に立ったデオキシスが不気味に唸りつつ眺めていた。
「……フゥゥオォォォ……」
薄暗い洞穴の中で、パチパチと焚き火が灯され……。
そこで正座から少し横に足を崩した形で座るブルーの姿が、この灯りに照らされていた。
ふと、横に寝かされていたレッドが、少しうめきながら意識を取り戻す。
「……うっ」
「あ、レッド。気がついた?」
「ここは……?」
ゆっくり目を開くと、上からブルーが顔を覗き込む姿が目に入る。
自分の頭部は、人肌の温かさを持つ何かを枕としていた……これは、太もも?
「(!? ま、まさかこれって……膝枕じゃ……)」
「…………。顔、赤くなったわね?」
「えっ……あ、いや……」
「……あははっ。その様子なら、大丈夫そうね」
ニッコリ微笑むブルーの表情は、何とも可愛らしかった。
それにしても、膝枕の上で……そんな可愛らしい顔と、彼女の豊かな胸による、服の盛りあがった膨らみを下から眺めるこの視点は、いささか刺激的すぎる。
「……っっ!!」
思わずレッドは、顔を横に向けた。
それでもブルーの顔を見つめるチャンスを逃がすのも惜しいと思ったか、つい視線を上にも向けてしまったりするが……。
「でも、本当に大丈夫? 背中のケガも、一応手当てはしておいたけれど」
「ん、あぁ……大分楽になったよ。ブルーこそ、あんな急斜面から転がり落ちたのに大丈夫か?」
「もう〜、草木であちこちに傷がついたのはレッドの方よ。あたしは、その……レッドに抱かれて、守られてたから……」
少々頬を赤らめたブルーが、思わず横に目をずらす。
そんな、少し恥ずかしげにするブルーの表情にも、レッドはつい見とれてしまった。
「と、とにかく! 今はここで休んでよう? ここにだったら、きっとデオキシスもすぐには来ないわよ」
「だといいけど……。警戒は怠らない方がいいな」
「……というか、来ないでほしい……」
「!」
レッドは、少し辛そうな表情をするブルーを見た。
それは普段の明るさの裏に隠された、レッドも幾度か見た事のある、トラウマに怯える時のブルー同様なもう1つの顔……。
「あの、デオキシスっていうやつ……なんか嫌な感じがするの……。あたしをさらって、あたしの家族を目の前から奪い去った、あの大きな鳥みたいに……」
「え……?」
家族を奪い去ったとは、相対的に見ての事である。
ブルーは幼少時代、大きな鳥によって自身がさらわれてしまった過去を持つ。
正確には家族から見て、ブルーという1人の娘が奪い去られたという事なのだ。
しかしブルーにしてみれば、相対的に自分の目の前から家族が奪われたのと同じ事を意味するのである。
鳥が苦手で、家族の行方が分からないとまでは聞いていたレッドだが……。
そこまで詳しい事情を知らない彼には、ブルーの述べた言葉を完全に把握する事はできなかった。
……それでも、言葉に彼女が根本的にどういう気持ちを込めているのかは、十分理解できる。
「あんな想いは……もう、二度と嫌なの……。あたし……」
「だ、大丈夫さ。だったら俺が、あいつがブルーから何かを奪うような事は、絶対にさせない!」
「……違うの。そうじゃなくって……!」
「え?」
「あたしはレッド、あなたが……」
ズドォンっ!!
不意に2人の耳に、外から響く爆音のようなものが届いた。
「!?」
レッドとブルーは立ち上がり、洞穴の出口からそっと外を眺める。
少し離れた所で、デオキシスは草木をなぎ払い、他の野生ポケモンを襲っていた。
「な、何て事してんのよ、あいつ! ああやって、あたし達をいぶり出そうっていうの!?」
「関係ない野生ポケモンまで、あんな事を! あれじゃ、まるで……」
そう……まるで、デオキシスはポケモンには見えない。
むしろその姿は、心ない人間の方がよっぽど近いように見えた。
あんな行動は、普通の野生ポケモンではありえないのだ。
「くそっ……!! 今度こそ、ぶっ倒してやる」
「えっ?」
「ブルーはここにいろ。恐いんだったら、洞穴に隠れて避難してるんだ!」
「……っっ!!」
もちろんレッドは、ブルーを気づかっての言葉だった。
しかしブルーの表情は強張り、手を震わせる。
「よし、まずは野生ポケモン達の安全を確保するのが第一だ。ここは大柄なゴンに、ちょっと強引だけど壁役になってもらって……」
がしっ。
前に出ようとするレッドの服を、ブルーが手でつかんだ。
「……え」
「……だめ……」
その手と表情は、明らかに「行かないで」と訴えている。
とりあえずレッドにも、一応ブルーの言いたい事だけは分かった。
「な、何でだよ。あいつを放っておく訳にはいかないだろ。それに、ブルーだってまた襲われるかも知れないし……」
「そうじゃないの……。あたしは、レッドが……」
「お、俺?」
「レッドが……奪われたくない……!!」
「!?」
その言葉を聞いて、レッドも固まった。
ブルーは悲しさと恐怖が入り混じったような表情のまま、淡々とした口調で、しかし重々しく話す。
「嫌なの……。あたしの前から家族が消えた時と……同じぐらいに……」
「ブ、ブルー……」
「自分でもよく分からない……。でも、あたし……どうしても嫌なのよ。レッドが……あたしの前から消えちゃいそうで……昔、家族が消えたあの時のように……」
そして、ぽろっと……。
彼女の瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。
「お願い……行かないで……。あたしと一緒にいて……」
「ブルー……! お、俺……」
……しかし、そこへぬぅっと黒い影が伸びる。
はっと気づいた2人が振り向くと、不気味に迫るデオキシスの姿があった。
「しまった、気づかれたか!」
「フゥゥオォォ!!」
カッっと目を見開き、ナイトヘッドで攻撃するデオキシス。
2人は左右の跳んでかわし、同時にポケモンを繰り出した。
「いい加減にしろっ……!! ゴン、行けぇっ!!」
「あんたなんか……あんたなんかぁっ!! カメちゃん!!」
カビゴンが前に出て、力任せにメガトンパンチを放つ。
だがデオキシスはスピードフォルムに姿を変えると、猛烈な速さでカビゴンを翻弄。
そこへカメールが迫り、口から水の弾丸を吐き出す。
「奪わせない……!! レッドを、あなたなんかにっ!!」
「(ブルー……)」
とはいえ、デオキシスの力も甘くはない。
左右に伸びる触手の腕で、素早く水弾を叩き落とした。
ブルーは更にメタモンを繰り出し……
「自分の力で、やられちゃいなさい! メタちゃん、変身して攻撃よ!」
かくして、2匹のデオキシスが対峙。
いつの間にか基本形態に変化していた為、ノーマルフォルム同士がぶつかりあった。
「フゥオォォ!!」
「ゴン、サポートしろ!」
激しく戦い合う中に、力自慢のカビゴンも乱入。
鈍い素早さながらも実に器用に動いて、変身状態のメタモンと共にデオキシスを追い詰めていく。
「よし、行けるぞ!」
だが、すぐに形勢は覆されてしまう。
一瞬の間にデオキシスはスピードフォルムに姿を変え、またも猛烈なスピードによる神速で、瞬時にメタモンとカビゴンを蹴散らしてしまった。
「あぁっ!?」
「そんな……」
更にデオキシスは、ディフェンスフォルムに姿を変える。
「なっ、この状況で防御形態? 一体、何を……」
そして生み出されたのが、リフレクターと光の壁を合成させたような、例の紫色をした半透明な障壁。
だがそれは、デオキシスの身を守る為の物ではない。
障壁はなんと、ブルーを閉じ込める多面体となって発生されたのだ。
「ちょ、ちょっと! 何よコレ、出られないじゃない!」
「そうか。ブルーを隔離して、戦いに手出しさせられないように……!」
この隙に、デオキシスは狙いをレッドに絞って攻撃。
こうらのように硬そうな腕をしなやかに動かし、レッドを殴りつける。
「ぐぅっ!?」
そしてよろけた所で、もう片腕を振り下ろした。
レッドの左腕を狙った攻撃が、その骨を叩き折る……!
「がっ!!? うああああっっ!!」
「きゃああっ!! レッドっ……レッドっ!!」
障壁に両手をついて叫ぶブルーの声にも、無情なデオキシスは止まらない。
片腕を折られてうずくまるレッドに、なおも迫っていた。
「やめて……お願い……!」
奪われたくない存在が、今まさに絶体絶命の危機だというのに……。
ブルーは何もできない自分が酷く嫌になり、震えた声でより強く泣き叫んだ。
「レッドを……奪わないで……!! やめて……やめてぇぇぇっっ!!」
続く
かなり危険な状況に追い詰められてしまいました、レッド……。
にしてもブルーは、本当に薄幸な少女ですよね。
それでも普段の明るさがあるのが、何よりも彼女の救いです。
次回、ついに決着。
第10話「鏡の障壁」、お楽しみに。