障壁にあてがわれたブルーの手は、わなわなと震えていた。
 目の前には、うずくまる1人の少年。
 それも……ブルーにとって、奪われたくない存在。
 しかし無情にも、少年にはデオキシスの魔の手が迫っていた。

「私……どうしたら……」

 目に涙を溜めて、声をも震わせるブルー。
 デオキシスに襲われている少年……レッドは、まさしく絶体絶命なのだった。
 ところが、ブルーは何も手出しができない。
 デオキシスの発生させた半透明の障壁が多角面体となって、中にブルーを閉じ込めていたからだ。

 ……と、その時。
 不意にブルーの腰辺りで、何かが弾けた。

「え!?」

 それは、彼女が腰部分に装着していたモンスターボール。
 更に中から出て来た、1匹のタッツーの姿が彼女の目に入る。

「タッちゃん……」

 このタッツーは、ブルーにとって連れ歩き始めたばかりの新しい仲間である。
 付き合いは、他の手持ちポケモンに比べれば圧倒的に時間も短い。
 にも関わらずタッツーは、彼女の体をつついて盛んにブルーに『ある事』を急かした。

「え……まさか、さっきのをもう1回やれって?」

 タッツーは頷く。
 しかし、ブルーの顔に明るさは戻らない。

「……む、無理よ。だってあの時は、カメちゃんと同時にやって何とかできた事じゃないの」

 ブルーのカメールはというと、障壁の外で気絶させられている。
 戦闘に出してた時に隔離されてしまった為、ブルーはカメールにも近づく事を許されなかった。

「タっちゃんだけじゃ、いくらなんでも……」

 すると今度は、くいっと首を横に向けて見せるタッツー。
 その視線の先には、うずくまるレッドの姿が。

「っっ!!」

 改めてレッドの姿を見た時、彼女は悟った。
 タッツーが何を言いたいのか、そして自分が何をすべきなのか……。
 そして、彼女の行動力はようやく取り戻される。
 ブルーは力強く頷くと、即座にタッツーが急かした『ある事』を行う体勢を取った。

「そうね……分かったわ。この障壁、破ってみせる。それでもって、必ずレッドを助け出すの……!!」

 

 

 

第10編「鏡の障壁」

 

前回までのあらすじ:
 突如、レッドとブルーに襲い掛かった、デオキシス・Lv3(レベルスリー)。
 その圧倒的な力を前に、2人は窮地に陥ってしまう。
 レッドに対する想いを自覚してきたブルーは、彼を守るべく戦うが……。
 ブルーは隔離され、その目の前でレッドは深手を負ってしまう。

 

 

 

 少し、時間は遡る……。

 今日のブルーは、普段に比べてやけに早起きだった。
 理由は特に無いが、目が覚めたのである。
 強いて言うなら……昨晩遅くに、目指していたセキチクシティへようやく到着したからなのだろうか。

「おはよー、みんな」

 自分のポケモン達にそう言うと、ブルーはプリンが持ってきたタオルを受け取り、顔を洗う。
 洗顔後、タオルで顔を拭きながら、彼女はレッドの事を考えていた。

「(レッド……きっと、この町にいるよね? せっかくここまで来たんだもの。見つけなくっちゃ!)」

 事実、レッドはすでにセキチクシティにいた。
 夕暮れ時に町に着いたレッドに比べ、ブルーは到着時刻が遅かった為、運悪くまだ会えてないだけなのである。
 そして今は逆に、ブルーが早起き過ぎた為、レッドと会う機会を先送りにしてしまっていたのだ。

 ちなみにレッドはこの日、クリスと共にイーブイ捕獲へ向かう事になる。
 昨日見つけた形態変化能力を持つイーブイ捕獲するのは、おおよそ1時間後ぐらいの話だ。
 それより少し早くに外に出たブルーは、ぶらぶら町中を散歩してみる。

「うーん。もうちょっと時間を置いてから町中をまわった方が、レッドに会える確率が高いかしら? それよりも朝のうちに、この辺に生息してるポケモンでも調べに行こっかな♪」

 

 

 

 セキチクシティの東、海に面した15番道路。
 基本的に舗装された道路であるここは、限られた草むら部分にのみ野生ポケモンが生息する。
 当然ブルーは、その草むらへと足を入れるのだったが……。

「ん? あの影は……」

 人気(ひとけ)の全くない所まで歩いてきたブルーは、見た事のない形のシルエットを発見する。
 逆光ではっきりとは見えないが、少なくともブルーが知るポケモンの中に、その姿形をした者は存在しなかった。

「ラッキー♪ さっそく、知らないポケモンのお出まし……えっ……?」

 ところが、ブルーは硬直する。
 振り返りこちらに目を向けるその存在が、言い知れぬ圧力感を与えて来たからだ。

「(な、何……コイツ……?)」

「……フゥゥオォォォ……」

 相手は、低く唸り声をあげた。
 全体的にオレンジ色の姿をしていて、胸の辺りには、埋め込まれたような形で存在する紫の水晶がある。
 そいつに左腕は存在せず、代わりにあるのはニュルニュルと蠢く(うごめく)2本の触手。
 そして何より、普通のポケモンとは思えないような、得体の知れない不気味さを帯びていたのだ。

「あなた……ポケモンなの……?」

“……ブルー……”

「え!?」

 耳から入ったのではなく、頭に直接送り込まれるように響く声。
 彼女は、自分の名を呼ばれた事に驚いた。

「あたしを……知ってるっていうの?」

“……シルバーは……いないのか……”

「っっ!!」

 ブルーの驚きは、増す一方だ。
 シルバー……その名は、彼女がよく知る人物の名前である。

「(どういう事? あたしだけじゃなく、シルバーの事まで……)」

“……まぁいい……排除するまで……”

「なっ!?」

“デオキシス・Lv2(レベルツー)……攻撃準備完了……!”

「デオキシス!? それが、あなたの名……」

 しかしブルーが質問を言い終える前に、デオキシスは襲い掛かった。
 2本の触手を巧みに操り、ブルーめがけて伸ばしてくる。

「お願い、カメちゃん!」

「ガゥガゥ!」

 すぐさま、ブルーも臨戦体勢を取った。
 ボールから繰り出されたカメールが、無数の泡を敵に放って攻撃する技、バブル光線を発動。

「……フゥゥオォォォ!!」

 また、デオキシスは低く唸る。
 どうやら頭の中に直接語り掛けてくる時以外は、鳴き声のみで喋れる訳ではないらしい。
 そんなデオキシスが胸の紫水晶体を光らせると、一気に衝撃波を生みバブル光線をまるごと蹴散らした。

「なっ!」

「フゥオォォ!!」

 更に2発目の衝撃波を放つと、ブルーとカメールの体を一気に吹っ飛ばす。
 バシィッ!!

「ぐぅ!? これ……ナイトヘッドだわ……」

 攻撃を受けた脇腹辺りを抑えながら、ブルーはデオキシスを睨み付ける。
 当然彼女も、この敵が只者ではない事を悟ったのだろう。
 それでもなお、驚くのはまだ早かった。
 デオキシスはいきなり光に包まれ、姿を変え始めたのだ。

“……ノーマルフォルムから……ディフェンスフォルムに変更……アップデート処理終了……”

「な、何なの……!?」

 やがて光は止み、現れたのは新たな姿となったデオキシスだった。
 図体はやたら横幅が大きくなり、全体的にずっしりした印象を受ける。
 触手は無くなり、両腕は分厚い甲羅のような形となった。

「新しい姿……って事?」

「フゥゥオォォォ……」

「…………。あなた、シルバーの名前を知ってたわよね? 何であなたがシルバーを知ってるのか、そもそもあなたは何者なのか、そんなのはどうだっていいわ。……ただ、言いたい事は1つ!」

 ブルーは、別のモンスターボールを手に取る。
 そして思いっきりデオキシスに向かって投げつけ、二番手のポケモンを繰り出した。

「もしシルバーに危害を加えるような奴なら、あたしが許さない。ただ、それだけよ!」

 出現したのは、ピッピである。
 その場がすでにデオキシスの至近距離と呼べる場所であり、次の瞬間にはピッピは技を発動していた。

「ピっくん、往復ビンタ!」

 バシバシバシッ!
 小さい体ながらも果敢に攻めるピッピ……だがデオキシスは、甲羅の腕で攻撃を受け止める。
 そしてカウンター気味な動きで、もう片腕を振ってピッピを叩きにかかった。

「今よ、小さくなる!」

 スカッ!
 その一瞬の間に、ピッピの姿は小さくなってしまう。
 甲羅の腕による攻撃は小さな標的を捉えられず、空を切ったのみに終わった。

「大チャ〜ンス♪ カメちゃん、今よ!」

 完璧に攻撃を空振りしたデオキシスは、ハッキリ言って隙だらけである。
 当然と言わんばかりの顔でカメールは、ブルーの指示が飛ぶのが早いか否か、一気にデオキシスに突っ込んだ。 
 ……ガンッ!

「……え?」

 ところが、カメールの体は何かにぶつかり弾かれてしまった。
 デオキシスの周囲には、いつの間にやら紫の半透明な壁が発生している。
 この、リフレクターと光の壁を合わせたような特殊な障壁が多角面体となり、デオキシスを守るバリアとなっていたのだ。

「な、何よこれ〜! こんな能力があるなんて、聞いてない……」

 ……バシィッ!!

「っっ!? ぐっ……」

 無駄口に対する洗礼とでも言うべきか。
 ブルーが愚痴った直後に、エスパーの衝撃がブルーの体を襲っていた。

「……うぅ……サ、サイコキネシス……!?」

 どうやらデオキシス側からは、一方的に攻撃が行えるようだ。
 対してブルーからの攻撃は、デオキシスを守る半透明の障壁に遮られてしまうという事になる。

「……だったら、障壁を破るまでよ! ピっくん!」

 かくして、再びピッピを差し向けるブルー。

「(まずは障壁の強度がどれくらいなのか、探らせてもらうわ)ピっくん、はたく!」

 ドガッ!
 小さな体に不似合いなまでのパワーが炸裂し、障壁が大きく歪んだ。

「よし、いいわよ。その程度の強度なら、破るのは訳な……」

「フゥオォォ……!!」

 ところが……直後、ピッピの体は一気に後方へ弾き飛ばされる。
 ズガァッ!

「ピィッ!!?」

「え……」

 その衝撃で、ピッピは気絶。
 しかしデオキシスは唸り声をあげるのみで、特に何かをしたようには見えなかった。
 訳が分からないといった様子で、ブルーは呆然とする。

「ど、どういう事よ。何で攻撃したピっくんが、倒されたの!?」

「フゥゥオォォォ……!」

「!?」

 バシッ!
 足元に炸裂するナイトヘッドの衝撃波を、ブルーはスレスレの所で回避し様子を探った。

「(ピっくんを倒したのは、今みたいな普通の攻撃とは明らかに違うわ。攻撃したピっくんの方が倒された訳だけど……まさか、『攻撃したから』倒された?)」

「フゥゥオォォォ……」

「……試すしかないわね。出てきて、ぷりり!」

 ブルーが次に繰り出したのは、プリンだった。
 そして手にエネルギーを集め、敵に向かって攻撃を放つ……

「ト・ラ・イ……アターック!」

 放たれたのは、3色のエネルギー衝撃波。
 やはり攻撃は障壁によって阻まれてしまうが……壁にトライアタックがぶつかった直後、なんとその攻撃がそっくりそのまま跳ね返って来たのだ。

「やっぱり!」

 ブルーはプリンと共に反射されたトアイアタックを回避しながら、相手の能力を見破った。

「あなたを守る、バリアの役目を果たした紫の障壁……。それはただの壁というだけじゃなく、攻撃の衝撃を反射する力も秘めていたのね? だからピっくんの攻撃も、その威力をそっくり返されて逆に倒されたんだわ」

「…………。フゥオォォ!」

「図星のようね!」

 すると、デオキシスの攻撃は再開される。
 再び次々と繰り出されるナイトヘッドをかわしつつ、ブルーは相手の隙を探った。
 しかし、やはり攻撃反射の障壁をどうにかしなければ、満足に攻撃はできない。

「(さて、見破ったはいいけれど、どうしたらいいのかしら? 不用意に攻撃したら、全部跳ね返されて自滅しちゃうわ。かといって、このままじゃ……)」

 なおも攻撃を続けるデオキシスは、ブルーに考える余裕も与えてはくれなかった。
 それどころか気を抜いた一瞬の隙を突き、ナイトヘッドがブルーの足をかすめる。

「……痛っ!?」

 ブルーの動きは、そこで止まってしまう。
 デオキシスの攻撃は、今度はしっかりブルーの体に狙いを定めて来る……!

「(し、しまった……!!)」

 やられるか、と思った矢先。
 ……ボフッ!

「!?」

 突然にブルーの周囲に、煙のようなものが広がった。
 もくもくと立ち込めたそれは、デオキシスの命中精度と、攻撃する意志を削ぐ。

「……フゥゥオォォォ……」

 そして、ようやく煙が消えてきた時。
 ブルーとそのポケモン達の姿は、その場から消えていたのであった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……。助かったわ」

 どうにか逃げのびたブルーは、海岸沿いを歩いていた。
 その横には、1匹のタッツーの姿が。
 恐らくこの海に住む、野生ポケモンだろう。

「あなたの放った、煙幕のお陰ね。ありがとう」

「キュゥ! キュゥ!」

 タッツーはブルーの肩の上に止まり、鳴き声によって返事をした。

「でも……野生ポケモンのあなたが、どうしてあたしを?」

「…………。キュゥ〜」

 ブルーの問いに対し、タッツーは意味深そうな表情を浮かべた。
 そして彼女が、それの意味するものを知ったのは、この直後である。

「……! えっ……」

 ブルーが歩いてやって来た海岸付近には、多くの水ポケモン達が傷つき、集まっている姿が見えたのだ。
 幸い大事にまで至る傷を負った者はいなかったようだが、どのポケモンも程度の差はあれど見るに痛々しい。

「あなたの……お仲間?」

「……キュゥ」

 タッツーは、ブルーの声を聞いて頷く。
 ここに集まる水ポケモン達は、みな海に生息する野生ポケモンだろう。

「…………。あいつなのね? ここのポケモン達に、こんな酷い事をしたのは」

 ブルーの言った『あいつ』とは、もちろんデオキシスの事。
 つまりデオキシスに襲われたのは、ブルーだけではなかった。
 ここに集まる負傷したポケモン達もみな、あの暴君の被害者という訳なのである。

「何で、そんな事……! あいつ、明らかに人間じゃなかったわ。私の知る限りであんな種類は見た事も聞いた事もないけど、あいつは間違いなくポケモンよ。でも、これじゃ……」

 ただの野生ポケモンがするような行いではない。
 むしろこんな事は、心無い人間達の仕業と思った方が自然である。
 それぐらい、本来ポケモンとは純粋な生き物なのだ。
 だがあのデオキシスは……そんな本来のポケモン達と比較すると、明らかに常軌を逸している。

「(分からない。あいつ、一体何者なの? 大体、どうしてあたしやシルバーの事を知っていたのかも謎だわ)」

「……フゥゥオォォォ……!」

「!? えっ、まさか……」

 再び耳に届いたのは、あの不気味な唸り声。
 後方を振り向くと、やや高台となってる所に奴は立っていた……デオキシスだ。

「そんなっ、もう追いついて来たなんて。でも、ここじゃ……」

 ここで戦えば、集まっている野生ポケモン達を巻き込んでしまう。
 自分が何とかしなければならない、そうブルーは心に決め、デオキシスの動きに警戒しながら走りだした。

「こっちよ。あたしが相手してあげるから、いらっしゃい」

「フゥオォォォォ……」

 タンっ……と、デオキシスは跳ぶ。
 そして勢い良く、ブルーとの距離を縮め始めたのだ。

「(乗ってくれたわ。でも、問題はここからどうするか)……カメちゃん、もう1回お願い!」

 ブルーはカメールを繰り出し、振り返りざまに攻撃を放たせた。
 水鉄砲が勢いよく飛んでデオキシスに向かうが、寸前の所で紫の半透明障壁に遮られる。

「なっ、また……」

 そして案の定、障壁は攻撃を反射。
 水鉄砲を跳ね返してきた。

「!? ……あれ?」

 だがブルーは、そこである違和感に気づく。
 確かに水鉄砲は跳ね返されたが、かなり拡散して勢いは衰え、方角もめちゃくちゃだった。
 さっきは、しっかり攻撃した方角めがけて、そのまま返して来たというのに。

「(どういう事? もしかして水攻撃は、ちゃんと跳ね返す事ができないって事じゃ? でも、どうして水……まさか!)」

「ガゥ?」

「読めたわ、カメちゃん。あいつの障壁は、いわば鏡なのよ」

 確かに攻撃を反射するあの障壁は、鏡のようなものだ。
 しかしその性能そのものも鏡と同じなのだと、ブルーは話す。

「理屈はどうだか分からないけど、原理は鏡が光を反射するのと同じ。衝撃を光と同じものとみなして、正面からぶつかった攻撃を鏡のように、そのままの方向へ跳ね返して来るんだわ。
 だけど濡れた鏡が水滴で乱反射を起こして、しっかり光を反射できないのと同じように……あの障壁も濡れると、衝撃を拡散させてうまく反射できなくなる。だから水鉄砲は、うまく反射できなかったのよ」

 ブルーは、再びプリンを繰り出す。
 カメールは水鉄砲、プリンはトライアタックの発射準備をし、デオキシスに向かった。

「ぷりり! カメちゃんが水鉄砲を当てた所へ、トライアタックを撃つのよ。そうすれば、障壁は……!」

 バシャバシャッ!
 障壁に水鉄砲がぶつかり、更にそこへトライアタックも激突。
 ズガガガガッ!!

「(破れて……!)」

 だが、まだ不十分だったようで、トアイアタックは跳ね返されてしまう。
 それでも大分拡散はしたので、ブルー達に危害がある程ではなかったが。

「フゥゥオォォォっ!!」

 デオキシスも力を障壁に集中させて、強度を保っている。

「水量が足りない……? もうちょっとなのに!」

「キュゥ!」

「……えっ?」

 そこで現れたポケモンこそ、先程のタッツーだった。
 タッツーも自ら水鉄砲を放ち、2つの水鉄砲が障壁に与えられる。

「(これならっ!)ぷりり、全力よ!!」

「ぷりゅりゅ〜っ!!」

 ビシビシビシっ……バキィィィン!!
 水鉄砲で衝撃反射がうまく働かなくなった障壁は、トライアタックの威力についに敗れた。
 ヒビが入り、そして粉々に砕け、障壁を貫いた攻撃はそのままデオキシスにぶつかった。

「フゥオっ……オォォっっ!!?」

 3匹の合成攻撃が、デオキシスの体を吹っ飛ばす。
 その威力を前に、とうとう地に伏したのである。

「はぁ……はぁ……。ぷりり、カメちゃん、ご苦労様」

 そう言うとブルーは、助けに来てくれたタッツーの方にも目を向ける。

「そして、タッツー。あなたが来てくれなければ、勝てなかったわ。ホントありがとう」

「キュゥ♪」

「……もしかして、あたしと一緒に行きたいの?」

 タッツーの仕草から、ブルーはその気持ちを察した。
 即答と呼べる早さでタッツーは頷き、その問いに答えてくる。

「そう……。分かったわ。じゃああなたの名前は、今日からタっちゃん。よろしくね♪」

 ……こうしてブルーは危機を脱し、タッツーという新たな仲間も加えたのだった。
 しかし、彼女はこの時気づいてなかった。
 後ろで倒れたハズのデオキシスが、強化されながら立ち上がろうと動き始めていた事に……。

 

 

 

 そして、今。
 障壁に閉じ込められたブルーは、タッツーとプリンと共に立っていた。

 あの後、再びデオキシスに追われる事になったブルーは、レッドと再会。
 Lv3(レベルスリー)に強化されたデオキシスと、改めて戦闘になっていたのである。
 しかしレッドは絶対絶命で、自分も閉じ込められた状態。
 レッドを助けるには、もう1度この障壁をぶち破る他に手段はなかった。

「行くわよ。タっちゃん、水鉄砲! ぷりり、トライアタック!」

 バシャシャッ! ズガガガッ!
 2つの技が障壁の一点に集中攻撃し、歪ませていく。
 だが、やはりあの時と違い、カメールがいない分が不足していた。
 トライアタックは乱反射を起こし、威力が分散した状態で四方八方に飛び散る。
 そのまま跳ね返される事はないが、破るまでには至らなかった。

「(お願い……レッドを助けなくちゃいけないの! 破れて……!)」

 ブルーは、ぐっと拳を握り締める。
 そしてタッツーとプリンが攻撃を続ける横を、ゆっくり前へと歩きだしたのだ。

「キュゥ!?」

「ぷりゅ!?」

 タッツーもプリンも、ブルーの不自然な動きが気になったが……。
 直後、ブルーのとった行動に2匹とも驚いた。

「ええいっ!!」

 ズガァッ!
 彼女は自ら当て身を障壁にぶつけて、ぶち破ろうとしたのである。
 水鉄砲とトライアタックが周囲に飛び散る中を無謀にも突っ込み、彼女の体のあちこちに痛みが走る。
 ましてや障壁は、衝撃を反射する鏡なのだ。
 ブルー自身の体当たりの衝撃も、彼女の体に襲いかかっていた。

「ぐぅぅ……!! ま、まだ……まだぁ……!!」

 それでもブルーは、この努力を止めようとしない。

「助けなきゃ……レッドを、助けなきゃ!!」

 そして再び、彼女は体当たりを叩き込んだ。
 ズガァッ!!

 ……ビシビシっ……バキィィィン!!

 彼女の想いが、デオキシスの能力に打ち勝ったのか……。
 Lv2(レベルツー)の時ですら水技1つでは破れなかった鏡の障壁を、今回の水技はタッツーの水鉄砲のみで砕いたのである。

「(やった……)」

 プリンは、なおもトライアタックを続けていた。
 目の前には、うずくまるレッドに襲い掛かろうとするデオキシスの姿がある。
 それめがけて、トライアタックはまっしぐらに向かっていったのだ。

「フゥオォォ!?」

「ぷりゅりゅぅぅ!!」

 だが、プリンの渾身のトライアタックもわずかに外れた。
 攻撃はデオキシスをよろけさせる程度に終わってしまう。

「なっ……そんな……」

「……いや、十分だ」

「!」

 声を発したのは、うずくまっていたレッドだ。
 左腕を折られて、激痛にさいなまれていた彼だが……残された右手には、モンスターボールが握られている。

「ブルーが、デオキシスの隙を作ってくれた。無駄にはしない……」

 そしてボールから、ピカチュウが飛び出す。
 デオキシスの虚を突き、眼前に踊り出たピカチュウは、数秒の間に電気の蓄積を完了させていた。

「……10まんボルト……!!」

 バチバチバチバチッ!!
 強大な電圧がデオキシスの体を襲う。
 あまりの威力に、胸に埋め込まれた紫の水晶球体にヒビが入った。

「ブゥオォォ゛……オ゛……!!」

 がくがくがくっ……!
 ダメージを負ったデオキシスは小刻みに震え、そのままスゥゥっと姿が薄れていく。
 倒したのか、はたまた逃げていくのかは定かではないが。
 それでもデオキシスはこうして姿を消し、戦いはレッドとブルーの勝利に終わったのである。

「はぁっ……はぁっ……はっ……はははっ……。ざまぁみろだ……」

「レッド!」

 しかしブルーの不安は、終わっていなかった。
 深手を負ったレッドに、彼女は慌てて駆け寄る。

「大丈夫なの? レッド」

「大丈夫……とはいえないかな……はは……。でもブルー……ありがとな。助かったよ……」

「……うん」

 戦いを終えた少女は、目に涙を溜める。
 その手は、必死に助けようとした少年の体を、そっと抱きしめるのだった。

 

 続く

 

 うーん、今回微妙だったな(汗)。
 せっかく決着の回だったのに……やけに長いし。−−;

 次回、第11編「狩猟体験地(サファリゾーン)」。
 お楽しみに。

 

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